犬が水を飲みすぎる・おしっこが増えた(多飲多尿)|飲水量の目安と測り方、隠れている病気と受診の目安
対象の目安: 全ライフステージ


水皿が、夕方にはもう空になっている。夜中にガブガブと飲む音で目が覚める。散歩に行くたび、何回もおしっこをする。トイレシーツがずっしり重い——「うちの子、水を飲みすぎではないだろうか」という不安は、犬と暮らしていると誰にでも訪れます。
やっかいなのは、飲水量の増加が「暑いから」「運動したから」という当たり前の理由でも起きるということです。だから多くの飼い主さんは、いったん「そういう日もあるか」と思って、そのまま忘れてしまいます。一方で、犬の病気のうちいくつかは、初期にほとんど多飲多尿しか出しません。慢性腎臓病、糖尿病、クッシング症候群——どれも、気づくのが早いほど選べる手が増える病気です。
この記事では、まず「そもそも犬の飲水量の正常はどれくらいなのか」を、出典ごとの数値の違いも含めて正直に並べます。そのうえで、家庭で24時間の飲水量を数字にする手順、生理的な増加と病気による増加の見分けかた、背景にありうる病気とそれぞれの「ほかに出やすいサイン」、受診の目安、動物病院での検査の流れまでをまとめます。
メモ
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そもそも、犬の飲水量の「正常」はどれくらいなのか
最初に、いちばん大事なことをお伝えします。犬の飲水量の正常範囲には、出典によってかなりの幅があります。 「体重1kgあたり50mL」と書いてある記事もあれば「40〜60mL」「20〜70mL」もあり、多飲の基準も「80mL/kg以上」「90mL/kg以上」「100mL/kg超」と分かれます。
これは、どれかが間違っているというより、そもそも犬の飲水量が環境や食事で大きく動くからです。Today's Veterinary Practiceの解説は、多飲と多尿の定義を示したうえで「clinically, water intake can be highly variable and depends on environment, activity level, and diet」——臨床的に、飲水量は環境・活動量・食事によって大きく変動しうる、と書いています。
出典ごとの数値を並べてみる
| 出典 | 通常とされる飲水量 | 多飲(polydipsia)とされる目安 |
|---|---|---|
| Today's Veterinary Practice(米・臨床誌の総説) | 記載は定義が中心 | 1日100mL/kgを超える水分摂取 |
| Pavlovsky, J Small Anim Pract. 2026(心因性多飲のレビュー) | — | 1日90〜100mL/kgを超える水分摂取 |
| AKC(コーネル大Brian Collins獣医師らのコメント) | 1日40〜60mL/kg | 1日100mL/kgを超える |
| Linnaeus Veterinary Specialists(英国の二次診療) | 1日20〜70mL/kg | 1日100mL/kg超で「確実に増加している」 |
| アニコム損保(岸田絵里子獣医師監修) | 1日40〜60mL/kg | 1日90mL/kg以上なら病的な多飲も疑う |
| ピースワンコ・ジャパン(安家望美獣医師監修) | 1日50〜60mL/kg | 1日100mL/kg以上が続く場合 |
| 稲川動物病院 | 1日およそ50mL/kg | 1日100mL/kgを超えると多飲 |
| 中里ミル動物病院 | 1日100mL/kg以下が通常 | (100mL/kgを超えるとき) |
| かすみペットクリニック | 1日40〜60mL/kg | — |
| どうぶつ病院京都 四条堀川 | — | 1日80mL/kg以上で多飲 |
この表は、各出典に記載されている数値を編集部が並べ直したものです。数値の差は、対象とした犬(実験犬か家庭犬か)、食事内容、気候、測定方法の違いなどを反映していると考えられます。ひとつの数値を「正解」として扱わないでください。
体重別に換算すると
数値だけだとイメージしづらいので、換算しておきます。ここでは「1日40〜60mL/kgが通常のめやす」「1日90〜100mL/kgを超えたら多飲を疑う」という、比較的多くの出典が重なる線で計算しています。
| 体重 | 通常のめやす(40〜60mL/kg) | 多飲を疑う線(90〜100mL/kg) |
|---|---|---|
| 3kg(小型犬) | 約120〜180mL | 約270〜300mL |
| 5kg(小型犬) | 約200〜300mL | 約450〜500mL |
| 10kg(中型犬) | 約400〜600mL | 約900〜1,000mL |
| 20kg(中型〜大型犬) | 約800〜1,200mL | 約1,800〜2,000mL |
| 30kg(大型犬) | 約1,200〜1,800mL | 約2,700〜3,000mL |
アニコム損保の解説(岸田絵里子獣医師監修)も「健康な犬が1日に必要とする水分量の目安は、一般的に体重1kgあたり40〜60mLと言われています」としたうえで、体重5kgの犬なら200〜300mLという例を挙げています。
ヒント
実際に測った研究では、どれくらい飲んでいたか
「目安」ではなく実測値も見ておきましょう。Zanghi & Gardnerが2018年にFrontiers in Veterinary Scienceで報告した研究(ネスレピュリナの研究者による)では、小型犬16頭を対象に飲水量が毎日記録されています。通常の水道水を与えた群のベースラインの総液体摂取量は「71 ± 8 mL/kg/d」でした。健康な犬でも、体重1kgあたり70mL前後を飲んでいたことになります。
この数字は、多くの解説が挙げる「40〜60mL/kg」を上回っています。つまり、70mL/kgを飲んでいるからといって、それだけで異常とは言えません。 逆に言えば、「100mL/kgを超えたら多飲」という線は、かなり余裕を持たせた基準だということでもあります。
多尿(polyuria)の定義と、家庭では飲水量のほうが測りやすい理由
多尿は、Today's Veterinary Practiceの整理では「尿路のサインとは無関係に大量の尿を意識的に排泄すること」で、1日あたり体重1kgにつき50mLを超える尿量とされています。日本の動物病院の解説でも数値は近く、稲川動物病院は正常な尿量を「体重1kgあたり約30mL/日」、多尿を「体重1kgあたり尿量が50mL/kg以上」としています。ピースワンコ・ジャパンの解説(安家望美獣医師監修)は正常を「体重1kgあたり20〜45mL程度/日」、成犬の排尿回数を1日2〜4回程度としています。
