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犬が家具・壁・コードをかじる|破壊行動の理由と、叱らずに減らす環境づくり

対象の目安: 子犬〜成犬

カエデ・しつけ・散歩担当
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犬が家具・壁・コードをかじる|破壊行動の理由と、叱らずに減らす環境づくり

帰宅したら、ソファの角が削れている。テーブルの脚に歯型がついている。壁の巾木がかじられ、白い粉が床に散っている。買ったばかりのカーペットの端がほつれ、テレビの裏の配線が一本、無残に噛みちぎられている——犬と暮らしていると、こうした光景に出くわす日があります。

このとき、多くの飼い主さんの頭に浮かぶのは「なぜうちの子だけ」「わざとやっているのでは」「しつけが足りないのだろうか」という考えではないでしょうか。実際、SNSでは「叱ったら止まった」「霧吹きをかけたら効いた」といった話も流れてきます。

けれども、英語圏の動物福祉団体や獣医療の解説を読むと、出発点はまったく違うところにあります。米国のASPCAは、犬が物をかじることについて「Chewing is a perfectly normal behavior for dogs of all ages」——かじることは、あらゆる年齢の犬にとってまったく正常な行動である、と明言しています。つまり問題は「かじること」そのものではなく、「かじってほしくない物をかじっていること」と「そのかじり方が危険なこと」の2つに絞られます。

この記事では、犬が家具・壁・柱・カーペット・電気コードなどをかじる、いわゆる破壊行動について、理由の切り分け方、本当に危険な部分、そして叱らずに減らしていくための環境づくりと練習を整理します。

なお、この記事が扱うのは「物」への破壊行動です。人の手や服に歯を当てる甘噛みは、原因も対処も別の話になります。そちらは下の記事にまとめているので、当てはまるほうを読んでください。

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かじるのは正常な行動——「壊す犬」ではなく「かじる動物」

対策の前に、前提をそろえておきます。ここがずれていると、どんな方法も的外れになってしまいます。

「困った行動」の前に「正常な行動」がある

ASPCAの解説は、まず「It's normal for puppies and dogs to chew on objects as they explore the world」——子犬も成犬も、世界を探索する過程で物をかじるのは正常なことだ、という一文から始まります。そして「Chewing is a perfectly normal behavior for dogs of all ages. Both wild and domestic dogs spend hours chewing bones」——野生の犬も家庭の犬も、何時間も骨をかじって過ごす、と続けています。かじることは、歯の痛みをやわらげ、あごの強さと歯の健康を保ち、退屈をまぎらわせ、不安や欲求不満を発散する役割を持つとされています。

VCA Animal Hospitalsの解説も同じ立場です。子犬が人や家具、大事にしている物をかじるのは「normal puppy behavior(正常な子犬の行動)」であり、「Dogs learn much about the world around them through how things feel, and they primarily use their mouth to touch and grab things」——犬は物の感触を通して周囲の世界を学び、主として口で触ったりつかんだりする、と説明しています。とくにレトリーバーのような「mouthy(口を使いたがる)」と言われる犬種では、この傾向が強く出るとしています。

オーストラリアのRSPCAのナレッジベースも、かじることは「犬の身体的・精神的な健康を保つために重要な行動」であり、犬にはその機会を与えるべきだとしています。

メモ

「かじるのは正常」というのは、「家具を壊されても仕方がない」という意味ではありません。正常な欲求だからこそ、消そうとするのではなく、安全な出口を用意して、そちらへ流していくのが現実的だ、という意味です。人間の側で完全に禁止しようとすると、犬にとって逃げ場がなくなり、かえってこじれます。

甘噛みとは、そもそも主題が違う

犬の「噛む」問題は、大きく2つに分かれます。

甘噛み・噛み癖破壊行動(この記事)
対象人の手・腕・足・服の裾家具・壁・柱・カーペット・コード・靴など「物」
主な文脈人と関わっている最中(遊び・興奮・要求)単独でいるとき、退屈なとき、不安なとき
基本の対応遊びを中断して反応を消し、噛んでよい物へ置きかえる環境を変えて機会を減らし、かじってよい物と充足を用意する
危険の中心人がケガをする、成長後の本気噛みにつながる犬自身の感電・誤飲・歯の破折、家の破損

対象が違えば、必要な手当ても違います。人の手に歯を当てる問題は子犬の甘噛み・噛み癖の記事へ。この記事は、物をかじる・壊すほうに集中します。

いつまで続くのか

「そのうち落ち着きますか」という質問には、ある程度の答えがあります。

VCAは「Excessive chewing behavior seems to subside around 18 months of age but will continue to some degree, depending on the dog, for their whole life」——過剰なかじり行動は生後18か月ごろに落ち着いていくように見えるが、その犬によって程度の差はあれ、生涯にわたって続く、としています。そのうえで「かじる・なめる・口に入れるのは、探索と学習の方法として、また物をある場所から別の場所へ運ぶ方法として、犬にとって正常な行動である」と補っています。

ASPCAも、子犬期の激しいかじり行動は、永久歯が生えそろう生後6か月ごろまでに終わることが多いとしています。ただし、そこで「かじりたい気持ち」自体が消えるわけではありません。

つまり、待っていれば消える性質のものではなく、山は越えるけれど付き合いは続く、というのが正確なところです。 だからこそ、その場しのぎの対処ではなく、暮らしの設計を変えるほうが結局は早道になります。

理由を切り分ける: 破壊行動の6つの背景

同じ「かじる」でも、背景が違えば効く手当ても変わります。獣医療や動物福祉団体の解説で共通して挙げられているものを、6つに整理します。

1. 子犬の歯の生え変わり

もっともわかりやすい理由です。時期には目安があります。

  • VCAによると、子犬は生後3週ごろから歯が生え始め、生後6週ごろまでに乳歯がすべて生えそろいます。乳歯は28本です
  • 「At around 12 weeks, the deciduous teeth begin to fall out, and the permanent teeth begin to erupt. Normally, by six months of age, all permanent teeth have erupted, and all deciduous teeth have fallen out」——生後12週ごろから乳歯が抜け始めて永久歯が生え始め、通常は生後6か月までにすべての永久歯が生え、乳歯は抜け落ちる、とされています。永久歯は最大42本です
  • AKCの解説も「When a puppy is about 3-to-4-months-old, puppy teeth begin to fall out to make room for 42 adult teeth(生後3〜4か月ごろに乳歯が抜け始め、42本の永久歯のための場所を空ける)」「Once your puppy is 6-months-old, their baby teeth should've fallen out(生後6か月になるころには乳歯は抜けているはず)」としています
  • 日本の解説では、夕やけの丘動物病院の乳歯遺残についての記事(執筆:獣医師の神田氏、監修:嶋崎貴匡獣医師)が「生後3か月あたりから抜け始め、7か月あたりで永久歯が生え揃います」としています
  • オーストラリアRSPCAは「Puppies need to chew a lot during their teething phase (which starts at about 12 weeks of age)」——生後12週ごろから始まる生え変わりの時期、子犬はたくさんかじる必要がある、としています

VCAは、かじることが「生え変わりに伴うと考えられている不快感をやわらげているようだ」とも書いています。つまりこの時期のかじりは、痛みや違和感への自己対処という側面を持ちます。

