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犬が体を触られるのを嫌がる|足拭き・爪切り・歯みがきができるようになるハンドリング練習

対象の目安: 全ライフステージ

カエデ・しつけ・散歩担当
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犬が体を触られるのを嫌がる|足拭き・爪切り・歯みがきができるようになるハンドリング練習

散歩から帰って足を拭こうとすると、さっと手を引っ込める。爪切りを見せただけで部屋の隅へ行ってしまう。歯みがきどころか、口のまわりに指を近づけただけで顔をそむける——。「うちの子は触られるのが苦手で」という悩みは、犬と暮らす人からとてもよく聞きます。

困るのは、足拭き・爪切り・歯みがき・耳のケアといった日々のお世話が、そのたびに「小さな我慢比べ」になってしまうことです。押さえつければその場は終わりますが、犬にとっては「やっぱり嫌なことだった」という記憶が1つ増えます。逆に、嫌がるからと先延ばしにすれば、爪が伸びすぎたり、歯石がたまったり、体の変化に気づくのが遅れたりします。

この記事では、犬が触られるのを嫌がる理由から、家庭でできるハンドリング(体を触る練習)の進め方を、順を追って整理します。軸に置くのは「触られること自体に慣れてもらう」練習です。爪の切り方そのものは爪切りのやり方の記事、歯みがきの習慣化は歯みがき習慣の記事、甘噛み・噛み癖は子犬の甘噛みの記事にまとめているので、ここでは各論の手前にある「触られる練習」に焦点をしぼります。

「触られるのが苦手」は珍しくない——嫌がる5つの理由

まず知っておきたいのは、体を触られるのが苦手なこと自体は、特別でも「わがまま」でもないということです。犬には、そもそも触られて心地よい場所と、触られると身構えてしまう場所があります。花園動物クリニックの解説も「ワンちゃんには、触られたい場所と、比較的触られたくない場所というのがあります」と説明しています。

そのうえで、苦手さが強くなる背景には、いくつかの理由が重なっています。

考えられる理由どんな状況か
社会化期の経験不足子犬のころに、いろいろな人にやさしく体を触ってもらう経験が少なかった。抱っこや足先を持たれる経験も同様
過去の痛み・不快の記憶毛玉を引っぱられた、爪を切りすぎて出血した、耳掃除で痛い思いをした、注射の記憶が結びついた
触り方が急・強い・長い前ぶれなく上から手が伸びてくる、押さえつけられる、嫌がっているのに続けられる
部位ごとの敏感さ鼻先・足先・しっぽ・耳・おしりまわりは、もともと敏感で身構えやすい
いま体に痛みや不調がある関節・皮膚・耳・口・お腹などに痛みや違和感があり、触られること自体がつらい

いぬのきもちWEB MAGAZINEの獣医師監修記事(岡本りさ先生監修)では、犬が触られたくない部位として鼻先・しっぽ・足先が挙げられ、「これらの部位は感覚が敏感な場所のため、触られることを嫌がる犬が多い」と説明されています。さらに、しっぽや肛門周囲(おしり)は犬の弱点でもあるため、とくに触られるのを嫌がるとされています。

AKC(アメリカンケネルクラブ)のハンドリング解説は、経験による学習の側面をわかりやすく言い表しています。「ひどい毛玉が1つできたり、爪の血管(クイック)を1回切ってしまったりすれば、犬はブラシや爪切りを『敵』だと判断する」——つまり、たった1回の強い不快感が、その後長く続く苦手意識をつくることがあるということです。

「触る」と「なでる」は別の行為

見落とされがちなポイントがもう1つあります。Fear Free Happy Homes(飼い主向けにストレスの少ないケアを紹介するサイト)の記事(執筆:Linda Lombardi)では、協力的ケアの解説書の著者であるDeborah Jones博士が「多くの人が驚くのですが、犬をなでることは、犬をハンドリングすることではありません。犬にはその違いがわかります」と語っています。

ふだんのスキンシップは、犬が喜ぶ場所を、犬が望むタイミングで、ふんわりとなでています。一方、足拭き・爪切り・歯みがき・耳の中の確認といったケアは、苦手な部位を、犬の都合とは無関係なタイミングで、しっかり保持して行う行為です。「うちの子はなでられるのは大好きだから触られるのは平気」と思っていたのに、足を持った瞬間に固まってしまう——というギャップは、この2つの違いから生まれます。だからこそ、なでるのとは別に「ケアのための触り方」を練習する意味があります。

メモ

触られるのが苦手なこと自体は、直さなければならない「問題行動」ではありません。目指すのは「どこでも自由に触らせる犬」ではなく、「必要なケアを、怖がらずに受けられる犬」です。ゴールを小さく具体的にするほど、練習は進みやすくなります。

急に嫌がるようになったときは、まず体を疑う

ここが一番大事なところです。これまで平気だったのに、ある時期から急に触られるのを嫌がるようになった、特定の場所だけ触ると怒る・鳴く——というときは、練習の前に体の問題を考えてください。

いぬのきもちWEB MAGAZINEの記事(いぬ・ねこのきもち獣医師相談室の原先生に取材)は、急に触られるのを嫌がる背景として、体のどこかに違和感を抱えている可能性、被毛の下の見えにくい部位の皮膚トラブル、そしてそのときの気分(眠い、ひとりで落ち着きたい)を挙げ、無理になで続けないこと、嫌がる部位をしつこく確認しないこと、違和感が続くなら早めに動物病院へ相談することをすすめています。

乙訓どうぶつ病院のコラムは、犬には弱っている姿を見せない本能があり、はっきりした痛みの行動が見られる場合は「すでにかなり強い不快感や体調の変化が起きている」状態だとしたうえで、触れられるのを嫌がる・逃げるような仕草、触れたときに鳴く・唸る・噛もうとする、元気がなく横になってばかりいる、歩き方がいつもと違う、といった行動の変化を挙げています。原因としては、ノミやダニ・アレルギー・皮膚炎・膿皮症・腫瘍などの皮膚の問題、関節炎や靱帯損傷・椎間板ヘルニアなどの筋肉・関節の痛み、そしてお腹まわりを触ると嫌がる場合の膵炎・胃腸炎・腎臓疾患・膀胱炎・子宮の病気などが挙げられています。