ただ、家庭で尿量を正確に測るのは簡単ではありません。散歩中に排尿する犬なら回収そのものが難しく、室内トイレでもシーツに吸われて量がわかりません。そのため、家庭でまずやるべきは飲水量の測定です。 多くの病気では飲水と排尿がセットで増えるので、飲水量が増えていれば多尿も推定できます。
メモ
家庭での測り方: 24時間の飲水量を数字にする
「たくさん飲んでいる気がする」だけでは、獣医師も判断ができません。数字にしましょう。難しい道具は要りません。
- 1
1日ぶんの水をボトルに用意する
計量できる容器(500mLや1Lのペットボトル、計量カップ付きのウォーターボトルなど)に、その日に使う水を入れます。中里ミル動物病院の解説も「ペットボトルにあらかじめ飲水用水を入れて置き、そこから器に水を入れてあげます」という方法を紹介しています。どうぶつ病院京都 四条堀川の解説も同じやり方です。 - 2
水皿への補充はそのボトルからだけ行う
途中で蛇口から足してしまうと計算が合わなくなります。家族全員に「今日はこのボトルからだけ入れる」と共有しておいてください。ここがいちばん失敗しやすいポイントです。 - 3
24時間後に残量を測る
朝8時に始めたら、翌朝8時に区切ります。ボトルに残った量と、水皿に残っている量の両方を測り、最初に用意した量から引きます。「用意した量 - ボトルの残り - 水皿の残り = 飲んだ量」です。 - 4
こぼれ・蒸発の分を補正する
水皿から水がはねて床が濡れていたら、その分は飲んでいません。夏場やエアコンの風が当たる場所では蒸発もあります。気になるときは、犬が近づけない場所に同じ器・同じ水量を置いて24時間後に減った量を測り、その分を差し引くと精度が上がります(蒸発のコントロール)。 - 5
3日ほど続けて平均をとる
1日だけでは、たまたま暑かった日・たまたま長く歩いた日を拾ってしまいます。できれば3日、無理のない範囲で続けて平均を出してください。日ごとの数字も残しておくと、ばらつきの大きさも伝えられます。 - 6
体重で割る
飲んだ量(mL)を体重(kg)で割ると、mL/kgになります。5kgの犬が1日600mL飲んでいたら120mL/kg。この数字を持って動物病院に行くと、話が一気に具体的になります。
多頭飼い・複数の水飲み場のときの工夫
ここが実務的にいちばん難しいところです。いくつか現実的なやり方を挙げます。
- 水飲み場をいったん1か所にまとめる。測定する日だけ、水皿を1つに減らします。ただし、いつも複数箇所で飲んでいる犬には水を我慢させることになりかねないので、1日だけにとどめ、犬がすぐ行ける場所に置いてください
- 複数箇所のまま、全部の器を計量する。器ごとにボトルを分けて用意し、それぞれ24時間後の残量を測って合算します。手間はかかりますが、犬の行動を変えずに済みます
- 多頭飼いは、測定する日だけ部屋やケージを分ける。これも1日だけにします。ストレスがかかりそうなら無理をせず、「合計の飲水量が以前より明らかに増えた」という事実だけでも記録として役に立ちます
- どの子が飲んでいるかを見る。多頭のうち1頭だけが水皿に張りついているなら、その観察自体が重要な情報です。見守りカメラを使うのもひとつの手です
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おしっこ側の記録も、できる範囲で
尿量そのものは測りにくいのですが、いくつか手はあります。
- ペットシーツの重さを測る。中里ミル動物病院は「排尿後のペットシーツの重さを量ることにより、おおよその尿量を確認することができます。予めシーツの重さを秤に乗せて、シーツ分の重さはマイナスにしておくことをお忘れなく」と説明しています。水1mLはほぼ1gなので、増えた重さ(g)がおおよその尿量(mL)になります
- 回数と、1回あたりの広がりを記録する。稲川動物病院は「排尿前後にシーツの重さを比べる」方法を紹介しています。シーツ上の尿の広がりを写真に撮っておくのも、比較には有効です
- 散歩中の様子を書き留める。「以前は散歩1回で2〜3回だったのが、いまは6回」といった変化は、それだけで意味のある情報です
- 色を見る。ピースワンコ・ジャパンの解説は正常な尿を「淡い黄色で、にごりや強い臭いがない」としています。水のように薄く透明な尿が続くなら、それは薄い尿がたくさん出ているサインかもしれません
ヒント
記録テンプレート
診察のときにそのまま見せられる形で残しておくと便利です。
| 日付 | 体重 | 用意した水 | 残り | 飲んだ量 | mL/kg | 排尿回数 | 気温・出来事 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 9/1 | 5.2kg | 1,000mL | 380mL | 620mL | 119 | 8回 | 最高32度・散歩60分 |
| 9/2 | 5.2kg | 1,000mL | 430mL | 570mL | 110 | 7回 | 最高30度・雨で散歩短め |
| 9/3 | 5.2kg | 1,000mL | 360mL | 640mL | 123 | 9回 | 最高31度 |
測るときに気をつけたいこと
- 水は絶対に制限しない(測るために減らさない)
- 家族全員に「補充は測定用ボトルからだけ」と共有する
- 水皿は同じ器・同じ場所で、日によって変えない
- こぼれた分・蒸発した分をできれば補正する
- 1日で判断せず、3日ほどの平均をとる
- 同時に体重も測って記録する(体重減少は重要なサイン)
- 食事内容を変えた日、薬を始めた日は必ずメモする
- 気温や散歩時間など、その日の条件も一緒に残す
増えていても病気とは限らない: 生理的に飲水量が増える理由
数字が出たとき、いきなり病気を疑う前に、まず生理的な理由を洗い出してください。Linnaeus Veterinary Specialistsのファクトシートも、正常な飲水量を1日20〜70mL/kgと幅を持たせたうえで個体差があるとしています。
気温と湿度
いちばん大きいのがこれです。暑い日は体温を下げるためにパンティング(浅く速い呼吸)が増え、呼気から水分が失われます。その分を補うために飲水量は増えます。「夏になってから増えた」「猛暑日だけ増える」というパターンは、まず気温を疑ってよいでしょう。ただし、涼しくなっても戻らないなら話は別です。
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運動量
長い散歩、ドッグラン、旅行やアウトドア。運動した日に飲水量が跳ね上がるのは自然なことです。ここでも「運動していない日も多い」かどうかが分かれ目になります。
食事内容(ドライとウェットの違い)
ここは見落とされがちですが、影響がとても大きいところです。 ドライフードの水分は10%前後、ウェットフードは70〜80%台です。食事から入る水分が違えば、水皿から飲む量も変わります。
