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犬の基本のしつけ|おすわり・ふせ・まて・ハウスの教え方と、つまずいたときの立て直し方

対象の目安: 全ライフステージ

カエデ・しつけ・散歩担当
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犬の基本のしつけ|おすわり・ふせ・まて・ハウスの教え方と、つまずいたときの立て直し方

「おすわり」「ふせ」「まて」「ハウス」。犬を迎えるとまず教えることになるこの4つは、家族に見せるための芸ではありません。来客に飛びつきそうなときに座って待てること、散歩中に落ちている物へ口が伸びる前に止まれること、玄関が開いた瞬間に走り出さないこと、診察台の上で伏せていられること、避難所でクレートに入って過ごせること。どれも、愛犬の安全と、まわりの人との関係を守るための実用的な道具です。

一方で、この4つは「教え方の順序」を間違えるとつまずきやすいところでもあります。家では完璧にできるのに公園ではまったく反応しない、おやつを持っているときだけ座る、「まて」が5秒ももたない、クレートに入れると鳴き続ける。よくある行き詰まりのほとんどは、犬の性格の問題ではなく、難易度の上げ方や合図の伝え方の問題です。

この記事では、獣医行動学の学会や動物福祉団体が公開している一次資料をもとに、(1)なぜ基本のしつけが安全につながるのか、(2)どんな方法で教えるのが現在の標準なのか、(3)ルアーからハンドサイン・言葉の合図へ移す技術的な順序、(4)種目別の具体的な手順、(5)うまくいかないときの切り分け方、を通しで整理します。呼び戻し(おいで)については別記事で詳しく扱っているので、ここでは深追いしません。

基本のしつけは「芸」ではなく、暮らしと安全のための道具

日本の制度の側から見ても、犬のしつけは飼い主の努力義務として位置づけられています。環境省告示「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」は犬について、「犬の所有者等は、適当な時期に、飼養目的等に応じ、人の生命、身体及び財産に危害を加え、並びに人に迷惑を及ぼすことのないよう、適正な方法でしつけを行うとともに、特に所有者等の制止に従うよう訓練に努めること」と定めています。ポイントは「制止に従う」という部分で、これはまさに「まて」や「おいで」が担う役割です。

災害の場面でも同じことが求められます。環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年3月発行)には、「災害に備えたしつけと健康管理の例」として犬の場合が挙げられており、そこには「『待て』『おいで』『お座り』『伏せ』などの基本的なしつけを行う」「ケージなどの中に入ることを嫌がらないように、日頃から慣らしておく」と書かれています。この記事で扱う4つは、まさにこのリストと重なります。同ガイドラインは本文でも、発災時にペットがパニックになる可能性を踏まえ、すみやかに避難するためには普段からキャリーバッグなどに入ることを嫌がらないことや、犬の場合は「待て」「おいで」などのしつけをしておく必要がある、としています。

環境省告示「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年環境省告示第37号、最終改正 平成25年環境省告示第82号)第4の4、および環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」(平成30年3月発行)より。なお同ガイドラインは2026年時点で改訂作業が進んでいます。

日常の場面に落とすと、次のように働きます。

場面使う合図何が防げるか
来客・すれ違いおすわり/ふせ飛びつき。人を押し倒す事故や、服の汚れ・引っかき傷
散歩中に何か落ちているまて拾い食い。誤飲・中毒・腸閉塞のリスク
玄関・車のドアが開くまて(解除まで動かない)道路への飛び出し。逸走と交通事故
動物病院の診察台・体重計おすわり/ふせ押さえ込みによる恐怖。次回以降の受診拒否
避難所・宿泊・入院ハウスクレートを嫌がって鳴き続ける、脱走する
家族の食事中・調理中ハウス/ふせ台所への侵入、危険物への接触

つまり基本のしつけは、「犬に言うことを聞かせる」ためではなく、犬が困らずに済む選択肢を増やすためのものです。飛びつく代わりに座る、走り出す代わりに待つ、という「代わりにやること」を用意しておくと、叱る場面そのものが減っていきます。

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方法の選び方: ごほうびで教える(陽性強化)が現在の標準

「厳しく教えたほうが早い」「ときには一喝も必要」という話は今も根強く残っています。しかし獣医行動学の分野では、この点についての結論はかなりはっきりしています。

AVSAB(American Veterinary Society of Animal Behavior、米国獣医動物行動学会)は2021年のポジションステートメント「Humane Dog Training」で、結論として「現在の科学的根拠に基づき、AVSABは、行動の問題の治療を含むすべての犬のトレーニングにおいて、報酬ベースのトレーニング方法のみが用いられることを推奨する」と述べています。続けて「嫌悪的なトレーニング方法は、動物福祉と人と動物の絆の両方に有害な影響を及ぼす。いかなる文脈においても、嫌悪的方法が報酬ベースの方法より効果的であるという証拠はない」とし、「したがってAVSABは、動物のトレーニングにも行動障害の治療にも、嫌悪的方法は用いるべきでないと助言する」と結んでいます。

ここでいう嫌悪的方法(aversive methods)は、同声明の中で「定義上、力、痛み、あるいは情緒的・身体的な不快感を与えることに依拠するもの」と説明されています。具体的に何を指すのかも、FAQのなかで列挙されています。

  • 痛みを伴う道具: チョークチェーン、プロングカラー、電気ショックカラー
  • 威嚇: 水スプレー、音の出る缶(シェイカー缶)、圧縮空気の缶、怒鳴る、にらみつける、「アルファロール」や「ドミナンスダウン」のような力ずくの操作
  • 身体的な矯正: リードを引いてショックを与える、力で押さえる
  • フラッディング(苦手な刺激に一気にさらす「慣れさせ」)

