犬は飼い主の気持ちがわかる?|2026年の最新研究でわかったこと・わからないこと
対象の目安: 全ライフステージ


落ち込んでいる日にそっと寄ってきたり、出かける支度をはじめた瞬間にそわそわしたり。「うちの子、私の気持ちがわかっているのでは」と感じたことのある方は多いと思います。この問いについて、2026年8月に麻布大学を中心とする研究チームが新しい研究を発表しました。飼い主が表情や声にほとんど出していない状態でも、犬は何かを感じ取っているのか——そこに正面から取り組んだ研究です。この記事では、その研究が実際に示したことと示していないことを丁寧に線引きしながら、先行研究の積み重ねと、日常での接し方までを整理します。
「犬は気持ちがわかる」をどう確かめるのか
まず前提を整理します。犬に「いま私がどんな気持ちに見える?」と聞くことはできません。そのため研究では、「犬がヒトの感情に関する情報を区別できているか」「区別した結果として行動や生理反応が変わるか」を、行動の観察や心拍などの指標から間接的に測ります。
つまり研究が扱っているのは、多くの場合「識別できるか」「反応が変わるか」であって、「人間と同じように気持ちを理解しているか」ではありません。ここを混同すると、話が一気に大きくなってしまいます。
「識別できる」と「理解している」は違う
たとえば、犬が怒った表情の顔と楽しげな表情の顔を区別できたとします。これは「区別できる」という事実です。そこから「犬は怒りという感情の意味を理解している」「相手の立場に立って気持ちを想像している」までは、いくつも段階が飛んでいます。
科学の言葉づかいでは、ここは慎重に区別されます。ニュースの見出しや記事の要約では、この段階がしばしば圧縮され、「犬は人の心が読める」という表現になってしまいがちです。読むときは、次の3つを分けて考えると混乱しにくくなります。
- 何を提示したか(顔だけか、声も含むか、においまで含むか)
- 何を測ったか(見つめた時間か、近づいた回数か、心拍か、ホルモンか)
- どの差が統計的に有意だったか(有意でなかった指標も必ずある)
ヒント
手がかりは表情・声・においの3つ
これまでの研究は、おおまかに次の3つの感覚チャンネルを扱ってきました。
- 視覚(表情): ヒトの顔の表情を見分けられるか
- 聴覚(声): 声の調子から感情の正負を読めるか
- 嗅覚(におい): 汗や呼気に含まれる化学的な手がかりを嗅ぎ分けられるか
たとえば2016年にBiology Lettersで報告された研究(Albuquerqueら)では、クロスモーダル選好注視法という手法で、ヒトやイヌの顔写真(楽しげ/怒っているなど)と、同一個体の声を組み合わせて犬に提示しました。その結果、犬は声の感情価と一致する表情の顔を有意に長く見たと報告されています。著者らはこれを、犬が視覚と聴覚の情報を統合し、同種(イヌ)だけでなく異種(ヒト)についても感情の正負を区別できることを示すものだとしています。
Albuquerque N, Guo K, Wilkinson A, Savalli C, Otta E, Mills D. "Dogs recognize dog and human emotions." Biology Letters, 2016(PMC4785927)の抄録に基づきます。
においについての先行研究
嗅覚については、より直接的な研究があります。2022年にPLOS ONEで公表されたクイーンズ大学ベルファストの研究(Wilsonら)では、参加者36名から、安静時と暗算課題(9000から17ずつ引き続ける課題)によるストレス時の呼気と汗のサンプルを採取し、4頭の犬に嗅ぎ分けさせました。二重盲検の3択強制選択法で行われた検査で、犬はストレス時のサンプルを93.75%の割合で正しく選び、偶然の水準を有意に上回りました。ただし著者ら自身が、犬が4頭という小規模である点を限界として挙げています。
2018年にAnimal Cognitionで報告された研究(D'Anielloら)では、ヒトの脇の下から採取した「恐怖」「幸福」条件のにおいと、汗なしの対照条件を犬に提示しました。抄録によれば、幸福条件のにおいでは恐怖条件や対照条件に比べて飼い主に向けた行動が少なく短く、見知らぬ人に向けた行動が増えました。恐怖条件のにおいではストレスに関連する行動が多く見られ、心拍数は対照条件と幸福条件のほうが恐怖条件より有意に低かったと報告されています。
メモ
Wilson C, Campbell K, Petzel Z, Reeve C. "Dogs can discriminate between human baseline and psychological stress condition odours." PLOS ONE, 2022年9月28日、およびD'Aniello B, Semin GR, Alterisio A, Aria M, Scandurra A. "Interspecies transmission of emotional information via chemosignals: from humans to dogs (Canis lupus familiaris)." Animal Cognition 21:67-78, 2018の記載に基づきます。
