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もし犬を飼えなくなったら|動物愛護週間100年に考える終生飼養と、元気なうちにできる備え

対象の目安: 全ライフステージ

アサヒ・編集長 / お迎え・住環境担当
・ 約41分で読めます
もし犬を飼えなくなったら|動物愛護週間100年に考える終生飼養と、元気なうちにできる備え

「この子より、自分が先に動けなくなったらどうしよう」。犬と暮らしていると、ふとした瞬間にそんな考えがよぎることがあります。入院、介護、失職、転居、家族の事情。誰にでも起こりうる出来事が、ある日「この子を飼い続けられない」という形で目の前に現れることがあります。

この記事は、その「飼えなくなる側」に立って書きました。保護犬を迎える話でも、誰かを責める話でもありません。飼えなくなりそうなときに何が起きるのか、法律はどうなっているのか、どこに電話すればいいのか、そして元気ないまのうちに何を用意しておけばいいのか。一次資料をあたって、順番に整理していきます。

2026年は、この話をするのにちょうどよい年でもあります。日本で初めての動物愛護週間の催しが1927年に行われてから、今年で100年という節目を迎えるからです。

2026年の動物愛護週間は「100年」の節目

動物愛護週間は、思いつきの啓発期間ではありません。動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)第4条が、「ひろく国民の間に命あるものである動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深めるようにするため、動物愛護週間を設ける」と定めており、期間は毎年9月20日から26日までと法律に明記されています。

環境省が2026年8月4日に公表した報道発表によると、令和8年度(2026年度)の動物愛護週間ポスターのテーマは「動物愛護週間100年〜人と動物との適正なかかわり方について〜」です。同発表は、その理由を「1927年に、日本で初めての動物愛護週間の催しが行われてから今年で100年を迎えます」と説明しています。作品は2026年4月24日から6月30日まで公募され、全国から163点の応募がありました。

中央行事の「どうぶつ愛護フェスティバル」は、公益社団法人日本愛玩動物協会の告知によると、2026年度は2回に分けて開催されます。

回日時会場申込
屋内行事令和8年9月19日(土) 13:00〜16:00東京国立博物館・平成館1階大講堂事前申込制
屋外行事令和8年11月14日(土) 10:00〜16:00上野恩賜公園(不忍池周辺)申込不要

日程・会場は公益社団法人日本愛玩動物協会「2026年度 動物愛護フェスティバル(動物愛護週間中央行事)開催のお知らせ」(2026年8月4日掲載)より。ポスターコンクールの表彰式は9月19日の屋内行事で実施予定と、環境省の報道発表に記されています。主催は環境省と動物愛護週間中央行事実行委員会で、実行委員会には環境省・東京都・台東区のほか、日本動物愛護協会、日本動物福祉協会、日本愛玩動物協会、日本獣医師会、日本動物園水族館協会、東京都獣医師会が参加しています。開催内容は変更されることがあるため、参加を検討する場合は公式サイトで最新情報を確認してください。

100年という言葉を聞くと、遠い歴史の話に思えるかもしれません。けれども今年のテーマにある「人と動物との適正なかかわり方」は、まさにこの記事の主題そのものです。迎えるところから、見送るところまで。そして、最後まで一緒にいられなくなったときにどうするかまで含めて、初めて「かかわり方」の話になります。

「保健所に持っていけばいい」は、もう成り立たない

飼えなくなったときの選択肢として、いまも「保健所に持っていく」という言い方を耳にすることがあります。この認識は、法律と実務の両面から、すでに現実とずれています。

終生飼養は法律に書かれた飼い主の責務

動物愛護管理法第7条第4項は、次のように定めています。

メモ

動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達する上で支障を及ぼさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養すること(以下「終生飼養」という。)に努めなければならない。(動物の愛護及び管理に関する法律 第7条第4項)

条文の形は努力義務です。違反したから直ちに罰則、という書き方にはなっていません。しかし、この第7条第4項は法律全体の考え方の軸になっていて、後で見る引取り拒否の規定は、条文上もこの「終生飼養」の趣旨に照らして組み立てられています。

環境省のパンフレット「飼う前も、飼ってからも考えよう」も、飼う前に考えることの一項目として「万が一のとき」を挙げ、「地震や洪水などの災害時や、万が一あなたが飼えなくなったとき、ペットの命を守る方法を考えていますか」と問いかけています。飼えなくなる可能性は、迎える段階から想定されている前提だということです。

自治体は引取りを拒否できる。7つの場合が省令に書かれている

同法第35条第1項は、都道府県等は犬猫の引取りを所有者から求められたときは「これを引き取らなければならない」と定めています。ただし、そのあとに長いただし書が続きます。犬猫等販売業者から求められた場合その他、第7条第4項(終生飼養)の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる、というものです。

その「環境省令で定める場合」は、動物の愛護及び管理に関する法律施行規則第21条の2に7つ並んでいます。

#引取りを拒否できる場合
1犬猫等販売業者から引取りを求められた場合
2引取りを繰り返し求められた場合
3子犬・子猫の引取りを求められた場合で、求める者が都道府県等からの繁殖制限措置に関する指示に従っていない場合
4犬又は猫の老齢又は疾病を理由として引取りを求められた場合
5引取りを求める犬又は猫の飼養が困難であるとは認められない理由により引取りを求められた場合
6あらかじめ引取りを求める犬又は猫の譲渡先を見つけるための取組を行っていない場合
7上記のほか、法第7条第4項の趣旨に照らして相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合

e-Gov法令検索に掲載された動物の愛護及び管理に関する法律施行規則第21条の2より作成しました。同条には、これらに該当する場合であっても「生活環境の保全上の支障を防止するために必要と認められる場合については、この限りでない」とするただし書があります。所有者の判明しない犬猫の引取りについては、第21条の3に別の規定が置かれています。

