犬の「うれション」は叱らないで|興奮性排尿と服従性排尿の違い、帰宅時・来客時の落ち着いた接し方、受診で除外したい病気
対象の目安: 子犬〜成犬


玄関のドアを開けた瞬間、しっぽをちぎれんばかりに振って駆け寄ってきた愛犬の足元に、じわっと水たまりが広がる。来客が「かわいいね」としゃがんだ途端、床が濡れる。遊びが盛り上がったところでポタポタ。いわゆる「うれション」です。
わが家の犬も、迎えた最初の年はほぼ毎日でした。うれしいのは伝わるけれど、毎回床を拭くのはさすがにしんどい。そして何より、「叱ったほうがいいのか、叱ってはいけないのか」が分からずに迷いました。
結論から言うと、うれションは叱ってはいけません。叱ると減らないどころか、別の種類の漏らし方が加わって悪化することが、獣医行動学の資料で繰り返し説明されています。この記事では、うれションと呼ばれるものの中身が実は2種類あること、それぞれがなぜ起こるのか、帰宅時や来客時に具体的にどう振る舞えばよいのか、成長でどのくらい落ち着くのか、そして「しつけの問題」と決めつける前に受診で除外しておきたい病気のサインまでを、出典にあたりながら整理します。
「うれション」の中身は、実は2種類ある
飼い主のあいだで「うれション」とひとまとめに呼ばれている行動は、獣医行動学ではおおむね2つに分けて説明されます。興奮性排尿(excitement urination)と、服従性排尿(submissive urination)です。VCA Animal Hospitalsの獣医行動学専門医による解説では、この2つに加えて、相手に近づきたい気持ちと怖さが同時に存在する葛藤性排尿(conflict urination)という見方も紹介されています。
なぜ分けるのかというと、同じ「漏れる」でも、原因がほぼ正反対だからです。片方は「うれしすぎて」、もう片方は「怖くて」。原因が違えば、家庭での接し方も違ってきます。
興奮性排尿:うれしくてこぼれる
UC Davis獣医学部の臨床動物行動サービスのサイトで公開されている飼い主向けハンドアウト(獣医学生が授業課題として作成したもの)は、興奮性排尿を「服従のシグナルがなく、挨拶や遊びの最中に、立ったまま・歩きながら排尿が起こるもの」と説明しています。子犬に多く、年齢とともに解消しうるとされ、考えられる原因として、飼い主による意図しない強化、膀胱括約筋の緊張の低下、遺伝的な素因が挙げられています。
PetMDの獣医師による解説(Megan Keller, DVM、2022年)は、興奮性排尿が「幸せでハイテンションで、まだ膀胱を完全にはコントロールできていない若い犬」に見られ、こうした犬は通常のようにしゃがんだり足を上げたりせず、「歩きながら、立ったまま、あるいは飛び跳ねながら」漏らすことが多いとしています。そのときの様子として、しっぽは高めで全身を使って振る、頭は上がっている、声を出す、といった特徴も紹介されています。
ワンクォール(カインズ)の獣医師監修記事(監修: 茂木千恵獣医師)では、興奮性排尿は帰宅時などの喜びで起こり、犬は漏らしたこと自体に気づいていない、と説明されています。興奮の高まりで身体のコントロールが追いつかず、本人も知らないうちに出ている。これが興奮性排尿の実像です。
服従性排尿:怖くて、緊張して出る
UC Davisの資料は、服従性排尿を「服従的な行動を伴う排尿」とし、その根底にあるのは恐怖だと明記しています。引き金になるのは、人が近づいてくること、罰、叱責、低くて大きな声など。年齢を問わず起こりうるとされ、見るべき服従のサインとして、耳を寝かせる、目をそらす、頭と首を下げる、座り込む・うずくまる、しっぽを巻き込む、仰向けになってお腹を見せる、が挙げられています。原因としては、幼いころのつらい経験、刺激の少ない子犬期、罰を受けてきた経歴、飼い主による意図しない強化、遺伝的素因が並びます。
PetMDは、服従性排尿はあらゆる年齢の犬に見られるが、若いメス、子犬、強く叱られてきた犬、保護施設や犬舎で暮らしていた犬に多いとし、姿勢としては「座る、頭を下げたり横に向けたりする、そけい部を見せる、あるいは完全にひれ伏す」、しっぽを巻き込み前足を体に引き寄せる、といった特徴を挙げています。
AKCは、服従性排尿を「犬の正常なコミュニケーション行動」の一つと位置づけ、犬はしゃがんで排尿することで社会的な宥和(なだめ)の意思を示し、自分は脅威ではないと伝えている、と説明しています。Best Friends Animal Societyの資料では、同じ行動を「宥和性排尿(appeasement urination)」とも呼ぶと紹介されています。
両者を見分ける3つのポイント
見分けの手がかりは、姿勢・状況・相手の3点です。
| 見るところ | 興奮性排尿 | 服従性排尿 |
