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犬と暮らすと幸せになる?|2026年の麻布大学・群馬大学の研究でわかった「地域へ広がるつながり」とウェルビーイング

対象の目安: 全ライフステージ

アサヒ・編集長 / お迎え・住環境担当
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犬と暮らすと幸せになる?|2026年の麻布大学・群馬大学の研究でわかった「地域へ広がるつながり」とウェルビーイング

散歩の途中で、いつも同じ時間にすれ違う柴犬の飼い主さんと会釈を交わすようになった。名前は知らないけれど、犬の名前は知っている。そんな関係に、心当たりのある方は多いのではないでしょうか。

2026年9月17日、麻布大学が「イヌは家族のつながりを地域へ広げ、ウェルビーイングを高める」というプレスリリースを出しました。麻布大学獣医学部の介在動物学研究室と群馬大学の研究グループが、184人の日常を2週間にわたって記録し、犬との暮らしが人の心の健やかさ(ウェルビーイング)とどうつながっているのかを調べた研究です。

見出しだけを読むと「犬を飼えば幸せになれる」と受け取れそうですが、論文の中身はもう少し繊細です。実は、この研究で犬の飼育そのものとウェルビーイングの直接の関連は見られませんでした。関連が見えたのは、犬がきっかけになって家族との関わりが家の外へ、地域や友人との交流へと広がっていく経路のほうです。

この記事では、プレスリリースと論文本文(Frontiers in Psychology)を照らし合わせながら、研究でわかったこととわかっていないことを整理します。そのうえで、犬と暮らす人が散歩やご近所づきあいのなかで無理なく人とのつながりを育てるヒントと、「幸せになれるから迎える」と短絡しないための視点をまとめました。

2026年9月発表の研究: 何を、どう調べたのか

まず、プレスリリースと論文に書かれている研究の概要を表にまとめます。

項目内容
発表2026年9月17日、麻布大学のプレスリリース
研究グループ麻布大学獣医学部介在動物学研究室(菊水健史教授・永澤美保教授ら)、群馬大学生体調節研究所
論文Koyasu H, Ogasawara S, Miyauchi E, Tsuda K, Kikusui T, Nagasawa M. "Social and biological pathways linking relationships with companion animals to human well-being"
掲載誌Frontiers in Psychology(Health Psychology部門)、2026年9月3日掲載、DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1810355
対象10歳以上の184人(男性60人・女性124人)。うち現在犬を飼っている人61人、猫を飼っている人22人
募集麻布大学、青山学院大学、研究参加者の募集サイトを通じて募集。途中辞退やデータ不備の36人を除いた184人を分析
方法研究1: 2週間の経験サンプリング法と最終日の質問票。研究2: 尿中コルチゾール濃度と腸内細菌叢の分析
主な測定家族・友人・地域住民との関わり、犬や猫との関わり、ウェルビーイング(WHO-5日本語版)、自尊心、一般的信頼感など
解析構造方程式モデリング(男女別)、一般化線形混合モデル、偏相関、腸内細菌叢の多変量解析
研究費科学研究費補助金 基盤研究S「ヒトイヌ共生によるWell-beingの向上-身体・向社会性・社会ネットワークの強化との関連」(代表: 菊水健史、JP23H05472)ほか

研究室名はプレスリリースの表記(獣医学部介在動物学研究室)に合わせています。論文の所属表記は「Laboratory of Human-Animal Interaction and Reciprocity, Department of Animal Science and Biotechnology, Azabu University」で、麻布大学の研究室検索サイトでも介在動物学研究室の英語名として同じ名称が案内されています。

「経験サンプリング法」とは

これまでの研究の多くは、「ふだん、家族とどれくらい話しますか」といった質問に、過去を思い出して答えてもらう方式でした。ただ、人の記憶はあいまいで、思い出し方にもくせが出ます。

この研究では、参加者に2週間、スマートフォンで1日1回(1回5分程度)、前日の出来事を答えてもらいました。論文によると、質問は次のようなものです。

  • 前日、家族とあいさつ以上の会話をしたか(父・母・きょうだい・祖父母・パートナー・子どもなど、相手ごとに)
  • 近所の人とあいさつを交わした人数、あいさつ以上のやりとりをした人数
  • 習い事や趣味、ボランティア、仕事を通じて関わった人数
  • 親しい友人と直接会った人数、電話やネットで連絡を取った人数
  • 家の中で犬や猫と触れ合った時間、世話をした時間、ペットを介して家族以外の人と関わった時間

