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成犬になってからのトイレの失敗(粗相)とマーキング|まず病気を除外し、環境と学習から立て直す

対象の目安: 成犬

カエデしつけ・散歩担当
・ 約29分で読めます
成犬になってからのトイレの失敗(粗相)とマーキング|まず病気を除外し、環境と学習から立て直す

子犬のころにあれだけ苦労して覚えたはずのトイレが、成犬になってから急に失敗するようになった。来客があるときだけ玄関のマットで用を足す。去勢したのに、家の中の柱や家具の角におしっこをかける——。「今さらしつけ直しなのか」「わざとやっているのでは」と気持ちが沈む相談ですが、成犬の排せつトラブルは、子犬のトレーニングとはまったく別のものとして考えたほうがうまくいきます。

いちばんの理由は、一度覚えたことができなくなった背景に、体の変化が隠れていることが少なくないからです。VCA Animal Hospitalsの解説は「愛犬が家の中で排せつしている場合、とくにその行動が突然始まったのであれば、獣医師に体の病気がないか確認してもらうことが重要です」と述べています。この記事では、まず病気を除外する手順から始めて、マーキングと粗相の見分け方、環境と学習の立て直し方、においを残さない掃除、シニア期の配慮までを順番に整理します。

子犬のトイレトレーニングをこれから始める方は、下の記事のほうが土台からまとまっています。この記事は「一度できていたのに、できなくなった成犬」に焦点をあてています。

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まず「病気ではないか」を確かめる

一度身についた排せつの習慣が崩れたときに、最初に確認すべきは体調です。Today's Veterinary Practiceの解説では、house soiling(家の中での排せつ)に関わる病気として「排せつの切迫感や回数を増やすもの、排せつ時に痛みを生じさせるもの、運動能力や随意的なコントロールに影響するもの」が挙げられ、すでにトイレを覚えていた成犬が急に失敗し始めた場合は、医学的な評価を優先すべきだとされています。同誌は、望ましくない室内排尿で来院したすべての犬に尿検査が必要だとも述べています。

背景として挙げられる主な状態

起きていること関わることのある状態家庭で気づきやすいサイン
尿の量・回数が増える腎臓病、糖尿病、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、子宮蓄膿症、肝臓の病気、一部の薬の影響水を飲む量が明らかに増えた、夜中にも排尿する、薄い色の尿が大量に出る
排せつのときに痛みや不快感がある膀胱炎、尿石症、前立腺肥大、膀胱や尿道の腫瘍、大腸炎何度もトイレに行くのに少ししか出ない、いきむ、鳴く、血が混じる
トイレまで行けない・我慢が効かない関節の痛み、椎間板ヘルニア、神経の障害、括約筋のコントロールの問題、ホルモン反応性尿失禁立ち上がりに時間がかかる、寝床が濡れている、本人が気づいていない様子
排便の回数が増える炎症性腸疾患、食物への過敏、寄生虫軟便・下痢が続く、便の回数が増えた
判断や見当識が変わる加齢に伴う認知機能の低下(認知機能不全症候群)高齢、夜鳴きや徘徊、家の中で迷う、トイレの手前で排せつする

病気の分類はVCA Animal Hospitals「Dog Behavior Problems - House Soiling」およびToday's Veterinary Practice「Canine House Soiling: Back to Basics」を参照しました。ホルモン反応性尿失禁・膀胱炎・尿路結石症・異所性尿管・椎間板ヘルニア・脊髄腫瘍・神経障害という具体的な病名は、獣医師の林美彩氏が監修したワンクォールの解説によります。前立腺肥大・腫瘍への言及はドクターオザワ動物病院の解説を参照しました。

受診を急いだほうがよいサイン

危険

トイレに行く姿勢は取るのに尿がまったく出ない、極端に量が少ない、ぐったりしている——このときはすぐに動物病院へ連絡してください。ドクターオザワ動物病院の解説では、尿の量が極端に少なくなったり全く出なくなった場合について、すぐに治療をしなければ命にかかわることもあると述べられています。時間との勝負になるため、様子見はせず早めに連絡してください。