AAHA(American Animal Hospital Association、米国動物病院協会)の「2015 AAHA Canine and Feline Behavior Management Guidelines」も同じ方向です。ガイドラインは「本タスクフォースは、嫌悪的技法を用いるトレーニング方法に反対する」と明言し、嫌悪的トレーニングは「人と動物の絆、問題解決能力、患者の身体的・行動的健康に対する有害な影響と関連づけられてきた」「正常な動物に問題行動を引き起こし、苦痛を抱えた動物では行動障害の進行を早める」と述べています。さらに「嫌悪的技法は、恐怖心の強い患者や攻撃性のある患者に対してとくに有害であり、切迫した攻撃のサインを抑え込んでしまうことが多く、攻撃的な犬をより危険にする」としています。

注意

AAHAが挙げている嫌悪的技法の例は、「プロング(ピンチ)カラーまたはチョークカラー、家畜用電気棒、アルファロール、ドミナンスダウン、電気ショックカラー、ランジウィップ、餌を与えない・取り上げる、逃げ場のない状況に追い込むこと(entrapment)、殴打」です。ガイドラインは「これらの道具や方法はいずれも、行動を教えるためにも変えるためにも使うべきではない」としています。日本の環境省告示も、家庭動物等の訓練・しつけは種類・生態・習性・生理を考慮した適切な方法で行うこととし、「みだりに、殴打、酷使すること等は、虐待となるおそれがあることを十分認識すること」と定めています。

「厳しくしたほうが効く」という感覚はどこまで正しいか

嫌悪的手法を避ける理由は、倫理だけではありません。効果の面でも優位性は確認されていない、というのがAVSABの整理です。

AVSABの声明は、飼い主アンケートによる研究で、嫌悪的手法の使用と、人や他の犬への攻撃行動、回避や興奮しやすさといった不安関連の行動との関連が示されてきたと述べています。ただし同時に「アンケート研究では因果と相関を区別できない」と明記しており、嫌悪的手法が問題行動を引き起こしている可能性と、問題行動のある犬の飼い主が嫌悪的な道具を使いやすい可能性の両方を挙げています。そのうえで、「いずれの説明をとるにせよ、この関連は嫌悪的トレーニング方法が問題行動の解消に有効ではないことを示している」としています。

服従性についても、AVSABはHibyら(2004)を引いて、報酬ベースのみで訓練された犬でもっとも高く、嫌悪ベースのみでもっとも低く、両者を組み合わせた方法(業界でしばしば「バランス型」と呼ばれるもの)は報酬ベースより低く嫌悪ベースのみよりは高かった、と紹介しています。

電気ショックカラーについても同様です。AVSABは、電気ショックカラーが使われるもっとも多い理由は呼び戻しの訓練だとしたうえで、経験を積んだトレーナーの手による場合でも、呼び戻しや追いかけを止める訓練において、遠隔操作の電気ショックカラーと報酬ベースの方法とのあいだに効果の差は見られなかったと述べています。Chinaら(2020、Frontiers in Veterinary Science)の研究では、オフリード時の行動に問題のある犬を各21頭の3群(メーカー推薦のトレーナーが電気ショックカラーを用いる群、同じトレーナーがカラーを使わない群、報酬重視のトレーナーによる群)に分けて比較しています。合図に従わなかった割合に差はなく、報酬重視の訓練を受けた群のほうが反応までの遅れが短かったと報告されています。

福祉面では、Vieira de Castroら(2020、PLOS ONE)が7つのトレーニングスクールの家庭犬92頭を対象に、報酬ベース群42頭、混合群22頭、嫌悪ベース群28頭を比較しています。嫌悪ベース群の犬はトレーニング中に口をなめる、あくび、体をそらす、身をかがめるといったストレス関連行動をより多く示し、トレーニング後のコルチゾール上昇が報酬ベース群より大きく、認知バイアス課題ではより「悲観的」だったと報告されています。

AVSAB「Position Statement on Humane Dog Training」(2021)、AAHA「2015 Canine and Feline Behavior Management Guidelines」、Vieira de Castro AC et al. "Does training method matter? Evidence for the negative impact of aversive-based methods on companion dog welfare." PLOS ONE 2020;15(12):e0225023 より。

優位性理論(ドミナンス)は今どう扱うべきか

「犬が言うことを聞かないのは、自分のほうが上だと思っているから」という説明は、いまでもよく聞きます。しかしAVSABは「Position Statement on the Use of Dominance Theory in Behavior Modification of Animals」で、「私たちのペットの望ましくない行動のほとんどは、資源への優先的アクセスに関係していない。むしろ、望ましくない行動が偶発的に報酬づけられてきたことによる」と述べ、「行動を専門とする獣医師にとっての標準的なケアは、優位性理論を行動修正の一般的な指針として用いないことである」としています。

同声明は、狼の行動についての誤解も具体的に否定しています。「狼の群れでは、上位の狼が下位の狼を仰向けに転がすことはない」とし、いわゆるアルファロールは犬側が自発的に見せる服従のポーズを取り違えたものだと説明しています。さらにHerronらの研究(AVSAB声明では2008年と表記。査読版は Appl Anim Behav Sci 2009;117:47-54)を引いて、叩く・蹴る・うなる・アルファロールを行う・にらみつける・ドミナンスダウンを強いるといった対決的な手法は、犬から攻撃的な反応を引き出すことが多かったと紹介しています。