湘南Ruana動物病院の記事(院長 福長誉之獣医師監修)は、病気とは言い切れない原因として「筋肉や筋膜の張り、軽い打撲、疲労などは、レントゲン・血液検査では異常として現れないことがあります」と述べ、また「過去に注射・保定・痛みを伴う処置を経験すると、その部位への刺激を過剰に警戒するようになることがあります」と、記憶による警戒にも触れています。病気が背景にある場合として挙げられているのは、関節炎、椎間板疾患、外耳炎、皮膚炎、歯周病や口腔内疾患、腹部痛(消化器疾患)などです。

注意

次のような様子があるときは、ハンドリングの練習より先に動物病院を受診してください。触れたときに悲鳴を上げる、動かすと痛がって自分で歩こうとしない、立ち上がれず寝たきりになっている、ごはんや水をまったく口にしない、嘔吐や下痢がある——これらは乙訓どうぶつ病院が「迷わず早急に受診を」としている状況です。また、湘南Ruana動物病院は、怒り方が強くなってきた・鳴く頻度が増えている・食欲や元気も落ちている・歩き方や姿勢に変化がある場合は早めの相談をすすめています。痛みがあるうちに「慣らそう」として触り続けると、痛みと恐怖の両方を上塗りすることになります。

触られるのを嫌がる原因と受診の目安については、乙訓どうぶつ病院のコラム、湘南Ruana動物病院の記事(院長 福長誉之獣医師監修)、いぬのきもちWEB MAGAZINEの記事(いぬ・ねこのきもち獣医師相談室の原先生に取材)をそれぞれ参照し、記載のある範囲でまとめました。海外の資料では、RSPCAも「攻撃性は犬の体調が悪いサインであることがある。病気は不機嫌さや我慢のきかなさを引き起こしうるので、獣医師に診てもらうことが不可欠」としています。診断は個々の診察によるため、当てはまるかどうかの判断は動物病院で行ってください。

苦手な部位には順番がある——段階設計の地図

触られる練習でつまずく原因の多くは、順番の飛ばしすぎです。「爪を切りたいから足から」「歯みがきをしたいから口から」と、一番難しいところから始めてしまうと、初日でつまずきます。

一般に、犬が受け入れやすい部位から難しい部位へ、次のような並びで考えると設計しやすくなります。犬種や個体、これまでの経験によって順番は入れ替わるので、あくまで出発点の地図として使ってください。

段階部位ねらい・注意
1背中・肩・体の側面ふだんのスキンシップの延長。ここで「触ったらおやつ」の型を作る
2胸・のどもと正面から手を出さず、横から。抱っこや聴診の準備にもなる
3首まわり・首輪のあたり首輪をつかむ・外す動作にもつなげる。急につかまない
4前足・肉球・爪足を「持ち上げる」より先に「触れる」から。指の間は最後
5後ろ足・膝から下前足より見えにくく、犬が身構えやすい。姿勢が崩れないよう支える
6しっぽ・おしりまわり弱点とされる部位。短時間から。肛門腺のケアはさらに先の段階
7耳・耳の中外側の付け根から。耳をめくるのは慣れてから
8口まわり・マズル・歯唇をめくる、歯に触れるは最後。無理をすると噛みにつながりやすい

上の8段階の並びは、AKCの「犬が受け入れやすい部位から始め、最も敏感な部位を最後に回す」という原則と、いぬのきもちWEB MAGAZINEの記事(いぬのきもち獣医師相談室 岡本りさ先生監修)が挙げる敏感な部位(鼻先・足先・しっぽ・耳・肛門周囲)をもとに、本記事編集部が家庭で使いやすい形に整理したものです。特定の出典に段階表として掲載されているものではなく、順番は犬によって入れ替わります。

前述のいぬのきもちの記事(岡本りさ先生監修)でも、耳や肛門周囲はとくに嫌がる傾向があるとされています。足先・鼻先・しっぽとあわせて、後半に置かれる部位はどれも「敏感で、犬から見えにくく、逃げにくい」という共通点があります。

苦手な部位を「飛ばさない」設計にする

ここで大事なのが、苦手な部位を避けたままにしないことです。背中と胸だけ何週間練習しても、足先は上手になりません。かといって、いきなり足を持ってもうまくいきません。

やり方はシンプルで、「今できている場所の、すぐ隣まで」を目安に少しずつ広げていきます。肩が平気なら上腕(前足の付け根から肘まで)、そこが平気なら肘まで、次は手首(手根部)まで、それから足先へ。同じFear Free Happy Homesの記事で、行動を専門とする獣医看護師のDebbie Martin氏は、まず胸や肩から始めて「ここを触って、おやつをあげるよ」ということを犬に伝えるとよいと話しています。Deborah Jones博士は、慣れてきたら、軽くつつく・少しつまむ・皮膚を持ち上げて軽く揺らすといった少し変わった触り方へ進めることをすすめています。

ヒント

「隣まで」の刻み幅は、その子の反応で決まります。肩から肘まで一気に行って固まるなら、肩から二の腕の真ん中まで、というようにさらに細かく刻みます。刻みを細かくすることは遠回りではなく、結果的に一番の近道です。
最初は足に手を伸ばすだけで逃げていたので、肩をなでてからそのまま腕の途中まで手を滑らせて、届いたところでおやつ、を1週間続けました。2週目に肘、3週目に手首、と少しずつ下げていったら、1か月後には前足を手のひらに乗せてくれるようになりました。私が思っていたより、犬のほうがずっとよく覚えていました。
足を触られるのが苦手な保護犬と暮らす飼い主

犬が出す「やめて」のサインを読む——うなりを叱らない理由

ハンドリングの練習でいちばんの手がかりになるのは、犬が出しているサインです。サインを見落として続けると、練習は「我慢の時間」に変わり、かえって苦手意識が強くなります。