ヒント

生え変わりの時期は「かじらせない」より「かじる場所を用意する」ほうがうまくいきます。冷やせるゴム製のかじりおもちゃなど、噛みごたえがあって歯を傷めないものを複数用意し、家具に向かったら静かに差し替えるのが基本です。ローテーションして数個ずつ出すと飽きにくい、というのはVCAも挙げている工夫です。

2. 退屈・運動不足・刺激不足

もっとも多く、そしてもっとも改善しやすい背景です。ASPCAは端的に「Bored dogs tend look for ways to entertain themselves, and chewing is one option」——退屈した犬は自分を楽しませる方法を探し、かじることはその選択肢のひとつだ、と書いています。

見分ける手がかりは、飼い主が家にいるときにも同じようにかじるかどうかです。ASPCAは分離不安との切り分けの項目で「Many young dogs engage in destructive chewing or digging while their guardians are home as well(多くの若い犬は、飼い主が家にいるときにも破壊的なかじりや掘り行動をする)」とし、退屈が理由の犬について「These dogs usually don't appear anxious(こうした犬はふつう、不安そうには見えない)」と説明しています。

在宅時も留守番中も分けへだてなくかじる、しかも様子は落ち着いている——このパターンなら、まず生活の中身を見直すのが近道です。

3. 不安(留守番中に限られるか)

不安が背景にあるとき、かじる行動は「気持ちを落ち着けるための行為」に近くなります。ASPCAは「Dogs who chew to relieve the stress of separation anxiety usually only chew when left alone」——分離不安のストレスをやわらげるためにかじる犬は、たいてい留守番のときだけかじる、としています。

VCAも、探索や遊びで生じるかじりと、「a state of conflict, arousal, or anxiety, such as separation anxiety(葛藤・興奮・不安の状態、たとえば分離不安)」の出口としてのかじりを分けて考え、必要な介入も異なるとしています。ここは次の章でくわしく扱います。

4. 注意獲得——「かじると人が動く」

見落とされやすい背景です。VCAは、犬がかじる動機のひとつとして「飼い主から注目を得ること」を挙げています。

考えてみると、これは仕組みとして自然に成立します。犬がおもちゃを噛んでいても誰も反応しないのに、リモコンやスリッパをくわえた瞬間、家中の人が立ち上がって追いかけてくる。声が飛び、手が伸び、追いかけっこが始まる。犬の側から見れば、これは退屈な午後に手に入るいちばん豪華なごほうびです。

AKCの「drop it」を教える記事も、追いかけることについて「This will only increase the likelihood of your dog taking forbidden things in the future」——将来、禁止された物をくわえる可能性を高めるだけだ、と警告しています。犬は追いかけっこを遊びとして受け取り、禁止された物のほうがむしろ魅力的になってしまうからです。

くわえて逃げるのを追いかけるのが、いつのまにか毎晩の恒例行事になっていました。追うのをやめて、代わりに別のおもちゃで誘うようにしたら、そもそも持ってこなくなりました。ごほうびを配っていたのは自分だったんだと気づきました。
成犬と暮らす飼い主

5. ストレス・欲求不満

ASPCAは、犬が不安だったり動揺しているとき、あるいはやりたい行動を妨げられているときにかじることがある、としています。例として挙げられているのは、仲の悪い動物のそばでクレートに入れられている状況や、車内で閉じ込められている間に子どもにからかわれる状況です。

このタイプで大切なのは、かじる行動そのものより、その犬が何を我慢させられているかに目を向けることです。窓の外の刺激に反応できない、寝ていたいのに休めない、近づきたい相手に近づけない——そうした葛藤が背景にあるなら、かじる出口を用意するだけでは足りません。

ASPCAはこのほか、生後7〜8週より前に早く離乳した犬に見られることがあるとされる「fabric sucking(布を吸う行動)」や、カロリー制限中の犬が食べ物を探して破壊的にかじることがある、という背景も挙げています。

6. 医学的な要因(痛み・消化器の不調・異食症)

最後に、そして重要なのがここです。行動の問題に見えるものの背景に、体の問題が隠れていることがあります。

夕やけの丘動物病院グループの行動診療科の紹介ページは「問題行動の背景には、不安・恐怖・ストレス・生活環境の変化、また痛みや病気が隠れていることも少なくありません」と書いています。行動診療という診療科がある理由のひとつが、まさにこの見きわめです。

とくに注意したいのが、飲み込んでしまう場合です。VCAの「Pica in Dogs」は、ピカ(異食症)を「食べ物ではない物を持続的に飲み込んでしまう状態」と定義し、プラスチック、紙、布、木の枝、石、マルチング材などを例に挙げています。背景となりうる身体的な状態として、炎症性腸疾患(IBD)、門脈体循環シャント、腸内寄生虫、膵外分泌不全(EPI)、貧血、栄養の不足や偏り、糖尿病、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、食欲に影響する脳の状態、コルチコステロイドやフェノバルビタールなどの薬の副作用を挙げています。行動面では不安、欲求不満、飼い主に取り返されないよう物を持ち去る行動を挙げています。

日本のグリーンパーク動物病院の症例報告も、誤食について「人間にとっては問題行動ですが、動物たちにとっては正常な行動であることが多い」としたうえで、「行動学的に別に原因があったり、実は内科疾患を抱えていたりする事もあるため、誤食癖を治療するには広い視野が必要」と述べています。

注意

これまで平気だった成犬が急にかじり始めた、しつこく舐めたりかじったりする場所が決まっている、かじると同時に食欲・便・元気に変化がある——こうしたときは、しつけの問題として扱う前に動物病院で体のチェックを受けてください。口の中の痛み(歯の破折や歯肉の炎症)、消化器の不調、皮膚のかゆみなどが背景にあることがあります。

切り分けのはやみ表

ここまでを、家庭で観察しやすい形にまとめます。

観察できること考えやすい背景最初に試すこと
生後3〜7か月、乳歯が抜けている歯の生え変わりかじってよい物の用意、家具のガード
在宅時も留守番中も同じようにかじる。様子は落ち着いている退屈・運動不足・探索運動量、嗅覚あそび、知育トイ、環境管理
留守番中だけ。ドア・窓・出入口のまわりが集中的に壊れる分離不安の可能性録画で確認し、獣医師・行動診療へ相談
かじると必ず人が反応している。反応がないとやめる注意獲得の学習追いかけない。環境で機会を減らし、別の要求の出し方を教える
特定の状況(来客、隣室の物音、留守番の直前)に限られるストレス・欲求不満引き金の特定と環境調整
急に始まった。飲み込んでいる。体調の変化を伴う医学的要因・異食症まず動物病院を受診

この表は、ASPCA、VCA Animal Hospitals、RSPCA(英国・オーストラリア)、Humane World for Animals、夕やけの丘動物病院グループ、グリーンパーク動物病院の各解説に記載されている内容を、編集部が家庭で使いやすい形に並べ直したものです。ここから病名や原因を確定できるという意味ではありません。複数の背景が重なっていることも珍しくありません。

分離不安による破壊かどうかを見分ける

破壊行動のなかで、対応をいちばん切り替える必要があるのが分離不安由来のものです。ここを取り違えると、「しつけを強めるほど悪化する」という最悪の循環に入ります。

手がかりは「いつ」と「どこ」

英国のRSPCAは、分離関連行動(separation-related behaviour, SRB)を「犬がひとりで残されたときに起こる行動で、多くの場合は苦痛の結果として現れるもの」と説明しています。そして、もっともよく見られるサインの筆頭に挙げているのが次の一文です。