英国のDogs Trustも優位性理論を「時代遅れで否定された犬の行動の理論」と説明し、その根拠になった初期の研究が「血縁関係のない狼を飼育下で同居させた群れ」を観察したものだった点を挙げています。オーストラリアのRSPCAも、優位性を前提とする犬のトレーニングの基礎になっている仮定の多くは「欠陥があり、しばしば犬と人と動物の絆にとって有害である」としています。

「なめられてるからだ」と言われて、低い声で押さえつける方法を試した時期がありました。その場は静かになるんですが、来客のたびに震えるようになってしまって。やめて、代わりに『マットに行っておすわり』を教え直したら、半年かけて落ち着いてきました。
来客に吠える犬と暮らす飼い主

教える前に整えたい4つの準備

技術の前に、準備で結果の半分は決まります。

まずごほうびです。使うおやつは、日常のフードより少し価値が高いものを、ごく小さく切って用意します。分量には上限を意識してください。カリフォルニア大学デービス校獣医教育病院の栄養サポートサービスは「おやつと追加の食べ物は1日の摂取カロリーの10%を超えるべきではない」とし、残りの90%以上は総合栄養食から摂るべきだとしています。トレーニング用には小豆粒ほどのサイズで十分で、量より回数が効きます。

次にマーカーです。マーカーとは「正解はこの瞬間」と伝える合図で、Dogs Trustは「犬に、うまくできた、あなたがとても喜んでいる、と伝えるための明確な合図」と説明し、「マーカーの直後に必ず報酬を与える」としています。「イエス」「そう」といった短い言葉でも、クリッカーでもかまいません。MSD獣医マニュアルは、こうした合図を「報酬が来ることを離れた場所からでも犬に知らせられる二次強化子」と説明し、言葉・ハンドサイン・クリッカーを例に挙げています。VCA Animal Hospitalsも「強化は行動の直後に続かなければならない。遅れると、犬が別の行動をしているところに報酬が当たってしまう危険がある」としています。

3つ目は時間です。Dogs Trustのトレーニングのコツは「トレーニングは1回5〜10分と短くし、1つの行動に集中して、最後は楽しいゲームで終える」と勧めています。英国RSPCAも「犬が圧倒されないよう、短いけれど規則的なセッションに分ける」としています。VCAは「常にセッションを成功で終えるようにする」と付け加えています。

4つ目は環境と家族です。最初は静かな部屋、テレビを消し、他の家族やほかのペットがうろうろしない状況から始めます。そして合図の言葉とハンドサインを家族全員でそろえます。ある人は「おすわり」、別の人は「シット」、もう一人は「座って」と言っていると、犬にとっては別々の音になってしまいます。

練習を始める前のチェック

  • おやつは小さく切ってあり、1日のカロリーの10%を超えない範囲に収まっている
  • マーカー(「イエス」やクリッカー)を決め、事前に「マーカー->おやつ」を数回繰り返して意味づけをした
  • 1回5〜10分、1回につき1つの行動、と決めている
  • 静かな部屋から始め、犬は排泄を済ませ、極端に空腹でも満腹でもない
  • 合図の言葉とハンドサインを家族全員で統一した
  • うまくいかないときは1段階戻す、と最初から決めている

教え方の順序: ルアー -> ハンドサイン -> 言葉の合図

犬に何かを教える手順は、意外と決まった形があります。AKC(American Kennel Club)の解説を軸に整理すると、次の4段階です。

  1. 1

    ルアー(手の誘導)で姿勢を作る

    おやつを持った手を鼻先につけ、ゆっくり動かして、犬が鼻でついてくる形で目的の姿勢に導きます。AKCは「押し下げない」ことを強調しており、おすわりについて「犬のお尻を押し下げるのは避けてください。威圧的で、混乱させます」と述べています。Dogs Trustも「してほしいことを見せる。物理的に無理やりやらせない」を挙げています。
  2. 2

    マーカーと報酬でその瞬間を切り取る

    姿勢ができた瞬間にマーカーを出し、直後におやつを渡します。渡すのは、犬がまだその姿勢のままのうちに。AKCはふせについて、犬が伏せてすぐ立ち上がってしまう「腕立て伏せ問題」への対処として「伏せている状態のあいだに報酬を与える」ことを挙げています。
  3. 3

    ルアーを抜いてハンドサインにする

    確実についてくるようになったら、おやつを持たない空の手で同じ動きをして、成功したら反対の手からおやつを出します。AKCはこの「空の手の動きがそのままハンドサインになる」と説明しています。慣れてきたら手の動きを少しずつ小さくしていきます。焦って一気に抜かず、段階的に薄めるのがコツです。
  4. 4

    言葉の合図を前に足す

    空の手のハンドサインに確実に反応するようになったら、ハンドサインの直前に「おすわり」と言葉の合図を入れます。AKCはふせについて「ハンドサインの1秒前に『ダウン』と言う」と具体的に書いています。順番は必ず「言葉 -> ハンドサイン」。逆にすると、犬は言葉を聞く前に手を見て動いてしまい、言葉が意味を持ちません。

ヒント

言葉の合図は1回だけ。反応がないときに「おすわり、おすわり、おすわりってば」と繰り返すと、その言葉は「無視してよい音」になっていきます。反応がなければ言葉を足すのではなく、1段階戻ってハンドサインからやり直します。Dogs Trustも「うまくいかないときは止めて、1段階戻り、次はもっとゆっくり進める」と勧めています。