早めの、小さなサイン

  • 顔をそむける、視線をそらす
  • 唇や鼻先をなめる
  • あくびをする(眠くない場面での)
  • 体がこわばる、動きが止まる
  • 手をそっと避ける、体を少し引く
  • 白目(いわゆるホエールアイ)が見える
  • 耳が後ろに倒れる、しっぽが下がる

前述のいぬのきもちの記事(岡本りさ先生監修)でも、嫌がっているときのしぐさとして「触っている人のそばから離れる」「触っている人の手を避ける」「顔や体がこわばる」「威嚇する」が挙げられています。細かい読み方は下の記事に詳しくまとめています。

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はっきりした「やめて」のサイン

  • 体をひねって離れようとする、逃げる
  • 低いうなり声
  • 歯を見せる、鼻にしわを寄せる
  • 口を当てる(歯を軽く当てて手を押しのける)
  • 動かなくなる、極端に固まる

ここまで来ているときは、すでに何段階か前のサインを見落としています。練習を中断し、次回はもっと手前の段階から、もっと短い時間でやり直してください。

「ハエ噛み行動」は要注意のサイン

宙に向かって、見えないハエを噛むようにパクパクする行動を「ハエ噛み行動(フライキャッチング)」と呼びます。緊張した場面のしぐさの一種として片づけられがちですが、実際には医学的な評価が必要な行動です。

ぎふ動物行動クリニックなどを運営するONELife行動クリニックグループの解説記事では、ハエ噛み行動の原因として、身体的疾患(歯科疾患、眼科疾患である飛蚊症、神経疾患である焦点性発作、肝性脳症などの代謝性疾患、感染症)と、行動学的問題(常同行動・常同障害、関心を求める行動)の両方が挙げられています。同記事では、「声をかけたり食べ物を与えたりしても行動を止めない」場合には、焦点性発作や肝性脳症などの代謝性疾患が原因として疑われるとされています。

つまり、この行動をくり返すなら「緊張のサイン」で片づけず、動物病院で相談したほうがよい行動だということです。触ろうとするたびに出る、いつの間にか頻度が増えている、といった場合は、練習を止めて受診してください。

うなりを叱ってはいけない理由

もっとも大切な原則がこれです。触ろうとしたときのうなりは、歯が出る一歩手前で犬が出してくれている、はっきりした警告です。

獣医行動診療科認定医の奥田順之獣医師(ぎふ動物行動クリニック院長)は、PS保険の記事で、うなりを「相手に対して、『これからそれ以上嫌なことをすると攻撃するぞ!』という意思表示のための行動です」と説明したうえで、「『唸ったら叱る』という行為は、犬を一方的に抑圧しているだけです」とし、これをくり返すと犬は「唸らず、前触れなく攻撃してくるようになる」可能性があると指摘しています。RSPCAも同じ趣旨で、うなりのような小さな攻撃性のサインを罰すると、犬は感情を隠し、抱えきれなくなったところで低い段階のコミュニケーションをすべて飛ばして噛みつく、一見「予測不能」な攻撃性として現れると説明しています。

なお、ごはんやおもちゃ、寝床といった「資源」を守るためのうなり(リソースガーディング)は、きっかけも対応の組み立ても別立てで考える必要があります。この記事が扱うのは体を触られる場面のうなりなので、資源を守るうなりについては別記事にゆずります。

注意

うなりは「困ったこと」ではなく「ありがたい情報」です。うなられたら、まず手を止めて距離をとってください。叱る・にらむ・押さえつけるといった対応は、警告そのものを消してしまい、次は前ぶれなく歯が当たることにつながります。うなりが出た場面は記録し、その部位・その触り方は当面避けてください。そのうえで、再開の可否は自己判断せず、まずかかりつけの動物病院に相談してください。

うなりの意味と、叱ることで警告なしの攻撃につながりうるという説明は、PS保険の記事(獣医行動診療科認定医 奥田順之獣医師による解説)とRSPCAの「Aggression in Dogs」の記載に基づきます。ハエ噛み行動の鑑別に関する記載はONELife行動クリニックグループの解説記事によります。いずれも一般的な説明であり、個々の犬の診断ではありません。

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ハンドリング練習の基本——系統的脱感作と拮抗条件づけ

やり方には名前がついています。系統的脱感作(けいとうてきだつかんさ)と拮抗条件づけ(きっこうじょうけんづけ)です。難しそうな言葉ですが、家庭ですることは「怖くない強さで触って、いいことを起こす」の一点です。

VCA Animal Hospitalsの解説では、脱感作は「動物を、その刺激が感情的な反応を引き起こさなくなるまで、段階的かつ体系的に刺激にさらすこと」、拮抗条件づけは「否定的な感情反応を引き起こす刺激を、肯定的な感情反応を引き起こすことがわかっているものと対にすること」と定義されています。同解説は、この方法が使える対象としてハンドリング(グルーミング、ブラッシング、抱きしめること、持ち上げること)を明記しています。

AAHA(米国動物病院協会)の2015年版の犬猫の行動管理ガイドラインも、脱感作を「反応を引き起こす水準より低いレベルで刺激を提示し、そこから段階的に刺激の水準を上げていく過程」と定義し、「脱感作が適切に行われていれば、刺激にさらされても動物は興奮しない」としています。そして「拮抗条件づけと脱感作はしばしば組み合わせて用いられ、以前は反応していた刺激に対して反応しなかったときに、刺激が徐々に強まっていくなかでも報酬が与えられる」と説明しています。

注意

嫌がっているのを押さえつけて最後まで続けるやり方は、行動学では「フラッディング(氾濫法)」と呼ばれます。AAHAの2015年版ガイドラインは、脱感作が「反応を引き起こす水準より下で刺激を提示する」のに対し、フラッディングは「反応を引き起こす水準で刺激にさらす」方法だと区別したうえで、追い詰められた動物ではかえって感作を起こし、シャットダウン(固まって動かなくなる状態)を招くとして、「フラッディングは決して推奨されない」と明記しています。

脱感作・拮抗条件づけの定義は、VCA Animal Hospitalsの解説とAAHAの2015年版「Canine and Feline Behavior Management Guidelines」の記載を訳出・要約したものです。AVSABの2021年の「Humane Dog Training」ポジションステートメントも、系統的脱感作について「(フラッディングや曝露計画とは異なり)犬が常に安全だと感じられるやり方で、ごく段階的に刺激にさらすこと」と述べています。