「Destructive behaviour, including chewing and destroying furniture, (often near exits, doors or windows)」——家具をかじって壊すことを含む破壊行動。多くの場合、出入口やドア、窓の近くで起こる。

ASPCAも同じ特徴を挙げています。「Some dogs with separation anxiety chew on objects, door frames or window sills, dig at doors and doorways, or destroy household objects when left alone」——分離不安のある犬は、ひとりにされたときに物やドア枠、窓枠をかじり、ドアや出入口を掘り、家の物を壊すことがある。脱走しようとする場合、破壊は「exit points like windows and doors(窓やドアといった出口)」に集中する、としています。

そして決定的な一文がこれです。「If a dog's chewing, digging and destruction are caused by separation anxiety, they don't usually occur in his guardian's presence」——分離不安によるかじり・掘り・破壊は、通常、飼い主がいるところでは起こらない。

伴いやすいほかのサイン

RSPCAが挙げている、分離関連行動のよくあるサインは次のとおりです。

  • 破壊行動(家具をかじる・壊す。多くは出入口、ドア、窓の近く)
  • 遠吠え、吠え、クンクン鳴く
  • 排泄(おしっこ・うんち)の失敗
  • 帰宅時の過剰な興奮
  • 出かける前から不安のサインが出る

見落とされやすい、あまり多くないサインとしては、震え・パンティング、過剰なよだれ、自傷(過剰な前足なめや尾を噛むなど)、常同的な行動(旋回、行ったり来たり、吠え続ける)、嘔吐、留守中に食べない(食事もおやつも、フードトイにも興味を示さない)を挙げています。

タイミングについては「Behaviour shows before or after the owner leaves, starting within a few to 30 minutes」——行動は飼い主が出かける前または後に現れ、数分から30分以内に始まる、としています。

日本の解説でも、アニコム損保の「みんなのどうぶつ病気大百科」は、分離不安症の症状として「飼い主さんの留守中に部屋がぐちゃぐちゃになっていたり、物が破壊されていたりする」ことを挙げ、背景には飼い主と離れることへの強い不安があるとしています。

「見えていないだけ」ということも多い

RSPCAは、注意を引く数字も紹介しています。「Research suggests that 8 out of 10 dogs find it hard to cope when left alone. Yet, half won't show any obvious signs and so it can be easy for owners to miss」——研究によれば、10頭中8頭の犬がひとりで留守番することに困難を感じている。しかしそのうち半数は明らかなサインを示さないため、飼い主が見逃しやすい。

ヒント

いちばん確実な切り分けは、録画することです。 RSPCAも、犬が幸せそうに見えていても、ときどきカメラを設置して留守中の「隠れたサイン」を確認するようすすめています。破壊が起きた「結果」だけを見ていても、犬がどんな気持ちでそれをしたのかはわかりません。出かけて最初の30分を撮るだけでも、退屈して遊んでいるのか、パンティングをしながらドアを掘っているのか、まったく違う景色が見えてきます。

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分離不安が疑われるときの相談先

分離不安が疑われる場合、家庭でのしつけの工夫だけで押し切ろうとしないほうが安全です。RSPCAは、自分でできる対策で足りないときはかかりつけの獣医師に相談し、必要に応じて臨床動物行動学の専門家(clinical animal behaviourist)を紹介してもらうようすすめています。ASPCAも、専門家として認定応用動物行動学者(CAABまたはACAAB)、米国獣医行動学専門医(Dip ACVB)、認定ドッグトレーナー(CPDT)を挙げています。ただしASPCAは、CPDTの資格を持っていることが不安症の治療の専門性を保証するわけではないとして、恐怖に関連する問題への行動修正の経験や教育歴を確認するよう注意を添えています。

日本では、日本獣医動物行動学会が2013年から獣医行動診療科認定医の制度を運用しています。認定の要件には、学会の会員歴3年以上、学会主催講習会への参加、3年以上の臨床歴または研究歴、行動診療件数50件以上、書類審査と認定医試験の合格が含まれます。同学会のサイトには、認定医などが在籍する行動診療を行う施設が地域別に掲載されています。

メモ

分離不安が疑われるとき、いちばんやってはいけないのが「帰宅後に叱ること」です。RSPCAは「If your dog does something undesirable whilst you're out, it's important you don't show any signs of disapproval」——留守中に犬が望ましくないことをしても、不機嫌さを見せないことが大切だ、としています。叱ることは不安を増やし、次の留守番をさらにつらいものにします。

電気コードと誤飲——ここだけは「様子見」をしない

かじる行動のなかで、家具の傷とはまったく次元の違う危険が2つあります。電気コードと、飲み込みです。ここだけは、しつけの話に混ぜずに独立して備えてください。

電気コードをかじることの危険

MSD獣医マニュアル(Lightning Strike and Electrical Injury in Animals)は、「In small animals, chewing of electrical cords is the most common cause of electrical injury」——小動物では、電源コードをかじることが電気損傷のもっとも一般的な原因である、と書いています。そして、被害を受ける動物は若い個体(2歳未満)に多い、としています。

米国MSPCA-Angellの解説も、リスクが高いのは「生後8週から2歳」の若い犬猫であり、電気コードをおもちゃとみなしてしまうことが背景にあるとしています。損傷のしくみについては「The electrical energy coursing through the wire is converted to heat at the site of contact with tissue」——電線を流れる電気エネルギーが、組織と接触した部位で熱に変換される、と説明しています。つまり口の中に生じるのは熱傷(やけど)です。

MSD獣医マニュアルは、接触部位に一度から四度までの表面熱傷が見られることがあり、電源コードをかじった動物では「dental fractures and oronasal fistulas are also possible」——歯の破折や口腔鼻腔瘻も起こりうる、としています。

注意

もっとも怖いのは、その場では元気に見えることがある点です。 MSPCA-Angellは、感電後の合併症である肺水腫について「the onset of this complication can be delayed up to 12-36 hours」——この合併症の発症は12〜36時間まで遅れることがある、としており、受傷後は数日にわたって呼吸を注意深く観察する必要があるとしています。PetMDの解説(Rhiannon Koehler, DVM, MPH執筆)も「Fluid buildup in the lungs can take 12 to 36 hours to develop」と同じ時間幅を挙げています。日本の博多犬猫医療センターの解説も、感電では「何も問題がないように見えても、後から症状があらわれる場合があります」と注意を促しています。コードをかじった形跡があるなら、元気に見えても動物病院に連絡してください。

同院は、感電で見られる症状として、コードを噛んだ口の中などの局所的な皮膚のやけど、肺水腫(肺胞に水が溜まった状態)、呼吸困難、不整脈、筋肉の硬直や痙攣、意識障害を挙げています。PetMDも、皮膚や歯ぐきが青みがかる(チアノーゼ)ことをサインのひとつに挙げています。

シリウス犬猫病院が公開している症例報告では、電気コードを噛んだミニチュア・シュナウザーが来院し、口腔粘膜が蒼白の状態で酸素室に入り、レントゲンで肺水腫の所見はなく、血液検査でも大きな異常は認められなかった、と報告されています。この報告には、もうひとつ重要な記述があります。飼い主がコードを犬から引き離すときに、興奮した犬に噛まれて手から出血した、という点です。