次のような様子は、しつけの相談より先に体の確認をおすすめします。

  • 排尿時に痛そうにする、鳴く、何度もいきむ
  • 尿に血が混じる、色やにおいがいつもと明らかに違う
  • トイレに行く回数が増えたのに、一回の量はごく少ない
  • 水を飲む量が増えた。光が丘動物病院グループの解説では、1日の飲水量が体重1kgあたり100mL以上になる場合に多飲の可能性があるとされています。尿量は体重1kgあたり50mLを超えると多尿とされます。体重5kgの子なら、飲水量で1日450〜500mLあたりが目安のラインです
  • 寝ている場所が濡れている(本人に自覚がなさそう)
  • 立ち上がる・階段を上がるのをためらう、歩き方が変わった
  • 高齢で、夜鳴きや徘徊、昼夜逆転など他の変化もある

注意

「もともとそそうが多い子だから」という前提があると、病気のサインが見過ごされやすくなります。回数や量の変化は、飼い主が思っている以上に緩やかに進むことがあります。年1〜2回の健康診断で尿検査を受けておくと、変化に気づく基準ができます。

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動物病院に伝えることをメモにしておく

診察室では犬は排せつしませんし、緊張して普段の様子も出ません。だからこそ、家庭での記録が診断の材料になります。VCAの解説でも、排尿・排便の回数を記録するトレーニング日誌をつけることがすすめられています。

受診前にまとめておきたいこと

  • いつから始まったか(何日前・何週間前から)
  • 1日の排尿・排便の回数と、それぞれのおおよその量
  • 尿の色(薄い/濃い)、血が混じるか、においの変化
  • 失敗する場所(いつも同じ場所か、家じゅうか)
  • 時間帯(留守番中・夜間・来客時・食後など)
  • そのときの状況(誰がいたか、直前に何があったか)
  • 飲水量(器に入れた量と残った量で、数日ぶんの平均)
  • フードやおやつ、飲んでいる薬・サプリの変更の有無
  • 最近の暮らしの変化(引っ越し、家族の増減、工事、留守番時間の変化)

ヒント

失敗しているところを短い動画で撮っておくと、排尿の姿勢(しゃがむのか足を上げるのか)、量、いきみの有無まで伝わります。撮影のために失敗を待つ必要はありませんが、たまたま撮れたものは消さずに残しておきましょう。

マーキングと粗相を見分ける

体の問題が除外できたら、次は「そもそもこれは排尿なのか、マーキングなのか」を分けます。ここを取り違えると、対策の方向がまるごとずれてしまいます。

Clinician's Briefに掲載された獣医行動学専門医Debra F. Horwitz氏の解説では、マーキングについて「少量の尿を頻繁に排出する形であらわれるのが通常」で、「マーキングで残される尿の量は通常わずかで、数滴ということも多い」と説明されています。逆に量が多い場合は、トイレの学習の問題、分離不安、あるいは医学的な問題を考えるべきだとされています。

見るところマーキングらしい粗相(排尿)らしい
少ない。数滴〜わずか多い。膀胱を空にする量
場所柱、家具の角、壁ぎわ、カバンや紙袋など垂直な面や新しい物床、カーペット、マットなど水平な面
高さ鼻の高さに近い位置に付くことがある床面
姿勢足を上げる(メスでも軽く腰を上げることがある)しゃがんで排尿する
回数同じ散歩・同じ室内で何度も繰り返す1回で終わる
きっかけ来客、新しい家具や荷物、他の犬のにおい、環境の変化我慢の限界、行けなかった、間に合わなかった

Humane Society of Huron Valleyの解説は「尿の量は少なく、主に垂直な面に見つかります」としたうえで、「足上げやスプレーはマーキングのよくある形ですが、その姿勢を取らなくてもマーキングであることはあります」と補足しています。姿勢だけで断定せず、量・場所・きっかけを合わせて見るのが確実です。