家庭での進め方

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    落ち着いているとき・おやつが魅力的なときに始める

    興奮しているとき、眠いとき、来客中は向きません。ごはんの前など、小さなおやつに価値が出るタイミングを選びます。場所は静かで滑らない床の上。犬がいつでも離れられるように、壁際や膝の上に閉じ込めないのがコツです。
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    1回1〜2分、1日1〜2回で区切る

    Preventive Vetの爪切りの手引き(ドッグトレーナー Cathy Madson氏)では、1回の練習は1〜2分だけにして、1日に1〜2回行うことがすすめられています。長くやるほど良い、というものではありません。短い成功をたくさん積むほうが進みます。
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    触ったらすぐおやつ、の型をつくる

    得意な部位(背中や肩)から。触れたらすぐ手を離し、そのあとでおやつ。順番が大切で、「おやつを見せてから触る」ではなく「触ったからおやつが出る」にします。花園動物クリニックも「『触る→ほめる』を何度も繰り返しましょう」として、「触られたい→いいことがある」と関連づくまで続けることをすすめています。ただしAKCの解説は、緊張が強い犬・触覚が敏感すぎる犬については「まずは触るのと同時におやつを与えることから始め、落ち着いてきたら触るほうを先にする」としています。最初から順番にこだわりすぎず、その子が食べられる形から始めてください。
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    秒数を伸ばす前に、回数を重ねる

    同じ1秒の接触を10回、平気でこなせるようになってから、2秒に伸ばします。秒数・強さ・部位の3つを同時に上げないのが鉄則です。上げるのはいつも1つだけにします。
  5. 5

    AKCの6段階を目安に刻む

    AKCのハンドリング解説では、足を例に、(1)手を足に近づけて離しおやつ、(2)やさしく短く触れて離しおやつ、(3)1秒触れて離しおやつ、(4)数秒触れて離しおやつ、(5)やさしく握って離しおやつ、(6)足を持ち、そっと放しておやつ、という6段階が示されています。同記事は「この工程全体には、数日から数週間かかることもあります」としています。
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    嫌がる手前で、必ず自分から終える

    犬が「もういいです」と言う前に、こちらから終えます。パークサイド動物病院の解説も、ハンドリングのポイントとして「犬が嫌がる前に辞める事と、少しずつ触っている時間を長くすること」を挙げています。最後は必ず、確実にできる簡単な1回(背中を1回なでる、など)で締めくくります。
  7. 7

    記録して、次回の開始点を決める

    日付・部位・秒数・様子を一行メモしておくと、「先週は前足に3秒触れられた」が可視化されます。次回は前回の1つ手前から始めると失敗しにくく、動物病院やトレーナーに相談するときの資料にもなります。

進めすぎたときに起きること

VCA Animal Hospitalsの解説は、進み方が速すぎると「感作(sensitization)」が起こり、「トレーニングを始める前より大きな反応」になると警告しています。その兆候として、おやつをすんなり受け取らなくなる、「落ち着いて」の合図で落ち着けなくなる、といった変化が挙げられ、そうなったら練習を止めて行動の専門家に相談するようすすめています。また、同解説は練習を常にポジティブな形で終えることの重要性にも触れています。

AAHAのガイドラインも、社会化の文脈で「過剰な曝露は怖がりの犬をさらに悪化させ、行動上の緊急事態をつくり出しうる」と述べています。「今日はここまでにしておこう」と引き返す判断は、遠回りではなく、その日一番大事な判断です。

うまくいっているかの目安

  • 練習が始まると、自分から近づいてくる
  • 触っているあいだ、体の力が抜けている(耳・しっぽ・口もとがゆるんでいる)
  • おやつを普通に食べられる
  • 終わったあと、もう一度そばに来る
  • 前回できた段階が、翌日も同じようにできる
  • こちらから終えたときに、犬が『もっと』という顔をしている

「同意」を確かめる練習——手を止めて反応を見る

もう一歩進んだ考え方が、犬に「いいよ」「ちょっと待って」を言わせる練習です。英語圏では協力的ケア(cooperative care)と呼ばれます。動物園や獣医の現場で行われるハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)と地続きの考え方で、そのなかでも犬の「同意」と「選択」を中心に置いたものが協力的ケアです。

Whole Dog Journalの解説(執筆:Pat Miller)では、協力的ケアを「動物がハンドリングや飼育管理の処置を我慢するだけでなく、それらの経験に積極的で自発的な参加者になるように訓練すること」と定義しています。同記事は、トレーナーのChirag Patel氏が考案した「バケツゲーム」という具体的な手法を紹介し、この方法で犬が「始めていい」「休憩がほしい」「やめてほしい」「もっとゆっくり進めて」を伝えられるとしています。そしてこの手法の最重要ルールとして、「犬の『やめて』というリクエストを尊重することが不可欠であり、その求めに応じられるときにだけ処置を行うべきだ」と述べています。

日本でも同じ発想が紹介されています。ワンクォールの取材記事で、ADGS理事長の高橋礼美氏は爪切りを例に、犬に同意を求めながら小さな階段を上るように進める大切さを語り、「大事なのは犬に選択肢を与えること。嫌だったら逃げてもいいって教えてあげるんです」と続けています。

家庭でできる「同意テスト」

もっとも手軽なのが、なでる手を止めて反応を見る方法です。心理学者で認定ドッグトレーナーのZazie Todd氏は、Psychology Todayの記事で「犬や猫(あるいは他の動物)をなでているときに、一度手を止めて相手がどうするかを見て、それに応じて対応することを『同意テスト(consent test)』と呼びます」と説明しています。

同記事によれば、もっと触ってほしいときのサインは、体を寄せてくる、触ってほしい部分をこちらに差し出すように動く、手や腕を前足でかく、といったもの。もうやめたいときのサインは、頭を下げて手をよける、鼻先をなめる、体をこちらから離す、その場を歩き去る、といったものです。