注意

感電の可能性があるとき、まず電源を切る・プラグを抜くのが先です。PetMDは「Do not touch a dog who is still experiencing electric shock. The source of electricity needs to be disconnected before you touch your dog」——まだ感電している犬に触れてはいけない。触れる前に電源を切り離す必要がある、と明記しています。素手でコードや犬を引っぱると、人も感電したり、パニックになった犬に噛まれたりします。

火災という、もうひとつの危険

日本では、製品評価技術基盤機構(NITE)が「ペットによる火災事故」として注意喚起を出しています。NITEの資料によると、2013年度から2022年度までの10年間にNITEへ通知された製品事故情報のうち、ペットによる事故は61件発生し、そのうち約9割(61件中54件)が火災に至っています。ペットが電気製品に排尿したり、電源コードをかみついたりしたことによる事故も発生している、と書かれています。

NITEの啓発ポスター(電源コード「11.ペット放し飼い時の注意」)は、犬や猫が「電源コードをかじってしまうと、コードの断線によりショートして発火するおそれがあります」と説明し、電気製品に乗らないようにしたり、電源プラグをコンセントから抜いたりする対策を挙げています。同機構は、電気製品を使用しないときはプラグを抜いてペットの行動範囲外に保管すること、外出時はガスこんろの元栓を閉め、IHこんろ・電気こんろは主電源を切ること、操作ボタンをロックする機能があれば使用することも挙げています。

つまり、コードをかじる犬がいる家では、犬の安全と家の安全がセットの問題になります。 ここは「かじらないように教える」より先に、物理的に断つべき場所です。

飲み込むことの危険

かじって、飲み込む。ここからは誤飲・腸閉塞の話になります。

VCAの解説は、犬がかじるものについて「Because dogs tend to chew nearly everything, nearly everything has been found to cause problems」——犬はほぼ何でもかじるので、ほぼ何でも問題を起こしてきた、としたうえで、生皮(ローハイド)、豚の耳、動物の各部位、骨、合成素材のおもちゃ、テニスボールなどを挙げ、「Some of these objects have caused gastrointestinal blockages or intestinal punctures, which often require surgery and can be life-threatening; others have blocked the throat, causing dogs to asphyxiate」——これらのなかには消化管の閉塞や腸の穿孔を起こして、しばしば外科手術を要し、生命に関わることになったものもあれば、のどを塞いで窒息させたものもある、と書いています。

VCAの異食症の解説も「The most common problem that pica causes is gastrointestinal obstruction due to a non-digestible object getting stuck in the esophagus, stomach, or intestines」——異食症が起こすもっとも一般的な問題は、消化されない物が食道・胃・腸に詰まることによる消化管閉塞である、としています。

家具の綿、カーペットの繊維、クッションのファスナー、壁材のかけら、ぬいぐるみの中身。破壊行動の現場に散らばっているものは、そのまま誤飲のリスクリストでもあります。壊れた物の量だけでなく、「足りない分がないか」を確認する習慣をつけてください。

注意

かじった破片が見当たらない、明らかに量が減っている、ひも状のもの(タオル、靴下、カーペットの繊維)をかじっていた——このいずれかに当てはまるなら、元気そうに見えても動物病院へ連絡してください。とくにひも状の異物は、腸をたぐり寄せて折りたたみ、穿孔のリスクが高いとされています。家庭で吐かせようとしないことも重要です。

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叱る・驚かす・体罰が推奨されない理由

「かじったらその場で叱る」「大きな音でびっくりさせる」「霧吹きをかける」。こうした方法は今も広く語られていますが、専門団体の見解ははっきりしています。

AVSABの2021年の声明

米国獣医行動学会(AVSAB)は2021年、Humane Dog Trainingについての声明を公表しています。そのなかの中心的な一文が次のものです。

「The application of aversive methods – which, by definition, rely on application of force, pain, or emotional or physical discomfort – should not be used in canine training or for the treatment of behavioral disorders」——嫌悪的手法(その定義上、力・痛み・情動的または身体的な不快感の適用に依拠するもの)は、犬のトレーニングや行動学的問題の治療に用いるべきではない。

さらに「There is no evidence that aversive training is necessary for dog training or behavior modification(嫌悪的トレーニングが犬のトレーニングや行動修正に必要であるという証拠はない)」とも述べています。

声明が挙げている根拠を、いくつか拾います。

  • 観察研究では、嫌悪的手法や道具でトレーニングされた犬が、トレーニング中にストレス関連の行動を示した。具体例として、体のこわばり、姿勢を低くする、口をなめる、尾を下げる、前足を上げる、パンティング、あくび、鳴き声が挙げられている
  • 一方、報酬ベースの手法でトレーニングされた犬は、飼い主への注意が増したことが示されている
  • 調査研究では、嫌悪的手法の使用と、人や他の犬への攻撃行動、回避や興奮性といった不安に関連する行動を含む長期的な行動の問題との関連が示されている。ただし声明自身が、調査研究では因果と相関を区別できないと明記している
  • Hibyら(2004)では、報酬ベースの手法のみでトレーニングされた犬の従順性がもっとも高く、嫌悪的手法のみの犬がもっとも低かった。報酬と嫌悪を組み合わせた、いわゆる「バランス型」は、その中間だった

そしてAVSABは、避けるべき道具・手法として、痛みを伴うもの(チョークチェーン、プロングカラー、電気ショックカラー)、威嚇によるもの(霧吹き、音の出る缶、エアダスター、怒鳴る、にらむ、アルファロールやドミナンスダウンのような力による操作)、身体的な矯正(リードを引く、物理的な力)、フラッディング(強制的な曝露)を名指しで挙げています。

破壊行動に引きつけて言うと

AVSABの声明は、この記事のテーマに直接つながる一文も含んでいます。

「Common training issues such as jumping, barking, and housetraining can be managed by arranging the environment appropriately and reinforcing desirable responses」——飛びつき、吠え、トイレのしつけといったよくあるトレーニングの課題は、環境を適切に整え、望ましい反応を強化することで対処できる。

破壊行動もまさにこの型です。罰で減らそうとするより、環境を変えて機会を減らし、かじってよい物をかじったときにいいことが起こるようにするほうが、実装としても簡単で、副作用がありません。

「現場に戻して叱る」がとくに効かない理由

もうひとつ、多くの家庭でやってしまいがちなのが、帰宅後に壊れた物を見せて叱ることです。

ASPCAは「やってはいけないこと」として、次を明記しています。

  • 「Do not show your dog the damage he did and spank, scold or punish him after the fact(壊れた物を犬に見せて、事後に叩いたり叱ったり罰したりしないこと)」
  • 「Do not use duct tape to hold your dog's mouth closed around a chewed object(かじった物ごと犬の口をガムテープで閉じないこと)」
  • 「Do not tie a damaged object to your dog(壊れた物を犬にくくりつけないこと)」
  • 「Do not leave your dog in a crate for lengthy periods of time (more than six hours)(長時間、6時間を超えてクレートに入れたままにしないこと)」
  • 「Do not muzzle your dog to prevent chewing(かじるのを防ぐために口輪をつけないこと)」

VCAも「Arriving home and punishing a pet for an act that is already completed will only serve to increase the pet's anxiety」——帰宅してすでに終わった行為について罰することは、その動物の不安を増やすだけだ、としています。

Humane World for Animals(旧The Humane Society of the United States)の解説も「Scolding or pulling things out of your dog's mouth can cause behavior issues to develop」——叱ったり、口から物を引き出したりすることは、行動上の問題を発生させることがある、としています。オーストラリアRSPCAも「Punishing dogs for chewing or stopping them without understanding why they're chewing can lead to more problems」——なぜかじっているのかを理解せずに罰したり止めたりすることは、より多くの問題につながりうる、としています。