読んでいただくと分かるとおり、「年をとったから」(4番)、「病気になったから」(4番)、「新しい飼い主を探す努力をまだしていない」(6番)は、いずれも引取りを断られうる理由として明示されています。平成24年改正で終生飼養が条文化されて以降の考え方が、そのまま並んでいると言っていいでしょう。

数字で見ても、自治体への持ち込みは例外的な経路になっている

環境省が公表している令和6年度(2024年4月1日から2025年3月31日まで)の統計では、全国の自治体が引き取った犬は17,399頭でした。このうち「飼い主から」引き取られたのは、成熟個体2,072頭と幼齢個体143頭を合わせた2,215頭です。全体の約13%にとどまります。残る15,184頭(約87%)は所有者不明として収容されたもので、その多くは迷子や抑留と考えられます。

項目犬(令和6年度)
引取り数 合計17,399頭
うち 飼い主から2,215頭(成熟2,072・幼齢143)
うち 所有者不明15,184頭(成熟12,300・幼齢2,884)
返還数6,630頭
譲渡数8,797頭
殺処分数1,964頭

環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(令和6年度、動物愛護管理行政事務提要より作成)。合計や割合は公表されている実数から編集部で計算しました。同資料の注記により、所有者不明の成熟個体には狂犬病予防法に基づく抑留が含まれ、一部に県・市条例に基づく収容も含まれます。「幼齢の個体」とは主に離乳していない個体を指します。殺処分数1,964頭の内訳は、譲渡することが適切ではないもの1,459頭、それ以外の処分112頭、引取り後の死亡393頭です。

年間2,215頭という数字は、犬の推計飼育頭数が約682万頭(一般社団法人ペットフード協会の令和7年調査)であることを考えると、ごくわずかです。自治体の窓口は「飼えなくなった犬の受け皿」としては機能しておらず、そこにたどり着く前の相談と調整の場になっている、と理解するのが実態に近いと言えます。

屋外に放す・置いていくは犯罪になる

行き詰まった末に、外に放したり、どこかに置いてきたりする。これは遺棄にあたり、動物愛護管理法第44条第3項により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です。同条第2項は、みだりに給餌や給水をやめるなどして衰弱させること、疾病や負傷をした動物の適切な保護を行わないことなども虐待として同じ罰則の対象にしています。

注意

「もう無理だ」と思ったときほど、黙って抱え込まないでください。追い詰められてからの行動は、犬にとっても飼い主にとってもいちばん悪い結果になります。次の章以降で、実際に連絡できる先を具体的に整理します。なお、身近なところで犬が明らかに放置されている、といったケースに気づいた場合は、環境省が公開している「地方自治体動物虐待等通報窓口一覧」から地域の窓口を探せます。

飼い主としての法的な立ち位置をもう少し体系的に知りたい方は、動物愛護管理法そのものを整理した記事もあわせてご覧ください。

あわせて読みたい

動物愛護管理法を飼い主目線で読む|終生飼養・マイクロチップ・罰則の現行ルールと2026年の改正論点

飼えなくなるきっかけは「人の事情」に移ってきている

では、実際に人はどんなときに飼えなくなるのでしょうか。行政統計だけでは、この部分は見えません。参考になる民間調査が、2026年9月に公表されました。

民間調査が映した現場の像

犬猫生活株式会社は2026年9月8日、全国の保護活動団体を対象にした「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」を公開しました。2026年6月9日から7月27日にかけてオンラインで実施され、120団体が回答しています。

同社の発表によると、直近1年で新規の保護依頼が「増加」「大幅増加」したと答えた団体は約半数(48.4%)。その増加している58団体に主な要因を複数回答で尋ねたところ、結果は次のようになりました。

増加の要因割合
高齢飼い主の入院・死亡による飼育放棄87.9%(51団体)
多頭飼育崩壊の発生65.5%(38団体)
野良犬猫の繁殖51.7%(30団体)

このほか、選択肢には「経済的理由や引越し等による飼育放棄」「行政機関による引き取り困難」「ブリーダー等法人による飼育放棄」も挙がっています。同社は白書のまとめで、保護の主な要因が従来の「野良犬・野良猫の繁殖」にとどまらず「人」の問題へ移行していると述べています。

現場の負荷も示されました。直近1年間に全120団体が新規に保護した頭数は合計8,718頭。譲渡までの滞在期間は中央値6か月、平均8.6か月で、現在保護している犬の47.2%が1年以上の長期保護になっています。1頭を保護してから譲渡するまでの費用(人件費を除く)は平均9.6万円で、活動に必要な資金が不足していると答えた団体は88.3%にのぼりました。

メモ

これは行政統計ではなく、1社が実施した民間調査です。回答は120団体分で、全国の保護団体を網羅した数字でもありません。同社はペットフードなどを扱う事業者でもあります。行政の公式統計(前章の環境省の数字)とは性格が異なるものとして、参考値の位置づけで読んでください。それでも、行政統計に表れない相談が民間に集まっているという指摘は、次に見る環境省のガイドラインの内容とも整合しています。

典型的な6つのきっかけ

調査結果や行政資料を突き合わせると、飼えなくなるきっかけはおおむね次の6つに整理できます。どれも、本人の意志の弱さの問題ではありません。

  1. 1

    飼い主の高齢化・入院・死亡

    もっとも多い経路です。「明日入院してください」と言われた瞬間に、犬の世話をする人がいなくなります。本人が亡くなった場合、犬は相続財産の一部として扱われ(民法第85条・第896条)、引き受け手が決まっていなければ宙に浮きます。
  2. 2