2025年にFrontiers in Veterinary Scienceで報告された研究(Siresら)では、健康なビーグル10頭のクロスオーバー試験で、水分71.1%のフレッシュフードと水分6.1%のドライフードを比較しています。結果は、ドライフードを食べた犬のほうが自由飲水量が多く(423g対147g)、一方で総水分摂取量(食事由来の水分を含む)はフレッシュフードのほうが多い(523g対434g)というものでした。計算上の必要水分量に対する充足率は、フレッシュフード群141%に対しドライフード群102%だったと報告されています。
メモ
実務的に大事なのは、フードを変えた直後の飲水量の変化は、病気ではなく食事のせいかもしれないということです。ウェットからドライに切り替えた、ふやかすのをやめた、トッピングをやめた——こうした変更があったなら、まずそこを疑ってください。
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おやつ・トッピングの塩分
塩分の多いものを食べれば、のどが渇きます。人の食べ物のおすそ分け、ジャーキー類、チーズ、スープ類などを増やした時期と一致していないか確認してください。人用の加工食品は犬にとって塩分が高すぎることが多く、そもそも日常的に与えるものではありません。
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妊娠・授乳、成長期
授乳中の母犬は、母乳をつくるために大量の水分を必要とします。この時期の多飲は生理的なものです。成長期の子犬も、体重あたりの水分の出入りが成犬より大きい傾向があります。
薬の影響
これは「生理的」というより「薬理的」ですが、病気そのものではないという意味でここに置きます。ステロイド(グルココルチコイド)、利尿薬(フロセミドなど)、抗てんかん薬(フェノバルビタール)は、飲水量・尿量を増やすことが知られています。ステロイドやフェノバルビタールは抗利尿ホルモン(ADH)の分泌や作用を妨げ、利尿薬は文字どおり尿量を増やします。
なお、ステロイドによる多飲は量や期間にもよります。Lokianskieneらが2022年にVeterinary Sciences誌で報告した小規模な無作為化試験(アトピー性皮膚炎の犬21頭、プレドニゾロン0.5mg/kgまたはメチルプレドニゾロン0.4mg/kgを14日間投与)では、「None of the dogs from either group exhibited polydipsia (above 100 mL/kg/day) during the study」——どちらの群の犬も、試験期間中に100mL/kg/日を超える多飲を示さなかった、と報告されています。低用量・短期間なら必ず多飲になるわけではないということです。
注意
環境の変化・ストレス
引っ越し、来客、工事の音、留守番時間の変化。こうしたきっかけで水を飲む量が増える犬もいます。後述する心因性多飲(原発性多飲)につながる話でもあります。
生理的な増加と、そうでない増加の見分けかた
決め手はありませんが、次の傾向は参考になります。
| 生理的な増加によくある特徴 | 病気を疑いたい特徴 |
|---|---|
| 暑い日・運動した日だけ増える | 涼しい日も、休んだ日も増えている |
| きっかけ(食事変更・季節・薬の開始)がはっきりしている | きっかけが思い当たらない |
| 数日〜数週間で元に戻る | 数週間以上、下がらない |
| ほかに変わったことがない | 体重減少・食欲の変化・元気消失・毛づやの悪化などをともなう |
| 尿の色や量は以前と大きく変わらない | 水のように薄い尿が大量に出る、夜間のそそうが増えた |
| 排尿のリズムは以前と同じ | 夜中に起こされる、留守番中にそそうするようになった |
背景にありうる病気と、それぞれの「ほかに出やすいサイン」
ここからは、多飲多尿の背景にありうる病気を見ていきます。ただし、いちばん大事なのは「多飲多尿だけでは病気は特定できない」という点です。 Today's Veterinary Practiceは、多飲多尿の原因を30以上挙げたうえで、機序に沿った系統的な評価が必要だとしています。VCAも、原因として腎疾患、子宮蓄膿症、副腎皮質機能亢進症、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能亢進症、糖尿病、尿崩症、高カルシウム血症、一部の腫瘍、肝疾患、特定の薬剤、電解質異常、原発性多飲を挙げています。
読むときは「怖い病気を探す」のではなく、**「ほかに出ているサインとの組み合わせを確認する」**という気持ちで見てください。
一覧で見る
| 病気 | 多飲多尿以外に出やすいサイン | 気にとめたい背景 |
|---|---|---|
| 慢性腎臓病 | 体重減少、食欲低下、嘔吐、口臭、被毛のあれ、脱水 | 高齢犬に多い。初期は多飲多尿だけのことも |
| 糖尿病 | よく食べるのに痩せる、白内障、元気消失 | 中年以降のメスに多い。未避妊のメスは発情後にリスク |
| 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群) | 食欲増加、お腹が張る、左右対称の脱毛、皮膚が薄くなる、パンティング | 中高齢に多い。ステロイドの長期投与でも起こる |
| 子宮蓄膿症 | 陰部からの分泌物、元気消失、食欲不振、嘔吐、お腹が張る、発熱 | 未避妊のメス。発情から1〜2か月後が多い。緊急 |
| 高カルシウム血症 | 食欲不振、元気消失、脱力、嘔吐、筋肉のふるえ | 背景にリンパ腫や肛門嚢アポクリン腺癌などがあることも |
| 肝疾患・門脈体循環シャント | 成長が遅い、食後にふらつく・ぼんやりする、嘔吐、体重が増えない | 先天性シャントは若齢で出ることが多い |
| 尿崩症 | 極端に薄い尿が大量に出る。ほかは元気なことも | まれ。中枢性と腎性がある |
| 副腎皮質機能低下症(アジソン病) | 食欲減退、嘔吐、下痢、体重減少、ぐったり、急に倒れる | 若〜中年齢に多い。急変することがある |
| 甲状腺機能亢進症 | 犬ではまれ | 犬では甲状腺癌に伴うことがほとんど |
| 心因性多飲(原発性多飲) | 元気・食欲は正常なことが多い。落ち着きのなさ、常同行動 | 若い犬に多い。除外診断 |
| 薬剤性 | 薬の開始・増量の時期と一致する | ステロイド、利尿薬、抗てんかん薬など |
慢性腎臓病
高齢の犬で多飲多尿といえば、まず候補に挙がる病気です。
MSD Veterinary Manualは「Usually, the earliest clinical signs commonly attributable to renal dysfunction are polydipsia and polyuria, which are not evident until approximately two-thirds of the nephrons are lost」——腎機能障害による最も早い臨床サインは通常、多飲と多尿であり、それはネフロンの約3分の2が失われるまで明らかにならない、と説明しています。