2026年8月の新研究:「はっきり表に出ていない気持ち」への反応
ここまでの研究の多くは、怒りや喜びなど、比較的はっきりと表出された感情を扱ってきました。しかし日常では、私たちの気持ちがいつも表情や声に出るとは限りません。むしろ「平気なふりをしている」場面のほうが多いかもしれません。
そこに切り込んだのが、2026年8月20日にFrontiers in Veterinary Science(第13巻、論文番号1916007)にオンライン公開された論文"Dogs display context-dependent behavioral responses to subtle owner-derived multimodal stimuli"です。麻布大学の永澤美保氏を責任著者とし、池田莉桜氏らが名を連ねています。麻布大学は2026年8月26日にプレスリリースを公開しました。研究は東北大学、奈良先端科学技術大学院大学、沖縄科学技術大学院大学、北海道大学、クアドリティクス株式会社との共同で、JSTのCREST(課題番号JPMJCR22P2)「社会的シグナルを介したイヌのスーパーセンシングの解明」の支援を受けています。
なぜ顔・声・においを同時に出したのか
これまでの研究の多くは、顔だけ、声だけ、においだけというように、感覚のチャンネルを一つずつ切り出して調べてきました。実験としてはそのほうがきれいですが、現実の暮らしとは離れます。私たちが部屋に入ってきたとき、犬に届くのは表情と声とにおいが一体になった情報だからです。
この研究は、その一体になった状態(マルチモーダルな刺激)をそのまま提示しました。ただし後述するように、同時に出したぶん「どの感覚が効いたのか」は分けられなくなっています。現実に近づけることと、原因を特定することは、しばしばトレードオフになります。
ヒント
実験のデザイン
- 1
飼い主にストレス条件かリラックス条件を体験してもらう
ストレス条件では、改変版のトリーア社会的ストレステスト(技術文書の読解と記憶、内容の説明、暗算課題)を実施。リラックス条件ではリラックス動画を視聴してもらいます。 - 2
感情を誘導する前後に、同じ文章を音読してもらう
ひらがな50音とアルファベット26文字からなる決まった文章を30秒間読み上げてもらいます。誘導前の音読がReading 1(対照期)、誘導後の音読がReading 2(感情誘導期)です。飼い主には「自然に読み、意図的に表情や声の抑揚を変えないこと」と指示されました。 - 3
そのときの顔映像・声・においを刺激として採取する
顔は胸から上をHDカメラで記録し、声は音読を録音。においは脇に当てた綿パッドの汗と、専用の採取具で集めた唾液を用いました。 - 4
別室の犬に、3つを同時に提示する
31.5インチの4Kモニターに顔映像を映し、スピーカーから声を流し、広口びんのふたを30秒間開けてにおいを提示します。 - 5
犬の行動と心拍変動を記録する
3方向のビデオで行動を記録し、ウェアラブル心拍計で飼い主と犬の心拍変動(HR、SDNN、rMSSDなど)を測定しました。
参加したのは35組の犬と飼い主のペアです。実験は麻布大学の動物実験委員会および人を対象とする研究の倫理委員会の承認を受けて行われ、犬が強いストレス徴候を示した場合や飼い主が中止を求めた場合には中断する取り決めでした。
実験デザイン・機材・頭数・倫理審査・研究資金の記載は、Ikeda Rら(責任著者Nagasawa M)"Dogs display context-dependent behavioral responses to subtle owner-derived multimodal stimuli." Frontiers in Veterinary Science 13:1916007, 2026の本文と、麻布大学プレスリリース(2026年8月26日)に基づきます。
何が起きたか
まず飼い主側です。ストレス誘導によって主観的な気分(POMS2の総合的気分状態)は有意に悪化しました(t=5.363、p値は0.001未満)。一方で、心拍数は対照期・感情誘導期ともに安静時より有意に高くなっていました。つまりReading 1の段階では「生理的には覚醒しているのに、本人はストレスを感じていない」というズレが生じていたことになります。
そのうえで、犬の反応は次のようになりました。
| 指標 | 結果 | 統計 |
|---|---|---|
| 刺激に向けた注意の長さ | ストレス条件で、対照期由来の刺激に対して有意に長かった | t=2.179、p=0.032 |
| 嗅ぐ行動 | ストレス条件で、対照期由来の刺激に向かう傾向 | t=1.860、p=0.067(有意水準には届かず) |
| 立位の時間 | ストレス条件はリラックス条件より有意に短かった | t=-2.176、p=0.031 |
| 犬の心拍変動 | 条件や刺激の種類による明確な影響は認められなかった | 帰無モデルが最良 |
| 飼い主と犬のSDNNの相関 | ストレス条件で、ストレス期由来の刺激において高まる傾向 | t=-2.083、p=0.053(有意水準には届かず) |