    経済的事情の悪化

    失職、収入減、医療費の増大。フード代や治療費が払えなくなると、通院を我慢する、不妊去勢手術を先延ばしにするといった形で、まず犬の健康に影響が出ます。
  3. 3

    多頭飼育崩壊

    増やすつもりがなかったのに増えてしまう。次の項で詳しく見ますが、これは経済的困窮や社会的孤立と強く結びついた問題です。
  4. 4

    転居・住居の事情

    ペット不可の物件への転居、家族の家に同居することになった、施設に入ることになった。分譲でも管理規約の変更で飼育が難しくなる場合があります。
  5. 5

    家族構成の変化

    離婚、結婚、出産、同居家族の介護。世話の担い手が変わったり、アレルギーが判明したりすることがあります。
  6. 6

    飼い主自身の健康・体力の低下

    散歩に出られない、抱き上げられない、シニア犬の介護に体力が追いつかない。犬側の高齢化と飼い主側の高齢化が同時に進むと、負荷は一気に増えます。
元気なうちは何とかなると思っていました。でも自分がぎっくり腰になって、体重15kgの子を抱えて外に連れ出せなくなったとき、初めて「これは無理かもしれない」と思いました。困っているのは犬ではなく、私のほうだったんです。
70代で愛犬の介護に直面した飼い主

多頭飼育崩壊は「動物の問題」ではなく「人の問題」として設計されている

環境省は2021年3月26日、「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン〜社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて〜」を策定しました。この考え方は、飼えなくなることを考えるうえで重要な補助線になります。

ガイドラインは多頭飼育問題を、多数の動物を飼育しているなかで適切な飼育管理ができないことにより、次の3つの影響のいずれか、もしくは複数が生じている状況と定義しています。

  • 飼い主の生活状況の悪化
  • 動物の状態の悪化
  • 周辺の生活環境の悪化

そのうえで、予防と解決には3つの観点、すなわち飼い主の生活支援、動物の飼育状況の改善、周辺の生活環境の改善が必要だと整理しています。「人の課題」と「動物の課題」に分けて考えるのではなく、関係者が連携して対応することが重要だという立場です。

同ガイドラインが引用する環境省の令和元年度アンケート調査(全国の自治体動物愛護管理部局125か所が対象)からは、次のような姿が見えます。

  • 平成30年度に複数の住民から苦情が寄せられた世帯は全国で年間2,149件。1自治体あたり平均約20.5件
  • 苦情のあった世帯の飼育頭数は「2頭以上10頭未満」が1,095件(51.0%)と半数を占め、「30頭以上」は137件(6.4%)にとどまる
  • 収集された385件の事例のうち、飼い主の経済的困窮が「あてはまる」「ややあてはまる」とされたものが53.5%。生活保護を受給していた飼い主は21.3%
  • 「身体的な病気や、筋力・歩行の弱さがみられる」飼い主が29.9%、「入退院を繰り返している」飼い主が8.6%

環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」第1章および同ガイドラインが引用する「令和元年度 社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業アンケート調査報告書」(2020年)より。苦情件数の表(2,149件)と飼育頭数の内訳(回答数2,128)は合計値が一致しない点が、同ガイドラインに注記されています。

数字が語っているのは、多頭飼育崩壊が特殊な人の特殊な出来事ではないということです。飼育頭数が10頭に満たなくても、不妊去勢や衛生管理が追いつかなければ問題は起きます。同ガイドラインは、飼い主の特徴を因子分析した結果として「不衛生」「自立困難」「貧困」「暴力」「固執」「サービス拒否」「依存」という7つの要素を挙げつつ、すべての飼い主がこれらを備えているわけではなく、事例のパターン化は非常に困難だとも述べています。

先ほどの民間調査でも、個人宅での崩壊要因の最多は「経済的困窮による不妊去勢手術費用の不足」(82.0%)で、次いで「高齢化・認知症等による判断能力低下」(63.9%)でした。「かわいそう」という感情的な問題(49.2%)より、経済と福祉の困難が上位に来ています。

ヒント

飼えなくなりそうなとき、多くの人が「動物の相談窓口」だけを探します。しかし国のガイドラインは、この問題を福祉と動物愛護の両方で受け止める設計になっています。困っているのが人のほうであるなら、福祉の窓口に相談することも、遠回りではなく正しい経路です。

困ったときに実際に連絡する先と、その探し方

ここからは具体的な話にします。「どこに電話すればいいのか」が分からないまま時間が過ぎることが、いちばんよくない結果を招きます。

まず、何に困っているのかを切り分ける

同じ「飼えない」でも、使える手段はまったく違います。

困りごとの性質主に頼る先
一時的(入院・出張・被災など、期間が区切れる)ペットホテル、ペットシッター、動物病院の預かり、親族・友人、一時預かりボランティア
経済的(治療費・フード代が払えない)自治体の福祉部門、社会福祉協議会、地域包括支援センター、動物病院への分割相談
身体的(世話ができない・散歩に出られない)地域包括支援センター、ケアマネジャー、ドッグウォーカー、家族
行動面(吠える・咬む・粗相)かかりつけ動物病院、獣医行動診療科、ドッグトレーナー
住居(ペット不可の物件へ転居する)不動産会社、自治体の住宅部門、譲渡団体
恒久的(自分が飼い続けられない)自治体の動物愛護センター・保健所、譲渡団体、動物愛護推進員