帰るたびに壊れているのが悔しくて、現場に連れていって叱っていました。そのうち、帰宅すると耳を伏せて隅に行くようになって。あれは反省していたのではなく、私が怖かっただけなんだと後から知りました。
子犬を迎えて半年の飼い主

メモ

犬が「しまった」という顔をするので反省しているように見える、というのはよくある感想です。ただ、この表情は「壊した行為」と結びついているとは限らず、帰ってきた人の表情や声色に反応している可能性があります。少なくとも、事後の罰が破壊行動を減らすという根拠は示されていません。かわりに不安が増える、という指摘のほうが繰り返し出てきます。

環境づくり: 「届かない」を先につくる

ここからが実践です。優先順位はきわめて明確で、環境管理が第一、練習が第二、道具は第三です。順番を逆にすると、うまくいきません。

原則は一行で言える

Humane World for Animalsの解説には、この分野でもっとも実用的な一文が載っています。

「If you don't want it in your dog's mouth, don't make it available」——犬の口に入れてほしくない物なら、手の届くところに置かないこと。

VCAも同じ考え方で、誘惑になる物(服、靴、子どものおもちゃ)を子犬の手の届くところに置かないこと、同時に安全なかじるおもちゃをたくさん用意すること、監督できないときはクレートや犬にとって安全な部屋に入れることを挙げています。

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    床から30〜60cmの高さで家を見直す

    犬の目線までしゃがんで、部屋をぐるりと見てください。テーブルの脚、ソファの角、巾木、カーペットの端、垂れているコード、椅子の下のかご。立って見ているときには気づかない誘惑が見つかります。写真を撮って家族と共有すると、対策が続きやすくなります。
  2. 2

    コードと配線を最優先で処理する

    感電・熱傷・火災という別格のリスクがある場所です。コードカバーや配線モールで覆う、家具の裏に回して届かなくする、束ねて高い位置に上げる、使っていない家電はプラグを抜いて片づける。博多犬猫医療センターも、コードやコンセントにカバーをつける、カーペットの下に隠す、高い場所へ移動する、留守番の際にはケージに入れる、といった対策を挙げています。NITEも、使わない電気製品はプラグを抜いてペットの行動範囲外に保管するよう促しています。
  3. 3

    かじられて困る物を物理的に区切る

    ペットゲートやサークルで部屋を区切る、扉付きの収納に移す、届く範囲から外す。「教える」より確実で、しかも今日からできます。とくに留守番中は、監督できない時間なので、範囲を絞るほうが安全です。
  4. 4

    かじってよい物を、かじってほしくない物の近くに置く

    ソファの脚をかじる犬なら、ソファの横にかじってよいおもちゃを置きます。VCAは、おもちゃをローテーションして数個ずつ出すことで「新鮮さ」を保つ工夫を挙げています。全部出しっぱなしにすると、犬にとってはどれも背景の一部になってしまいます。
  5. 5

    監督できる時間と、できない時間を分けて設計する

    ASPCAは、かじる行動が落ち着いたと確信できるまで、起きている時間はできるだけ監督するようすすめています。同時に、クレートに長時間(6時間を超えて)入れたままにしないことも明記しています。留守が長い日は、サークルや一部屋の範囲を安全化して確保するほうが現実的です。

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苦味スプレーの位置づけ

「かじられたくない場所に苦いスプレーを吹いておけばよいのでは」という発想は自然ですが、期待値は正確に持っておいたほうがよい道具です。

ASPCAは、かじってほしくない物すべてに忌避剤をスプレーし、2〜4週間、毎日塗り直すこと、と手順を示しています。そのうえで、忌避剤だけで解決するわけではなく、犬が「かじってよいのは何か」を学ぶ必要があると述べています。

Humane World for Animalsは、より直接的な注意を添えています。「Supervise your dog when you first try one of these deterrents. Some dogs will chew an object even if it's coated with a taste deterrent」——忌避剤を初めて使うときは犬を見ていること。犬によっては、忌避剤が塗ってあってもその物をかじる。

メモ

苦味スプレーは、次の3つを満たす場合の「補助」として考えるのが現実的です。1. 環境管理をすでにやっている、2. かじってよい物を十分に用意している、3. 運動と刺激が足りている。この3つが欠けたままスプレーだけに頼ると、犬は苦くない別の場所を探すだけになります。また、家具の素材によっては変色やしみの原因になるので、目立たない場所で試してから使ってください。なおASPCAは、味を先に覚えてもらう方法として、ティッシュや脱脂綿に少量つけて犬の口に入れる手順を紹介しています。スプレーを犬の口に直接吹きかける手順ではない点に注意してください。

環境づくりのチェックリスト

今日からできる環境の見直し

  • 犬の目線の高さで各部屋を見て、届く範囲の誘惑をリスト化した
  • 電源コードをカバー・モール・家具裏への収納で処理した
  • 使っていない家電のプラグを抜き、ペットの行動範囲外へ片づけた
  • 延長コードやタップを床に放置していない
  • カーペットの端・ラグの角・クッションのファスナーなど、飲み込みやすい部位を確認した
  • 監督できない時間の居場所(サークル・一部屋)を決めて、その範囲だけを安全化した
  • かじってよいおもちゃを複数用意し、ローテーションで数個ずつ出している
  • かじられて困る物(靴・リモコン・眼鏡・薬・子どものおもちゃ)の定位置を高い場所か扉付きの収納に決めた
  • ゴミ箱をふた付き、または犬が届かない場所に置いた
  • 家族全員が同じ運用をしている(誰か一人が床に物を置くと崩れる)

交換(トレード)の練習——取り上げない、追いかけない

環境を整えても、犬が何かをくわえてしまう瞬間はやってきます。そのときの対応が、長い目で見て破壊行動の頻度を左右します。

やってはいけない2つ

AKCの解説は、まず避けるべき2つを明確にしています。

  • 追いかけない。「Chasing your dog also increases the chance they'll swallow the object to prevent you from getting it first」——追いかけることは、先に取られまいとして犬が物を飲み込んでしまう可能性を高める
  • 口をこじ開けない。「Nor should you ever have to pry your dog's mouth open to retrieve an object. That puts you at risk of a bite and again may persuade your dog to swallow the object」——物を取り返すために犬の口をこじ開けるべきではない。それは噛まれるリスクを生み、やはり犬に飲み込ませてしまいかねない

つまり、力ずくの回収は、誤飲というもっとも危険な結果を自分から引き寄せる行為になりがちです。

交換(トレード)を教える

かわりに教えるのが、交換です。AKCが紹介している手順を、家庭で実行しやすい形に整理します。

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    価値の低い物から始める

    最初は、犬にとってそれほど魅力的でないおもちゃを使います。いきなり靴やリモコンで練習しないでください。うまくいかない経験を積ませてしまいます。
  2. 2

    くわえさせて、少し遊ばせる

    おもちゃを渡し、短い時間くわえて遊ばせます。ここで焦って取り上げないのがポイントです。
  3. 3

    価値の高いおやつを見せる

    犬にとってもっと価値の高いもの(肉系のおやつなど)を差し出します。多くの犬はおもちゃを落とします。落としたら、その瞬間をほめる、あるいはクリッカーやマーカー語で印をつけます。
  4. 4