進度の判断は、成功率で決めると迷いません。同じ条件で5回試して4〜5回できるなら次の段階へ、2〜3回なら同じ条件をもう少し続ける、0〜1回なら1段階戻す。犬が「だいたいできる」状態を保ったまま進めるほど、意欲が落ちにくくなります。AVSABの声明も、学習者は「常に安全だと感じられ、トレーニングから降りる選択ができなければならない」としています。手を止めて離れる、そっぽを向く、体をかく、といった様子が出たら、難しすぎるか、疲れたかのサインです。

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3D(時間・距離・妨害)と、「家ではできるのに外ではできない」問題

家では完璧なのに、公園に行った途端に反応しない。これはとてもよくあることで、犬の理解が浅いのではなく、犬が「文脈ごと」学ぶ動物だからです。The Royal Kennel Clubはおすわりの解説の最後に、「『おすわり』という言葉がどこにいても同じ意味だと犬が本当に理解するまで、さまざまな環境で教え直す」と書いています。MSD獣医マニュアルも「成功しやすい落ち着いた環境から始め、行動が身についてきたら、より気の散る場所へと進む」としています。

難易度の上げ方を整理する枠組みが3Dです。AKCの解説では次のように定義されています。

  • Duration(時間): その行動を犬が保つ長さ
  • Distance(距離): 犬がその行動をしているときの、あなたとの距離
  • Distraction(妨害): 犬の気を引くもの。リス、インターホン、道の匂い、他人のおやつなど

AKCが強調するのは「一度に取り組むDは1つだけ、妨害は最後に回す」という原則です。そして1つを上げるときは他を下げます。同記事は「距離に取り組むときは、時間を1秒に戻し、妨害は最小限にする」と具体的に書いています。順序としてはDuration、Distance、Distractionの順が勧められています(まての解説記事では、距離には気の散る要素が最初から含まれているという理由で距離を最後に回す進め方も紹介されています)。

段階時間距離妨害
11〜3秒真横静かな室内
210〜30秒真横静かな室内
31〜3秒に戻す1歩 -> 3歩静かな室内
410〜30秒3歩静かな室内
51〜3秒に戻す真横家族が歩く/おもちゃが転がる
65〜10秒数歩玄関前・庭・静かな道
75〜10秒数歩公園・他の犬が見える距離

表は目安です。犬によって進む速さはまったく違いますし、同じ犬でも日によって違います。大事なのは「上げるのは1つだけ、下げるのは遠慮なく」という運用のほうです。

メモ

場所を変えると一時的にできなくなるのは、失敗ではなく想定内です。新しい場所ではいったん「1秒・真横・おやつ毎回」まで戻してやり直すと、驚くほど早く戻ります。家、玄関、庭、いつもの散歩道、公園、動物病院の待合室と、5〜6か所で通用するようになると、はじめての場所でもかなり安定してきます。

種目別の手順

おすわり

  1. 1

    鼻先におやつを持った手をつける

    立っている状態から始めます。犬の鼻先すれすれに、おやつを握った手を近づけます。
  2. 2

    頭の上を通してお尻の方向へ

    AKCは「ゆっくりとおやつを頭の上、そしてお尻の方向へ持ち上げる」と説明しています。The Royal Kennel Clubは「手を弧を描くようにゆっくり動かし、犬が鼻で追って頭が上がると、お尻が床に下りる」と書いています。押し下げないでください。
  3. 3

    座った瞬間にマーカーと報酬

    お尻が床についた瞬間に「イエス」(またはクリック)、直後におやつ。座ったままの状態で渡します。立ち上がってから渡すと、立ち上がる動作を強化してしまいます。
  4. 4

    リセットして繰り返す

    おやつを少し離れた床に投げるか、自分が1歩動くと、犬は自然に立ち上がります。これを1セッション5〜10回。
  5. 5

    ルアーを抜き、言葉を足す

    空の手で同じ動きをし、成功したら反対の手からおやつ。反応が安定したら、手の動きの直前に「おすわり」と1回だけ言います。

座らずに飛びついたり後ずさりしたりする場合は、手の位置が高すぎることが多いです。鼻先から離さず、ゆっくり動かしてください。それでも難しいときは、犬が自分から座った瞬間を捉えて褒める「キャプチャリング」に切り替えると、うまくいくことがあります。

ふせ

  1. 1

    おすわりから始める

    まずおすわりの姿勢を作ります。立った状態からでも教えられますが、最初はおすわりからのほうが分かりやすいことが多いです。
  2. 2

    L字にルアーする

    AKCは「おやつを前足のあいだへ下ろし、そのまま床に沿って犬から離れる方向へ動かす」というL字の動きを紹介しています。真下に下ろす -> 手前から向こうへ床を滑らせる、の2段階です。
  3. 3

    肘と胸が床につくのを待つ

    途中でお尻が浮いてしまうときは、動かす距離を短くします。少しでも下がったところでマーカー、という「途中の段階」を報酬でつないでいくと進みます。
  4. 4

    伏せている最中に報酬を渡す

    AKCは、伏せてすぐ立ち上がる犬への対処として「伏せている状態のあいだに報酬を与える」ことを挙げています。連続で2〜3個渡すと、伏せたままでいる時間が伸びます。
  5. 5

    ルアーを抜き、言葉を足す

    空の手でL字の動きをし、反対の手から報酬。安定したら、ハンドサインの直前に「ふせ」と言います。

ヒント

フローリングや冷たい床、硬い床では伏せたがらない犬がいます。まずはマットやラグの上で試してください。AKCは、それでも難しい場合の工夫として、座った自分の脚(小型犬の場合)やスツール・踏み台(大型犬の場合)で橋を作り、その下をくぐらせるように誘導し、くぐるために自然と伏せる形を作る方法を紹介しています。また「疲れているときに練習する。散歩や遊びのあとに取り組む」とも勧めています。