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    手を差し出して待つ

    犬の顔の上から手を伸ばさず、体の横あたりに手をそっと出して、そのまま待ちます。犬のほうから鼻を寄せてきたり、体を押しつけてきたりしたら「どうぞ」の合図。近づいてこなければ、その日はここまでです。
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    5秒だけ触って、手を止める

    胸や肩を5秒ほどなでたら、いったん手を離して3秒待ちます。犬が体を寄せてきたら続行、離れたり顔をそむけたりしたら終了。本記事では便宜的に「5秒なでたら手を止める」と呼びますが、秒数に決まりはありません。「数秒なでたら必ず一度手を止める」という区切りを入れるだけでも、犬にとっては大きな違いになります。
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    ケアの動作でも同じことをする

    足を持ち上げて3秒、いったん放す。耳の付け根を触って3秒、手を離す。そのたびに犬が「もう一度どうぞ」と姿勢を戻すかを見ます。戻れば次に進み、戻らなければその日は終わりです。
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    『始めていい』の合図を決める(応用)

    協力的ケアの分野で広く使われている手法に、あごを手のひらやクッションに乗せる「あご乗せ(チンレスト)」を『始めていいよ』の合図として教えるやり方があります。あごを乗せているあいだだけケアを進め、あごを上げたら必ず手を止める。これができるようになると、犬のほうから「やっていいよ」と言えるようになります。

ヒント

同意テストで一番むずかしいのは、「やめてほしい」と言われたときに、本当にやめることです。ここで一度でも「言っても止まらない」と学ばせると、次からサインを出す意味がなくなってしまいます。1回止めても、練習全体は必ず前に進みます。急いでいる日は、練習ではなく「今日は必要なケアを済ませる日」と割り切り、練習と実務を分けて考えてください。

道具に慣らす4つの段階

タオル・爪切り・グラインダー(電動やすり)・歯ブラシ・ブラシ・綿棒——道具そのものが苦手、というケースはとても多いです。手には慣れたのに道具を出すと逃げる、というときは、道具にも同じ手順を踏みます。

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    見せる

    道具を手に持って、犬から見える位置に1秒出す。すぐ隠しておやつ。これを何度もくり返します。Preventive Vetの手引きでも、第1段階は「爪切りを犬に見せて、おやつを取り出して与える。爪切りを見えないところに隠す。これをくり返す」とされています。この段階を軽視しないでください。
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    匂わせる・音を聞かせる

    床に置いて自由に嗅がせる。嗅いだらおやつ。グラインダーやバリカンのように音が出る道具は、離れた場所でスイッチを入れて音だけ聞かせ、平気ならおやつ。距離を少しずつ縮めます。犬が自分から近づいてこないなら、その距離ではまだ刺激が強すぎるサインです。もっと離れた場所に戻してやり直します。
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    当てる(まだ使わない)

    道具の背や側面を、体の触りやすい場所に1秒当てて離し、おやつ。次に目的の部位へ。爪切りなら、刃を使わず爪に軽く当てるだけ。歯ブラシなら、毛先を唇の外側に当てるだけ。「道具が触れたけど何も起きなかった」を積み重ねます。
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    1回だけ使う

    爪なら1本だけ切る(または1本の先だけ削る)、歯なら1か所だけ数秒みがく、ブラシなら3ストロークだけ。終わったらおやつにして、その日は終了。Preventive Vetの手引きでも、最後の段階は「爪の先端だけを切り、1本ごとに報酬を与える」とされています。全部やろうとしない勇気が、次回の成功率を上げます。

メモ

道具に慣らす練習と、実際に必要なケアは、別の時間に行うのが理想です。伸びすぎた爪をどうしても切らなければならない日は、練習の場ではありません。その日は動物病院やトリミングサロンにお願いして安全に済ませ、練習は別の日に、落ち着いた気持ちで再開してください。爪切りの道具選びは爪切り・グラインダーの選び方の記事にまとめています。

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犬の爪切りのやり方|頻度・血管の見分け方・嫌がる子への慣らし方まで

実践編——足拭き・爪切り・歯みがき・耳と目・抱っこ

ここからは、日常のケアごとの短い進め方です。いずれも前提は同じで、「その部位に触れる練習ができていること」「短く区切ること」「嫌がる手前で終える」です。

足拭き

散歩のたびに発生するぶん、苦手意識がつきやすいケアです。ポイントは、足を「持ち上げない」ことから始める点にあります。

  • 帰宅直後の興奮しているタイミングを避け、まず水を飲ませて一息つかせる
  • 床に座って、犬が立ったままの姿勢で、前足の上からタオルをふわっと乗せ、すぐにおやつ
  • 次に、タオル越しに1秒だけ軽く握り、すぐにおやつ
  • 慣れたら、手のひらで足全体を下から支えたまま拭く(足を宙に持ち上げると犬はバランスを崩して身構えます)
  • 後ろ足は前足より難しいので、左右の前足が安定してから
  • 指の間は最後。1本の指の間から、少しずつ

拭く順番を毎回そろえると、犬にとって予測しやすくなります。「右前足から」と決めておくだけでも、身構えが減ることがあります。

爪切り

爪切りは、切り方そのものより「足を保持できること」がボトルネックになりがちです。前述の道具の4段階と組み合わせて、次のように分解します。

  1. 足に触れる(数秒)
  2. 足を手のひらに乗せる
  3. 指を1本ずつそっと開く
  4. 爪切りを見せる・当てる
  5. 1本だけ、先端を少し切る

1日1本でも、5日あれば片方の前足が終わります(狼爪がある子は前足5本、後ろ足は4本のことが多いです)。血管(クイック)の見分け方や出血したときの対処は爪切りのやり方の記事にまとめているので、そちらとあわせて進めてください。

歯みがき

口まわりは最後の砦です。マズル(口吻)を上からつかむ、いわゆるマズルコントロールは避けてください。ワンクォールの記事(獣医行動診療科認定医 フリッツ吉川綾先生監修)では、マズルコントロールについて「実際にはこのような行為によって犬の攻撃性が増すことなども報告されているため、現在では推奨されていません」と説明されています。同記事は、マズルに触れる練習として、犬がリラックスして受け入れられる場所と方法で触ること、触ったあとすぐにおやつをあげたりやさしく声をかけたりして良いイメージと結びつけること、その後もときどき触っておとなしくしていられたら褒めることを続ける、という流れを紹介しています。