メモ

マーキングは「悪い癖」ではなく、犬にとって正常なコミュニケーション手段です。VCAの解説でも、尿にはフェロモンという形で他の犬が読み取れる情報が含まれていると説明されています。問題になるのは行動そのものではなく、それが室内で起きていることです。だからこそ、やめさせるより「どこでなら許容できるか」「何が引き金になっているか」を整理するほうが現実的です。

病気でない場合、原因を4つに切り分ける

ここからは行動の話です。原因はひとつとは限らず、重なっていることのほうが多いのですが、まずは次の4つに分けて考えると手の打ちどころが見えてきます。

1. トイレ環境の問題

意外に多いのが、道具や配置が体に合わなくなっているケースです。子犬のときに買ったトレーを、体が二回り大きくなった今も使っていませんか。

  • サイズが小さい: いぬのきもちの解説(家庭犬しつけインストラクター戸田美由紀氏ら監修)では、トイレトレーは犬が入ったときに最低ひとまわり大きいサイズを選ぶのがベストとされ、超小型犬はレギュラー、小型・中型犬はワイド、大型犬はラージ以上が目安として示されています。アニコム損保の解説でも、大きなトイレにすることではみ出しや失敗を予防できると述べられています
  • 清潔さ: 汚れたシーツの上では排せつしたがらない子は珍しくありません。「一度使ったら替える」を試してみると、それだけで失敗が止まることがあります
  • 場所: 人の出入りが多い動線上、テレビの前、洗濯機の横など落ち着かない場所は避けます。寝床や食器のすぐ横も嫌われがちです
  • 足元の感触: メッシュの上を嫌う子、逆にシーツの感触が苦手でカーペットを選んでしまう子がいます
  • 段差: シニアや足腰に不安のある子には、縁の高いトレーがハードルになります
  • 距離: 一日の大半を過ごす場所からトイレが遠いと、間に合わないことが増えます
  • 多頭飼育での取り合い: 先にほかの子が使ったトイレを避ける子がいます。取り合いが起きているようなら、1か所増やして様子を見てください(猫のトイレで言われる「頭数+1」の考え方を室内トイレに応用したものです)

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2. 学習の問題

「覚えたはずなのに」と思っていても、実は成功体験が積み上がっていないことがあります。行動範囲が広がるにつれて失敗の場所が増え、そこがにおいで「排せつ場所」として学習されていく、という流れです。Today's Veterinary Practiceは、排せつ自体が自己強化される行動であるため、屋内の特定の場所を好むという学習が形成されうると指摘しています。

また、失敗を叱られてきた歴史があると、「人の見ている前では出さない」という別の学習が入ります。これは次の章で詳しく扱います。

3. 不安・興奮

VCAの解説は「屋内で怖い思いをした犬は、闘争・逃走反応を起こし、その脅威から逃れようとする過程で排せつすることがあります」と説明しています。留守番、来客、雷や花火、工事の音、引っ越し、家族構成の変化(赤ちゃんの誕生、同居犬の増減、家族の生活時間の変化)——きっかけは日常のなかにあります。

  • 留守番中に限って失敗し、同時に破壊行動や吠えもあるなら、分離不安の可能性があります
  • 大きな音のあとに失敗するなら、音への恐怖が背景にあるかもしれません
  • 挨拶のときに少量漏らす、体を低くしてお腹を見せる、という場合は服従性の排尿です。Humane World for Animalsは、これに対して叱ることは「問題を悪化させるだけです」と明記しています
  • 遊びや帰宅で興奮したときに漏らすのは興奮性の排尿です。落ち着いてから穏やかに挨拶する形に変えていきます