まとめると、犬がもっとも強く注意を向けたのは「飼い主が生理的には覚醒しているのに、主観的にはストレスを感じていない」状態から採られた刺激でした。麻布大学のプレスリリースも、この点を研究の要点として説明しています。
論文の考察で著者らは、この結果を「より曖昧で解釈しにくい刺激に対して、犬がより強い情報収集行動を示した」と解釈しています。生理的な覚醒と主観的な感情が食い違っているとき、犬に届く手がかりも食い違ったものになり、それが「もう少し確かめよう」という探索を促した可能性がある、という見立てです。
この研究が示していないこと
ここが一番大切なところです。著者ら自身が挙げている限界を、そのまま押さえておきましょう。
注意
- 対照刺激が中立ではなかった: Reading 1は「何もしていない状態」ではなく、音読課題による生理的な覚醒を含んでいました。著者らは、提示した刺激を「主観的感情・生理的覚醒・課題に伴う影響の組み合わせ」として解釈すべきだとしています。
- サンプルサイズの限界: 35組は、欠損データを除いた後の解析、とくに生理指標の解析では統計的な検出力が限られると明記されています。
- 刺激の取得タイミングがそろっていない: 視覚・聴覚の刺激は感情誘導直後の音読から、嗅覚の刺激は介入中と音読後の両方から採られており、同じ感情状態を反映しているかは不確かだとされています。
- どの感覚が効いたかは分けられない: 顔・声・においを同時に提示したため、それぞれの寄与の大きさは判定できません。
- 「立位が短い」の意味は不明: 立位はかなり一般的な姿勢の指標で、機能的な意味づけは難しいと論文自身が述べています。
限界の記載は、上記論文のDiscussionおよびLimitationsの記述に基づきます。統計値も同論文の本文からの引用です。
「ストレスの同期」という別の切り口
飼い主の状態が犬に届いていることを示す研究は、感情の識別だけではありません。もう少し長い時間スケールで見た「同期」の研究もあります。
2019年にScientific Reportsで報告されたリンショーピング大学の研究(Sundmanら)では、シェットランド・シープドッグ33頭とボーダー・コリー25頭、計58組の犬と飼い主について、毛髪中のコルチゾール濃度を夏と冬の2時期に測定しました。その結果、飼い主のコルチゾール濃度が高い組では犬も高く、低い組では犬も低いという同期が見られました(夏はN=57、χ二乗=23.697、p値は0.001未満)。さらに、犬の性格よりも飼い主の性格特性のほうが犬のコルチゾール濃度と関連していたことから、著者らは飼い主から犬への方向のほうが影響が大きいと述べています。
なお、この研究は観察に基づくもので、飼い主のストレスが犬のストレスを「引き起こした」と実験的に証明したわけではありません。相関から因果を読み取りすぎないようにしたいところです。
また、2019年にFrontiers in Psychologyで報告された麻布大学の研究(Katayamaら)では、飼い主に心理的ストレス課題を与えたときの犬と飼い主の心拍変動の相関を調べ、その相関の強さが飼育期間の長さと正の相関を示したと報告されています。一緒に過ごしてきた時間が、感情の伝わりやすさに関わっている可能性を示す結果です。
Sundman ASら"Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners." Scientific Reports, 2019(PMC6554395)、およびKatayama M, Kubo T, Yamakawa T, Fujiwara K, Nomoto K, Ikeda K, Mogi K, Nagasawa M, Kikusui T. "Emotional Contagion From Humans to Dogs Is Facilitated by Duration of Ownership." Frontiers in Psychology, 2019(PMC6658615)の記載に基づきます。
においが犬の「判断」まで変えることがある
2024年にScientific Reports(第14巻、論文15843)で公表されたブリストル大学の研究(Parr-Cortesら)は、さらに一歩踏み込んでいます。18頭の犬に対して、無臭・ストレス臭・リラックス臭の3条件で認知バイアステスト(報酬あり位置と報酬なし位置の間に置かれた曖昧な位置のボウルに、どれくらい近づくかを測る課題)を実施しました。
その結果、見知らぬ人のストレス臭があるとき、犬は「報酬なし位置に近い曖昧な位置」に近づく可能性が有意に低くなりました(ハザード比0.42、p=0.035)。ブリストル大学の発表は、これを犬がより悲観的な選択をしたものとして紹介しています。ただし著者らは、複数セッションで無臭にさらす対照群がなかったこと、においの提供者が3名にとどまること、事前の検出力計算ができなかったことを限界として挙げています。
メモ
ここまでの研究を並べてみる
言葉だけだと混ざりやすいので、この記事で触れた研究を一覧にしておきます。頭数の欄を見ると、どれも決して大規模な研究ではないことがわかります。
| 発表年 | 研究 | 対象 | 主にわかったこと |
|---|---|---|---|