こうして記録された「日々の関わり」と、2週間の終わりに答えてもらったウェルビーイングや自尊心の得点とを組み合わせ、犬や猫との暮らしがどんな道筋でウェルビーイングにつながっているのかを統計モデルで分析しています。

論文本文で確認できたこと

ここからは、論文の結果をもう一段くわしく見ていきます。プレスリリースの要約と照らし合わせると、読み方の注意点も見えてきます。

1. 犬の飼育そのものとウェルビーイングの直接の関連はなかった

最初に押さえておきたいのがこの点です。男女別に分析したモデルのいずれでも、犬の飼育からウェルビーイングへの直接の経路は統計的に有意ではありませんでした(男性β=0.01、女性β=0.03)。猫でも同様です。プレスリリースもはっきりと「イヌやネコの飼育そのものがウェルビーイングを直接高める効果は認められませんでした」と書いています。

著者らは考察で、これまでペットの飼育と心の健康についての研究結果がばらばらだった理由の一つとして、この点を挙げています。ペットの効果が「飼っていること」ではなく「飼うことで意味のある人とのつながりが生まれるかどうか」に左右されるなら、その恩恵は一人ひとりの状況や周りの環境によって大きく変わるはずだ、という見立てです。

2. 女性では「家族から地域へ」の経路が見えた

女性のデータを分析したモデル(当てはまりの指標は良好)では、次のような道筋が見えました。

  • 犬の飼育は、家族との関わり(β=0.19)と、地域や友人との交流(β=0.40)の両方と正の関連があった
  • 家族との関わりが多い人ほど、地域や友人との交流も多かった(β=0.36)
  • 地域や友人との交流が多い人ほど、一般的信頼感(β=0.38)と自己肯定感(β=0.48)が高かった
  • 自己肯定感が高い人ほど、ウェルビーイングが高かった(β=0.49)

興味深いのは、同じモデルのなかで、家族との関わりから自己肯定感へ直接向かう経路は負の関連(β=-0.28)を示したことです。著者らはこれを、「家族との関わりが家の中にとどまる経路」は自己肯定感やウェルビーイングの低さと、「家族との関わりが地域や友人との交流へと広がる経路」は高さと関連していた、と解釈しています。

なお、論文の図を見ると、ここでいう「家族との関わり」は家族との会話、一緒にテレビや動画を見る、買い物に行く、食事をする、といった項目から、「地域・友人との交流」は近所の人とのあいさつやあいさつ以上のやりとり、学校外で友人と会うこと、といった項目からかたちづくられています。

これは「家族と仲がいいのはよくない」という意味ではありません。統計モデルのなかで、家の外への広がりを伴う部分とそうでない部分を分けて見ると、心の健やかさと結びついていたのは外へ広がる部分だった、ということです。著者らは、つながりが家族の中だけに閉じていると頼れる資源も家庭内に限られるのに対し、犬が地域とのつながりを取り持つと、支えてくれる人や役割、居場所の感覚が得られやすくなるのではないか、と考察しています。

3. 男性では経路がはっきりせず、猫では家族・地域との関連が見えにくかった

男性のモデルでも、犬の飼育と家族との関わり(β=0.30)、家族との関わりと地域・友人との交流(β=0.35)には関連がありました。ただし論文の図を見ると、男性では家族との関わりや地域・友人との交流から自己肯定感や一般的信頼感へ向かう経路はいずれも有意ではなく、ウェルビーイングにつながる間接的な経路は女性のようには見えませんでした。モデル全体の当てはまりも「限定的」と論文自身が書いています。

研究グループは当初、「男性は近所や友人といった外のつながりを通じて、女性は家族や身近な関係を通じて恩恵を受けやすいのではないか」という仮説を立てていました。結果はむしろ、女性のほうで家族から地域への経路がはっきり見えるというものでした。著者らは、女性のほうがペットへの愛着が強く、日々の世話に関わる度合いが大きいとする先行研究を挙げつつ、男女差の仕組みはまだ不明で今後の検討が必要だとしています。

猫については、犬の飼育に見られたような家族・地域との関わりとの明確な関連は見られませんでした。ただし猫の飼い主は22人と少なく、著者らも猫についての結論の頑健さには限界があると述べています。