|---|---|---|
| 姿勢 | 立ったまま・歩きながら・飛び跳ねながら。しっぽは高め、全身で振る、頭は上がっている(PetMD、UC Davis) | 座る・うずくまる・頭を下げる・仰向けでお腹を見せる。耳を寝かせ、しっぽを巻き込み、目をそらす(UC Davis、PetMD) |
| 状況 | 帰宅時の挨拶、遊びの盛り上がり、なでられている最中(VCA) | 人が近づいてくる、頭の上から手が伸びてくる、叱られる、低く大きな声をかけられる(UC Davis) |
| 相手 | 大好きな家族など、気持ちが高ぶる相手 | 知らない人、体の大きな人、声の低い人、過去に叱った人など、犬が「脅威かもしれない」と感じる相手 |
ただし、きれいに二分できないケースもあります。VCAは、犬がしばしば複数の相反する感情を同時に抱えている、つまり飼い主や来客に社会的に引き寄せられながら、同時に恐怖・不安・過剰な服従を示している状態を、葛藤に起因する行動として説明しています。「寄ってきたのに、なでようとしたら伏せて漏らした」というのは、この葛藤の典型です。
メモ
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子犬は「ためておく」筋肉がまだ育っていない
いぬのきもちWEB MAGAZINEの獣医師監修記事(監修: 岡本りさ獣医師)は、子犬にうれションが多い理由として、興奮しやすいことと、排泄のコントロールがまだ未発達であることの2点を挙げています。同誌の別の記事でも、子犬は膀胱括約筋がまだ発達していないため、自分でうまくコントロールできずにおしっこが漏れてしまう、と説明されています。UC Davisの資料が興奮性排尿の原因に「膀胱括約筋の緊張の低下」を挙げているのも同じ話です。
つまり、子犬の興奮性排尿は、しつけの失敗でも性格の問題でもなく、体の成長段階そのものに理由があります。ここを理解しておくだけで、「なんで覚えないの」という気持ちがかなり軽くなります。
興奮そのものが引き金になる
あま動物病院のスタッフ日記では、うれションは極度の興奮が原因であることがほとんどで、興奮すると膀胱の筋肉が緩んでおしっこが漏れてしまう、と説明されています。VCAは、興奮性排尿が起こる典型的な場面として、飼い主の帰宅時や、激しくなでられているときを挙げています。
ここで大事なのは、興奮を高めているのが誰か、という視点です。ペトコトの獣医師解説(奥田順之獣医師、行動診療科担当)は、激しく顔まわりをワシャワシャなでるのは犬を興奮させるやり方だと指摘しています。ワンクォールの記事も、飼い主の態度や声かけによって服従と興奮のどちらか、または両方の感情が高まり、それがうれションの原因になっている場合が多い、と述べています。こちらの振る舞いが火をつけていることが少なくないのです。
不安と緊張が、宥和のサインを引き出す
服従性排尿の背景には、怖さと緊張があります。UC Davisの資料は、犬が「脅威と感じる相手に向き合わされている」と感じたとき、じっと見つめる・素早い動き・身をかがめて覆いかぶさるといった脅威の合図を受け取ったとき、その脅威をやわらげるために服従のサインを示そうとする、と説明し、この服従行動は正常なものだと付け加えています。
私たちが「かわいい」と思って取る行動、たとえば正面からまっすぐ近づく、上からかがみ込む、頭をなでようと手を伸ばす、ぎゅっと抱きしめる、こうした動きはBest Friendsの資料で「犬が脅威と感じうる行動」として列挙されています。人間の愛情表現が、犬には「大きなものが上から迫ってくる」に見えることがあるのです。
犬同士のあいさつ行動としての意味
服従性排尿は、もともと犬同士のコミュニケーションの中にある行動です。AKCが「正常なコミュニケーション行動」と呼び、犬はこれによって「自分は脅威ではない」と伝えている、と説明しているとおりです。ペトコトの解説では、うれションを相手への服従心の表れとしての劣位行動と位置づけ、決して「うれしくて排泄している」わけではない、と釘を刺しています。金倉高志ドッグトレーナー(Yahoo!ニュース エキスパート、2021年)も、おしっこを漏らすことで「自分は害を与えませんよ、仲良くしてください」という気持ちをアピールする習性がある、と表現しています。
「服従=上下関係」と単純化しないために
ここで一つ注意しておきたいのが、「服従性排尿」という名前から「うちの犬は自分を下に見ている」「主従関係ができている証拠」「逆に、なめられないようにしなければ」といった方向に話が飛んでしまうことです。