| 2009 | Horowitz(Behavioural Processes) | 家庭犬14頭 | いわゆる罪悪感の表情は、犬が命令に背いたかどうかではなく、飼い主に叱られたかどうかで増えた |
| 2012 | Merolaら(PLOS ONE) | 犬57頭 | 見慣れない物体を前にした犬の多くが人の顔を見て確認し、伝えられた感情によって接近の仕方が変わった |
| 2015 | Nagasawaら(Science) | イヌとオオカミ | 見つめ合いを介したオキシトシンの正のループが、イヌでは見られオオカミでは見られなかった |
| 2016 | Albuquerqueら(Biology Letters) | 家庭犬 | 声の感情価と一致する表情の顔を、有意に長く見た |
| 2018 | D'Anielloら(Animal Cognition) | ラブラドール・ゴールデンレトリーバー | ヒトの恐怖条件のにおいでストレス関連行動と心拍数が高まった |
| 2019 | Sundmanら(Scientific Reports) | 58組 | 犬と飼い主の毛髪コルチゾール濃度が同期していた |
| 2019 | Katayamaら(Frontiers in Psychology) | 犬と飼い主 | 心拍変動の相関の強さが、飼育期間の長さと正の相関を示した |
| 2022 | Wilsonら(PLOS ONE) | 犬4頭・提供者36名 | ストレス時の呼気と汗のにおいを93.75%の正確さで嗅ぎ分けた |
| 2024 | Parr-Cortesら(Scientific Reports) | 犬18頭 | 見知らぬ人のストレス臭があると、曖昧な位置への接近が減った |
| 2026 | Ikedaら(Frontiers in Veterinary Science) | 35組 | 飼い主が表出を抑えていても、状況によって犬の注意の向け方が変わった |
メモ
犬は飼い主の様子を「うかがって」いる
もうひとつ、日常でわかりやすい現象があります。社会的参照と呼ばれるものです。
2012年にPLOS ONEで報告された研究(Merolaら)では、緑のリボンを付けた電動扇風機という見慣れない物体を用意し、飼い主または見知らぬ人が肯定的あるいは否定的な感情表現を示す状況で、犬の行動を観察しました。その結果、飼い主が情報源となった群では29頭中22頭(76%)が、見知らぬ人の群では28頭中17頭(60%)が、物体を見たあとで人の顔を見る「参照的な視線」を示しました。さらに、飼い主が肯定的なメッセージを伝えると犬は扇風機により近づき、否定的なメッセージだと接近が遅くなりました。
つまり犬は、判断に迷う場面で人の様子を確かめ、その情報を自分の行動に反映させているということです。私たちが「うかがっている」と感じるあの視線には、根拠のある機能がありそうです。
犬が飼い主の様子をうかがっているときに出やすいサイン
- 新しいものや音のあとで、こちらの顔をちらっと見る
- 近づきかけて止まり、また顔を見る
- 体は対象のほうを向いたまま、視線だけこちらに向ける
- こちらの動きに合わせて位置を変え、少し後ろに下がる
- 何度もまばたきをする、鼻や口のまわりをなめる
- 耳が後ろに寝る、しっぽの位置が低くなる
これらは、いずれも「不安の証拠」ではなく「確認している最中かもしれない」というくらいの手がかりです。ひとつだけ取り出して意味を決めず、直前に何があったか、その子のふだんと比べてどうかを合わせて見てください。
ヒント
Merola I, Prato-Previde E, Marshall-Pescini S. "Dogs' Social Referencing towards Owners and Strangers." PLoS ONE, 2012(PMC3469536)の本文に基づきます。サインの一覧は、VCA Animal Hospitals、American Kennel Club、ASPCApro、Battersea Dogs & Cats Homeのボディランゲージ解説を参考に整理した一般的な例です。
日常でできること
ここからは、研究をふまえた実践の話です。前提として、「自分の緊張を完全に隠す」ことは目標になりません。においや生理的な変化は意識でコントロールできませんし、そもそも隠す必要もありません。目指したいのは、犬が不安を抱えたときに自分で対処できる余地を用意しておくことです。
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自分が緊張している日の接し方
- いつもと違う無理な明るさを作らない: 声の高さや動作を大げさに変えると、かえって「いつもと違う」という手がかりが増えます。RSPCAも、飼い主が普段どおりに落ち着いていることが犬の安心につながるとしています。
- 犬が離れたがるなら離れさせる: そばに来ないことを拒絶と受け取らなくて大丈夫です。距離をとるのは、犬にとってごく自然な対処です。
- 短く単純な予定にする: 気持ちに余裕がない日は、長い散歩や新しい場所より、慣れた道を短く歩くほうが双方にとって楽です。
- 安心できる居場所を常設しておく: クレートやベッドなど、いつでも入れて、入ったら邪魔されない場所があると、犬は自分で気持ちを立て直しやすくなります。