この一文には、二つの意味があります。 ひとつは「多飲多尿は腎臓病の早いサインである」ということ。もうひとつは「それでも、気づいた時点ですでにネフロンの3分の2が失われている可能性がある」ということです。だからこそ、早く気づくことに意味があります。
尿の濃さも手がかりです。IRIS(International Renal Interest Society)のステージング解説は「In dogs, urine specific gravity below 1.030 is not uncommon in dogs with normal renal function」——犬では尿比重が1.030を下回ることは腎機能が正常な犬でも珍しくない、としています。つまり犬の場合、尿比重だけでは腎臓病を決められません。IRISは、非腎性の多飲多尿の原因を除外したうえで、尿濃縮能の低下として不適切な尿比重を評価するとしています。
MSD Veterinary Manualによれば、犬の尿比重は正常で1.001から1.060まで幅があり、脱水している動物で腎臓が正常なら1.030を超えるとされています。
ステージ分類はIRISの基準に沿って行われ、血中クレアチニンおよびSDMAの濃度をもとに4段階に分けられます。IRISは、脱水を除外し状態が安定した患者で、2〜4週間あけて再検査したうえで判定することを推奨しています。一度の血液検査の数字だけで確定するものではない、ということです。
糖尿病
AAHAの糖尿病管理ガイドライン(2018年版・2022年アップデート)は「Regardless of the underlying etiology, classic clinical signs of polyuria (PU), polydipsia (PD), polyphagia (PP), and weight loss result from protracted hyperglycemia and glucosuria」——原因を問わず、多尿・多飲・多食・体重減少という典型的な臨床サインは、持続する高血糖と尿糖から生じる、としています。
「よく食べて、よく飲んで、なのに痩せていく」——この組み合わせは、糖尿病を強く思わせるパターンです。コーネル大学Riney Canine Health Centerも、症状として飲水量の増加、排尿の増加、食欲の増加、体重減少を挙げています。
犬で特に知っておきたいのは、未避妊のメスの発情後(ジエストラス)がリスクになることです。AAHAのガイドラインは、犬の糖尿病のリスク因子として肥満、膵炎、インスリン抵抗性を起こす疾患、糖尿病を誘発する薬剤とともに「diestrus in female dogs」を挙げ、未避妊の糖尿病の犬では卵巣子宮摘出が寛解を後押しするとしています。ステロイドやプロゲスチン、シクロスポリンといった薬剤もリスクとして名指しされています。
診断は、持続する高血糖と尿糖の確認が基本です。コーネル大学は、臨床サインと血液検査・尿検査を組み合わせて診断するとし、ストレスによる一時的な高血糖と本当の糖尿病を区別するためにフルクトサミンを測ることがあると説明しています。
注意
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副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
副腎からコルチゾルが過剰に出る病気です。MSD Veterinary Manualは、犬で最もよくみられる臨床サインとして多尿・多飲、多食、垂れ下がった腹部、パンティング、筋肉の萎縮、脱毛・膿皮症・皮膚が薄くなるといった皮膚の変化を挙げ、多くの犬で全身性の高血圧を伴うとしています。VCAも「The most common clinical signs are increased appetite, increased water consumption, and increased urination」——最も多い臨床サインは食欲増加、飲水量増加、排尿増加である、としています。
原因の内訳について、MSD Veterinary Manualは、下垂体のACTH産生腫瘍による下垂体依存性(PDH)が報告例の80〜85%、副腎皮質腫瘍による副腎依存性(ADH)が10〜15%としています。VCAは下垂体腫瘍が全体の85〜90%としています。アニコム損保の解説(増田国充獣医師監修)は、脳下垂体の腫瘍が約85%、副腎の腫瘍が約10%、そしてステロイド剤投与に関連する医原性という3分類を紹介し、好発犬種としてプードル、ダックスフンド、ボストンテリアなどを、好発年齢として8歳くらいからを挙げています。MSD Veterinary Manualは犬種について「どの犬種・サイズの犬にも起こりうる」としたうえで、発症するのは中高齢の動物で、副腎依存性は大型犬に、下垂体依存性は小型犬種での報告が多いとしています。
診断はACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験、尿中コルチゾル・クレアチニン比などで行われ、画像検査で副腎の大きさを確認します。
メモ
子宮蓄膿症(未避妊のメスは緊急)
避妊手術をしていないメスの多飲多尿は、特別に警戒してください。
コーネル大学Riney Canine Health Centerは、子宮蓄膿症について「A pyometra is a medical emergency that requires prompt treatment」——速やかな治療を要する救急疾患である、と明記し、「Untreated pyometra can be deadly from overwhelming infection and sepsis」——治療しなければ、圧倒的な感染と敗血症により致死的になりうる、としています。
発症しやすいのは、避妊していない中高齢のメスで、複数回の発情を経験した犬です。コーネル大学は「Often, a dog will develop a pyometra one to two months after their previous heat cycle」——多くの場合、前回の発情から1〜2か月後に発症する、としています。アニコム損保の解説(中道瑞葉獣医師監修)も「発情出血(生理)から2ヶ月後ごろに元気や食欲の低下、多飲多尿が認められることが多い」としています。
サインとしてコーネル大学が挙げているのは、陰部からの分泌物、元気消失、食欲低下、飲水と排尿の増加、お腹の張りや痛み、嘔吐、発熱、歯ぐきの蒼白、脱力や虚脱です。
注意
