犬の認知症(認知機能不全症候群)|夜鳴き・徘徊などのサインと家庭での向き合い方
対象の目安: シニア犬(7歳〜)

年をとった愛犬が夜中に鳴き続ける、同じところをぐるぐる歩き回る、名前を呼んでも反応が薄い——そんな変化に気づくと、「もしかして認知症かもしれない」と不安になりますよね。犬にも、加齢に伴って脳の働きが少しずつ低下する認知症(認知機能不全症候群/CDS)があります。この記事では、認知症で見られやすいサインをDISHAという枠組みで整理し、まず動物病院で他の病気がないか確かめることの大切さ、そして家庭でできる生活リズムや環境の工夫、治療とケアの考え方までを、獣医療の情報をもとにまとめます。決めつけずに向き合うための手がかりとして読んでいただければと思います。
犬の認知症(認知機能不全症候群)とは
犬の認知症は、正式には認知機能不全症候群(CDS:Cognitive Dysfunction Syndrome)と呼ばれます。加齢に伴って脳が変化し、認知機能が徐々に低下していくことで、さまざまな行動の変化があらわれる状態を指します。脳の神経細胞が減ったり、神経の伝達がうまくいかなくなったりすることが関わっているとされ、人のアルツハイマー型認知症に例えて説明されることもあります。
発症の時期には個体差がありますが、一般に10歳を超えたあたりから症状が見られ始め、13〜14歳ごろになると増えていく傾向があるとされています。体の大きさによっても目安は変わり、大型犬は小型犬より早い時期から気にかけておくとよいと言われます。犬種や生活環境、その子の体質によっても現れ方はさまざまで、「何歳になったら必ずなる」というものではありません。
メモ
認知機能不全症候群(CDS)が加齢に伴う脳の変化で認知機能が低下する状態であること、人のアルツハイマー型に例えられること、おおむね10歳前後から症状が見られ13〜14歳ごろに増える傾向、大型犬は早めに気にかけるという目安は、獣医師監修・保険会社の解説(アニコム損保「犬との暮らし大百科」)や獣医行動診療を行う病院(ぎふ動物行動クリニック)の情報に基づく一般的な目安です。
サインを「DISHA」で整理する
認知症で見られやすい変化は、DISHA(ディシャ)という頭文字の枠組みで整理されることが多くあります。獣医療の現場でも、飼い主さんの気づきを聞き取る手がかりとして使われています。
| 頭文字 | 領域 | 見られやすい変化の例 |
|---|---|---|
| D | 見当識障害 | 部屋の隅や家具のすき間で動けなくなる、ドアの蝶番側から出ようとする、慣れた場所で迷う |
| I | 関わり方の変化 | 飼い主や同居動物への関心が薄れる、なでられるのを避ける、逆に甘えが強くなる |
| S | 睡眠覚醒サイクルの乱れ | 昼夜逆転、昼間に寝てばかりで夜に起きて鳴く(夜鳴き) |
| H | そそう(不適切な排泄) | トイレを覚えていたのに失敗が増える、排泄の場所がわからなくなる |
| A | 活動性の変化・不安 | 目的なく歩き回る(徘徊)、無気力になる、そわそわして落ち着かない、不安が強まる |
これらは、一つだけで認知症と判断できるものではありません。複数の変化が重なって少しずつ進んでいく場合に、認知症の可能性を考えていきます。
初期に気づきやすいサイン
比較的早い段階で気づきやすいものとして、次のような変化が挙げられます。
認知症を疑うきっかけになりやすいサイン
- 名前を呼んでも反応が薄い、以前より呼びかけに気づきにくい
- 部屋の隅や家具のすき間に入り込んで、後ろに下がれず動けなくなる
- こぼしたフードを見つけられない、目の前のものにぶつかる
- 昼間よく寝て、夜に起きて鳴いたり歩き回ったりする(昼夜逆転)