動物病院での場面
診察室は、飼い主の緊張がもっとも伝わりやすい場所のひとつです。2015年のAAHA(米国動物病院協会)の行動管理ガイドラインは、動物病院に低恐怖・低ストレスの環境を作ること、スタッフが患者のボディランゲージを常に把握すること、強制的な保定や罰的な手法を避けることを求めています。
- 1
移動そのものを別の日に練習しておく
キャリーや車に慣れる練習を、受診と切り離した日に少しずつ行います。病院と嫌なことが常にセットにならないようにするのが目的です。 - 2
待合室での位置を工夫する
他の動物と距離をとれる場所、壁際、外で待てるなら外など、その子が落ち着ける位置を選びます。可能かどうかは病院に相談してみてください。 - 3
診察前に自分の呼吸を整える
飼い主のリードの持ち方や声のトーンは、意識すれば変えられる部分です。握り込まず、少したるみを残すだけでも動作は変わります。 - 4
怖がりの傾向を事前に伝えておく
「音に敏感」「触られるのが苦手な部位がある」といった情報は、診察の進め方を組み立てるうえで役立ちます。遠慮なく伝えましょう。 - 5
うまくいかなかった日は無理に押し切らない
できたところまでで区切り、次回につなげる形にできないか獣医師に相談します。
受診前に整理しておくと役立つこと
- いつから、どんな場面で、どのくらいの頻度でその行動が出るか
- 直前に何が起きているか(音、来客、留守番の前後など)
- 触られるのが苦手な部位、過去に痛みがあった部位
- 食欲・睡眠・排泄のふだんとの違い
- 家庭で試したことと、その結果
- 落ち着いているときと苦手な場面の短い動画
ヒント
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来客・インターホンの場面
来客時は、飼い主自身も「吠えないでほしい」と身構えがちです。その緊張が犬に伝わって、余計に興奮が高まることがあります。
- インターホンが鳴ったら、まず自分がゆっくり動くことを意識する
- 玄関から離れた場所に、あらかじめ待機できる場所を用意しておく
- 来客に「まず犬を見ない・触らない」をお願いしておく
- 犬が自分から近づいてくるまで待つ
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雷・花火の場面
RSPCAは、花火の際に飼い主が落ち着いて普段どおりに振る舞い、犬に「怖がることは何もない」と示すこと、怖がっている犬を叱らずそばにいて安心させること、犬が自分で選んで入れる安全な場所を用意すること、そして犬がうろうろしたり隠れたりするならそのままにさせることを勧めています。無理に引っぱり出そうとしないほうがよい、という点は覚えておきたいところです。
注意
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散歩中と、出かける前の場面
散歩は、飼い主の緊張がリードという物理的な線でつながっている場面です。すれ違いが苦手な子の場合、飼い主が先に相手を見つけて身構え、リードを短く握り、足が止まる——その一連の動きは犬にとって明確な手がかりになります。
- 相手を見つけたら、止まるより先に進路を変える(早めに大きく回る)
- リードは短くしても、握り込まずにたるみを少し残す
- 通り過ぎるまで、犬の名前を連呼しない
- 通り過ぎたあとに、いつもどおりの歩調に戻す
出かける前の準備も同じです。カギや上着といった出発の合図に犬が反応するのは、行動が読まれているというより、繰り返しの中で結びつきが学習されているからだと考えられます。準備の順番をときどき変える、出発の合図を出しても出かけない日を作るといった工夫で、合図の意味を薄めることができます。
メモ
迎えたばかりの犬の場合
先ほど紹介したKatayamaら(2019年)の研究では、飼い主と犬の心拍変動の相関の強さが、飼育期間の長さと正の相関を示していました。裏を返せば、迎えたばかりの犬とのあいだでは、そうした呼応がまだ育っていない可能性があるということです。
保護犬や譲渡犬を迎えた直後に「気持ちが通じない」と感じても、それは失敗ではありません。時間の共有そのものが要素のひとつだと考えれば、あせらずに日々を重ねていく意味が見えてきます。
飼育期間と心拍変動の相関の関係は、Katayamaら(2019年、Frontiers in Psychology)の報告に基づきます。個々の犬でどう当てはまるかを示したものではなく、集団としての傾向です。
家庭でできる観察の習慣
「その子のふつうを知る」は言うのは簡単ですが、意識しないと案外あいまいなままです。1週間だけでも記録をつけてみると、変化に気づく解像度が上がります。
- 1
落ち着いているときの姿を撮っておく
寝入りばな、日なたでのんびりしているときなど、明らかにリラックスしている場面を数本の短い動画に残します。これが比較の基準になります。 - 2
苦手な場面の直前と直後を記録する
インターホン、掃除機、来客、車。可能なら3方向でなくても構いません。あとから見返すと、その場では気づかなかったサインが見えることがあります。 - 3
自分の状態もメモしておく
「今日は忙しかった」「イライラしていた」など、ひとことで十分です。犬の様子と並べて眺めると、関連があるかどうかを自分の目で確かめられます。 - 4