American Veterinary Society of Animal Behavior(AVSAB、米国獣医動物行動学会)は、動物の行動修正に優位性理論(dominance theory)を用いることについての立場表明の中で、優位性とは本来、食べ物や休息場所や交配相手といった資源への優先的アクセスを決める個体間の関係であり、飼い主が変えたいと思う行動の大半は資源とは関係がなく、行動が意図せず報酬を受けてきたことや、代わりの適切な行動が教えられていないことから起きている、と述べています。さらに、恐怖や不安は行動問題のよくある原因であり、罰はその恐怖や不安を増やすことで問題を直接悪化させうる、とも明記しています。
服従性排尿は「怖い」「緊張している」というサインであって、順位争いの話ではありません。「服従させる」方向に舵を切れば、怖さはさらに増え、漏らし方はひどくなります。これは次の章で説明する「叱ると悪化する理由」そのものです。
興奮性排尿と服従性排尿の定義・姿勢・原因は、VCA Animal Hospitalsの獣医行動学専門医による解説(Debra Horwitz, DVM, DACVB / Gary Landsberg, DVM, DACVB, DECAWBM)を主とし、UC Davis獣医学部臨床動物行動サービスのサイトで公開されている飼い主向けハンドアウト(獣医学生が授業課題として作成したもので、末尾にその旨が明記されています)、PetMDの獣医師解説(2022年)、AKCの解説(2018年更新)に基づきます。優位性理論に関する記述はAVSABの立場表明によります。
叱ると悪化する理由
うれションを叱ってはいけない、という指摘は、今回あたった出典のほぼすべてに共通していました。理由を分解します。
本人に自覚がない行動を叱っても、結びつかない
ワンクォールの記事は、興奮性排尿では犬は漏らしたことに気づいていないと説明しています。金倉トレーナーも、うれションは犬に自覚がない行為なので、しつけで直すというのは少し難しい、と述べています。自覚のない行動を叱られた犬に残るのは、「なぜか分からないけれど、飼い主が帰ってきたら怒られた」という記憶だけです。
叱ることが「怖さ」を足して、服従性排尿を生む
ここが一番大事なところです。UC Davisの資料は、服従性排尿の最中に罰すると、犬はその脅威を減らそうとして、罰が続いているあいだも排尿し続ける、と説明しています。VCAは、飼い主が言葉で叱ったり罰したりすることは、犬をより服従的に、より不安に、より恐れやすく、より葛藤した状態にするだけであり、体罰は完全に避けなければならない、としています。
ワンクォールの記事は、この流れを悪循環として描いています。「飼い主がきつく叱ったり罰を与えたりすると、犬は怖がって服従を示します。それが今度は服従性排尿の原因になるという悪循環に陥ります」。つまり、最初は単なる興奮性排尿だったものが、叱られることで恐怖の要素が加わり、服従性排尿という別の問題を新しく抱え込むことになるのです。PetMDも、罰は「服従や恐怖の要素を加えることで状況を悪化させるだけ」と表現しています。
金倉トレーナーは、飼い主が怒って興奮状態になれば犬の興奮も収まらない、として、漏らしたときは黙って片づけることをすすめています。怒鳴り声は「低くて大きな声」という服従性排尿の引き金(UC Davis)であると同時に、場のテンションを上げる要因でもあり、どちらの意味でも逆効果です。
見下ろして近づく、正面から目を合わせる、頭の上から手を伸ばす
叱っているつもりがなくても、体の使い方が「脅し」になっていることがあります。UC Davisの資料の「してはいけないこと」には、犬の目をじっと見つめない、犬の上にかがみ込んだり覆いかぶさったりしない、が明記されています。VCAは、大きな声、突然の動き、手を伸ばすこと、直接のアイコンタクトを避けるよう説明し、Best Friendsは、直接目を合わせる、犬の上にかがむ、特に頭の上から手を伸ばす、抱きしめる、正面から近づく、を脅威になりうる行動として挙げています。
注意
帰宅時の落ち着いた挨拶:具体的な手順
うれションの多くは帰宅の場面で起こります。ここをどう設計するかが、家庭でできる対策の中心になります。出典が共通してすすめている流れを、順番にまとめます。
- 1
出かける前に、排泄をすませておく
膀胱が空なら、漏れる量はそもそも少なくなります。金倉トレーナーは、落ち着いてからまず排泄をさせ、膀胱におしっこがない状態で一緒に遊ぶことを心がけるようすすめています。PetMDも、興奮性排尿には刺激の前に膀胱を空にしておくために頻繁に散歩に連れ出すことを挙げています。出かける前の排泄をルーティンにしてください。 - 2
ドアを開けたら、数分間はおだやかに「無視」する