自治体の動物愛護担当窓口を探す

もっとも確実な入口は、環境省が公開している「地方自治体連絡先一覧(動物愛護管理行政担当組織)」です。都道府県47、指定都市20、中核市62の合計129自治体について、組織名・住所・電話番号・FAXが一覧になっています(同ページの表記は令和8年5月現在)。

自分の住む市区町村が中核市でない場合は、都道府県の担当部局が窓口になります。名称は「動物愛護センター」「動物愛護相談センター」「保健所 生活衛生課」など自治体によってさまざまなので、この一覧から探すのがいちばん確実です。

窓口に電話するときは、「引き取ってください」ではなく「相談させてください」から始めてください。東京都動物愛護相談センターは、犬や猫に関する相談を受け付けており「新しい飼い主探しの助言や協力をお願いできるボランティア団体を紹介しています」と案内しています。そのうえで、どうしても飼いきれず新しい飼い主を見つけられない場合には引取りを行うこともあるが「事前相談が必要です」としています。

動物愛護推進員という仕組みがある

あまり知られていませんが、動物愛護管理法第38条は、都道府県知事等が動物愛護推進員を委嘱するよう努めるものと定めています。推進員の活動には、動物の所有者等に対し「その求めに応じて、これらの動物に適正な飼養を受ける機会を与えるために譲渡のあつせんその他の必要な支援をすること」が明記されています。譲渡先探しの相談に乗ってもらえる、公的な立場の人がいるということです。

東京都の場合、動物愛護推進員の紹介は専用の電話番号で受け付けられています。お住まいの自治体に推進員制度があるかどうかは、動物愛護担当窓口に尋ねれば分かります。

福祉の窓口を「動物の相談」に使う

飼い主が高齢である場合、あるいは自身の生活が立ちゆかなくなっている場合、動物の窓口より先に福祉の窓口が役に立つことがあります。

地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者支援の中核機関です。厚生労働省の資料によると、地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行う機関で、全国に5,487か所(支所を含めると7,374か所、令和7年4月末現在)あります。

犬の話をしにいく場所ではないと感じるかもしれません。しかし動物愛護管理法第41条の4は、国が地方自治体に対して、動物愛護管理部局と「畜産、公衆衛生又は福祉に関する業務を担当する地方公共団体の部局」および民間団体との連携強化について情報提供や技術的助言を行うよう努めると定めています。犬のことで生活が回らなくなっているなら、それは福祉の相談内容でもあります。先に紹介した民間調査でも、多頭飼育崩壊の相談ルートの7.5%が「ケアマネジャーや民生委員」からでした。

かかりつけ動物病院に早めに話す

環境省のパンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」は、困ったときに備えて「かかりつけの動物病院を作りましょう」とすすめ、歩いて通える距離であること、普段から検診などで信頼関係を築いておくこと、一時的な預かりができる場合もあることを挙げています。

かかりつけの獣医師は、その犬の病歴と性格を知っている数少ない第三者です。地域の預かりボランティアや譲渡団体の情報を持っていることも珍しくありません。治療費の相談も含めて、事情が悪くなる前に話しておく価値があります。

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元気なうちにやっておく7つの備え

ここからは予防の話です。以下は特別なことではなく、今週末にでも始められるものばかりです。

1. 緊急時の預け先を「2人」決めて、合意を取っておく

もっとも効果が大きく、もっとも後回しにされがちなのがこれです。ポイントは3つあります。

  • 1人ではなく2人決める(1人目が同時に倒れる、遠方に転居する可能性がある)
  • 口頭ではなく、書面かメッセージで合意の記録を残す
  • 相手に費用の負担をどうするか、あらかじめ伝えておく

これは家庭の心がけの問題ではありません。自治体の譲渡でも、実際に要件になっています。横浜市動物愛護センターは、犬猫の譲渡を受ける条件として「万一継続して飼育できなくなった場合に備えて、代わって飼育することのできる親族、知人等を選定し、その者が飼育可能である旨の誓約書」の提出を求めています。誓約書には協力者の氏名・住所・電話番号と自筆署名が必要とされ、用紙の形式は指定されていません。

つまり、迎えるときに求められる水準の備えを、すでに一緒に暮らしている犬についても持っておこう、という話です。

ヒント

「頼めそうな人がいない」と感じる場合も、諦める前に選択肢を広げてみてください。親族だけでなく、同じ地域の犬友だち、かかりつけの動物病院、日頃使っているペットシッター、地域の預かりボランティアなど、関係を作れる相手はいます。1人に全部を頼むのではなく、数日だけ預かってくれる人と、長期の引き受け手を分けて考えると現実的になります。

2. 飼育情報カードを作る

自分以外の誰かが、いきなりこの犬の世話をすることになったとき、何が分からないと困るか。それを1枚にまとめておきます。冷蔵庫に貼る、玄関の見えるところに置く、家族と共有のクラウドに置く、のどれかにしておくと、緊急時に見つけてもらえます。

飼育情報カードに書いておく項目

  • 犬の名前・犬種・性別・生年月日・体重・毛色
  • 不妊去勢手術の有無と実施時期
  • マイクロチップの識別番号(15桁)と、環境省の登録サイトのログインに必要な暗証記号の保管場所
  • 市区町村の犬の登録番号と鑑札・注射済票の保管場所
  • かかりつけ動物病院の名前・住所・電話番号・診療時間
  • 夜間や休日に受診できる救急動物病院の連絡先
  • 現在の持病・服用中の薬(薬品名・量・与える時間)と、薬の保管場所
  • ワクチン接種歴とノミ・ダニ・フィラリア予防の実施時期
  • 毎日のフードの銘柄・1回量・回数・与える時間
  • 食べてはいけないもの、アレルギーの有無
  • 散歩の回数・時間帯・コース・引っ張り癖などの注意点
  • 苦手なもの(雷、掃除機、抱っこの仕方、触られたくない場所)
  • トイレの場所と方法、留守番のときの過ごし方
  • 加入しているペット保険の会社名と証券番号
  • 緊急時に預ける人の名前と連絡先(2人分)