1週間ぶんを並べて見返す
サインが出やすい時間帯や場面に、傾向が見えることがあります。傾向が見えたら、その場面の環境を先に整えます。 - 5
気になる変化があれば動物病院に持っていく
動画とメモは、獣医師に状況を伝えるうえでとても役立ちます。行動の相談でも、まず体の不調がないか確認することが出発点になります。
読み取りの精度を下げてしまいやすい習慣
- しっぽを振っている=うれしい、と決めて先に進んでしまう
- あくびや鼻なめを、眠いだけと片づけてしまう
- 仰向けになったら必ずおなかをなでる
- 顔を覗き込みながら真正面から近づく
- 嫌がるそぶりを見せているのに、写真を撮るために体勢を保たせる
- サインが出ているのに、慣れさせようとしてその場に留める
注意
怖がる犬を無理にとどまらせることが恐怖を悪化させるという記述、および「強制的な保定や罰的な手法を避ける」「患者のボディランゲージを常に把握する」という基本方針は、2015 AAHA Canine and Feline Behavior Management Guidelines(J Am Anim Hosp Assoc 2015; 51:205-221)の本文に基づきます。しぐさの解釈については、いぬのきもち、子犬のへや、ペットファミリー損保の解説も参考にしました。
読み違いに気をつけたい:擬人化のわな
「気持ちを読み取っている」という話は、裏返せば「私たちが犬の気持ちを読み違える」話でもあります。ここは慎重にいきたいところです。
「反省している顔」は罪悪感ではない
もっとも有名な例が、いわゆる罪悪感の表情です。2009年にBehavioural Processes(第81巻447-452ページ)で報告されたAlexandra Horowitz氏の研究では、14頭の家庭犬を対象に、飼い主が留守の間におやつを食べてよいかどうかの条件と、飼い主が「犬が食べたかどうか」を知っているかどうかの条件を組み合わせた試行を行い、行動をビデオ分析しました。
結果は明快でした。実際に犬が命令に背いたかどうかでは、罪悪感の表情に関連する行動に差が見られなかったのです。差が出たのは、飼い主が犬を叱った試行でした。しかも叱責の効果は、犬が従っていた(食べていなかった)ときのほうが強く出ました。著者は、いわゆる罪悪感の表情は「悪いことをしたという理解を示すもの」ではなく「飼い主の合図への反応」と説明するほうが適切だと結論づけています。
注意
Horowitz A. "Disambiguating the 'guilty look': Salient prompts to a familiar dog behaviour." Behavioural Processes 81(2009)447-452の抄録および本文、ならびにAVSAB "Position Statement on Humane Dog Training"(2021)の記載に基づきます。
一つのしぐさで決めない
Battersea Dogs & Cats Homeは、不快を感じている犬の行動はリラックスしているときの行動と似て見えることがあるため、文脈に注意し、その子にとっての「ふつう」を知っておくことが重要だと説明しています。具体的な例として、しっぽを後ろ足の間に下げる、顔まわりが緊張する、立った状態で前足の片方を上げるといった動作を、距離を求めるサイン(その状況をやめてほしいという訴え)として挙げています。
また、犬が仰向けになるのは「おなかをなでてほしい」ではなく「落ち着かない」という意思表示であることもあると注意を促しています。しっぽについても、ゆったりと振れているのがリラックス寄りとされ、振っていればうれしいとは限りません。
Battersea Dogs & Cats Home「Understanding your dog's body language」の記載に基づきます。ボディランゲージ全般の読み方は、VCA Animal Hospitals、ASPCApro、American Kennel Club、RSPCAの解説も参考になります。
よくある解釈と、いま言えること
日常でよく耳にする言い方を、研究の水準に照らして並べ直してみます。
| よくある言い方 | いま言えること |
|---|---|
| 犬は飼い主の心が読める | 感情に関わる情報(表情・声・におい)が犬に届き、行動が変わることは示されています。心を読むという意味の理解を示した研究はありません |
| 悪いことをしたら反省する | 罪悪感の表情に見える行動は、実際の違反ではなく飼い主の叱責と結びついていました(Horowitz, 2009年) |
| しっぽを振っていれば喜んでいる | ゆったり振れているのはリラックス寄りとされますが、高く速く振る、低い位置で振るなど、振り方と姿勢を合わせて見る必要があります |
| 飼い主のイライラが犬を病気にする | 長期のストレス指標が同期するという報告はありますが(Sundmanら, 2019年)、観察に基づく相関であり、因果を示したものではありません |
| なぐさめると恐怖が強まる | RSPCAは、怖がっている犬を叱らずそばで安心させるよう勧めています。強い恐怖が続く場合は動物病院に相談を |