UC Davisの資料は、帰宅時の興奮が原因なら、ドアを入ってすぐは犬を無視し、落ち着くまで5分ほど待ってから相手をするよう説明しています。いぬのきもちの獣医師監修記事(監修: 岡本りさ獣医師)では、帰宅してすぐに構わず、数分から10分程度たって愛犬が落ち着いたタイミングでおだやかに接すると、うれションの習慣を減らしていける可能性があるとされています。ペトコトの獣医師解説は、帰宅時になでるのではなく「おすわり」や「待て」を指示して一度興奮を抑えてから、フードを与えてほめるようすすめています。Best Friendsは、帰宅時はまず犬を無視し、落ち着いた様子で話しかけず、興奮した動きをせず、なでない、としています。無視といっても冷たくする必要はなく、「見ない・触らない・声を出さない」を静かに続けるだけです。荷物を置いて手を洗い、上着を脱いでいれば自然と数分たちます。 - 3
落ち着いたら、犬のほうから来るのを待つ
VCAは、こちらから犬に近づくのではなく、犬に近づかせるよう説明しています。呼び寄せると再び興奮が上がりやすいので、静かに座って待つのがコツです。 - 4
しゃがんで、体を横向きに、視線は外す
VCAは「犬の上に立つのではなくひざをつき、やさしく話しかけ、頭ではなく胸をなでる」よう説明しています。AKCは、犬の目線までおりて、体を横に向け、手を差し出す、という近づき方を紹介しています。UC Davisは、正面ではなく横から近づき、直接目を見つめないこと、頭の上ではなくあごの下をなでることを挙げています。Best Friendsは、視線は犬の少し横に外し、かがむか座って自分を小さく見せ、あごの下をゆっくりなでるよう説明しています。まとめると、しゃがむ・横向き・目を合わせない・低くやわらかい声・あごか胸を静かに、です。 - 5
なでるのは短く、静かに。盛り上がってきたら手を止める
いぬのきもちの獣医師監修記事は、抱っこやなでている最中に興奮してきたら、即座になでるのをやめるとしています。PetMDも、犬が興奮しているあいだは関わらず、背を向けて落ち着くのを待つよう説明しています。「興奮したら関わりが止まり、落ち着いたら関わりが戻る」を一貫させると、犬は落ち着くほうが得だと学びます。 - 6
漏らしてしまったら、何も言わずに片づける
UC Davisの資料は、犬が服従性排尿をしたときは無視し、叱れば悪化するし、ほめて声をかけるのも犬を混乱させる、としています。金倉トレーナーの言うとおり、黙って片づける、が正解です。Best Friendsは、においが残ると同じ場所で繰り返しやすいため、酵素系のクリーナーで拭き取ることをすすめています。
ヒント
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来客時:先に協力をお願いしておく
来客は、帰宅よりも難しい場面です。相手は犬の扱いに慣れているとは限らず、善意で「かわいい!」と正面からかがみ込んできます。それが服従性排尿の引き金の詰め合わせであることは、ここまでで見てきたとおりです。
玄関に入る前に伝える3つのこと
UC Davisの資料は、来客に対して少なくとも最初は犬を無視してもらうよう頼むことを挙げています。玄関のチャイムが鳴ったあとでは間に合わないので、来る前にメッセージで伝えておくのが現実的です。
来客に事前にお願いしておきたいこと
- 入ってきたら、犬を見ない・触らない・声をかけないで、まず座ってください
- 犬が落ち着いて寄ってきたら、正面からではなく横向きにしゃがんで、あごの下か胸をなでてください
- 頭の上から手を伸ばしたり、抱き上げたり、大きな声で呼んだりしないでください
- もし漏らしても、叱ったり驚いたりせず、そのままにしておいてください(こちらで片づけます)
- 子どもが一緒に来る場合は、犬に走り寄らない・上から覆いかぶさらないよう、大人が先に伝えておいてください
来客が来る前にできる準備
来客の直前に排泄をすませておくのは帰宅時と同じです。いぬのきもちの記事では、来客時はクレートで対応するという予防的な工夫も紹介されています。落ち着くまでクレートやサークルで待たせ、来客が座って場が静まってから出す順番にすると、いちばん興奮しやすい「玄関でのご対面」を避けられます。クレートが安心できる場所として定着していることが前提です。
VCAは、来客に対する反応を練習するには、短い訪問を繰り返し予定して、犬が適切な反応を練習できる機会を作るとよいとしています。協力してくれる友人に、5分だけ来て、無視して座って、静かに帰る、を何度か頼めれば理想的です。
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床とあいさつ場所の準備:失敗を「事故」にしない
行動を変えるには時間がかかります。そのあいだ、毎回フローリングを拭いてストレスをためるより、漏れても困らない場所を先に作っておくほうが、飼い主も犬も穏やかでいられます。