- トイレを覚えていたのに、失敗が増えてきた
- 同じ場所をぐるぐる回る、あてもなく歩き続ける
- 飼い主や同居犬への関心が薄れた、または急に甘えが強くなった
- 狭いところに入りたがる、ぼんやり立ち尽くすことが増えた
ヒント
DISHA(見当識障害・社会的交流や関わり方の変化・睡眠覚醒サイクルの乱れ・不適切な排泄・活動性の変化と不安)の枠組みと各症状の具体例、初期に気づきやすいサインは、獣医行動診療を行う病院(ぎふ動物行動クリニック)や獣医師監修の解説(アニコム損保)に基づいて整理しました。
まず動物病院で「他の病気」を確認する
ここがとても大切な点です。夜鳴き・徘徊・そそうといった変化は、認知症以外の原因でも起こります。たとえば、体のどこかの痛み、視力や聴力の低下、甲状腺などの内分泌の病気、脳の病気、泌尿器のトラブルなど、さまざまな不調が同じような行動としてあらわれることがあります。
そのため獣医療では、認知症は「他の病気を除外したうえで診断される(除外診断)」ものとされています。つまり、「認知症だろう」と家庭で決めつけてケアを始める前に、まず動物病院で体の状態を確認してもらうことが出発点になります。隠れた病気が見つかれば、その治療で夜鳴きや徘徊がやわらぐこともあります。
注意
認知症の診断が身体疾患や他の行動学的問題を除外したうえで行われる(除外診断)こと、夜鳴き・徘徊・そそうが痛みや内分泌疾患など他の原因でも起こりうることは、獣医行動診療を行う病院(ぎふ動物行動クリニック)の解説に基づきます。診断・治療の要否は獣医師の判断によります。
家庭でできる生活リズムと環境の工夫
認知症は完治を目指す病気ではありませんが、家庭での工夫によって、その子が過ごしやすくなったり、進行がゆるやかになることが期待できるとされています。無理のない範囲で、できることから取り入れてみましょう。
生活リズムを整える
- 1
日中に光を浴びる時間をつくる
天気のよい日は日なたで過ごしたり、短い散歩や外気浴をしたりして、昼と夜のメリハリをつけます。日中に活動して適度に疲れることが、夜の睡眠につながりやすくなります。 - 2
こまめに声かけ・触れ合いをする
名前を呼ぶ、やさしく体をなでる、手からフードを与えるなど、五感への刺激を無理のない範囲で。関わりを保つことが心の張り合いにつながります。 - 3
無理のない運動と刺激を続ける
歩けるうちは短い散歩を続け、難しければ抱っこでの外気浴でも構いません。慣れたにおいや音にふれる時間が、脳への良い刺激になります。 - 4
昼夜逆転には日中の活動で対処する
夜に鳴く・動く場合は、まず日中の活動量と光を増やして生活リズムを整えることが基本の対応になります。それでも改善しないときは動物病院に相談を。
安全な環境をつくる
徘徊や見当識障害があると、家具のすき間で動けなくなったり、段差でケガをしたりしやすくなります。動き回っても安全な環境を整えましょう。
- 家具や柱の角にクッション材を巻いて、ぶつかったときの衝撃をやわらげる
- サークルやペットフェンスで、ぐるぐる歩いても安全な範囲をつくる(すき間に挟まらない工夫を)
- 円形に近い空間だと、角で動けなくなりにくいとされる
- 床にすべりにくいマットを敷き、段差にはスロープを設けて転倒を防ぐ
- トイレまでの動線をわかりやすくし、失敗が増えたら場所や数を見直す
メモ
食事・サプリは獣医師と相談して
脳の健康を支える目的で、DHA・EPAといったオメガ3脂肪酸や、中鎖脂肪酸(MCT)、抗酸化成分などを配合した療法食やサプリメントが用いられることがあります。ただし、その子の持病や体調によって合う・合わないがあり、選び方や与え方は獣医師と相談して決めることが大切です。市販の情報だけで自己判断せず、かかりつけの動物病院で相談しましょう。