| 慣れさせるために我慢させる | 怖がっている状態でその場に留めさせることは恐怖を悪化させると、2015年のAAHAガイドラインが述べています |
表の内容は、この記事内で挙げた各出典(Horowitz 2009年、Sundmanら2019年、RSPCA、2015 AAHA Canine and Feline Behavior Management Guidelines、Battersea Dogs & Cats Homeほか)の記載に基づいて整理したものです。
犬と人の関係そのものについて
2015年にScienceで発表された麻布大学の研究(Nagasawaら)では、イヌが飼い主を見つめる行動が飼い主の尿中オキシトシン濃度を高め、それが飼い主の親和的な関わりを促し、さらにイヌ側のオキシトシン濃度も高めるという、種を越えた正のループの存在が示されました。オオカミではこの現象は見られなかったと報告されています。
こうした知見は「犬が私たちの気持ちを読んでいる」というより、「犬と人が互いに影響し合う関係を築いてきた」ことを示すものと言えます。読み取りは一方通行ではなく、双方向のやりとりの中で起きている、という視点は持っておきたいところです。
Nagasawa M, Mitsui S, En S, Ohtani N, Ohta M, Sakuma Y, Onaka T, Mogi K, Kikusui T. "Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds." Science 348:333-336, 2015の抄録(Europe PMC)に基づきます。
研究を暮らしに持ち込むときの距離感
最後に、こうした研究との付き合い方についても触れておきたいと思います。
新しい研究が発表されると、「だからこうすべき」という話にすぐつながりがちです。けれど、実験室で35組の犬と飼い主に見られた傾向が、あなたの家のその子にそのまま当てはまる保証はありません。犬には犬種、年齢、これまでの経験、性格の違いがあり、研究の平均値はその全部を代表していません。
研究が役に立つのは、むしろ次のような使い方をしたときだと思います。
- 「自分の気持ちは犬に届いているかもしれない」という前提を持つ材料にする
- 「これは絶対に伝わっていない」「全部お見通しだ」という両極端の思い込みを緩める
- うまくいかない場面で、犬側の事情を想像する引き出しを増やす
- 自分の観察を、決めつけずに見直すきっかけにする
メモ
よくある質問
犬は飼い主の気持ちが本当にわかるのですか。
2026年の麻布大学らの研究は、何が新しいのですか。
自分がイライラしていると、犬にも悪影響がありますか。
落ち込んでいるときに犬が寄ってくるのは、なぐさめてくれているのですか。
叱ったときの「反省している顔」は、悪いことをしたと理解しているのでしょうか。
雷や花火を怖がる犬をなぐさめてもいいですか。
どうすれば愛犬の気持ちをもっと正確に読めますか。
まとめ
2026年8月に麻布大学らが発表した研究は、「犬は飼い主の気持ちがわかる」という問いに対して、これまでよりも一段細かい答えを出そうとしたものでした。飼い主が表情や声を意図的に抑えている場面でも、犬の反応は飼い主が置かれていた状況によって変わりました。とくに、生理的には覚醒しているのに本人はストレスを感じていないという「ズレのある状態」から採られた刺激に、犬はもっとも強く注意を向けたのです。
同時に、この研究は多くのことを示していません。犬の心拍変動には明確な差が出ておらず、生理的な同期も傾向どまり、35組というサンプルサイズでは検出力に限りがあり、顔・声・においのどれが効いたのかも分けられません。研究者自身がそう書いています。だからこそ、「犬は全部お見通し」と言い切らずに読むことが、この研究への誠実な向き合い方だと思います。
日常に持ち帰れることは、意外とシンプルです。気持ちを隠そうと頑張るより、犬が自分で距離をとれて、いつでも戻れる場所を用意しておくこと。判断に迷って顔を見てきたときは、そのまま選ばせてあげること。そして「反省している顔」のように見えるものを罪悪感と決めつけず、その子の平常時を知ったうえで、文脈ごと読むこと。犬が私たちを読もうとしているのなら、こちらも同じだけ丁寧に読み返したいものです。気になる不安行動やストレスのサインが続くときは、抱え込まずにかかりつけの動物病院に相談してください。
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出典・参考
- プレスリリース:イヌが飼い主の「微妙な感情や生理的変化」を読み取る可能性を示唆|麻布大学
- Dogs display context-dependent behavioral responses to subtle owner-derived multimodal stimuli (Ikeda et al., Frontiers in Veterinary Science, 2026)
- DOI: 10.3389/fvets.2026.1916007
- 社会的シグナルを介したイヌのスーパーセンシングの解明(研究代表者:大野和則)|JST CREST
- 社会的シグナルを介したイヌのスーパーセンシングの解明|JSTプロジェクトデータベース