    犬が食べている間に物を回収する

    おやつを食べているあいだに、静かにおもちゃを引き取ります。ここでも引ったくらないこと。
  5. 5

    そのおもちゃを返す

    これが重要な一手です。返してもらえる経験を重ねると、犬にとって「渡すこと」は損ではなくなります。取られっぱなしだと、次からくわえて逃げるようになります。
  6. 6

    言葉の合図をつける

    安定して落とすようになったら、落とす直前に「ちょうだい」「トレード」など短い合図を添えます。合図が先、行動が後、という順番を守ります。
  7. 7

    おやつを見せるタイミングを遅らせる

    最後に、おやつを見せてから落とすのではなく、合図で落としてからおやつを出すように移行します。ここまでできると、手におやつがない場面でも使えるようになります。

注意

すでに物を守ってうなる、噛もうとする(資源の防衛)といった様子が見られる犬では、この練習を自己流で始めないでください。AKCも「don't play this game if your dog is already exhibiting resource guarding or aggression around possessions」——所有物をめぐる資源防衛や攻撃性がすでに見られる場合、このゲームをしないこと、として、行動学の専門家や経験のあるトレーナーの助けを求めるようすすめています。

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「これはダメ」より「これをどうぞ」

日々の運用では、置きかえを基本にします。家具に向かったら、静かにかじってよい物を差し出し、そちらをかじり始めたらほめる。VCAも「望ましくない行動にごほうびを与えない。ほかの人にも与えさせない」としたうえで、子犬のエネルギーを運動やトレーニングへ振り向け、ボウルではなくパズルトイから食べさせることをすすめています。

「かじる行為」を否定するのではなく、「かじる先」を差し替える。 ここが一貫していると、犬にとってルールがとてもわかりやすくなります。

満たす: 運動・嗅覚あそび・かじってよい物の選び方

環境を整え、対応を変えても、満たされていない犬はまた別の出口を探します。 ここが最後の柱です。

運動と、頭を使う時間

ASPCAは、破壊的なかじりを防ぐために、体と頭の両方を使う機会をたっぷり用意するようすすめ、具体例として、毎日の散歩やおでかけ、他の犬とのオフリードでの遊び、引っぱりっこやボール遊び、クリッカートレーニングのクラス、ドッグスポーツ、フードパズルトイでの食事を挙げています。

ここで意外に効くのが、食事の出し方を変えることです。ボウルで30秒で終わっていた食事が、知育トイなら15分から30分の作業になります。1日2回の食事をすべて知育トイに置きかえるだけで、犬の1日の「することがある時間」はかなり変わります。

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嗅覚を使う遊びが効く理由

犬が鼻を使う機会を持つことについては、興味深い研究があります。

DurantonとHorowitzによる研究(Let me sniff! Nosework induces positive judgment bias in pet dogs. Applied Animal Behaviour Science. 2019年、211巻61〜66ページ)は、1歳以上の家庭犬20頭を、ノーズワーク(においを使って探す活動)を行う群10頭と、ヒールワーク(脚側歩行。鼻を使って探すことはしない)を行う群10頭に分け、2週間の実施の前後で認知バイアステストを行いました。その結果、ノーズワークを行った犬では、あいまいな刺激に近づくまでの時間が短くなりました。これは動物において楽観性のサインとされる指標です。ヒールワークの群ではこの変化は見られませんでした。

研究者らは、規則的なノーズワーク活動を通して嗅覚を使う時間を増やすことが、犬をより楽観的にし、「探して見つける」時間を与えることで福祉が向上すると結論づけています。

この研究は犬20頭の小規模な実験で、破壊行動が減るかどうかを直接調べたものではありません。「嗅覚を使う活動が犬の気分の指標を良い方向に動かした」という結果であり、家庭でのかじり対策への効果を保証するものではない点はご承知おきください。それでも、退屈や欲求不満が背景にある破壊行動に対して、「体を疲れさせる」以外の選択肢を持っておく理由にはなります。

家庭でできる嗅覚あそびは、道具がなくても始められます。

  • フードを部屋の何か所かに隠して探させる(最初は見える場所から)
  • タオルを丸めた中におやつを入れて、ほどいて取り出させる
  • スナッフルマットや、においを嗅ぎながら歩ける散歩コースを増やす
  • 段ボール箱に紙をくしゃくしゃにして入れ、おやつを混ぜる(飲み込む癖のある犬では監督下で)

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かじってよい物の選び方: 硬さとサイズ

「かじる出口を用意する」といっても、何でもよいわけではありません。ここは犬の歯を守る話になるので、獣医歯科の情報を確認しておきます。

VCAは、はっきりこう書いています。「Most veterinary dentists recommend against allowing puppies and older dogs to chew anything hard, because hard objects can break teeth, both deciduous and adult」——ほとんどの獣医歯科医は、子犬にも成犬にも硬い物をかじらせないよう推奨している。硬い物は乳歯も永久歯も折ってしまうからだ。硬い物の例として、ナイロン製の物、骨、鹿の角を挙げています。そして「Veterinary dentists often recommend, "don't let your dog chew anything that won't bend."」——獣医歯科医がよくすすめるのは「曲がらない物はかじらせない」だ、と紹介しています。

コーネル大学のRiney Canine Health Centerの解説も「Fractured teeth are commonly caused by chewing very hard objects」——歯の破折はとても硬い物をかじることでよく起こる、とし、問題になる物として鹿の角、ひづめ、骨、氷を挙げています。判定の目安として爪でへこませられるかを見る「thumbnail test(親指の爪テスト)」を紹介し、比較的安全な選択肢としてKongやGoughnutsといった製品名も挙げています。犬の体格に合ったサイズを選ぶこと、生皮(ローハイド)は監督なしで与えないことも添えています。

歯が折れたときに起きることも知っておきましょう。破折が歯髄(神経と血管がある部分)まで達すると痛みが生じ、コーネル大学は「A chronic broken tooth may lead to an abscess with swelling and pain」——慢性化した破折歯は、腫れと痛みを伴う膿瘍につながることがある、としています。細菌が歯根へ、そして全身へ広がる経路にもなりうると説明しています。

飼い主が気づける変化として、同大学は、かじるおもちゃを避けるようになる、硬いおやつを食べなくなる、フードボウルに近づいたのに食べずに立ち去る、熱いものや冷たいものに反応する(冷たい水さえ避ける)といった様子を挙げています。

かじってよい物を選ぶときの確認

  • 爪を立てて、少しへこむ硬さか(へこまないものは硬すぎる)
  • 曲がる素材か。まったく曲がらないものは避ける
  • 犬の口からはみ出る大きさか。丸呑みできる大きさは避ける
  • ちぎれた破片が出ないか。出るなら監督下だけで使う
  • 縫い目・ファスナー・プラスチック部品など、飲み込みやすい部位がないか
  • 与えたあとに、必ず状態を点検して、傷んだら交換しているか
  • カロリーの高いおやつ系を使う場合、1日の総量に組み込んでいるか

注意

「歯によさそう」というイメージで選んだ物が、破折の原因になることがあります。鹿の角、ひづめ、骨、硬いナイロン製の骨、氷は、獣医歯科の解説で繰り返し名前が挙がる代表格です。またVCAは、監督下であっても「no toy is 100% safe(100%安全なおもちゃはない)」としています。留守番中に与える物は、とくに慎重に選んでください。