まて(解除の合図を必ずセットで)

「まて」でいちばん大切なのは、実は「終わり」の合図です。AKCは「まて」の教え方の最初のステップに解除の合図(release cue)を置いており、「オーケー」「フリー」「リリース」といった言葉を先に教えるよう勧めています。日本語なら「よし」「オッケー」などを1つ決めます。ただしAKCは「オーケー」について、日常会話で頻繁に出てくる言葉なので、意図せず解除してしまいやすいと注意を促しています。会話で出にくい言葉を選ぶほうが安全です。終わりが決まっていないと、犬は「いつまで?」が分からず、自分の判断で動き出すようになります。

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    解除の言葉を先に教える

    おすわりかふせをさせ、1秒待っておやつ。そのあと解除の言葉を言い、体を動かすよう促して褒めます。「この言葉が出たら動いていい」を先に作ります。
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    1秒から始める

    おすわりの姿勢で「まて」と1回言い、1秒後に報酬。次に3秒、5秒と伸ばします。Dogs Trustも1秒から始めて5秒へ、という進め方を紹介しています。
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    10秒を目安に、時間をばらつかせる

    10秒程度もつようになったら、3秒・7秒・2秒・10秒のように長さをランダムにします。Dogs Trustは、犬が報酬のタイミングを予測しないようにするためだと説明しています。
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    距離を足すときは時間を1秒に戻す

    体を少し傾ける、1歩下がる、と少しずつ。AKCの3D解説記事は、距離に取り組むときは時間を1秒に戻し、妨害を最小限にすると勧めています。
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    必ず犬のところへ戻ってから解除する

    AKCは「解除する前に必ず犬のところへ戻る」としています。Dogs Trustも「報酬を与える前に必ず犬のところへ戻る」と同じことを書いています。遠くから呼んで解除する形を繰り返すと、「離れる=もう動いていい」という誤解が育ちます。
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    妨害は最後に

    AKCの「まて」の解説記事は、まず30秒の持続を作り、そのうえで妨害と距離を足すよう勧めています(距離には気の散る要素が最初から含まれるため、距離を最後に回す進め方です)。前のステップで距離を試すのは、あくまで30秒が安定してからにしてください。おもちゃを床に置く、家族が歩く、玄関のチャイムを小さく鳴らす、と段階を作ります。

玄関での「まて」は、生活に直結する応用です。Dogs Trustは、閉まったドアの前で落ち着いた様子(足を床につけている、あるいは座っている、リードがたるんでいる)を待って報酬を与え、少しずつドアを開け、前に出ようとしたら静かにドアを閉めてやり直す、という手順を紹介しています。これを繰り返すと、ドアや車から降りるときに自然に待つようになるとしています。

注意

「まて」は完璧にはなりません。強い刺激の前では破れることがあります。玄関・駐車場・道路沿いでは、合図に頼らず、リード・ゲート・二重扉といった物理的な備えを併用してください。AVSABの声明も、行動の管理(環境を整えて、望ましくない行動が起きにくい状況を作ること)は犬のトレーニングにおいて重要な役割を持ち、すべてのトレーニングおよび行動修正の計画で検討されるべきだとしています。

ハウス(クレートを安心できる場所にする)

クレートは「閉じ込める箱」ではなく、犬が自分から入りたくなる巣穴のような場所にするのが目標です。Humane World for Animals(旧The Humane Society of the United States)は、犬が「立ち上がって向きを変えられる大きさ」を目安に挙げています。Dogs Trustはさらに、「立つ、向きを変える、伏せる、座る、しっぽを振る、体を完全に伸ばす」ができる大きさを勧め、学習中に事故で閉じ込められないよう「扉をしっかり開いた状態で固定する」ことを挙げています。

  1. 1

    置き場所を決め、扉を開けたままにする

    家族の気配がある落ち着いた場所に置き、寝床や毛布、おもちゃを入れます。Dogs Trustは、すきま風や音を減らすために上と側面を毛布で覆う方法も紹介しています。扉は開いたまま固定します。
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    中に良いことが起きる場所にする

    おやつやおもちゃを入り口付近から少しずつ奥へ置き、犬が自分から入るのを待ちます。無理に押し込まないでください。散歩のあとなど、自然に落ち着いている時間帯に取り組むと進みやすいとされています。
  3. 3

    食事を中で食べる

    Humane Worldは、食器を少しずつ奥に置いていき、落ち着いて中で食べられるようになったら食事中だけ扉を閉め、食べ終わってから開けるまでの時間を「10分ほど」まで伸ばしていく手順を紹介しています。
  4. 4

    合図をつけて、いる時間を伸ばす

    「ハウス」などの合図とおやつ・称賛をセットにします。Humane Worldは、飼い主がそばにいる状態で「5〜10分」の練習をし、そのあと自分が部屋を出ている時間を少しずつ足していき、静かに「約30分」過ごせるようになることを目安にしています。
  5. 5

    外出や就寝に使う

    Humane Worldは、出かける「5〜20分前」にクレートに入れ、別れ際は淡々と、と勧めています。夜は最初のうち、子犬なら寝室の近くに置くとしています。

注意

クレートを罰として使わないでください。Dogs Trustは「罰として使わないこと。クレートに入ることを嫌な感情と結びつけてしまう可能性がある」としています。時間の目安として、Humane Worldは生後6か月未満の子犬は「一度に3〜4時間を超えない」、成犬は「日中は4〜5時間を超えない」としています。また、クレートは分離不安の解決策にはならず、分離不安がある場合は専門家の介入が必要だとしています。留守番中に鳴き続ける、よだれ、破壊、脱走しようとして怪我をする、といった様子がある場合は、クレートの練習を続けるより先に相談してください。