- 玄関やあいさつ場所に、ペットシーツや洗える防水マットを敷いておく。「そこで漏れても大丈夫」という前提があるだけで、叱りたくなる気持ちがずいぶん減ります。
- 可能なら、あいさつを外でする。AKCは「可能であれば外で犬に挨拶する」ことを挙げています。庭やベランダ、玄関の外で最初の数分を過ごしてから家に入る、という流れも一案です。
- 漏らした場所は酵素系クリーナーでにおいごと拭く(Best Friends)。においが残ると、その場所が「排泄する場所」として定着しやすくなります。
- 外出先や人の家で心配なときは、マナーベルトやおむつを使う。金倉トレーナーは外出先での対策としてマナーベルトやおむつを挙げ、PetMDもトレーニング中に犬用おむつを使う選択肢に触れています。おむつは「直す道具」ではなく「安心して練習するための保険」です。
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興奮のレベルを下げる練習:「落ち着き=ごほうび」に
帰宅時の対応は、いわば「火をつけない」工夫です。それと並行して、犬自身が興奮から落ち着きに戻る力を育てていくのが本筋になります。
興奮する反応を、落ち着く行動に置き換える
VCAは、興奮や恐怖の反応を「落ち着く」「自分のベッドに行ってリラックスする」といった行動に置き換えることを治療の中心に置き、ごほうびベースの訓練だけを使うよう説明しています。具体的には、マットに行く練習、アイコンタクトを伴う落ち着いた「おすわり」、お気に入りのおもちゃや食べ物で注意をそらすことが挙げられています。
ペトコトの解説も、帰宅時に「おすわり」や「待て」で一度興奮を抑えることをすすめ、ワンクォールの記事は、「座って待つ」「伏せ」などの置き換え行動を教えて、従ったらおやつでほめることで、興奮しない状態を学習させると説明しています。PetMDは、ポジティブな強化のプロトコルを使って「リラックスの仕方を教える」ことを挙げています。
ポイントは、興奮している最中に「おすわり!」と叫ぶのではなく、静かな時間にたくさん練習しておいて、興奮しそうな場面の少し手前で使うことです。玄関から離れたマットで「おすわり・待て」ができたらおやつ、という練習を、誰も帰ってこない平日の昼間に積み重ねておきます。
ごほうびは「なでる」より「食べ物」で、自信も育てる
UC Davisの資料は、身体的なほめ方(なでる)よりもおやつを使うことを挙げています。なでること自体が興奮の引き金になりやすい犬には、小さなおやつを静かに渡すほうが、落ち着きを強化しつつ興奮を上げずにすみます。
服従性排尿が中心の犬には、怖さそのものを減らす取り組みも要ります。UC Davisは、正の強化による基本的なコマンドの練習で犬の自信を築くことをすすめ、PetMDは、引き金になる動き(手を伸ばす、かがむなど)にごほうびを使いながら少しずつ慣らす脱感作を挙げています。「手が近づいてくる=おやつが来る」という経験を、脅威にならない距離から積み重ねるやり方です。
なお、PetMDは興奮性排尿の対策として、毎日の一貫した運動と頭を使う刺激も挙げています。エネルギーがたまった状態で帰宅を迎えると、どうしても爆発しやすくなります。
メモ
成長で落ち着く目安と、続くときの考え方
多くは成長とともに減る。ただし個体差が大きい
VCAは、こうした排尿が子犬と若いメス犬に最も多く見られ、年齢とともに多くの犬が卒業していく、その理由としては挨拶のときの興奮が徐々に下がることや、性成熟にともなって排尿のコントロールが高まることが考えられる、と説明しています。AKCは、子犬に最も多く、通常1歳までに卒業するとしています。PetMDも、興奮性排尿は成熟して感情的に落ち着くにつれて卒業することが多い、としています。
国内でも同様で、金倉トレーナーは、成犬になったら自然に直っていたというケースが一番多く、1歳を過ぎたころに改善したという飼い主が多いと経験から述べています。いぬのきもちの獣医師監修記事では、385人へのアンケートで約6割が「したことがある」と答えた一方、「なかなか直らない」経験を持つ飼い主は約2割だったと紹介されています。
つまり、多くの家庭では「体の成長と落ち着いた接し方の両方で、1歳前後をめどに減っていく」のが一般的な経過です。ただし2割程度は長引くわけで、これは珍しいことではありません。
成犬になっても続くとき
1歳を過ぎても頻繁に続く場合、考える順番は次のとおりです。
- まず医学的な原因を除外する(次の章)。UC Davisの資料も、最初に医学的な原因を除外することの重要性を結論で強調しています。
- 「興奮性」か「服従性」かをあらためて観察する。成犬で続く場合は服従性の要素が混ざっていることが多く、怖さを減らす取り組みが必要です。
- 家族や来客の振る舞いを点検する。誰かが盛り上げ役になっていないか、誰かが叱っていないか。