留守番の準備

留守番中の破壊が中心なら、留守番そのものの練習と環境づくりが本丸になります。分離不安のレベルでなくても、「ひとりの時間の過ごし方」を用意しておくと、犬にとって留守番は退屈な空白ではなくなります。

  • 出かける前に散歩や嗅覚あそびで満たしておく
  • 出発と帰宅は淡々と。大げさな別れと再会は、留守番を特別なイベントにしてしまう
  • 留守番の直前に知育トイを渡し、「人が出ていくこと」と「いいことが始まること」を結びつける(ただし、留守中に食べないタイプの犬では、これ自体がサインになります)
  • 監督できない時間は範囲を絞る。範囲を絞ることは罰ではなく、安全の確保

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受診と専門家相談の目安

最後に、家庭で抱えこまないための線引きを整理します。

すぐに動物病院へ連絡したほうがよいとき

注意

次のいずれかに当てはまる場合は、破壊行動の相談ではなく、体の緊急事態として動物病院へ連絡してください。夜間や休日でも、かかりつけの留守番電話や近隣の救急対応病院の連絡先を先に調べておくことをおすすめします。

  • 電気コードをかじった形跡がある(元気に見えても。肺水腫が12〜36時間遅れて出ることがある)
  • 口の中や口のまわりにやけどのような跡、変色、出血がある
  • かじった破片が見当たらない、明らかに量が減っている
  • ひも状のもの(靴下、タオル、カーペットの繊維)をかじっていた
  • 嘔吐が続く、便が出ない、おなかを痛がる、ぐったりしている
  • よだれが増えた、口を気にする、食べ方が変わった、硬い物を食べなくなった

落ち着いてから相談したいとき

急ぎではないけれど、しつけの工夫だけで押し切らないほうがよいのが次のケースです。

状況相談先の目安
これまで平気だった成犬が急にかじり始めたまずかかりつけの動物病院で身体のチェック
食べ物でない物を繰り返し飲み込む(異食症の可能性)動物病院。身体的な原因の除外が先
留守番中だけ激しく壊す、ドアや窓のまわりに集中している動物病院を経由して行動診療科・臨床動物行動学の専門家へ
自傷(前足をなめ壊す、尾を噛む)や脱走を伴う行動診療科。早いほどよい
物を守ってうなる、取り上げようとすると噛もうとする行動診療科や経験あるトレーナー。自己流の練習は避ける
シニア期に入ってから夜間の徘徊や破壊が始まった動物病院。認知機能の変化が背景のことがある

日本では、日本獣医動物行動学会が獣医行動診療科認定医の制度を運用しており、同学会のサイトに認定医などが在籍する施設が地域別に掲載されています。ぎふ動物行動クリニックのように、犬猫の問題行動の治療を専門に行う施設もあります。夕やけの丘動物病院グループの行動診療科の紹介ページは、行動診療を「咬む・怖がる・トイレの失敗などの『行動のお困りごと』を、獣医学的・動物行動学的な視点からアプローチし、改善を目指す診療科」と説明し、初診は1.5時間程度の時間をかけると案内しています。

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ヒント

相談に行くときは、次の3つを持っていくと話が早く進みます。1. 壊れた物と場所の写真(日付つき)、2. 留守番中の録画(最初の30分だけでも)、3. 1日のスケジュール(食事、散歩、留守番の時間、遊びの内容)。「困っています」だけよりも、はるかに具体的な提案が返ってきます。