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うまくいかないときの立て直し: 「聞かない理由」を切り分ける

「言うことを聞かない」とひとくくりにせず、原因を分けて考えると打ち手が見つかります。

見立てサインやること
合図が伝わっていない手を出すと動くが、言葉だけだと固まるハンドサインの段階に戻り、言葉 -> ハンドサインの順序をやり直す。家族で言葉がずれていないか確認
報酬が弱い家ではできるが外だと無反応屋外ではより価値の高いおやつに切り替える。ふだんのフードでは外の刺激に勝てないことが多い
環境が難しすぎる落ち着かない、匂いを嗅ぎ続ける、こちらを見ない3Dを1段階ずつ下げる。距離を取る、時間を1秒に戻す、静かな場所に移す
疲れ・空腹・興奮セッション後半で崩れる、噛みつき遊びになる1回5〜10分で切り上げ、成功で終える。排泄と運動を先に済ませる
体調や痛み以前できていたおすわり・ふせをしぶる、片側に傾いて座る、立ち上がるのに時間がかかる練習を止めて動物病院に相談する
加齢による変化反応が鈍い、呼んでも気づかない、夜間の混乱聴力・視力・認知機能の評価を含めて獣医師に相談する

注意

「ふせ」や「おすわり」をいやがるようになったときは、しつけの問題ではなく痛みのサインであることがあります。コーネル大学獣医学部Riney Canine Health Centerは、犬の痛みの兆候として「座る、階段を上る、休んでいる姿勢から起き上がることの困難」「姿勢の変化(座ったり横になったりする回数が増える、背中を丸める、頭を低く保つ)」「触られることへの反応の変化(いつもは甘えん坊の犬が、触られたり抱かれたりすることを嫌がるようになる)」「らしくない噛みつこうとする・うなるといった苛立ちや攻撃性」を挙げています。同センターは変形性関節症(骨関節炎)についても、休息後に起き上がりにくい、階段の上り下りが難しい、遊びたがらない、といった所見が一般的だとしています。無理に姿勢を取らせず、まず受診してください。

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おやつはいつまで使う? 強化スケジュールの薄め方

「一生おやつが必要になるのでは」という心配はよく聞きます。答えは「新しく教えるあいだは毎回、身についたら間引く」です。

AAHAのガイドラインは、行動の治療・修正で広く受け入れられている原則として、「新しい行動は、それが起きるたびに報酬を与えるとき、もっともよく学習される」「行動が獲得されたあとは、ランダムかつ間欠的に報酬を与えるときにもっともよく維持される。これは『たまに』よりは高い頻度である」と挙げています。VCAも「新しい合図や課題は連続強化で始め、ペットが一貫して反応するようになったらすぐに間欠的で変動的な頻度に切り替える」とし、その理由として、変動的なスケジュールのほうが行動が強く長続きするからだと説明しています。

実際の運用は、次のように進めると分かりやすいはずです。

  1. 1

    習得期は毎回

    正解のたびにマーカーとおやつ。ここをけちると定着しません。
  2. 2

    定着したら3回に2回、2回に1回へ

    おやつが出ない回には、明るい声の称賛やなでる、遊ぶを当てます。VCAも、行動が学習されたら「なでる・褒める」といった控えめな報酬に切り替え、より好まれる報酬は間欠的に与える、と説明しています。
  3. 3

    ランダムにする

    「毎回」でも「たまに」でもなく、予測できない頻度にします。ここが強い行動を作る肝です。
  4. 4

    生活のごほうびに置き換える

    座ったらリードをつける、待てたら玄関のドアが開く、ハウスに入ったら食事が出る。犬が今ほしいものを報酬にすれば、おやつの出番は自然に減ります。
  5. 5

    難しい場面では毎回に戻す

    動物病院、初めての場所、他の犬がいる公園。難易度が上がる場面では習得期と同じ「毎回」に戻すのが、うまくいくコツです。

ヒント

家族で合図と基準をそろえることも、報酬と同じくらい効きます。誰かが「おすわり」の途中で立ち上がってもおやつを渡していると、基準が崩れます。合図の言葉、ハンドサイン、解除の言葉、そして「どこまでできたら報酬か」を紙に書いて冷蔵庫に貼っておくくらいで、ちょうどよいと思います。

子犬・シニア・保護犬での違い

子犬

AVSABの「Puppy Socialization」ポジションステートメントは、「子犬の社会化のもっとも重要な時期は生後3か月間である」とし、この時期に子犬を、過度の恐怖・引きこもり・回避を引き起こさない範囲で、安全にできる限り多くの新しい人・動物・刺激・環境にさらすべきだとしています。基本のしつけもこの時期から始められます。同声明は「一般に、子犬は生後7〜8週齢からパピークラスを始められる。初回クラスの少なくとも7日前に最低1回のワクチン接種と初回の駆虫を受けているべきで、クラス期間中はワクチンを最新の状態に保つべきである」としています。具体的なスケジュールはかかりつけの獣医師と相談してください。

子犬は集中が続く時間が短いので、1回2〜3分を1日に何度か、が現実的です。歯の生え変わりや興奮でうまくいかない日は、無理に続けないほうが結果的に早く進みます。

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シニア犬

シニア期の犬でも新しいことは覚えられます。ただし、ふせやおすわりが体にとって負担になっていないかを先に確認してください。関節に不安があるなら、ふせを求めずに「マットの上で立ったまま待つ」に置き換える、といった設計変更のほうが親切です。聴力が落ちている場合は言葉よりハンドサインのほうが伝わることがあり、視力が落ちている場合はその逆です。反応が鈍くなった、夜に落ち着かない、覚えていたことを忘れる、といった変化は加齢だけでなく認知機能の変化のこともあるので、獣医師に相談してください。