家庭での刻み方は、次のような順序が現実的です。

  1. マズルの横に指を1秒当てる
  2. 上唇を少しだけめくって、すぐ戻す
  3. 前歯の外側に指で触れる
  4. 歯みがきシートや指サックで、前歯の外側を数秒
  5. 歯ブラシの毛先を唇に当てる
  6. 前歯の外側を3ストロークだけみがく

奥歯までみがけるようになるのは、ずっと先で構いません。習慣化のコツと道具の選び方は歯みがき習慣の記事にまとめています。

あわせて読みたい

犬の歯磨き習慣の作り方|嫌がらせずに毎日のケアにするステップ

耳と目のケア

耳は、外側の付け根をなでる、耳を軽く持つ、耳をそっとめくって中を見る、綿やコットンを近づける、の順に。なお家庭では、綿棒を耳の奥に差し込むことはしないでください。汚れを押し込んだり傷つけたりする恐れがあります。ふけるのは目に見える耳の入り口までで、それより奥が汚れているときは動物病院に相談します。耳の中に痛みや炎症があると、どんなに丁寧でも嫌がります。触ると頭を振る、においが強い、赤い、耳あかが増えた、という場合はケアより先に受診してください。耳掃除の頻度と正しい手順は耳掃除の記事にまとめています。

目のまわりは、まぶたの上をなでる、目頭に指を近づける、ぬらしたコットンを当てる、の順に。顔の正面から手を出すと犬は身構えるので、必ず横または下から近づけます。目やにが急に増えた、まぶしそうに目を細める、白目が赤い、といったときも受診が先です。

抱っこ・保定

抱っこが苦手な犬にも理由があります。ワンクォールの記事(獣医師 茂木千恵先生監修)では、自分で動けなくなることへの本能的な不安、子犬のころに体を触られたり抱っこされたりする経験が少なかったこと、そして膝蓋骨脱臼や椎間板ヘルニアなどによる痛みの3つが挙げられています。同記事では、脇の下に手を入れて持ち上げる方法は犬の肩関節に強い負荷をかけるため避けるべきとされ、慣らし方としては、そばにしゃがむ、体に触れる、手を下に入れる、少し浮かす、と段階を踏み、それぞれで褒めておやつを与えることが紹介されています。

抱き方については、小型犬では膝に乗せ、利き手でお尻から胸部を支え、もう片方の手で前半身を包む方法、中・大型犬では両手を広げて腕で犬のお尻の下と胸の下あたりを抱え込むようにして持ち上げる方法が紹介されています。

家庭での「保定」も同じ考え方です。押さえ込むのではなく、犬が安定して立ったり座ったりできるように支えるのが目的です。滑らない床やマットの上で行い、体を壁や自分の体で挟み込まないこと。犬が抜けようとしたら、力で止めずに一度手を離してください。

抱っこを嫌がる理由・正しい抱き方・段階的な慣らし方は、ワンクォールの記事(獣医師 茂木千恵先生監修)の記載によります。マズルコントロールに関する見解と、マズルに触れる練習の流れは、同じくワンクォールの記事(獣医行動診療科認定医 フリッツ吉川綾先生監修)の記載によります。足拭き・耳と目のケアの刻み方は、本記事編集部が上記の一般的なハンドリングの考え方(触ったらすぐ報酬、嫌がる手前で終える)にもとづいて整理したもので、特定の出典に書かれた手順ではありません。

うまくいかないとき——中断の基準と相談先

丁寧に進めていても、進まない時期は必ずあります。大切なのは、「がんばりどころ」と「引き返しどころ」を取り違えないことです。

その日は中断したほうがよいサイン

  • おやつを受け取らない、口に入れても落とす
  • 何度も顔をそむける、体を固くしたまま動かない
  • はっきりうなる、歯を当てる、口を開けて向かってくる
  • 逃げようとして暴れる、パニックのように鳴き続ける
  • 前回できていた段階が、今日はまったくできない
  • 飼い主自身がイライラしている・急いでいる

このうち「おやつを受け取らない」は、前半で触れたVCA Animal Hospitalsの解説がいう「進み方が速すぎるサイン」そのものです。1つでも当てはまる日は、その場で切り上げて構いません。

力で押さえつけない理由

「短時間で終わるなら、押さえてしまったほうが早いのでは」と思う場面はあります。けれど、力ずくの保定には代償があります。

AAHAの2015年版ガイドラインは、動物病院での用手保定と力ずくのハンドリングについて、「診療全体の成否(症例の転帰)を妨げうる」と述べています。強引なやり方は正確な身体検査や検査データを得る妨げになり、生理的なストレスを高め、もがきによる人と動物の負傷リスクも上げるとされます。さらに、身体的な保定の生理的な後遺効果によって、その後に投与する鎮静薬などの効きが悪くなることもあると指摘されています。

同ガイドラインは、不適切な身体的保定の例として「数人がかりで押さえないとできない爪切り」「完全に動きを封じないとできない採血」「壁や柵、ゲートのあいだに犬を押しつけて行う注射」などを挙げ、これらの手技はいずれも「落ち着いていた動物を怖がりにし、怖がりの動物をさらに悪化させ、安全面での予測が立ちにくくなり、将来落ち着いて検査を受けられなくする」としています。そして、まず最もストレスの少ない人道的な保定法を用いることを推奨しています。

家庭でも同じことが言えます。今日の5分を短縮するために、この先何年ぶんかの「触られるのが怖い」を積み増してしまうのは割に合いません。

叱らない理由

AVSAB(米国獣医動物行動学会)は2021年のポジションステートメントで、「現在の科学的根拠にもとづき、AVSABは、行動上の問題の治療を含むすべての犬のトレーニングにおいて、報酬にもとづく方法のみを用いることを推奨する」と述べています。同文書では、嫌悪的手法を「定義上、力・痛み・情動的または身体的な不快感の適用に依存するもの」と説明し、犬のトレーニングや行動障害の治療に用いるべきではないとしています。