- 獣医行動診療科や、ごほうびベースのトレーナーに相談する。AVSABは、優位性理論に基づく対決的な訓練をすすめるトレーナーには依頼せず、学習理論を理解し望ましい行動の強化に重点を置くトレーナーを選ぶよう獣医師に求めています。相談先を選ぶ基準としてそのまま使えます。
「しつけの問題」と決めつける前に:受診で除外したい病気
ここは、この記事でいちばん外せない部分です。うれションだと思っていたものが、実は病気のサインだった、ということがあります。UC Davisの資料は、服従性・興奮性排尿と紛らわしい他の原因として、不完全なトイレトレーニング、マーキング、分離不安、そして膀胱の機能異常などの医学的な状態を挙げ、まず獣医師に診てもらって医学的原因を除外することを「やるべきこと」の最初に置いています。AKCも「獣医師のチェックを受けて医学的な状態を除外する」を最初のヒントにしています。
病気を疑うサイン
うれションは、興奮や緊張という「引き金」があるときに出るものです。そうではない場面で漏れているなら、別の原因を考える必要があります。
受診して相談したいサイン
- 興奮しているように見えないのに、少しだけ漏れる、自然におしっこが出てしまう(いぬのきもち、金倉トレーナー)
- 寝ている間や、くつろいでいるあいだに漏れていて、起きたら寝床が濡れている(VCA、Merck)
- 排尿の回数が急に増えた、少量ずつ何度もする、トイレでいきむ、排尿時に鳴く(VCA、Cornell)
- 尿に血が混じる、尿のにおいが強い、陰部をしきりになめる(VCA、Cornell)
- 水を飲む量と尿の量が明らかに増えた(VCA)
- トイレを覚えていた成犬が、急に家の中で失敗するようになった(VCA、PetMD、Best Friends)
- 子犬のころから絶えず尿が垂れていて、陰部まわりの毛が変色している(VCA、Merck)
- 尿漏れが続いて陰部まわりの皮膚が炎症を起こしている、陰部を頻繁になめる(ワンクォール・安川辰弘獣医師監修、VCA)
ワンクォールの獣医師監修記事(監修: 茂木千恵獣医師)は、うれションでは排尿の準備行動がないのに対し、排尿の病気では周辺の地面のにおいを嗅ぐなどの準備行動が見られる、という見分け方を紹介しています。ペトコトの解説も、一定のタイミング(帰宅時など)で排泄している場合は病気の可能性は低いとしつつ、隠れた泌尿器系の疾患がある場合もあるので注意するよう述べています。ワンクォールの別の獣医師監修記事(監修: 安川辰弘獣医師)は、犬の尿漏れの原因として恐怖や不安・興奮といった心因的なものだけでなく、異所性尿管、ホルモン反応性尿失禁、椎間板ヘルニアや脊椎の外傷などを挙げ、叱ると排尿そのものがいけないことだと理解して症状を悪化させる場合がある、尿漏れが続くと皮膚炎を起こす場合があるので気にかけてほしい、と説明しています。どうぶつ病院京都 四条堀川の解説では、診断にあたって「尿失禁が起きる状態(寝ている時、起きている時)」や過去の手術歴といった情報が重要だとされています。受診前に、いつ・どんな場面で・どのくらいの量が出るかをメモしておくと、話が早くなります。
除外しておきたい代表的な病気
尿路感染症(膀胱炎など) VCAは、尿路感染症の犬は外に出るたびに頻繁に排尿しようとする、排尿時にいきんだり鳴いたりする、尿に血が混じる、尿が垂れる、陰部を頻繁になめる、尿のにおいが非常に強い、といった徴候を挙げ、「トイレのしつけが崩れたら要注意」としています。Cornell大学Riney Canine Health Centerも、排尿時のいきみ、少量頻回の排尿、家の中での失敗、悪臭、陰部をなめる、血尿を代表的な徴候とし、尿検査と、汚染を避けるための膀胱穿刺による採尿、細菌培養と感受性検査で診断・治療方針を決めると説明しています。VCAは、治療しなければ不快が続くうえ、膀胱結石や腎盂腎炎といった合併症が起こりうるとしています。
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尿失禁(尿道括約筋機能不全、いわゆるホルモン反応性尿失禁) VCAは、尿失禁の最も一般的な徴候は、犬が寝ているときやくつろいでいるときに体の下に尿がたまったり点々と付いたりすることだとし、避妊済みのメス犬の20%超、大型犬では最大30%が影響を受けうると推定され、中年から高齢の中・大型メス犬に最も多いとしています。Merck Veterinary Manualは、尿道括約筋機能不全(USMI)が避妊済みのメス犬に最も多く、中年から高齢で目立ちやすく、寝ているときや横になっているときに無意識に尿が漏れる一方で通常の排尿は正常にできる、と説明し、原因は去勢・避妊された動物、特にメス犬における性ホルモンの不足によるものと考えられている、としています。国内でも、どうぶつ病院京都 四条堀川の解説が、不妊手術後や加齢にともない女性ホルモンの分泌が減ることで膀胱括約筋が緩みやすくなり、寝ているときに尿漏れが生じると説明しています。VCAは、尿失禁の約70%が内科的治療だけでよく反応するとしています。