保護犬

新しい環境に来たばかりの犬に、いきなり合図を教えようとしないほうがうまくいきます。まずは寝床、食事、トイレ、静かに休める場所を整え、こちらから距離を詰めないところから。手を近づけると固まる、後ずさりする、といった様子があるうちは、ルアーの手も脅威になります。床におやつを置く、名前を呼んでこちらを見たら報酬を落とす、といった「距離のある関わり」から始めてください。AVSABの声明が言うように、学習者がいつでも「降りられる」状態を保つことが、結局はいちばんの近道です。

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専門家に頼る目安と、日本でのトレーナーの選び方

次のような場合は、独学で粘るより早めに相談したほうが安全です。

  • うなる、歯を当てる、噛むといった攻撃的な行動がある
  • 特定の人・犬・場所を強く怖がり、パニックを起こす
  • 留守番中に鳴き続ける、破壊する、脱走しようとして怪我をする
  • 以前できていたことが急にできなくなった(まず動物病院へ)

AAHAのガイドラインは「攻撃性の症例では、罰は用いるべきではない。咬傷のリスクを高め、攻撃行動を悪化させるからである」としています。AVSABの「How to Choose a Trainer」も、恐怖・不安・攻撃性が起きている場合は、行動学の知識をもつ獣医師、獣医行動学専門医(DACVB)、あるいは資格を持つ行動コンサルタントに連絡するよう勧めています。

日本での探し方

日本には「ドッグトレーナー」という国家資格はなく、名称を独占する制度もありません。民間団体の認定資格はいくつもありますが、資格の有無だけで手法の中身は分かりません。

一方で、業として犬の訓練を行う場合は、動物愛護管理法にもとづく第一種動物取扱業の登録が必要です。環境省の説明では、第一種動物取扱業の種別のひとつ「訓練」は「顧客の動物を預かり訓練を行う業」とされ、例として「動物の訓練・調教業者」「出張訓練業者」が挙げられています。同省は「代理販売やペットシッター、出張訓練などのように、動物の所有や飼養施設がない場合も、規制の対象になります」とし、登録せずに営業した場合は100万円以下の罰金に処せられるとしています。依頼先が登録を受けているかは、都道府県や政令市の動物愛護担当部署で確認できます。

手法の見分け方については、AVSABが公開している飼い主向けの手引き「How to Choose a Trainer」に、そのまま使えるチェックリストが載っています。

グリーンフラグ(望ましい)レッドフラグ(避ける)
ごほうび(おやつ・おもちゃ・称賛)を使うプロングカラーや電気ショックカラー、押す・引く・突く・叩く、リードショック、仰向けに転がす、耳や口をひねる、音の出る缶、水スプレー
コミュニケーション、キュー(合図)、関係や強い絆づくりという言い方ボス、アルファ、パックリーダー、優位/服従、尊敬、服従させる、命令、という言い方
クリッカートレーニング、フォースフリー、陽性強化「バランス型」トレーニング
望ましくない行動を予防し、代わりの行動を教える望ましくない行動を罰する・矯正する
明るい声のトーンとやわらかい身体表現きつい声、怒鳴る、足を踏み鳴らす、威嚇的な身体表現
犬本来の行動の発散、選択、全体的な幸福を後押しする犬本来の行動を封じ、選択を制限し、支配を求める

AVSABの2021年の声明も同じ趣旨で、「トレーナーが嫌悪的なトレーニング方法を使っているのを見た場合、あるいは『ドミナンス』『パックのリーダー』『アルファ』理論といった時代遅れの考えを語る場合は、依頼しないよう助言すべきである」としています。AAHAのガイドラインも「道具や技法にプロングカラー、ショックカラー、リードや首輪を引く・ぐいと引っ張ることが含まれる場合、あるいはトレーナーが行動を『優位性』の言葉で説明したり、犬に物を投げつけたりする場合は、トレーナーを替えるよう助言する」と書いています。

ヒント

見学ができるなら、実際のレッスンを1回見せてもらうのがいちばん確実です。AVSABは獣医師向けに「可能な限り、紹介する前にトレーナーの手法を面談し、観察するべきだ」と勧めています。飼い主にも同じことが言えます。犬が楽しそうか、自分の質問に答えてくれるか、納得できない指示に「別の方法はありますか」と聞ける雰囲気か。AVSABは飼い主向けの手引きで、話を聞いてもらえない・支えられていないと感じたら別のトレーナーを選ぶよう勧めています。