このカードは、災害で避難するときにもそのまま役に立ちます。環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」も、平常時の備えとして健康管理の記録や所有明示を挙げています。防災の備えと飼えなくなったときの備えは、実は中身がほとんど同じです。

3. お金の見通しを書き出す

一般社団法人ペットフード協会の令和7年(2025年)全国犬猫飼育実態調査では、犬1頭を飼う人の1か月あたりの支出総額は平均16,030円、平均寿命は14.82歳で、そこから算出した生涯必要経費は平均278万4,190円でした。

大切なのは平均額そのものより、自分の家計に当てはめてみることです。今後10年、収入がどう変わる見込みか。年金生活に入ってからも払えるか。急に20万円の手術費が必要になったとき、どこから出すか。この3つに答えられるなら、備えとしては十分な出発点です。具体的な費目の内訳は、飼育費用をまとめた記事で確認できます。

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4. ペット保険と、医療費のクッションを用意する

環境省の高齢ペット向けパンフレットも、動物病院での負担を軽くする方法としてペット保険を挙げ、「加入できるペットの種類や年齢、補償プラン、保険料は様々ですので、よく確認して契約しましょう」と注意を添えています。

多くの商品には新規加入の年齢上限があるため、検討するなら早いほうが選択肢は広がります。ただし保険は万能ではありません。既往症は補償対象外になることが一般的で、予防目的の費用も対象外です。保険とは別に、動物病院の費用にあてる貯蓄枠を作っておくと、いざというときに「お金がないから受診しない」という判断を避けやすくなります。

5. 「預けられる犬」にしておく

これは犬の側の準備です。環境省のパンフレットは、預かりや介護、災害に備えて、他人にさわられることや室内(ペットシーツ等)での排泄に慣れさせておくことをすすめています。あわせて、ノミ・ダニの予防、ワクチン接種、寄生虫の駆除も、預け先で迷惑をかけないために必要だとしています。

同パンフレットは預け先について「事前に探して、試しに短期間で利用してみましょう」「長期間預けたいときは、早めに相談しましょう」とも書いています。突然の入院のときに初めてホテルを探すのでは、犬にとっての負担が大きくなります。元気なうちに1泊試しておく。それだけで、緊急時の選択肢が一つ確実に増えます。

6. 住まいの「その先」を考えておく

賃貸ならペット飼育が契約上認められているか、分譲でも管理規約はどうか。これは迎える前に確認すべきことですが、暮らしの途中でも見直す価値があります。転勤の可能性、実家に戻る可能性、高齢者向け住宅や施設に移る可能性。ペットと一緒に入居できる高齢者向けの住まいもありますが、受け入れの可否や条件は施設ごとに異なるため、早めに個別に問い合わせて確認しておくと安心です。

7. 情報の「在り処」を家族に伝える

飼育情報カードを作っても、家族がその存在を知らなければ意味がありません。とくに次の3つは、口頭でひとこと伝えておいてください。

  • 飼育情報カードがどこにあるか
  • マイクロチップの登録情報を変更するために必要な暗証記号がどこにあるか
  • 緊急時に預ける人を誰に決めてあるか

マイクロチップの登録は環境省の指定登録機関が運営するサイトで行われており、登録証明書には届出や変更登録に必要な暗証記号が記載されています(施行規則第21条の7)。この暗証記号が分からないと、家族が引き継ぐときに手続きが滞ります。

自分が先に逝くときの備え: 遺言・負担付遺贈・信託の使い分け

ここは少し法律の話になります。仕組みを知っておくと、専門家に相談するときの解像度が上がります。

前提: 犬は法律上「物」であり、相続財産になる

民法第85条は「この法律において『物』とは、有体物をいう」と定めており、動物もこの「物」に含まれます。そして第896条により、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。

つまり、飼い主が亡くなると、犬は遺産の一部として相続人に引き継がれます。相続人が引き受けを望まない場合、犬の行き先は決まりません。犬自身を「受取人」に指定することはできない、というのがすべての制度の出発点です。

選択肢1: 負担付遺贈

遺言で財産を渡すかわりに、一定の義務を負ってもらう方法です。日本公証人連合会は負担付遺贈を、「財産の遺贈を受ける人に対し、一定の法律上の義務を負担させる」制度と説明しています。「犬の世話をすることを条件に、この預金を遺贈する」という形になります。

民法上の枠組みは次のとおりです。

  • 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度でのみ、負担した義務を履行する責任を負う(第1002条第1項)
  • 受遺者が遺贈を放棄したときは、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができる(第1002条第2項)
  • 受遺者が負担した義務を履行しないときは、相続人が相当の期間を定めて履行を催告でき、期間内に履行がないときは、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できる(第1027条)

注意

注意したいのは、義務の履行を監視する仕組みが自動では付いてこない点です。遺贈を受けた人が世話をしなかった場合、相続人が催告し、家庭裁判所に請求するという手順を踏む必要があります。誰かが気づいて動かなければ、制度は働きません。遺言執行者(民法第1006条)を指定しておくなど、実効性を担保する工夫を専門家と相談してください。