異所性尿管 VCAは、異所性尿管を、尿管が膀胱の正常な位置につながらず、尿道や膣などに開いてしまう生まれつきの異常だと説明し、最も多い徴候は「若いメス犬の尿失禁、つまり尿が垂れること」で、徴候は離乳後まもなく現れることが多いが成犬になるまで気づかれない犬もいる、としています。メスはオスの4〜20倍多く影響を受け、陰部まわりの毛の変色や、繰り返す尿路感染症を伴うことがあります。Merck Veterinary Manualは、犬では生後3〜6か月での報告が最も多く、絶えず尿が垂れるのが典型的な徴候だが、片側だけの場合は正常に排尿できることもある、としています。VCAは、適切な治療により約50〜75%の犬で失禁がなくなるとしています。「子犬だからうれションで当然」と様子を見ているうちに見過ごしやすいので、子犬期から絶えず垂れている場合は早めに相談してください。
多飲多尿を起こす病気 VCAの「家の中で排尿する犬の検査」の解説は、不適切な排尿の医学的な原因として、尿路や生殖器の炎症・感染、避妊済みメス犬のエストロゲン不足、腎不全、糖尿病、尿崩症、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、膀胱の制御に影響する神経疾患を挙げ、副腎皮質ステロイドなどの薬が喉の渇きと尿量を増やすことにも触れています。飲む量と出る量が増えれば、膀胱がすぐいっぱいになって「ちょっとの興奮で漏れる」ように見えることがあります。スクリーニングとしては血球計算、血液生化学検査、尿検査が挙げられ、必要に応じて細菌培養やレントゲン・超音波検査が追加されます。
注意
尿路感染症の徴候と診断はVCA「Urinary Tract Infections (UTIs) in Dogs」およびCornell大学Riney Canine Health Center「Urinary tract infections」、尿失禁の有病率と徴候はVCA「Urinary Incontinence (Urethral Incontinence) in Dogs」とMerck Veterinary Manual「Disorders of Micturition in Dogs and Cats」、異所性尿管はVCA「Ectopic Ureters in Dogs」とMerck「Ureteral Anomalies in Animals」、多飲多尿の原因疾患はVCA「Testing for Inappropriate Urination」に基づきます。数値はいずれも各出典に記載のものです。
まとめ:叱らない、盛り上げない、まず膀胱を空に
うれションは、犬が「うれしい」あるいは「怖い」を体で表しているサインで、本人にはコントロールも自覚もほとんどありません。だから叱っても直らず、叱るほど怖さが上乗せされて悪化します。家庭でできることは、順番にすると次のとおりです。
- 1
病気のサインがないか、最初に確認する
興奮していないときの漏れ、寝ている間の漏れ、頻尿や血尿、多飲多尿、成犬での急な始まり、子犬期からの絶え間ない垂れ。当てはまるなら、しつけの話より先に尿検査を受けてください。 - 2
興奮性か服従性か、姿勢と状況で見当をつける
立ったまま・歩きながら・しっぽ高めなら興奮性、うずくまる・仰向け・耳が寝ている・目をそらすなら服従性。両方が混ざることもあり、服従性の要素があるなら接し方の見直しが最優先です。 - 3
膀胱を空にしてから、あいさつする
出かける前と帰宅直後にまず排泄。それだけで漏れる量が変わります。 - 4
帰宅後5分は、見ない・触らない・声を出さない
落ち着いたら、犬のほうから来るのを待って、しゃがんで横向き、目を合わせず、低い声であごか胸を静かに。盛り上がってきたら手を止める。 - 5
来客には先にお願いし、床には保険をかける
「最初は無視して座っていてください」を事前に伝える。玄関にペットシーツや洗えるマットを敷き、漏らしても黙って片づける。 - 6
落ち着きにごほうびを出す練習を、静かな時間に積む
マットで「おすわり・待て」、落ち着いたらおやつ。興奮の手前で使えるようにしておく。ごほうびはなでるより食べ物で。 - 7
1歳前後をめどに経過を見て、続くなら専門家へ
多くは成長と接し方の改善で減っていきます。続く場合は、医学的な除外をしたうえで、獣医行動診療科やごほうびベースのトレーナーに相談を。