4. 触れ合う時間より、世話をする時間

ペットの飼い主だけを対象にした追加の分析では、ペットとの関わり方の違いも調べています。その結果、家の中で犬や猫と触れ合っている時間は、ウェルビーイングと直接にも間接にも有意な関連がありませんでした。一方で、世話をする時間が長い人ほど家族との関わりや地域・友人との交流が多く、それが社会的・心理的な変数を通じてウェルビーイングと結びついていました。

ペットへの愛着についても、基本的な愛着はウェルビーイングとの直接の関連がわずかに見られる傾向(統計的に有意の手前)と、地域・友人との交流を通じた間接的な関連が、より密接な愛着(close attachment)は家族や地域との交流を通じた間接的な関連が示されています。散歩やごはん、通院といった「世話」が人と関わる場面を生んでいる、と読むと実感にも合うのではないでしょうか。

5. 尿中コルチゾールと腸内細菌叢は「探索的」な結果

研究2では、参加者が自宅で採取した早朝尿(2週間に3回)と便(1回)を分析しています。

  • 尿中コルチゾール濃度: 犬の飼育、猫の飼育、年齢、性別のいずれとも有意な関連はなかった。年齢と性別の影響を除いた偏相関では、パートナーとの会話量が多い人ほど尿中コルチゾール濃度が低かった(r=-0.447)
  • 腸内細菌叢: 犬を飼っているかどうかで細菌叢の全体構成に統計的に有意な違いがあったが、その違いで説明できたのは全体のばらつきの約2.6%。近所の人とのあいさつや友人と会った人数なども、それぞれ2%程度の説明力で細菌叢の違いと関連していた

論文はこの部分を「探索的」と位置づけ、生理的な要因が社会的な経路に関わっている「可能性」を示すにとどめています。腸内細菌叢の構成が違っていたことが健康にとって良いのか悪いのかは、この研究では調べられていません。「犬を飼うと腸内環境がよくなる」とまでは読めない点に注意が必要です。

プレスリリースと論文の表現を並べてみる

プレスリリースは一般向けにわかりやすくまとめられているぶん、表現が少し強めになっているところがあります。主な箇所を並べてみます。

プレスリリースの表現論文本文の記述読むときのポイント
イヌの飼育は、家族との関わりや地域住民や友人との交流を増やしました抄録では、犬の飼育は他者とのより密接な関係と「関連していた(associated)」と表現。考察の一部には「増やした(increased)」という言い回しもある著者ら自身が横断的なデザインで因果の推論には限界があると認めており、「増やした」という因果の向きまでは確かめられていない
特に女性では、家族との関わりが地域や友人との交流へと広がることで、自己肯定感やウェルビーイングの向上と関連間接効果は女性で特に顕著だった。家庭内にとどまる経路は自己肯定感・ウェルビーイングの低さと関連家の中だけにとどまる経路は逆向きの関連だった点も合わせて読む
親しい人との会話が多い人ほど尿中コルチゾール濃度が低く結果の節ではパートナーとの会話量との負の相関(r=-0.447)相手は「親しい人」全般ではなくパートナーとの会話についての結果。犬の飼育とコルチゾールの関連はなかった
イヌの飼育や人との交流は腸内細菌叢の構成とも関連犬の飼育による違いは小さいが有意(R2=0.026)説明できたのは全体の2〜3%程度。健康への良し悪しは調べていない
イヌの飼育が社会的・生物学的な経路を通じて人の健康に寄与している可能性生理的な過程が関わっている可能性を示唆。さらなる研究が必要「可能性」の段階。仕組みの解明は今後の課題

プレスリリースの引用は麻布大学の公表文(2026年9月17日)、論文の記述はFrontiers in Psychologyに掲載された本文(Results・Discussionの節)を編集部で要約したものです。βは標準化された回帰係数(経路の強さの目安)、rは相関係数、R2は説明できたばらつきの割合を表します。

この研究から言えないこと

注意

この研究は、犬を迎えれば幸せになれる、心の不調がよくなる、と示したものではありません。犬の飼育そのものとウェルビーイングの直接の関連は確認されておらず、見えたのは「つながりの広がり」を介した関連です。気分の落ち込みや眠れない状態が続くときは、犬を迎えることで解決しようとせず、まず医療機関や相談窓口に相談してください。