選択肢2: 死因贈与

生前に「自分が死んだらこの犬とこの財産をあなたに渡します」と当事者間で約束する契約です。民法第554条は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与について、その性質に反しない限り遺贈に関する規定を準用すると定めています。

遺言が単独行為であるのに対し、死因贈与は相手の承諾を得て結ぶ契約です。相手が引き受ける意思を持っていることを、生前に確認できるのが実務上の利点になります。

選択肢3: 信託(いわゆるペット信託)

法務省のパンフレット「知って活用 信託制度」によれば、信託とは、受託者と呼ばれる人が、信託で定められた特定の目的に従って、財産の管理・処分のほか、目的の達成のために必要な行為をするものです。登場人物は3者います。

役割内容
委託者信託財産のもとの権利者。財産を受託者に譲渡する
受託者信託財産の権利者となり、受益者のために信託財産の管理・処分等を行う
受益者受益権を取得し、受託者を監視・監督しながら信託の利益を享受する

信託をする方法は、契約を締結する方法、遺言をする方法、公正証書等を作成して自己信託の意思表示をする方法の3つです(信託法第3条)。信託財産は受託者の固有の財産とは区別して扱われ、受託者が倒産しても影響を受けません(倒産隔離機能、同法第25条第1項)。受託者には、信託事務を処理する義務、信託財産と固有財産を分別管理する義務、帳簿等を作成する義務などが課されます。

犬の世話のためにこの仕組みを使う場合、犬自身を受益者にすることはできません。犬は権利の主体ではないためです。実務上は、犬を引き受けて世話をする人を受益者として設定し、飼育費用を信託財産として管理させる形が取られます。

法務省のパンフレットは、受益者が受託者を十分に監督できない場合に備えて、信託監督人(信託法第131条)を選任し、受益者のために受託者の監督を行わせることが認められていると説明しています。犬の世話が続けられているかを第三者に見てもらう役割として、この仕組みが使えます。

選択肢4: 任意後見契約

自分が亡くなった後ではなく、判断能力が低下したときの備えです。日本公証人連合会は任意後見について、判断能力があるうちにあらかじめ後見人となってくれる人と契約を締結し、生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約だと説明しています。公正証書で作成することが法律で義務づけられており、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。

犬の世話そのものを代理してもらえるわけではありませんが、預け先への支払いや医療費の手当てといった財産管理の部分は、この仕組みでカバーできます。

選択肢5: 老犬ホームなどの民間サービス

環境省のパンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」は「ペットを預かり亡くなるまで世話をしてくれる民間業者(第一種動物取扱業)があります。よく調べて相談のうえ、利用するようにしましょう」と紹介しています。

この業種は、動物愛護管理法の第一種動物取扱業のうち「譲受飼養業」にあたります。環境省は譲受飼養業を「有償で動物を譲り受けて飼養を行う業」と定義し、具体例として老犬老猫ホームを挙げています。第一種動物取扱業は、事業所・業種ごとに都道府県知事または政令指定都市の長の登録が必要で、事業所ごとに動物取扱責任者を1名以上配置すること、標識や名札を掲示することが義務づけられています。無登録で営業した場合は100万円以下の罰金の対象です。

検討するときは、まず登録の有無と登録番号を確認してください。そのうえで、費用の総額と支払い方法、面会の可否、獣医療が必要になったときの対応、事業者が廃業した場合に犬がどうなるかを、契約前に書面で確認しておくことをおすすめします。

注意

この章で紹介した仕組みは、いずれも設計を誤ると意図したとおりに働きません。相続人の遺留分との関係、税務上の扱い、受託者の適格性など、個別の事情で結論が変わる論点が多くあります。実際に使う場合は、弁護士・司法書士・公証人・税理士など、その分野の専門家に相談してください。この記事は制度の輪郭を知るためのものです。

それでも手放す判断をするときの手順

あらゆる手を尽くしても、飼い続けられないという結論になることはあります。そのときに大切なのは、時間をかけることと、記録を残すことです。

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    期限を確認して、逆算する

    「いつまでに」を明確にします。退去日、入院日、引越し日。期限が2週間しかないのか、3か月あるのかで、取れる方法がまったく変わります。時間がある場合ほど、良い引き継ぎ先に出会える可能性は高くなります。
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    身近な範囲から声をかける

    親族、友人、職場、犬友だち、かかりつけ動物病院。犬を実際に知っている人のほうが、犬にとっての適応も、譲り受ける側の納得感も高くなります。
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    自治体の動物愛護担当窓口に相談する

    引取りを求める電話ではなく、譲渡先探しの相談として連絡します。動物愛護推進員の紹介や、地域の譲渡団体の情報が得られることがあります。
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    譲渡団体に相談する

    自治体が譲渡対象団体の名簿を公開している場合があります。東京都は、都の譲渡事業に協力し新たな飼い主探しを非営利の活動として行う団体のうち、都の基準に適合する団体を名簿に登録して公開しています。まず公的な名簿に載っている団体から当たると、相手の実在と活動実態を確認しやすくなります。
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    健康と行動の情報を包み隠さず伝える

    持病、投薬、咬んだことがあるかどうか、苦手なもの。隠して渡すと、引き受けた側が対応できず、次の行き場をなくす原因になります。飼育情報カードをそのまま渡すのが確実です。
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    書面を交わす

    譲渡の合意、費用の負担、その後の連絡方法。口約束ではなく書面にします。長野県動物愛護センターのように、譲渡にあたり誓約書の提出と履行を求める公的機関もあり、書面を交わすこと自体は特別なことではありません。
  7. 7