- 動物応用科学科|麻布大学 獣医学部
- Dogs can discriminate between human baseline and psychological stress condition odours (Wilson et al., PLOS ONE, 2022)
- Stress has an odour and dogs can smell it|Queen's University Belfast
- The odour of an unfamiliar stressed or relaxed person affects dogs' responses to a cognitive bias test (Parr-Cortes et al., Scientific Reports, 2024)
- 同論文(PMC全文)|PMC11263577
- Smell of human stress affects dogs' emotions leading them to make more pessimistic choices|University of Bristol
- Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners (Sundman et al., Scientific Reports, 2019)
- 同論文(PMC全文)|PMC6554395
- Dogs mirror owner's stress|Linköping University
- Interspecies transmission of emotional information via chemosignals: from humans to dogs (D'Aniello et al., Animal Cognition, 2018)
- 同論文(抄録)|Europe PMC
- Dogs recognize dog and human emotions (Albuquerque et al., Biology Letters, 2016)|PMC4785927
- Emotional Contagion From Humans to Dogs Is Facilitated by Duration of Ownership (Katayama et al., Frontiers in Psychology, 2019)
- 同論文(PMC全文)|PMC6658615
- Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds (Nagasawa et al., Science, 2015)|Europe PMC
- Dogs' Social Referencing towards Owners and Strangers (Merola et al., PLOS ONE, 2012)
- 同論文(PMC全文)|PMC3469536
- Disambiguating the "guilty look": Salient prompts to a familiar dog behaviour (Horowitz, Behavioural Processes, 2009)
- Canine Communication - Interpreting Dog Language|VCA Animal Hospitals
- How To Read Your Dog's Body Language|American Kennel Club
- 7 Tips for Reading Canine Body Language|ASPCApro
- Understanding your dog's body language|Battersea Dogs & Cats Home
- Keeping dogs, cats and other small pets safe during fireworks|RSPCA
- How should I care for my pets during fireworks displays?|RSPCA Knowledgebase
- Understanding dog behaviour|RSPCA
- Position Statement on Humane Dog Training (2021)|American Veterinary Society of Animal Behavior
- 2015 AAHA Canine and Feline Behavior Management Guidelines
- AAHA releases new canine and feline behavior guidelines|American Veterinary Medical Association
- 注意したい愛犬のしぐさ「カーミングシグナル」って知ってる?|いぬのきもち
- 犬のカーミングシグナル・完全ガイド|子犬のへや
- 【獣医師監修】しっぽで知る犬の気持ち|ペットファミリー損保
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