研究の価値を正しく受け取るために、限界も確認しておきます。論文の考察で著者ら自身が挙げているものと、研究デザインから読み取れるものを分けて整理します。

著者らが挙げている限界

  • サンプル数が限られている。特に猫の飼い主が少なく、猫についての結論の頑健さには限界がある
  • 心の健康の指標(ウェルビーイングなど)は1時点でしか測っておらず、横断的なデザインのため因果関係の推論には限界がある
  • 所得や性格特性といった、ペットを飼うかどうかとウェルビーイングの両方に影響しうる要因を統制できていない
  • 今後は、より大きなサンプル、長期の追跡、家族全員からデータを集める家族単位の調査が必要

デザインから読み取れる注意点

  • 逆向きの可能性: もともと人づきあいが好きで外に出るのが苦にならない人ほど犬を迎えやすく、散歩で人と話す、という向きの関係も考えられる。今回のデータだけではどちらが先かを区別できない
  • 参加者の偏り: 大学経由と募集サイト経由の参加で、無作為に選ばれた集団ではない。184人のうち女性が124人と多く、女性でだけ結果が明確に出たことにはサンプル数の差も関わっている可能性がある
  • 自己申告: 人との関わりの回数や時間は本人の回答にもとづく。経験サンプリング法で思い出しの誤差は小さくしているが、主観を完全に除けるわけではない
  • 2週間という期間: 季節や行事、天候によって人との関わりは変わる。どの時期に調べたかで数字が変わる可能性もある

どれも研究の欠点というより、この種の研究に共通する前提です。そのうえで、「家族から地域へ」という道筋を日々の記録から描き出した点に、この研究の新しさがあります。

ほかの研究とつなげて読む

今回の研究は、同じ研究グループやほかの研究者がこれまで積み重ねてきた知見の延長線上にあります。いくつか並べてみると、全体像がつかみやすくなります。

同じグループの2023年の研究: 青年期の女性で家族を介した関連

2023年にFrontiers in Veterinary Scienceに掲載された同じ研究室の論文では、高校生と大学生を対象にした質問紙調査で、犬や猫を飼っている青年期の女性が、家族との関わりを通じてウェルビーイングと一般的信頼感が高かったと報告されています。男性ではペット飼育の効果は見られませんでした。今回の研究は、対象の年齢層を広げ、日々の記録と生理的な指標を加えて、この「家族を介した経路」を地域との関わりまで広げて検討したものと位置づけられます。

2025年のPLOS ONE論文: 「犬仲間」という関係

同じ研究グループの共同研究者らが2025年にPLOS ONEに発表した研究では、東京近郊の住民377人の社会調査データを分析しています。そこで注目されたのが「anchored personal relationships」と呼ばれる関係です。論文の定義では、特定の時間・場所・活動を共有するなかでだけ成り立つ関係のことです。著者らは、決まった散歩コースや公園でほかの犬の飼い主と顔を合わせるうちに生まれる関係を、犬の飼育が育む関係の典型と考えています。

結果は次のとおりでした。

  • 犬の飼育は、こうした「場に根ざした関係」とも、通りすがりのちょっとしたやりとりとも正の関連があった
  • ただし、人口統計的な要因を調整すると、犬を飼っている人のほうが近所に友人がいる、という関連は見られなかった
  • 3種類の関係はいずれも地域への所属感(sense of community)の高さと関連していたが、犬の飼育と地域への所属感の関係を媒介していたのは「場に根ざした関係」だけだった

同論文は先行研究として、国内の犬の飼い主を対象にした小規模な調査で、知っているほかの犬の名前は平均30.3頭分なのに、その飼い主の名前は平均11.1人分だった、という報告も紹介しています。犬の名前は知っているけれど飼い主の名前は知らない、という関係は、決して浅いつながりではなく、地域に根ざしているという感覚を支える一つの形なのかもしれません。

海外の研究: ペットは知り合うきっかけになる

オーストラリアのパースと米国3都市(サンディエゴ、ポートランド、ナッシュビル)で無作為に選んだ住民に電話調査を行った2015年の研究(PLOS ONE)では、ペットの飼い主は飼っていない人にくらべ、近所の人と知り合いになりやすいという結果でした(オッズ比1.61)。米国3都市では、犬の飼い主はほかのペットの飼い主よりも、ペットを通じて知り合った人を友人とみなす傾向が強く(オッズ比2.59)、ペットの飼い主の約40%が、ペットを通じて知り合った人から何らかのサポート(気持ちの支え、情報、評価やフィードバック、実際的な手助け)を受けたと答えています。