    登録の名義変更を行う

    犬の登録は狂犬病予防法にもとづくもので、所有者が変わったときは登録事項の変更を届け出ます。マイクロチップの登録も、登録を受けた犬を登録証明書とともに譲り受けた人は、取得した日から30日を経過する日(その日までにさらに譲渡しをする場合はその譲渡しの日)までに変更登録を受けなければなりません(動物愛護管理法第39条の6第1項)。ここを放置すると、迷子になったときに前の飼い主に連絡が行きます。

SNS・里親募集サイトを使うときに確認すること

インターネットで譲渡先を探すこと自体は、悪いことではありません。実際に良い出会いも生まれています。ただし、対面での譲渡と違って、相手の実像が見えにくいという構造的な弱さがあります。動物愛護管理法第44条第1項は愛護動物をみだりに殺し傷つけた者に5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金、第2項は虐待に1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めていますが、渡してしまった後にそれを知る手段は、渡した側にはほとんどありません。

だからこそ、渡す前の確認が要になります。

譲渡先を決める前に確認すること

  • 身分証明書で氏名・住所を確認した(公的機関の譲渡でも住民票や運転免許証等の提示が求められる)
  • 実際に暮らす住居を見せてもらった、または家族全員と会って話した
  • 住居がペット飼育可であることを、契約書や管理規約で確認した
  • 同居する家族全員が迎えることに同意していると、本人以外の口からも確認できた
  • かかりつけにする予定の動物病院を聞いた
  • 先住動物の有無と、その子の不妊去勢・ワクチンの状況を確認した
  • 日中の留守番時間と、世話の担当者を具体的に聞いた
  • 譲渡費用や医療費の扱いについて、双方の認識が一致している
  • 譲渡後の連絡方法(近況報告の頻度など)を書面で決めた
  • 団体を名乗る相手の場合、第二種動物取扱業の届出の有無や、自治体の名簿への登録を確認した
  • 会うときは1人で行かず、家族や知人に同行してもらう段取りをつけた

団体の実在を確かめる手がかりとして、第二種動物取扱業の届出があります。環境省によると、営利性のない動物の譲渡し・保管・貸出し・訓練・展示を業として行う者は、一定規模の飼養施設を設けている場合、その所在地の都道府県知事または政令指定都市の長への届出が必要です。届出の要件は飼養施設があることと一定数以上の動物を取り扱うことの両方を満たす場合で、中型の哺乳類なら10頭以上が目安とされています。犬猫の譲渡しを業として行う第二種動物取扱業者には、品種や生年月日、譲渡先などを記載した帳簿の備付けと5年間の保存も義務づけられています。

注意

「すぐに引き取ります」「今日中に決めてください」と急がせてくる相手には、いったん立ち止まってください。まっとうな引き受け手は、犬の情報を細かく聞き、住まいを見せることを嫌がりません。急いでいるのは自分のほうだという状況ほど、判断が甘くなります。

手放した後にできること

譲渡が成立しても、関係が終わるわけではありません。近況を聞かせてもらう約束をしておく、緊急時の連絡先として自分の番号を残しておく、健康記録のコピーを渡しておく。こうした引き継ぎが丁寧なほど、その犬が次の家庭で落ち着く確率は上がります。

そして、手放したことを自分で責め続けないでください。環境省のパンフレットも、「飼わない」「今は飼えない」と判断することも動物への愛情だと書いています。いま自分にできる最善の引き継ぎをしたのなら、それは終生飼養の責任から逃げたことにはなりません。

これから迎える人へ: 自分の年齢と、犬の寿命を並べてみる

最後に、これから犬を迎えようとしている方に向けて。

一般社団法人ペットフード協会の令和7年(2025年)調査によると、犬の平均寿命は14.82歳でした。超小型犬15.28歳、小型犬14.59歳、中型・大型犬13.63歳という体格差もあります。子犬を迎えるということは、およそ15年先まで責任を持つということです。

いまの自分の年齢に15を足してみてください。そのとき自分は何歳か。仕事は。住まいは。体力は。この計算をしてみることは、迎えることをためらわせるためのものではありません。迎え方を選ぶための材料です。

環境省のパンフレット「飼う前も、飼ってからも考えよう」も、子犬や子猫を飼った場合、高齢で介護が必要になる10年から15年後は飼い主も同じだけ歳をとっていると指摘し、そのときの自身の状況を想像して準備しておくことが大切だと書いています。

選択肢は、飼うか飼わないかの二択ではありません。

  • 子犬ではなく、成犬やシニア犬を迎える(残りの年数の見通しが立てやすく、体格や性格もある程度分かる)
  • 後見人・身元引受人になってくれる家族を立てたうえで迎える
  • 迎える前に、緊急時の預け先を2人決めて合意を取っておく
  • いまは迎えず、預かりボランティアや譲渡団体への支援という形で関わる

東京都動物愛護相談センターも、成犬・成猫から飼い始める利点として、自分のライフスタイルにあった性格の成犬・成猫を探せること、世話の負担が軽くなること、人と暮らしていた経験があることの3点を挙げています。譲渡の条件や、いま自治体に収容されている犬の実像は、保護犬を迎える記事にまとめました。

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高齢期に犬と暮らすことの意味については、2026年に発表された研究をもとにした記事でも扱っています。犬との暮らしが飼い主にもたらすものと、それでも先に考えておくべきことの両方を整理しています。