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4. マーキング

Clinician's Briefの解説では、マーキングは新しい物や見慣れないにおい、外を歩く犬の姿に反応して起きることが多く、多頭飼育では犬同士の社会的な変化や衝突がきっかけになることもあると説明されています。不安が引き金になる場合もあり、要因として飼い主の生活時間の変化、家族(人・動物)が増えたこと、運動や関わり方の変化が挙げられています。UC Davisが公開している飼い主向けハンドアウトでも、不適切なマーキングの原因はホルモン性のものと社会的なものに分けられ、社会的な要因として「不安を引き起こす状況や縄張りの刺激、たとえば他の動物が縄張りに入ってくること、あるいは買い物袋・人・家具といった新しいものの導入」が挙げられています。

つまり、室内マーキングが増えた背景に「不安」があることは珍しくありません。マーキングだから去勢、と短絡せず、何が新しく入ってきたのかを振り返ってみてください。なお、分離不安との関係については見方が分かれ、Clinician's Briefは分離に関連したストレス反応の一部としてマーキングが見られることは多くない、としています。留守番中だけ荒れるという場合は、マーキングと決めつけずに分離不安そのものを扱ったほうが近道です。

在宅勤務になって家具を模様替えしたら、新しい棚の角にだけおしっこをするようになりました。棚の前でごはんをあげるようにして、置き場所も少しずつ変えたら、2週間ほどで落ち着きました。
7歳のオス犬と暮らす飼い主

立て直しの手順

原因の見当がついたら、次の順番で進めます。子犬のトレーニングと同じことをやり直すのではなく、「失敗できる状況を減らして、成功だけを積み直す」という考え方です。

  1. 1

    1週間、記録をとる

    時間・場所・量・そのときの状況を書き出します。「留守番の最初の30分に集中している」「来客の日だけ」「夜間だけ」といった偏りが見えてくると、対策が絞れます。ここを飛ばすと、効いたかどうかも判断できません。
  2. 2

    トイレ環境を見直す

    サイズを一段大きくする、設置数を増やす、場所を落ち着ける位置に移す、素材や感触を変える、縁の低いものにする。まずは道具と配置で解決できないかを探ります。ここは今日から着手できて、効果もはっきり出やすい部分です。
  3. 3

    行動範囲を一度狭める

    見ていられない時間は、ゲートやサークルで範囲を区切ります。UC Davisが公開している飼い主向けハンドアウトでも、練習中に見ていられないときは狭い範囲に留め、飼い主がいないあいだにマーキングを練習させないことがすすめられています。閉じ込めではなく、失敗の機会を減らすための一時的な措置です。
  4. 4

    成功しやすい時間帯に誘導して、確実にほめる

    起床後、食後、水を飲んだあと、遊んだあと、留守番の前後。VCAの解説では、健康な成犬は活動していなければおおむね3〜4時間は排尿を我慢できるとされています。記録から出やすい時間を割り出し、先回りしてトイレへ誘導します。出た直後に、その場で明るくほめる。おやつを1粒使うと伝わりが早くなります。
  5. 5

    失敗は無反応で片づける

    見つけても声をかけず、犬を別の部屋に移してから淡々と掃除します。VCAは「叱ったり罰を与えたりしないでください。混乱し、おびえてしまう可能性があります」と述べています。現行犯の場合も、名前を呼んだり驚かせたりせず、静かに中断してトイレへ誘導します。
  6. 6

    においを残さない掃除をする

    後述する方法で、においの手がかりを完全に断ちます。ここが甘いと、同じ場所を繰り返します。
  7. 7

    その場所の意味を変える

    Humane World for AnimalsやOregon Humane Societyの解説では、汚された場所に近づけないようにするか、逆にその場所で食事や遊びを行い、排せつ場所としての位置づけを変える方法が紹介されています。犬は食事や休息の場所では排せつしにくいという性質を利用します。
  8. 8

    うまくいったら少しずつ範囲を広げる

    1〜2週間失敗がなければ、区切っていた範囲を一部屋ぶん広げます。失敗が戻ったら、また一段階狭める。行きつ戻りつが普通なので、戻すことを「後退」と考えないでください。

注意

複数のことを一度に変えると、何が効いたのか分からなくなります。「トレーを大きくする」「置き場所を変える」「範囲を狭める」は、できれば数日ずつずらして試してください。焦る気持ちは分かりますが、切り分けができていることが、結局いちばんの近道になります。