予防については、コーネル大学が「Pyometra is entirely preventable if a dog is spayed before the development of infection in the uterus」——子宮に感染が起こる前に避妊手術をしていれば完全に予防できる、としています。避妊手術には別の考慮点もありますので、時期を含めてかかりつけと相談してください。
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高カルシウム血症
血中のカルシウムが高くなると、腎臓が尿を濃縮する働きが妨げられ、多尿とそれを補う多飲が起こります。MSD Veterinary Manualは、犬の高カルシウム血症の主な原因として、腫瘍随伴性の高カルシウム血症、原発性上皮小体機能亢進症、腎疾患、アジソン病を挙げています。臨床サインとしては泌尿器系に多飲・多尿・尿石症・尿路感染が、その他に食欲不振、元気消失、脱力、嘔吐などが記載されています。
背景に腫瘍があることがあるのが、この病態の重要な点です。犬ではリンパ腫と肛門嚢アポクリン腺癌がよく知られており、岩獣会報に掲載された原著(佐藤敏彦ほか、2010年)は、犬の肛門嚢アポクリン腺癌について「老齢の雌犬に多く発生し, 領域リンパ節転移が高率にみられ, 腫瘍随伴症候群として25〜90%に高カルシウム血症がみられる」と、引用文献をもとに記しています(数値の幅は報告によるものです)。
診断では、総カルシウムだけでなくイオン化カルシウムの測定が重要になります。MSD Veterinary Manualは「Ionized calcium should be measured, because it reflects the biologically active form of calcium」——イオン化カルシウムは生物学的に活性なカルシウムを反映するため測定すべきである、としています。
ヒント
肝疾患・門脈体循環シャント
肝臓の働きが落ちると、尿素の産生が減って腎髄質の濃度勾配が保てなくなり、尿が薄くなることがあります。門脈体循環シャント(肝臓を迂回する異常な血管)でも、多飲多尿がみられることがあります。VCA Animal Hospitalsは、飲水量や尿量が増えることを比較的頻度の低い症状として挙げています。
VCAが挙げているそのほかのサインは、成長が遅い・筋肉のつきが悪い、見当識障害やぼんやり見つめる・旋回する・頭を押しつけるといった行動の異常、けいれん、嘔吐や下痢、腎臓や膀胱の感染や結石をくり返すことなどです。行動面のサインは高タンパクの食事のあとにだけ出ることもあるとされています。若い犬の多飲多尿では、この可能性も検討されます。
尿崩症
まれですが、多飲多尿がとりわけ極端に出る病気です。MSD Veterinary Manualは「Diabetes insipidus is due to a lack of antidiuretic hormone (ADH) or an inability of the kidneys to respond to ADH」——抗利尿ホルモン(ADH)の不足、または腎臓がADHに反応できないことによる、と定義し、「Animals with diabetes insipidus excrete large volumes of hypotonic urine and drink equally large amounts of water」——低張の尿を大量に排泄し、同じくらい大量の水を飲む、としています。
ADHが完全に欠乏している場合の尿比重は1.006以下の持続的な低張尿、部分欠乏なら1.008〜1.020とされています。診断には水制限試験やデスモプレシン試験が用いられ、デスモプレシン投与初日に飲水量が50%を超えて減少すればADH欠乏が強く示唆される、と記載されています。
注意
副腎皮質機能低下症(アジソン病)
クッシング症候群とは逆に、副腎皮質ホルモンが不足する病気です。アニコム損保の「みんなのどうぶつ病気大百科」は、症状として多飲・多尿、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少などを挙げています。JBVP(日本臨床獣医学フォーラム)の解説は、代表的な症状を「食欲減退、嘔吐、腹痛、体重減少、ぐったりしている、血糖値が下がって急に倒れる、脱水など」とし、原発性の発生は「2カ月-9歳齢、平均4.5歳」にかけてみられ雌(76%)に多いとしています。
注意したいのは急変です。JBVPは「虚脱で来院する場合も多く、診断を確定してから治療を行うのでは手遅れになるので、ほとんどの場合緊急治療を行いながら検査を行う」と説明しています。「調子がよかったり悪かったりを繰り返す」「胃腸の症状が出たり治ったりする」という経過は、この病気で聞かれるパターンです。
甲状腺機能亢進症(犬ではまれ)
ネコでは多飲多尿の代表的な原因ですが、犬では事情が違います。 MSD Veterinary Manualは「In dogs, a thyroid tumor causing hyperthyroidism should always be presumed to be a carcinoma until proven otherwise」——犬で甲状腺機能亢進症を起こす甲状腺腫瘍は、否定されるまで常に癌と考えるべきである、とし、「Because canine hyperthyroidism is almost always associated with thyroid carcinoma, the longterm prognosis in these dogs is poor to grave」——犬の甲状腺機能亢進症はほぼ常に甲状腺癌に関連するため、長期予後は不良から極めて不良である、としています。犬ではまれな病気ですが、頸部のしこりに気づいたら伝えてください。
心因性多飲(原発性多飲)
体の病気ではなく、飲むこと自体が過剰になっている状態です。2026年にJournal of Small Animal Practiceに掲載されたレビュー(Pavlovsky)は、「Most dogs diagnosed with psychogenic polydipsia are young and systemically healthy, have significant polyuria and polydipsia, often have a nervous or anxious disposition, and may display stereotypical, compulsive or hyperactive behaviours」——心因性多飲と診断される犬の多くは若く全身状態は健康で、著しい多尿多飲があり、神経質・不安傾向のことが多く、常同行動や強迫的・多動的な行動を示すことがある、としています。