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よくある質問

急に入院することになりました。まず何をすればいいですか。
期間が区切れる事情なので、恒久的な譲渡ではなく一時預かりで乗り切れる可能性が高い場面です。まず親族や友人、次にペットホテル・ペットシッター・かかりつけ動物病院の預かりサービスを当たってください。それでも見つからない場合は、住んでいる自治体の動物愛護担当窓口に電話し、地域の一時預かりボランティアの情報がないか相談してください。窓口の連絡先は環境省の地方自治体連絡先一覧で調べられます。同時に、犬の食事内容・投薬・かかりつけ・マイクロチップ番号をまとめたメモを作り、預ける相手に渡してください。
保健所や動物愛護センターに持ち込めば、引き取ってもらえますか。
必ず引き取ってもらえるわけではありません。動物愛護管理法第35条第1項ただし書と施行規則第21条の2により、自治体は7つの場合に引取りを拒否できます。そのなかには、犬の老齢や疾病を理由とする場合、飼養が困難であるとは認められない理由による場合、あらかじめ譲渡先を見つける取組を行っていない場合が含まれます。東京都も、引取りを行うことはあるが事前相談が必要だと案内しています。引取りを求める電話ではなく、相談の電話として連絡してください。
飼えなくなったとき、犬を外に放すとどうなりますか。
遺棄にあたり、動物愛護管理法第44条第3項により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。みだりに給餌や給水をやめるなどして衰弱させること、病気やけがをした動物の適切な保護を行わないことも、同条第2項の虐待として同じ罰則の対象です。犬にとっても、外で生き延びられる可能性は高くありません。行き詰まったと感じた時点で、必ず窓口に相談してください。
自分が亡くなった後、犬を誰かに託すにはどうすればいいですか。
民法上、犬は「物」として扱われ、相続財産の一部になります(民法第85条・第896条)。託す方法としては、遺言による負担付遺贈(第1002条)、生前に相手の承諾を得て結ぶ死因贈与(第554条)、信託法にもとづく信託(いわゆるペット信託)、老犬ホーム(第一種動物取扱業の譲受飼養業)の利用などがあります。いずれも犬自身を受益者や受取人にすることはできず、世話をする人を通じた仕組みになります。遺留分や税務の論点もあるため、弁護士・司法書士・公証人などの専門家に相談してください。
里親募集サイトやSNSで譲渡先を探しても大丈夫でしょうか。
使うこと自体は問題ありませんが、相手の実像が見えにくいという弱さがあります。身分証明書での本人確認、住居の確認、家族全員の同意の確認、ペット飼育可であることの契約書での確認、かかりつけ予定の動物病院の確認を、必ず渡す前に済ませてください。会うときは1人で行かないこと、書面を交わすことも大切です。団体を名乗る相手なら、第二種動物取扱業の届出や自治体の譲渡対象団体名簿への登録があるかを確認すると、実在と活動実態を確かめやすくなります。急がせてくる相手には応じないでください。
多頭飼育でどうにもならなくなっています。相談しても怒られませんか。
環境省の多頭飼育対策ガイドラインは、この問題を飼い主の生活支援・動物の飼育状況の改善・周辺の生活環境の改善という3つの観点から、動物愛護管理部局と社会福祉部局が連携して対応するものとして設計しています。同ガイドラインが引用する調査では、事例の53.5%で飼い主の経済的困窮があてはまるとされ、生活保護を受給していた飼い主も21.3%いました。責める対象としてではなく、支援が必要な状態として扱う枠組みがあるということです。動物の窓口だけでなく、地域包括支援センターや自治体の福祉部門にも相談してみてください。
高齢になってから犬を迎えるのは、やめたほうがいいですか。
一律にやめるべきとは言えません。ただ、迎え方を選ぶ必要はあります。犬の平均寿命は14.82歳(ペットフード協会 令和7年調査)なので、自分の年齢に15年を足したときの生活を具体的に想像してみてください。そのうえで、子犬ではなく成犬やシニア犬を迎える、後見人や身元引受人になってくれる家族を立てる、緊急時の預け先を2人決めておくといった形にすれば、現実的な選択肢になります。譲渡団体や自治体には年齢の条件を設けているところもあるため、条件は個別に確認してください。

まとめ

飼えなくなるかもしれない、という不安は、犬を大切に思っている人ほど強く感じます。この記事で確認してきたことを、あらためて並べます。

法律は、飼い主に終生飼養の責務を課しています。そして自治体は、老齢や疾病を理由とする引取りや、譲渡先を探す努力をしていない場合の引取りを、断ることができます。令和6年度に自治体が飼い主から引き取った犬は2,215頭で、引取り数全体の約13%にすぎません。「最後は行政が引き取ってくれる」という前提は、もう存在しないと考えたほうが安全です。

一方で、相談できる場所は思っているより多くあります。自治体の動物愛護センターや保健所、動物愛護推進員、かかりつけ動物病院、地域包括支援センターなどの福祉部門、譲渡団体。国のガイドライン自体が、動物の問題と人の問題を一体で受け止める設計になっています。

そして、いちばん効くのは予防です。緊急時の預け先を2人決めて合意を取ること。飼育情報カードを1枚作ること。費用の見通しを書き出すこと。この3つは、今週末にでも始められます。もっと先の備えとして、負担付遺贈や信託といった仕組みもあります。

動物愛護週間100年という節目の年です。最初の催しが行われた1927年と比べて、日本の犬と人の関係は大きく変わりました。それでも変わらないのは、迎えた命を最後まで見届けるという、ごく単純な約束のはずです。その約束を守り抜くために、いま元気なうちにできることから始めてみてください。まずは、緊急時に頼れる人の顔を1人思い浮かべて、連絡してみるところからで十分です。

出典・参考

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