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帰宅のたびに床を拭くのは、正直に言って楽ではありません。ただ、玄関で待っていたその子は、あなたが帰ってきたことがうれしくて、あるいは少し緊張していて、体が先に反応してしまっただけです。そこに「悪いこと」は何もない。そう思えると、黙って片づけて、しゃがんで、静かに手を差し出す動きが自然にできるようになります。犬はその落ち着きをちゃんと見ています。
よくある質問
うれションを叱らずに、どうやって「ダメ」と伝えればいいですか?
興奮性排尿と服従性排尿、どちらか分からないときは?
何歳ごろに落ち着きますか?
帰宅時に無視するのがかわいそうです。本当に必要ですか?
来客のたびに漏らすので、人を呼びにくくなりました。
避妊・去勢をすればうれションは直りますか?
うれションと、病気による尿漏れはどう見分ければいいですか?
出典・参考
- Dog Behavior Problems - Submissive, Excitement, and Conflict Urination / VCA Animal Hospitals
- Submissive and Excitement Urination in Dogs(PDF・獣医学生が授業課題として作成したハンドアウト) / UC Davis School of Veterinary Medicine, Clinical Animal Behavior Service
- Why Dogs Pee When Excited or Scared / PetMD
- Tinkle, Tinkle Little Dog: Tips for Dealing with Submissive Urination / American Kennel Club(AKC)
- How to Stop Dog Submissive Urination and Excited Peeing / Best Friends Animal Society
- Position Statement on the Use of Dominance Theory in Behavior Modification of Animals(PDF) / American Veterinary Society of Animal Behavior(AVSAB)
- Disorders of Micturition in Dogs and Cats / Merck Veterinary Manual
- Ureteral Anomalies in Animals / Merck Veterinary Manual
- Urinary Incontinence (Urethral Incontinence) in Dogs / VCA Animal Hospitals
- Urinary Tract Infections (UTIs) in Dogs / VCA Animal Hospitals
- Ectopic Ureters in Dogs / VCA Animal Hospitals
- Testing for Inappropriate Urination (Urinating in the House) / VCA Animal Hospitals
- Urinary tract infections / Cornell University College of Veterinary Medicine, Richard P. Riney Canine Health Center
- 【獣医師解説】犬がうれしょんする理由は?やめさせるしつけ方を解説 / ペトコト(PETOKOTO)
- 犬がうれしょんをする理由は?原因と対処法、興奮させないための飼い主の振る舞いについて解説【獣医師監修】 / ワンクォール(カインズ)
- 愛犬の尿漏れを叱らないで!原因は心身の病気やケガかもしれません。 / ワンクォール(カインズ)
- 【獣医師監修】犬のうれしょんは直せる?!原因と対処法について解説 飼い主さんのアンケート結果も / いぬのきもちWEB MAGAZINE
- 犬がうれしょんをする理由と対策 子犬にうれしょんが多いのはなぜ? / いぬのきもちWEB MAGAZINE
- 犬が嬉しい時におしっこをしてしまう。通称「うれしょん」って直るの?(ドッグトレーナー/金倉高志) / Yahoo!ニュース エキスパート
- 犬の尿失禁について|意識せずに排尿してしまう尿失禁について獣医師が解説 / どうぶつ病院京都 四条堀川
- No.533 犬のうれしょん / あま動物病院 スタッフ日記
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