一方で、結果が一貫しないことも知られている

ペットの飼育と孤独感・社会的孤立の関係を調べた24本の研究をまとめた2022年のシステマティックレビューでは、関連が有意だったのは一部の研究にとどまると結論づけています。成人の孤独感については、新型コロナウイルス感染症の流行後の研究ではペットの飼育が孤独感の低さと関連する報告が多かったものの、それ以前は全体として有意な関連は見られなかった、とまとめられています(子どもや若者を対象にした研究では、流行前から孤独感の低さとの関連が示唆されていました)。

こうして並べると、「犬は人と人をつなぐきっかけになりうる。ただし、それがつながりとして育つかどうかは、人と環境によって違う」というのが、いま研究から言えるおおよその姿だと考えられます。

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散歩やご近所で、無理なくつながりを育てるヒント

ここからは、研究の知見をふまえて、犬と暮らす毎日のなかで人とのつながりを育てるためのヒントをまとめます。研究が直接すすめているものではなく、編集部が暮らしの工夫として整理したものです。大前提として、つながりを育てることが犬の負担になってはいけません。人づきあいが得意でない飼い主さんも、社交的ではない犬も、それぞれのペースで大丈夫です。

1. 「あいさつだけ」の関係を大切にする

先ほどのPLOS ONEの研究では、犬の飼育と地域への所属感をつないでいたのは、近所の友人関係ではなく、決まった場所と時間で顔を合わせる「場に根ざした関係」でした。すれ違いざまのちょっとしたやりとりも、地域への所属感の高さと関連していました。散歩道で会釈をする、「今日は暑いですね」と一言交わす。それ以上に踏み込まなくても、十分に意味のあるつながりです。

無理に連絡先を交換したり、深い付き合いを目指したりする必要はありません。今回の論文の図(女性・犬のモデル)を見ると、「地域・友人との交流」をかたちづくる項目のなかで最も強く結びついていたのは、近所の人とあいさつを交わした人数でした。あいさつ以上のやりとりをした人数がそれに続き、ネットや電話での友人との連絡はほとんど結びついていませんでした。

2. 散歩の時間とコースをある程度決めておく

顔なじみの関係は、同じ時間・同じ場所で繰り返し会うことから生まれます。毎日きっちり同じにする必要はありませんが、朝の散歩はだいたいこの時間、このコース、とゆるく決めておくと、自然と顔を合わせる人が増えていきます。

ただし、季節によっては暑さや日没の時間に合わせて散歩の時間帯を変える必要があります。犬の体調と安全が最優先です。散歩の頻度や時間の目安、基本的なマナーは犬の散歩の基本の記事にまとめています。

3. 愛犬が人や犬を苦手なら、無理に近づけない

犬のなかには、ほかの犬や知らない人が近づくことを怖がったり、緊張したりする子もいます。飼い主どうしが立ち話をしている間、犬があくびをしたり、顔をそむけたり、体をかいたりしているなら、それは「そろそろ離れたい」というサインかもしれません。

人のつながりのために犬に我慢を強いるのは本末転倒です。すれ違いが苦手な犬なら距離を取ってあいさつするだけ、犬どうしを近づけずに飼い主どうしが会釈するだけ、でもかまいません。犬の気持ちの読み方はカーミングシグナルの記事を、すれ違いで吠えてしまう場合の練習は下の記事を参考にしてください。

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4. ドッグランや犬のイベントは「合う犬・合う人」なら

ドッグランやしつけ教室、地域の犬のイベントは、同じように犬と暮らす人と出会える場です。とはいえ、ドッグランが楽しめる犬ばかりではありませんし、施設ごとにルールも違います。行く前に愛犬の様子を確認し、合わないと感じたら無理に通わない判断も大切です。

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5. 世話を家族で分け合い、外での出来事を話題にする

今回の研究(犬や猫の飼い主をまとめた分析)では、ペットと触れ合う時間ではなく、世話をする時間が家族や地域との関わりの多さと結びついていました。散歩当番を家族で分け合う、動物病院の帰りに見かけたことを家族に話す、散歩で会った犬のことを夕食の話題にする。そんな小さなことが、家の中と外をつなぐきっかけになるかもしれません。