きっかけとして、ストレスの多い出来事の最中や直後の発症、外傷、環境の変化、慢性的な行動上の問題(攻撃性、常同的な反復行動、不安、音への恐怖など)がよく報告されるとされています。
診断は除外診断です。同レビューは「No specific test diagnoses psychogenic polydipsia definitively, and systematic elimination of other causes of polyuria and polydipsia is required」——心因性多飲を確定する特異的な検査はなく、他の原因を系統的に除外する必要がある、としています。
注意
薬剤性
すでに触れましたが、あらためて整理します。ステロイド(グルココルチコイド)は腎尿細管でのADHの作用を妨げ、血漿浸透圧上昇に対する浸透圧受容器の感受性を下げてADH分泌を減らすとされます。抗てんかん薬(フェノバルビタールなど)もADHの放出を抑えることがあり、フロセミドなどの利尿薬は直接的に尿量を増やします。
薬を始めた・増やした時期と、飲水量が増えた時期が一致していないか。 これはカルテを見ればわかることですが、飼い主さんの記録があると照合が早くなります。
受診の目安と、急ぐサイン
まず、水を制限しないでください
注意
環境省の告示「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」も、共通基準のなかで「家庭動物等の種類、発育状況等に応じて適正に餌(えさ)及び水を給与すること」「疾病及びけがの予防等の家庭動物等の日常の健康管理に努めるとともに、疾病にかかり、又は負傷した家庭動物等については、原則として獣医師により速やかに適切な措置が講じられるようにすること」と定めています。水を適切に与えることと、体調が悪ければ速やかに獣医師に診てもらうことは、飼い主の基本的な責務として位置づけられています。
その日のうちに連絡したいサイン
早めに動物病院へ連絡したいサイン
- 避妊手術をしていないメスで、多飲多尿に元気消失・食欲不振・嘔吐が重なっている(陰部からの分泌物がなくても連絡する。子宮蓄膿症の可能性)
- 陰部から膿のような、あるいは血の混じった分泌物が出ている
- 多飲多尿に加えて、嘔吐が続く・ぐったりしている・立ち上がれない
- 呼気が甘酸っぱい(除光液のような)においがする、呼吸が深く速い(糖尿病性ケトアシドーシスの可能性)
- 急に倒れた、意識がはっきりしない、歯ぐきが白い
- 水を飲もうとして飲めない、飲むとむせる
- 食べているのに体重が明らかに減ってきた
- おしっこが出ていない、または出そうとしても出ない(この場合は多飲多尿ではなく緊急の尿路閉塞の可能性。最優先で救急へ)
次の診療時間に相談したいサイン
- 涼しくなっても、休んでいる日も、飲水量が戻らない
- 3日ほど測った平均が体重1kgあたり100mLを超えている(90mLを超える時点で相談してもよい)
- 夜中に何度も水を飲む、夜間にそそうするようになった
- 以前はしなかった場所での失敗が増えた
- 尿が水のように薄く、においがほとんどしない
- 毛づやが悪くなった、左右対称に毛が薄くなってきた
- お腹が張ってきた、パンティングが増えた
- シニア期に入っていて、最近健康診断を受けていない
「様子を見てよい」と考えられる場合
次のすべてに当てはまるなら、少し様子を見てから相談でも大きな問題にはなりにくいでしょう。ただし、記録は続けてください。
- 増えたのが猛暑の時期・運動量が増えた時期だけで、条件が戻ると飲水量も戻る
- フードやおやつを変えた時期と一致していて、戻すと飲水量も戻る
- 3日ほどの平均が、体重1kgあたり100mLに届かない
- 体重・食欲・元気・毛づや・排泄の様子に、ほかの変化がない
- 避妊手術済み、または未避妊でも発情から時間が経っていて、ほかのサインがない
メモ
動物病院での検査の流れ
「何をされるのかわからない」という不安を減らすために、一般的な流れをまとめます。実際の順番や項目は、その子の状態や病院の方針によって変わります。
受診前に用意しておくとよい情報
受診時に持っていきたいもの・伝えたいこと
- 3日ほどの飲水量の記録(mLと、体重1kgあたりの数値)
- 体重の推移(いつと比べて何kg変わったか)
- 排尿の回数・時間帯・そそうの有無
- 朝いちばんの尿(可能なら。清潔な容器に入れ、できるだけ新鮮なうちに)
- 食べているフード・おやつの名前と量、変更した日
- 飲ませている薬・サプリメントの名前と量、開始した日
- 避妊・去勢の有無と手術時期。未避妊のメスは最後の発情がいつだったか
- ほかに気づいた変化(食欲、元気、毛づや、お腹の張り、呼吸、歩き方)
- 動画(排尿の様子、水を飲む様子、ふらつきなど)
ヒント
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1. 問診と身体検査
いつから、どれくらい、ほかにどんな変化があるか。体重、体温、脱水の程度、腹部の触診、皮膚や被毛の状態、リンパ節、そして必要に応じて肛門周囲や直腸の検査。この段階で、疑わしい方向がかなり絞られることも珍しくありません。
2. 尿検査(とくに尿比重)
多飲多尿の評価では、尿検査が最初の分岐点になります。VCAは、初期スクリーニングとして血球計算(CBC)、血液生化学検査、尿検査の3つを挙げ、尿検査の所見について「Low urine specific gravity—this means the urine is dilute or watery and confirms that a pet is likely passing increased amounts of urine」——尿比重が低いことは尿が薄いことを意味し、尿量が増えている可能性を裏づける、としています。
尿比重の目安として、シリウス犬猫病院は犬の正常値を1.025〜1.040とし、1.008〜1.015を等張尿、1.008を下回るものを低張尿と説明しています。先に触れたとおり、IRISは犬では1.030を下回る尿比重が正常な腎機能の犬でも珍しくないとしており、尿比重だけで診断はできませんが、血液検査の結果と組み合わせると意味が大きくなります。
尿検査ではほかに、尿糖(糖尿病)、尿タンパク、細菌や結晶、尿沈渣なども見ます。必要に応じて尿培養が追加されます。
3. 血液検査
血球計算と血液生化学検査で、腎機能(クレアチニン、BUN、SDMA)、血糖、肝酵素、電解質、カルシウム、リンなどを調べます。ここで方向性が見えることが多い段階です。VCAは、追加の検査としてフルクトサミン、カルシウム、レントゲンや超音波、ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験などが行われうるとしています。