よくある質問

おやつが無いと何もしません。ずっとおやつが必要ですか。
新しく教えているあいだは毎回、身についたら間引いていくのが基本です。AAHAのガイドラインは、新しい行動は起きるたびに報酬を与えるともっともよく学習され、獲得されたあとはランダムかつ間欠的な報酬でもっともよく維持される(それは『たまに』よりは高い頻度)としています。VCAも、連続強化で始めて一貫して反応するようになったら間欠的・変動的な頻度に切り替えると説明しています。さらに、座ったらリードをつける、待てたらドアが開く、といった生活の中のごほうびに置き換えていくと、おやつの出番は自然に減ります。なお、手におやつを見せてから合図を出す癖がつくと『見せないとやらない』状態になりやすいので、合図は手ぶらで出し、成功してからおやつを出す順序を守ってください。
家ではできるのに、外に出るとまったく反応しません。
犬は文脈ごと学ぶ動物なので、これはごく普通のことです。The Royal Kennel Clubは、その言葉がどこにいても同じ意味だと犬が本当に理解するまで、さまざまな環境で教え直すよう勧めています。新しい場所では、いったん時間1秒・距離は真横・おやつは毎回、まで戻してやり直してください。屋外ではごほうびの価値も上げます(ふだんのフードでは外の刺激に勝てないことが多いです)。玄関前、庭、静かな道、公園、と少しずつ難易度を上げ、5〜6か所で通用するようになると安定してきます。
「まて」が5秒ももちません。
多くの場合、時間・距離・妨害を同時に上げてしまっています。AKCは、取り組むDは一度に1つだけ、妨害は最後に回し、距離を伸ばすときは時間を1秒に戻して妨害を最小限にするよう勧めています。また、解除の合図がないことも原因になります。「よし」などの終わりの言葉を先に教え、AKCとDogs Trustが共通して勧めているとおり、解除する前に必ず犬のところへ戻ってください。遠くから解除する形を繰り返すと、離れること自体が『もう動いていい』の合図になってしまいます。
クレートに入れると鳴き続けます。無視すればいいですか。
鳴き続けるのは、段階が早すぎるか、そもそもクレートが安心できる場所になっていないサインであることが多いです。Dogs Trustは、鳴く・出ようと引っかくといった不安のサインが出たら、犬が安心できていた段階まで戻すよう勧めています。扉を閉める前の段階、食事を中で食べる段階に戻してやり直してください。罰として使うのは避けます。留守番中に鳴き続ける、よだれ、破壊、脱走しようとして怪我をするといった様子がある場合は、分離不安の可能性があります。Humane World for Animalsも、クレートは分離不安の解決策にはならず専門家の介入が必要だとしています。獣医師や行動の専門家に相談してください。
叱ってはいけないのですか。危ないことをしたときはどうすれば。
危険な状況では、まず体を使って止める(リードを短く持つ、抱き上げる、扉を閉める)のが最優先です。それは罰ではなく安全確保です。そのうえで、同じ状況が繰り返されないよう環境を整え、代わりにやってほしい行動を教えます。AVSABは、飛びつき・吠え・トイレの失敗といったよくある課題は、環境を適切に整え、望ましい反応を強化することで対処できるとしています。痛みや恐怖を与える方法は、AVSABもAAHAも用いるべきでないとしており、とくに攻撃性のある犬に対しては、AAHAが『咬傷のリスクを高め、攻撃行動を悪化させる』として罰を用いないよう明記しています。
成犬になってから、あるいはシニアになってからでも覚えられますか。
覚えられます。子犬より時間がかかることはありますが、手順は同じです。シニア犬では、おすわりやふせが関節に負担になっていないかを先に確認してください。コーネル大学獣医学部Riney Canine Health Centerは、座ることや休息姿勢から起き上がることの困難を犬の痛みの兆候として挙げています。しぶる様子があれば練習を止めて動物病院に相談し、必要なら『立ったまま待つ』など体に合った形に置き換えましょう。
家族によって犬の反応が違います。
合図の言葉、ハンドサイン、解除の言葉、そして『どこまでできたら報酬か』の基準がずれていることが原因のことが多いです。まず言葉を1つに統一し、ハンドサインを実際にやってみせて合わせてください。基準についても、途中で立ち上がったら報酬なし、といったルールを共有します。子どもが練習に参加する場合は、大人が見ている場面に限り、おやつは平手にのせて渡すなど、安全な形を先に決めておくと安心です。

まとめ

おすわり・ふせ・まて・ハウスは、家族に見せる芸ではなく、飛びつきや飛び出し、拾い食い、通院、災害時の避難といった場面で愛犬を守る道具です。環境省の告示も「制止に従うよう訓練に努めること」を飼い主の努力義務として挙げ、災害対策ガイドラインも「待て」「おいで」「お座り」「伏せ」とケージへの慣らしを備えの例として挙げています。

方法については、AVSABが2021年の声明で、行動の問題の治療を含むすべての犬のトレーニングで報酬ベースの方法のみを用いることを推奨し、嫌悪的方法は用いるべきでないと明言しています。AAHAのガイドラインも、プロングカラーやチョークカラー、アルファロール、ドミナンスダウン、電気ショックカラーなどを「行動を教えるにも変えるにも使うべきではない」としています。優位性理論を前提とした関わりは、AVSAB・Dogs Trust・RSPCAのいずれも推奨していません。

技術としては、ルアーで姿勢を作り、マーカーで正解の瞬間を切り取り、ルアーを空の手のハンドサインに変え、最後に言葉の合図を前に足す。難易度は3D(時間・距離・妨害)を一度に1つだけ上げ、うまくいかなければ遠慮なく1段階戻す。1回5〜10分、成功で終える。おやつは習得期は毎回、定着したらランダムに間引き、生活の中のごほうびへ置き換えていく。

そして、できない理由の切り分けを忘れないでください。合図が伝わっていないのか、報酬が弱いのか、環境が難しすぎるのか、それとも体調や痛みなのか。以前できていたおすわりやふせをしぶるようになったときは、しつけの問題として粘らず、動物病院に相談してください。攻撃性や強い恐怖、分離不安が疑われる場合も、早めに獣医師や行動の専門家に頼るのがいちばん安全です。犬の覚え方には大きな個体差があります。よその子と比べず、その子が「だいたいできる」を保てる難しさで、少しずつ進めていきましょう。

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