日中の光・声かけ・無理のない運動でリズムを整えること、角の保護やサークルの活用・すべり止め・段差解消といった環境の工夫、円形に近い空間が動けなくなりにくいこと、DHA/EPAや中鎖脂肪酸・抗酸化成分の療法食やサプリを獣医師と相談して用いる考え方は、獣医師の解説(乙訓どうぶつ病院・ドクターオザワ動物病院)や獣医行動診療を行う病院(ぎふ動物行動クリニック)の情報に基づく一般的な目安です。適否は個々の状態で異なります。
治療とケアの考え方
認知症の治療は、完治ではなく「進行をゆるやかにし、その子と家族が快適に過ごせるようにする」ことが目標です。生活の工夫や環境整備、食事・サプリを土台に、必要に応じて薬を組み合わせます。
夜鳴きや強い不安、昼夜逆転などがつらい場合には、獣医師が診断のうえで薬を検討することがあります。脳内の神経伝達物質に働きかける薬や、不安をやわらげる薬などが使われますが、いずれも診断と処方が前提です。どの薬が向くか、量はどのくらいかは、その子の体質や持病によって変わるため、獣医師とよく相談しながら進めます。
注意
薬に頼りきるのではなく、生活リズム・環境・食事の工夫と組み合わせて、その子が落ち着いて過ごせる状態を一緒に探していくことが基本の姿勢になります。
治療の目標が進行抑制と生活の質の維持であること、脳内の神経伝達物質に働きかける薬や不安をやわらげる薬が獣医師の診断・処方のもとで用いられること、生活・環境・食事の工夫と組み合わせる考え方は、獣医行動診療を行う病院(ぎふ動物行動クリニック)の薬剤解説などに基づきます。人の薬や市販薬の自己判断での使用は避けてください。
飼い主自身のケアも大切に
夜鳴きが続くと、飼い主さんも睡眠が削られ、心身ともに疲れてしまいます。介護は長く続くこともあり、一人ですべてを抱え込むのは簡単ではありません。つらいときは我慢せず、周囲や専門家の力を借りてください。
- かかりつけの動物病院に、症状だけでなく介護の悩みも相談する
- 家族で役割を分担し、一人に負担が偏らないようにする
- 老犬のデイケアやペットシッター、老犬ホームなど、預かり・相談先を知っておく
- 同じ立場の飼い主同士で情報を交換し、気持ちを分かち合う
介護を一人で抱え込まず、動物病院や老犬ホームなどの相談先を活用するという考え方は、老犬ケア(老犬ホーム情報サイト)の介護ノウハウなどに基づきます。
よくある質問
犬の認知症は何歳ごろから気をつければいいですか。
夜鳴きや徘徊があれば認知症でしょうか。
認知症は治りますか。
夜鳴きに市販の薬やサプリを使ってもいいですか。
介護がつらいときはどうすればいいですか。
まとめ
犬の認知症(認知機能不全症候群/CDS)は、加齢に伴って脳の認知機能が少しずつ低下していく状態です。夜鳴き・徘徊・昼夜逆転・そそう・関わり方の変化といったサインは、DISHAの枠組みで整理すると気づきやすくなります。ただし、これらは他の病気でも起こるため、認知症と決めつけず、まず動物病院で体の状態を確認することが出発点です。
家庭では、日中の光と刺激で生活リズムを整え、角の保護やサークル、段差解消で安全な環境をつくること、食事やサプリは獣医師と相談して取り入れることが助けになります。治療は完治ではなく、進行をゆるやかにして快適に過ごすことが目標で、薬は必ず獣医師の診断・処方のもとで使います。そして、飼い主さん自身のケアも忘れずに。つらいときは抱え込まず、動物病院や老犬ホームなどに相談しながら、その子との時間を大切に過ごしていきましょう。シニア期の暮らし全般の整え方や、定期的な健康診断とあわせて備えていくと安心です。
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