花園動物クリニックの解説も、家庭での練習について「触るのをいやがってそれを叱ってしまうと、ワンちゃんは触られること自体に不快感を覚えることになります」と注意しています。

相談先の選び方

家庭の練習だけでは追いつかないと感じたら、早めに人を頼ってください。

  • かかりつけの動物病院: まずは痛みや病気を除外してもらう。触られるのを嫌がる場所が決まっている場合はとくに重要です。
  • 獣医行動診療科(行動診療): 恐怖や攻撃行動が生活全体に及んでいる場合の相談先です。日本にも、獣医行動診療科認定医が診療する施設があります。必要に応じて、薬を併用した治療計画が立てられることもあります。
  • ドッグトレーナー・行動コンサルタント: 報酬にもとづく方法で、協力的ケアを扱える人を選びます。RSPCAは「誰でも自称『犬の行動の専門家』になれるが、多くは最新の知識も、行動の問題を扱うのに必要な技能も持ち合わせていない」と注意を促し、資格を確かめてから選ぶようすすめています。また攻撃性が関わる問題については「まず獣医師に診てもらうことが大切で、良い行動の専門家なら必ず先に病気の可能性を除外したがる」としています。なおAAHAの2015年版ガイドラインは、攻撃行動や診断を要する状態について「いかなる状況でもトレーナーを一次治療の紹介先にしてはならない」としています。うなり・咬みつきが出ている場合の窓口は、まず獣医師(必要に応じて獣医行動診療科)です。

注意

歯が当たった、皮膚に傷ができた、家族がこわいと感じている——こうした段階では、独学の練習を続けないでください。安全の確保が最優先です。触らなくても済むように環境を整えたうえで、動物病院に連絡し、行動を専門に扱う獣医師やトレーナーにつないでもらってください。噛みの背景に痛みがあることは珍しくないため、行動の相談と並行して身体の検査を受けることが大切です。

ハンドリングの練習は、必ず大人が行ってください。子どもは犬のサインを読み違えやすく、また嫌がられたときに手を止めるのが難しいためです。子どもが関わるのは「犬が近づいてきたときに、背中を数回なでておやつを渡す」ところまでにとどめ、足先・口まわり・しっぽなど難しい部位や、道具を使う練習には参加させないでください。犬が「もうやめて」と伝えているサインは、大人が代わりに読み取り、触り方のルールを先に家族で決めておくことが安全につながります。

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また、家での練習と並行して、動物病院で触られることにも慣らしておくと、通院時の負担が減ります。

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子犬期・シニア期・保護犬で気をつけたいこと

同じ「触られる練習」でも、ライフステージによって力点が変わります。

子犬期——予防のチャンス

AVSABのパピー社会化に関するポジションステートメントは、「子犬の社会化にとって第一に重要な時期は、生後3か月間である」とし、この時期に安全に、過度な恐怖や引きこもり・回避を起こさない範囲で、できるだけ多くの人・動物・刺激・環境に触れさせるべきだとしています。そして社会化の過程について、「子犬は生まれたときからハンドリングされ、体のあらゆる部位を扱われることを受け入れられるように学ぶべきである」と明記しています。

パークサイド動物病院の解説も、ハンドリングを「子犬の頃から沢山の人に体中を触ってもらい、体を触られることに慣らすこと」と説明し、病院訪問時のストレス軽減と社会性の獲得のために必要だとしています。

ただし「たくさん触ればいい」わけではありません。前述のとおり、AAHAは過剰な曝露が怖がりの犬を悪化させうると注意しています。子犬が固まる・逃げる・眠そうにしている、というときは中断してください。社会化全体の進め方は下の記事にまとめています。

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シニア期——痛みを前提に組み立てる

年齢を重ねた犬では、「性格が変わった」ように見えることの背景に、痛みが隠れていることがあります。ワンクォールの記事(獣医師 片川優子先生)では、日本大学の調査として、大学病院に関節の病気以外の理由で来院した10歳以上の犬524頭のうち44.3%が変形性関節症もしくは変形性脊椎症にかかっていたこと、そのうち50%の飼い主が変形性関節症に気づいていなかったことが紹介されています。同記事は、小型犬では体重が軽いため3本の足にしか体重をかけていなくても「普通に歩いている」ように見えてしまうこと、症状が「歳を取ったからかも」と解釈されてしまうこと、動物病院では緊張により痛みを隠すことがあることを、見逃されやすい理由として挙げています。変形性関節症の治療の選択肢は関節の痛みの記事にまとめています。

シニア期の練習では、次の点を意識してください。

  • 立たせたままの時間を短くする。伏せや横になった姿勢でできることから
  • 関節を大きく動かさない。足首から先だけを扱う、耳は頭を動かさずに触る
  • 一度に全部やらない。今日は前足、明日は耳、と分ける
  • 「前はできたのに」を基準にしない。今日のその子に合わせて刻み直す
  • 嫌がる部位が新しく増えたら、練習ではなく受診を優先する

聴力や視力が落ちている犬では、後ろから急に触られると驚いてしまいます。声をかけてから、必ず視界に入ってから触れる。振動が伝わるように、床を軽くたたいてから近づく。それだけでも身構えが減ります。

保護犬・成犬から迎えた犬——待つことが練習になる

過去にどんな経験をしてきたかがわからない犬では、こちらから触りにいく回数を減らすところから始めます。犬が自分から近づいてくるのを待ち、来たら短く触ってすぐ手を離す。離れていったら追わない。「近づいても、いつでも離れられる」という経験が、最初の数週間でもっとも価値のある学習になります。

前述の高橋礼美氏の言葉にある「嫌だったら逃げてもいい」を、家じゅうで保証してあげてください。逃げ場になるハウスやベッドを用意し、そこに入っているあいだは触らない、というルールを家族全員で共有します。迎えたばかりの時期の暮らし方は保護犬を迎える流れの記事にもまとめています。