ひとり暮らしの方なら、かかりつけの動物病院やトリミングサロン、ペットショップのスタッフとの会話も、立派な「家の外のつながり」です。

6. ご近所への配慮が、つながりの土台になる

犬がきっかけで生まれるつながりは、ときに犬がきっかけで損なわれることもあります。鳴き声、においや排せつ物、リードの扱いなどでご近所に迷惑をかけてしまえば、あいさつを交わす関係も築きにくくなります。

東京都の動物の愛護及び管理に関する条例(第5条)は、飼い主に対し「周辺環境に配慮し、近隣住民の理解を得られるよう心がけ」ることを求めています。また、犬が苦手な人、犬アレルギーの人もいます。すれ違うときはリードを短く持つ、相手が犬を避けているようなら道をゆずる、といった気配りそのものが、地域で信頼される飼い主への近道です。

7. ふだんのつながりは、災害時の助け合いにもつながる

環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>」は、平常時に飼い主が行うべき対策のひとつに「家族や地域住民との連携」を挙げています。連絡方法や集合場所、ペットの避難方法や役割分担、留守中にペットだけが自宅にいた場合の協力体制、緊急時の預け先、物資の持ち寄りなどを、家族や地域で話し合っておくことがすすめられています。

散歩で顔なじみになった人と「もしものときはお互いさまで」と話しておけることは、犬にとっても飼い主にとっても心強い備えになります。災害への備えの最新の動きは災害対策ガイドライン改訂の記事にまとめています。

犬がつなぐ地域のつながり: 無理のない一歩

  • 散歩道で会う人に、会釈やひと言のあいさつをしてみる
  • 散歩の時間帯とコースを、季節に合わせてゆるく決めておく
  • 立ち話の間、愛犬がそわそわしていないか、ときどき様子を見る
  • 犬が苦手そうな人とすれ違うときは、リードを短く持って距離を取る
  • 散歩や通院などの世話を、家族でときどき交代してみる
  • 散歩で見かけたことを、家族や身近な人との話題にしてみる
  • もしものときに犬のことを頼めそうな人を、ひとり思い浮かべておく
引っ越してきたばかりのころは、近所に知り合いが一人もいませんでした。毎朝同じ公園を歩いているうちに、ゴールデンの飼い主さんと天気の話をするようになって。いまでも名前は知らないのですが、姿が見えない日は少し気になります。
保護犬と暮らして2年の飼い主

「迎えれば幸せになる」ではなく

この研究のニュースを見て、「犬を迎えれば毎日が楽しくなるかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。最後に、その気持ちと少し距離を置いて考えておきたいことをまとめます。

研究が示したのは「つながりを介した関連」だった

繰り返しになりますが、この研究では犬の飼育そのものとウェルビーイングの直接の関連は見られませんでした。論文の序論でも、ペットの効果は飼い主の個人的な特徴や生活環境、関わり方、そして世話の負担といった多くの要因に左右されると整理されています。犬との暮らしは、体調を崩したときの看病や通院、費用、留守にしにくいことなど、負担も伴います。犬を迎えれば自動的に幸せになる、という話ではないのです。

犬の一生を引き受けられるか

動物愛護管理法は第7条第4項で、動物の所有者に対し、できる限りその動物が命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)に努めるよう定めています。9月20日から26日は、同じ法律で定められた動物愛護週間です。犬を迎えるかどうかを考えるときは、自分の幸せより先に、犬の十数年の一生を最後まで引き受けられるかを問うことから始めたいところです。

飼育にかかる費用の目安は犬の飼育費用の記事に、もし飼えなくなったときの備えは終生飼養と備えの記事にまとめています。

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もし犬を飼えなくなったら|動物愛護週間100年に考える終生飼養と、元気なうちにできる備え

犬は人をつなぐ「道具」ではない

もうひとつ、犬の側からも考えておきたいことがあります。人と会うのが好きな犬もいれば、家族とだけ静かに過ごしたい犬もいます。「地域とつながるために犬を迎える」「犬がいれば人づきあいが広がるはず」と期待しすぎると、社交的でない犬に無理をさせてしまうかもしれません。