腎臓に関しては、IRISが「2〜4週間あけて再検査し、クレアチニンやSDMAの変化が20〜25%未満なら比較的安定した糸球体濾過量と判断でき、潜在的な脱水も除外できてステージ分類が可能になる」という趣旨の推奨をしています。1回の結果で結論を出さないのは、慎重さの表れです。
4. 画像検査
レントゲンや超音波で、腎臓の大きさや形、副腎の大きさ、肝臓、子宮(未避妊のメスでは特に重要)、膀胱、腫瘤の有無などを確認します。子宮蓄膿症は、超音波検査で子宮の拡張が確認されることが診断の助けになります。
5. 内分泌検査(必要に応じて)
上記でも原因が絞れないとき、あるいは特定の病気が強く疑われるときに行われます。クッシング症候群ならACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験、尿中コルチゾル・クレアチニン比。アジソン病ならACTH刺激試験。糖尿病ならフルクトサミン。高カルシウム血症では、イオン化カルシウムに加えて、原因が明らかでない場合にPTHやPTHrPの測定が検討されます。
6. 水制限試験・デスモプレシン試験(限られた場合のみ)
尿崩症や心因性多飲が疑われ、かつ他の原因が除外されたときに検討される検査です。ただし、前述のとおり負担が大きく、実施できる状況も限られます。MSD Veterinary Manualが挙げる水制限試験の終了基準は、尿比重が1.025を超えた時点、体重の5%の脱水に達した時点、または1日の給水量が体重1kgあたり60mL未満に達した時点です。この検査は必ず獣医師の管理下で行われます。
メモ
ライフステージ別に気をつけたいこと
子犬
- 成長期は体重あたりの水分の出入りが大きく、活発に動けばよく飲みます。ただし「若いから元気なはず」と決めつけないでください
- 先天性の門脈体循環シャントや腎の形成異常は、若い時期に多飲多尿として現れることがあります。成長が遅い、体重が増えない、食後にふらつくといったサインが重なるときは相談してください
- トイレの失敗が増えたとき、しつけの問題と体の問題を分けて考える必要があります。以前できていたのにできなくなったなら、まず体を疑ってください
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成犬
- この時期の多飲多尿は「暑さ」「運動」「食事の変更」で説明がつくことも多い一方、糖尿病や心因性多飲が出てくる年代でもあります
- 未避妊のメスは、発情のサイクルを把握しておいてください。発情から1〜2か月の時期の体調変化は、子宮蓄膿症を念頭に置く必要があります
- ステロイドなどの薬を使い始めたときは、開始日と飲水量をセットで記録しておくと、あとで役に立ちます
シニア犬
- 慢性腎臓病、クッシング症候群、腫瘍に伴う高カルシウム血症など、多飲多尿を起こす病気の多くはこの年代に増えます
- 「年をとると水をよく飲むようになる」という言い方をよく聞きますが、加齢だけで片づけないでください。多飲多尿は、加齢の自然な変化ではなく、調べる価値のあるサインです
- 定期的な健康診断で、血液検査と尿検査をセットで受けておくと、変化に早く気づけます。多飲多尿が出る前の「いつもの数値」がわかっていることには、大きな価値があります
- 夜間のそそうが増えたとき、認知症を疑う前に、まず多尿がないかを確認してください
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家庭でできること・できないこと
家庭でできること
- 24時間の飲水量を測り、3日ほどの平均を出して記録する
- 体重を定期的に測って記録する(月1回、変化があるときは週1回)
- 排尿の回数・時間帯・そそうの有無を記録する
- フード・おやつ・薬を変えた日をメモする
- 水はいつでも新鮮なものを飲める状態にしておく(制限しない)
- 未避妊のメスは、発情の時期を記録しておく
- 気になる様子は動画で残す
- 定期健診で血液検査と尿検査を受け、「いつもの数値」を持っておく
一方で、家庭ではできないことも、はっきりしています。 尿の濃さを測ること、血液中のクレアチニンやカルシウムを知ること、副腎や子宮の状態を見ること、ホルモンの働きを調べること——これらはすべて動物病院の仕事です。そして何より、多飲多尿の原因を家庭で確定することはできません。
だからこそ、家庭の役割は「正確に気づいて、正確に伝えること」に集中するのが合理的です。数字と記録は、そのための最良の道具です。
ヒント
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よくある質問
犬の飲水量は、1日にどれくらいが正常ですか。
どこからが「多飲」ですか。
飲水量はどうやって測ればいいですか。
おしっこの量は測れますか。
水を飲みすぎているようなので、水の量を減らしてもいいですか。
夏だけ飲水量が増えるのですが、これは大丈夫でしょうか。
ドライフードからウェットフードに変えたら、水を飲まなくなりました。心配ですか。
避妊手術をしていないメスです。特に気をつけることはありますか。
ステロイドを飲み始めてから水をよく飲みます。やめたほうがいいですか。
高齢だから水をよく飲むようになった、ということはありますか。
検査をしたけれど原因がわかりませんでした。どうすればいいですか。
多頭飼いで、どの子が飲んでいるかわかりません。
まとめ
犬の飲水量が増えたとき、まず知っておきたいのは、「正常」の数値には出典によって幅があるということです。おおむね1日40〜60mL/kg前後を通常とし、90〜100mL/kgを超えると多飲を疑うという線がよく使われますが、20〜70mL/kgを正常とする資料もあれば、実測研究で71mL/kg前後という報告もあります。数値は「線を引く道具」ではなく「相談するきっかけ」として使ってください。
次に大事なのは、測ることです。 1日ぶんの水を計量できる容器に用意して、24時間後の残りを引く。3日ほど平均をとって、体重で割る。それだけで、「なんとなく多い気がする」が「1kgあたり120mLでした」に変わります。この違いは、診察室では決定的です。
そして、増えていても病気とは限りません。 暑さ、運動、食事の水分量、おやつ、薬、授乳。生理的な理由はたくさんあります。判断の分かれ目は「条件が戻っても飲水量が戻らないか」「ほかにも変わったことがないか」です。
一方で、多飲多尿が最初のサインになる病気もあります。 慢性腎臓病、糖尿病、クッシング症候群、子宮蓄膿症、高カルシウム血症、肝疾患、尿崩症、副腎皮質機能低下症。とくに避妊手術をしていないメスで、多飲多尿に元気消失が重なったときは、分泌物が見えなくても子宮蓄膿症を疑って、その日のうちに連絡してください。
最後に、絶対にやってはいけないことがひとつあります。自己判断で水を減らすことです。 多飲は多くの場合、薄い尿がたくさん出ていることを埋め合わせている代償です。水を取り上げれば、そのまま脱水になります。困っているなら、減らすのではなく測って、その数字を持って動物病院に相談してください。