よくある質問

犬が物をかじるのは、しつけができていないからでしょうか。
かじること自体は、しつけの失敗ではありません。ASPCAは「Chewing is a perfectly normal behavior for dogs of all ages(かじることは、あらゆる年齢の犬にとってまったく正常な行動)」としており、VCAも、かじる・なめる・口に入れることは、探索と学習の方法として、また物を運ぶ方法として犬にとって正常な行動だとしています。問題なのは「かじってほしくない物をかじっていること」と「かじり方が危険なこと」です。したがって取り組みの中心は、行動を消すことではなく、安全な出口を用意して、届かないようにすることになります。
成長すれば自然に落ち着きますか。
山は越えますが、完全にはなくなりません。VCAは「Excessive chewing behavior seems to subside around 18 months of age but will continue to some degree, depending on the dog, for their whole life(過剰なかじり行動は生後18か月ごろに落ち着いていくように見えるが、その犬によって程度の差はあれ、生涯続く)」としています。ASPCAも、子犬期の激しいかじりは永久歯が生えそろう生後6か月ごろまでに終わることが多いとしています。ただし、その間に何を学習したかは残ります。ソファをかじって過ごした半年は、ソファをかじる習慣として残りうるので、待つのではなく環境を整えるほうが結果的に早いです。
帰宅したら壊されていました。その場で叱ったほうがいいのでしょうか。
すすめられていません。ASPCAは「Do not show your dog the damage he did and spank, scold or punish him after the fact(壊れた物を犬に見せて、事後に叩いたり叱ったり罰したりしないこと)」と明記しています。VCAも「帰宅してすでに終わった行為について罰することは、その動物の不安を増やすだけだ」としています。とくに留守番中の破壊が不安由来だった場合、帰宅時の叱責は次の留守番をさらにつらくします。英国のRSPCAも、留守中に望ましくないことをしても不機嫌さを見せないことが大切だとしています。
大きな音でびっくりさせる方法は効きますか。
AVSABは2021年の声明で、威嚇による手法として霧吹き、音の出る缶、エアダスター、怒鳴る、にらむといったものを名指しで避けるべきものに挙げています。同声明は「嫌悪的手法は犬のトレーニングや行動学的問題の治療に用いるべきではない」とし、「嫌悪的トレーニングが必要であるという証拠はない」としています。調査研究では、嫌悪的手法の使用と、人や他の犬への攻撃行動、回避や興奮性といった不安に関連する行動との関連が示されています(ただし声明自身が、調査研究では因果と相関を区別できないと明記しています)。一時的に止まったように見えても、犬が「かじってよい物」を学ぶわけではない点も重要です。
留守番中だけ壊します。分離不安でしょうか。
その可能性を考える価値があります。ASPCAは、分離不安によるかじり・掘り・破壊は「通常、飼い主がいるところでは起こらない」としています。英国のRSPCAは、分離関連行動のサインの筆頭に「家具をかじって壊すことを含む破壊行動。多くは出入口、ドア、窓の近く」を挙げ、行動は飼い主が出かける前または後に、数分から30分以内に始まるとしています。吠え続ける、そそう、過剰なよだれ、留守中に食べない、といった様子を伴うかどうかも手がかりになります。ただし家庭で確定はできません。まずは留守中の録画で様子を確かめ、かかりつけの動物病院に相談してください。RSPCAは、必要に応じて臨床動物行動学の専門家を紹介してもらうようすすめています。
電気コードをかじられました。元気そうですが、様子を見てもいいですか。
元気に見えても連絡してください。米国MSPCA-Angellは、感電後の肺水腫について「発症は12〜36時間まで遅れることがある」としており、受傷後は数日にわたって呼吸を注意深く観察する必要があるとしています。PetMDの解説も同じ12〜36時間という時間幅を挙げています。日本の博多犬猫医療センターも、感電では「何も問題がないように見えても、後から症状があらわれる場合があります」としています。またMSD獣医マニュアルは、コードをかじった動物では歯の破折や口腔鼻腔瘻も起こりうるとしています。なお、感電の可能性がある場面では、まず電源を切る・プラグを抜くのが先です。PetMDは「まだ感電している犬に触れてはいけない。触れる前に電源を切り離す必要がある」と明記しています。
苦味スプレーは効きますか。
補助としては使えますが、それだけでは解決しないとされています。ASPCAは、かじってほしくない物すべてにスプレーし、2〜4週間、毎日塗り直すという手順を示したうえで、忌避剤だけでは足りず、犬が「かじってよいのは何か」を学ぶ必要があるとしています。Humane World for Animalsは「忌避剤を初めて使うときは犬を見ていること。犬によっては、忌避剤が塗ってあってもその物をかじる」と注意しています。環境管理、かじってよい物の用意、運動と刺激の充足がそろっている前提での上乗せ、と考えるのが現実的です。
かじってよいおもちゃは、硬いほうが長持ちして良さそうに思えます。
歯のほうが先に折れます。VCAは「ほとんどの獣医歯科医は、子犬にも成犬にも硬い物をかじらせないよう推奨している。硬い物は乳歯も永久歯も折ってしまうからだ」とし、ナイロン製の物、骨、鹿の角を例に挙げています。そして獣医歯科医がよくすすめる言い方として「曲がらない物はかじらせない」を紹介しています。コーネル大学も、破折の原因として鹿の角、ひづめ、骨、氷を挙げ、爪でへこませられるかを見る「親指の爪テスト」を目安として紹介しています。長持ちよりも、爪でへこむ硬さ、口からはみ出る大きさ、破片が出ないことを優先してください。
くわえて逃げるので、追いかけて取り上げています。
追いかけないほうが安全です。AKCは「追いかけることは、先に取られまいとして犬が物を飲み込んでしまう可能性を高める」とし、また追いかけっこは遊びとして受け取られ、将来、禁止された物をくわえる可能性を高めるとしています。口をこじ開けることについても「噛まれるリスクを生み、やはり犬に飲み込ませてしまいかねない」と警告しています。かわりに、価値の高いおやつとの交換(トレード)を教えてください。交換したあとにその物を返してあげると、「渡すこと」が損ではなくなります。すでに物を守ってうなる様子がある場合は、自己流で始めず専門家に相談してください。
子犬の生え変わりの時期は、いつからいつまでですか。
VCAによると、子犬は生後3週ごろから歯が生え始め、生後6週ごろまでに28本の乳歯が生えそろいます。生後12週ごろから乳歯が抜け始めて永久歯(最大42本)が生え始め、通常は生後6か月までにすべての永久歯が生え、乳歯は抜け落ちるとされています。AKCも、生後3〜4か月ごろに乳歯が抜け始め、生後6か月になるころには乳歯は抜けているはず、としています。日本の夕やけの丘動物病院の解説(執筆:獣医師の神田氏、監修:嶋崎貴匡獣医師)は「生後3か月あたりから抜け始め、7か月あたりで永久歯が生え揃います」としています。生え変わりのプロセスに支障が出て乳歯が残ると(乳歯遺残)、歯並びの問題や歯周病のリスクにつながるため、この時期に一度、口の中を診てもらうとよいでしょう。
壁や柱をかじって、破片を飲み込んでいるようです。
動物病院に相談してください。食べ物でない物を繰り返し飲み込む状態は異食症(ピカ)として扱われ、VCAはその背景として、炎症性腸疾患、門脈体循環シャント、腸内寄生虫、膵外分泌不全、貧血、栄養の不足や偏り、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、薬の副作用などの身体的な要因と、不安や欲求不満といった行動的な要因を挙げています。またVCAは、異食症が起こすもっとも一般的な問題として、消化されない物が食道・胃・腸に詰まる消化管閉塞を挙げています。日本のグリーンパーク動物病院も「行動学的に別に原因があったり、実は内科疾患を抱えていたりする事もあるため、誤食癖を治療するには広い視野が必要」としています。しつけの前に、まず体の側から確認するのが順番です。
留守番中にクレートへ入れておけば安全ですか。
監督できない時間に範囲を絞ること自体は妥当な安全対策ですが、時間には注意が必要です。ASPCAは「やってはいけないこと」のひとつとして「長時間、6時間を超えてクレートに入れたままにしないこと」を挙げています。また、そこが犬にとって安心できる場所になっていることが前提です。クレートを嫌がる犬に無理やり入れると、脱出しようとしてかえってケガをすることがあります。留守が長い日は、サークルや一部屋を安全化して確保するほうが現実的です。留守番中の破壊が不安由来である場合、閉じこめは解決にならず、むしろ悪化させることがあるので、その見きわめを先に行ってください。

まとめ

犬が家具や壁、コードをかじるという悩みは、「困った行動をやめさせる」という枠で考えているあいだは、なかなか出口が見えません。整理すると、こうなります。

まず、かじることは正常です。 ASPCAは「あらゆる年齢の犬にとってまったく正常な行動」とし、VCAも探索と学習のための正常な行動だとしています。過剰なかじりは生後18か月ごろに落ち着いていきますが、程度の差はあれ生涯続きます。消すのではなく、出口を用意する話です。

次に、理由を切り分けます。 生後3か月から7か月ごろの生え変わり、退屈と運動不足、不安、注意獲得、ストレスや欲求不満、そして痛みや消化器の不調といった医学的要因。飼い主が家にいるときも同じようにかじるなら退屈や探索の線が濃く、留守番中だけで、しかもドアや窓のまわりが集中的に壊れているなら分離不安を考えます。急に始まった、飲み込んでいる、体調の変化を伴う——このときは、しつけの前に動物病院です。

そして、危険な部分は独立して備えます。 電気コードは別格です。MSD獣医マニュアルは、小動物では電源コードをかじることが電気損傷のもっとも一般的な原因だとしています。感電後の肺水腫は12〜36時間遅れて出ることがあり、元気に見える時間があります。NITEには2013年度からの10年間でペットによる製品事故が61件通知され、約9割が火災に至っています。コードは、教える前に物理的に断ってください。かじった破片が見当たらないときも、様子見にしないでください。

対策の主役は、環境です。 「犬の口に入れてほしくない物なら、手の届くところに置かないこと」。この一行が、いちばん効きます。そのうえで、かじってよい物を用意し、運動と嗅覚あそびで満たし、くわえてしまったときは追いかけずに交換を教える。かじってよい物は、爪でへこむ硬さ、口からはみ出る大きさが目安です。

叱ることは、この問題を解きません。 AVSABは「力・痛み・情動的または身体的な不快感に依拠する嫌悪的手法は、犬のトレーニングや行動学的問題の治療に用いるべきではない」とし、飛びつきや吠えといった課題は「環境を適切に整え、望ましい反応を強化することで対処できる」としています。破壊行動も、同じ型の課題です。

かじられたソファを見た瞬間に湧いてくる感情は、正直なところ、けっこうしんどいものです。それでも、犬の側に悪意はありません。歯がむずむずしている、暇でどうしようもない、ひとりが不安でたまらない、あるいは体のどこかが不調である。そのどれかを、犬は自分にできる方法で表しています。

家の被害を減らすことと、犬が安心して暮らせることは、対立しません。届かないようにして、かじってよい物を渡して、頭と鼻を使う時間を作る。それでも留守番のたびにドアが壊れるなら、それはしつけの問題ではなく、相談すべきサインです。気になることがあれば、遠慮なく動物病院に相談してください。

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出典・参考

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