犬がいてくれることで、結果として人とのつながりが生まれることがある。その順番を忘れずにいたいと思います。すでに犬と暮らしている方は、つながりを増やそうと頑張るより、今日の散歩で会った人に会釈をするくらいの気持ちで十分です。

迎えることを考えている方は、保護犬を迎える流れの記事で、成犬を迎えるという選択肢や譲渡の条件もあわせて確認してみてください。

よくある質問

犬を飼うと幸せになれる、という研究なのですか?
そうとは言えません。今回の麻布大学・群馬大学の研究では、犬や猫の飼育そのものとウェルビーイングの直接の関連は、男女とも統計的に確認されませんでした。関連が見えたのは、女性で犬の飼育が家族との関わりや地域・友人との交流と結びつき、その交流の広がりを通じて自己肯定感やウェルビーイングの高さと関連する、という間接的な経路です。
研究の対象は何人で、どんな方法でしたか?
10歳以上の184人(男性60人・女性124人)が対象で、現在犬を飼っている人は61人でした。参加者はスマートフォンで2週間、毎日1回、前日の家族・友人・地域の人・ペットとの関わりを記録し、最終日にウェルビーイングや自尊心などの質問票に答えました。あわせて早朝尿と便を採取し、尿中コルチゾール濃度と腸内細菌叢を分析しています。
なぜ女性でだけ関連が見えたのですか?
理由はまだわかっていません。論文では、女性のほうがペットへの愛着が強く日々の世話に関わる度合いが大きいとする先行研究を挙げつつ、男女差の仕組みは不明で今後の検討が必要としています。参加者の女性が124人、男性が60人と人数に差があったことや、男性のモデルの当てはまりが限定的だったことも、結果を読むときに考慮しておきたい点です。
犬を飼うとストレスホルモンが下がるのですか?
この研究では、犬の飼育の有無と尿中コルチゾール濃度に有意な関連は見られませんでした。関連が見られたのは、パートナーとの会話が多い人ほど尿中コルチゾール濃度が低い、という点です。腸内細菌叢については犬の飼育による違いが統計的に有意でしたが、説明できた違いは全体の約2.6%と小さく、健康への良し悪しは調べられていません。
人づきあいが苦手でも、犬と暮らす意味はありますか?
もちろんあります。この研究は、女性で地域や友人との交流が多い人ほど自己肯定感やウェルビーイングが高い傾向を示したもので、人づきあいの多さを飼い主の条件にしているわけではありません。別の研究では、すれ違いざまのちょっとしたやりとりや、散歩で顔を合わせるだけの関係も、地域への所属感の高さと関連していたと報告されています。無理に交流を増やそうとせず、犬と自分のペースで過ごすことが何より大切です。
うちの犬は他の犬や人が苦手です。散歩で交流したほうがいいですか?
無理に近づける必要はありません。人のつながりのために犬に我慢をさせるのは避けたいところです。距離を取って飼い主どうしが会釈するだけでも十分ですし、すれ違いで吠えてしまう場合は、反応しない距離から少しずつ練習する方法があります。怖がり方が強い、急に変わったといった場合は、かかりつけの動物病院に相談してみてください。

まとめ

2026年9月に麻布大学と群馬大学の研究グループが発表した研究は、184人の2週間の暮らしを記録し、犬との暮らしが人の心の健やかさとどうつながっているのかを、家族・地域との関わりと体の指標の両面から検討したものでした。

見えてきたのは、犬の飼育がそのまま幸せにつながるのではなく、犬をきっかけに家族との関わりが家の外へ、地域や友人との交流へと広がっていくとき、その広がりが自己肯定感やウェルビーイングの高さと結びついている、という姿です。一方で、横断的なデザインで因果関係は言えないこと、サンプルが限られ男女で結果が異なったこと、生理的な指標の結果は探索的な段階であることも、論文ははっきり書いています。

散歩道での会釈、顔なじみの犬の飼い主との短い立ち話。犬がくれるそんな小さなつながりを、犬と自分のペースで大切にしていけたらと思います。そして、これから犬を迎えることを考えている方は、「幸せになれるから」ではなく「この子の一生を一緒に過ごしたいから」という順番で考えてみてください。

気分の落ち込みや孤独感がつらいときは、ひとりで抱え込まず、医療機関や厚生労働省の「まもろうよ こころ」で案内されている相談窓口も頼ってください。

出典・参考

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