よくある質問

おやつがないと触らせてくれません。ずっとおやつが必要ですか。
最初のうちは必要ですが、ずっと同じ量が要るわけではありません。拮抗条件づけは『触られること』と『いいこと』を結びつける作業なので、結びつきができるまではおやつが主役です。安定してできるようになったら、毎回ではなく数回に1回にする、おやつの代わりに褒め言葉や遊びにする、というように少しずつ減らしていきます。ただし、爪切りや歯みがきのように犬にとって負担の大きいケアでは、最後まで報酬を残しておくほうが長続きします。おやつの量が気になる場合は、その日のフードから取り分けて使うと総量を増やさずに済みます。
成犬になってからでも間に合いますか。
間に合います。AKCのハンドリング解説でも、成犬に対する段階的な練習の手順が示されており、工程全体には数日から数週間かかることがあるとされています。子犬期に比べて時間はかかりますが、大人の犬は集中力があり、飼い主との関係もできています。焦らず、刻みを細かくして進めてください。ただし、成犬になってから急に嫌がるようになった場合は、練習の前に痛みや病気の可能性を動物病院で確認してください。
保護犬を迎えました。いつから触る練習を始めていいですか。
決まった日数はありません。目安になるのは犬の様子で、家の中で自分から動き回れる、ごはんを普通に食べられる、飼い主が動いても過度に警戒しない、といった状態が出てきてからで十分です。それまでは、こちらから触りにいかず、犬が近づいてきたときだけ短く触ってすぐ離す、を続けてください。逃げ場になる場所を用意し、そこにいるあいだは触らないというルールを家族で共有することも大切です。強い恐怖や、触ろうとするとうなる・歯を当てるといった様子があるときは、早い段階で動物病院やトレーナーに相談してください。
うなったら、その場でやめると『うなれば逃げられる』と学びませんか。
『うなれば要求が通る』ことを心配される方は多いのですが、うなりを罰する対応のほうがリスクは大きいと考えられています。獣医行動診療科認定医の解説では、うなりを叱ることをくり返すと、犬が『唸っても意味がない』と判断し、前触れなく攻撃するようになる可能性が指摘されています。RSPCAも、うなりを罰すると感情を隠すようになり、低い段階のコミュニケーションを飛ばして噛みつく『予測不能』な攻撃につながると説明しています。実務的には、うなられたらいったん手を止めて距離をとり、次回はうんと手前の段階からやり直すのが安全です。うなる場面がくり返し起きるなら、練習を続ける前に専門家に相談してください。
1日にどれくらい練習すればいいですか。
短く、こまめにが基本です。爪切りの慣らしについてはPreventive Vetの手引きで、1回1〜2分、1日1〜2回がすすめられています。長時間の練習は集中が切れて失敗しやすく、嫌な記憶で終わりがちです。毎日できない週があっても大丈夫ですが、間隔が空きすぎると前回の段階まで戻ることがあるので、そのときは1つ手前から再開してください。
抱っこはできるのに、足だけ触らせてくれません。
よくあるパターンです。抱っこは体幹を支える行為で、足先とは刺激の質がまったく違います。足先は敏感な部位とされ、しかも自由を奪われる感覚と結びつきやすい場所です。抱っこができているなら、その姿勢のまま肩から腕、肘、手首、と『今できている場所の隣まで』手を滑らせる練習が始めやすいでしょう。急に持ち上げず、手のひらで下から支えるように触れるのがコツです。触ると強く痛がる、片足だけ極端に嫌がる、といった場合は関節や爪、指の間のトラブルの可能性があるので受診してください。
家族の中で、私が触ると嫌がって、ほかの人だと平気です。
珍しくありません。触り方の速さ・強さ・角度、そして過去にその人と嫌なことがあったかどうかで、犬の反応は変わります。まずは触るのが得意な家族のやり方を観察してみてください。上から手を出していないか、声をかけてから触っているか、5秒で手を止めているか。そのうえで、あなたは『触られると必ずいいことが起きる人』になる練習(触ったらすぐおやつ)を集中的に行います。爪切りなど負担の大きいケアは、当面は得意な家族が担当し、あなたは楽しいことの担当に回る、という分担も有効です。
トリミングサロンや動物病院では大人しいのに、家では嫌がります。
よその場所では固まって我慢しているだけ、ということがあります。動かないことは『平気』とは限らず、恐怖で動けない状態のこともあります。家で嫌がるのは、安心して意思表示ができている証拠とも言えます。サロンや病院に、家では嫌がることを伝えておくと、進め方に配慮してもらえることがあります。あわせて家での練習を続けることで、外での負担も減っていきます。

まとめ

犬が体を触られるのを嫌がるのは、珍しいことでも、直らないことでもありません。背景には、社会化期の経験不足、過去の痛みや不快の記憶、急で強い触り方、部位ごとの敏感さ、そして「いま痛みがある」という理由が重なっています。とくに、これまで平気だったのに急に嫌がるようになったときは、練習より先に動物病院で体を診てもらってください。

練習の中身は、いたってシンプルです。得意な部位から始めて、触ったらすぐおやつを、嫌がらない強さでくり返す。秒数・強さ・部位を一度に上げない。1回1〜2分で、嫌がる手前で自分から終える。道具は、見せる、匂わせる、当てる、1回だけ使う、の4段階で。そして、5秒で手を止めて「もう一度どうぞ」と言ってくれるかを確かめる。この積み重ねが、足拭き・爪切り・歯みがき・耳のケアという毎日のお世話を、我慢比べから普通の日課へと変えていきます。

してはいけないことも、はっきりしています。うなりを叱らないこと、力で押さえつけないことです。うなりは歯が出る手前の警告で、それを消してしまうと、次は前ぶれのない歯が来ます。数人がかりでないとできない爪切りは、その子の根性が足りないのではなく、やり方を変えるべきだというサインです。

進まない時期があっても、それは失敗ではありません。今日は1つ手前に戻る、今日は背中を10秒なでて終わりにする——その判断のひとつひとつが、「この人の手は怖くない」という記憶を積み上げていきます。うまくいかないときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけの動物病院や、行動を専門に扱う獣医師・トレーナーに相談してください。愛犬の体に、安心して手が届く暮らしへ。この記事がその一歩になればうれしいです。

出典・参考

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