水を飲む量は、愛犬が毎日いちばん近くで見せてくれている体のサインです。慌てず、でも「年のせい」「夏だから」で片づけず、気になったら記録して、動物病院に相談してください。
出典・参考
- A Stepwise Diagnostic Approach to Polyuria and Polydipsia|Today's Veterinary Practice
- Renal Dysfunction in Dogs and Cats|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Diabetes Insipidus in Animals|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Cushing Syndrome (Hyperadrenocorticism) in Animals|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Hypercalcemia in Dogs and Cats|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Hyperthyroidism in Animals|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Testing for Increased Thirst and Urination|VCA Animal Hospitals
- Diabetes Insipidus in Dogs|VCA Animal Hospitals
- Cushing's Disease in Dogs|VCA Animal Hospitals
- Portosystemic Shunt in Dogs|VCA Animal Hospitals
- Pyometra|Cornell University College of Veterinary Medicine(Riney Canine Health Center)
- Diabetes in dogs|Cornell University College of Veterinary Medicine(Riney Canine Health Center)
- Why Is My Dog Drinking So Much Water? Polydipsia or Excessive Thirst in Dogs(Deborah Mandell VMD / Brian Collins DVM コメント)|American Kennel Club(AKC)
- Polydipsia in Dogs and Cats (increased drinking) Fact Sheet|Linnaeus Veterinary Specialists(英国)
- Psychogenic polydipsia in dogs - a review of pathogenesis, diagnosis and treatment(Pavlovsky G, J Small Anim Pract. 2026;67(7):580-589. doi:10.1111/jsap.70105)
- A Pilot Randomized Trial to Compare Polyuria and Polydipsia during a Short Course of Prednisolone or Methylprednisolone in Dogs with Atopic Dermatitis(Lokianskiene V et al., Vet Sci. 2022)
- Total Water Intake and Urine Measures of Hydration in Adult Dogs Drinking Tap Water or a Nutrient-Enriched Water(Zanghi BM & Gardner CL, Front Vet Sci. 2018)
- Feeding fresh food and providing water ad libitum is clinically proven to exceed calculated daily water requirements and impact urine relative supersaturation in dogs(Sires R et al., Front Vet Sci. 2025)
- IRIS Staging System|International Renal Interest Society
- 2018 AAHA Diabetes Management Guidelines for Dogs and Cats(2022 update・PDF)
- 家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(平成14年環境省告示第37号・最終改正平成25年環境省告示第82号)(PDF)|環境省
- 犬の1日に必要な水の量とは?体重別の目安と飲ませ方の工夫をご紹介(岸田絵里子獣医師監修)|アニコム損保 犬との暮らし大百科
- 犬のクッシング症候群とは?症状や原因、治療法について(増田国充獣医師監修)|アニコム損保 犬との暮らし大百科
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- 犬や猫の水の飲みすぎ・おしっこの増加に注意|多飲多尿の原因と対処法|かすみペットクリニック
- 「飲水量・尿量」の変化にご注意を!|中里ミル動物病院
- 犬や猫が水をよく飲む?おしっこが多い?|見逃してはいけない水分量と尿量の基準|稲川動物病院
- 犬の多飲多尿について|お水をよく飲み尿量が増える多飲多尿について獣医師が解説|どうぶつ病院京都 四条堀川
- 【犬の多飲多尿】水をよく飲むのは危険?考えられる病気と受診の目安|小塚獣医科病院
- 犬の多飲多尿は病気?飲水量や尿量が増える原因と受診の目安を解説(安家望美獣医師監修)|ピースワンコ・ジャパン
- 尿検査でチェックするポイント(1)尿比重|シリウス犬猫病院
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病)/犬の病気|JBVP 日本臨床獣医学フォーラム
- 副腎皮質機能低下症 犬|みんなのどうぶつ病気大百科(アニコム損保)
- 犬の肛門嚢アポクリン腺癌の5例(佐藤敏彦ほか、岩獣会報 Vol.36(1):4-7, 2010)(PDF)
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