においを残さない掃除のしかた

同じ場所を繰り返す最大の理由は、においです。VCAは「犬はしばしば以前汚した場所に引き寄せられます」として、尿や便を分解する酵素を含む市販の製品を使うことをすすめています。Today's Veterinary Practiceも「屋内の汚れた場所は、残ったにおいが再汚染を招くおそれがあるため、消臭あるいは酵素系のクリーナーで十分に処理すべきです」と述べています。

  1. 1

    まず吸い取る

    こすらず、ペーパータオルや古タオルを上から押し当てて水分を吸い取ります。こするとカーペットの繊維の奥に押し込むことになります。
  2. 2

    ぬるま湯で薄める

    水分を吸ったあと、少量のぬるま湯をかけてもう一度吸い取ります。これで表面の尿の濃度を下げます。
  3. 3

    酵素系(バイオ系)のクリーナーを使う

    尿の成分を分解するタイプを、パッケージの指示どおりの量で使います。表面を拭くのではなく、しみ込んだ深さまで届く量をかけるのがポイントです。
  4. 4

    時間を置いて乾かす

    酵素は反応に時間がかかります。すぐ拭き取らず、指定の時間を置いてから自然乾燥させます。
  5. 5

    乾いてから、犬の鼻の高さで確認する

    人の鼻では分からなくても、犬には残っていることがあります。同じ場所を繰り返すなら、まだにおいが残っていると考えて、もう一度処理します。

注意

アンモニアを含む洗剤は使わないでください。尿の成分と近いにおいのため、犬から見ると「ここは排せつ場所だ」という手がかりを上書きしてしまいます。Humane Society for Tacoma & Pierce Countyの解説では「アンモニアや酢のような強いにおいのする洗浄用の薬剤は避けてください」としたうえで、「ペットの側から見ると、これらは尿のにおいを効果的に取り除いたり覆ったりできず、むしろその場所の尿によるにおいづけを強めてしまうおそれがあります」と説明されています。同じ解説では、薬剤の残りが酵素の働きを弱めることにも触れられています。強い香りの芳香剤で覆い隠す方法も、根本的な解決にはなりません。

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叱ることが逆効果になる理由

「その場で叱れば分かるはず」「鼻を押しつければ覚える」——昔からよく言われてきた方法ですが、現在の獣医行動学ではいずれも推奨されていません。

VCAの解説は、犯行後に見せるいわゆる「申し訳なさそうな顔」について「犬の申し訳なさそうな表情は、罪悪感ではなく不安を感じていることを示している可能性が高い」と説明しています。犬が読み取っているのは「排せつした場所」ではなく「飼い主の機嫌が悪い」という現在の状況なのです。

UC Davisが公開している飼い主向けハンドアウトは、マーキングの現場を見たときに「怒鳴ったり、直接的な罰を与えたりしないでください」としたうえで、その結果として「あなたがいないときにマーキングをするようになったり、こっそり隠れてマーキングをするようになったりする可能性があります」と述べています。事後に鼻を押しつけるような罰についても、犬は時間の経ったマーキングと結びつけられないため意味がないと明言されています。

Humane World for Animalsも「罰は不安を高めるだけで、トイレに行きたいときに隠れるようになり、その結果、外に出たいという合図を出す力を弱めてしまいます」と説明しています。つまり叱ることは、問題を解決しないどころか、飼い主が状況を把握する手段まで奪ってしまうわけです。

米国獣医動物行動学会(AVSAB)の2021年の声明は、飛びつき・吠え・トイレの失敗といった一般的な課題について、環境を適切に整え望ましい反応を強化することで対処できるとしたうえで、痛みや恐怖を用いる手法には行動修正における役割はないと述べています。

メモ

すでに何度も叱ってしまった、という方もいると思います。私自身もそうでした。過去を悔やむ必要はありません。今日から「見つけても声をかけない」に切り替えれば、数週間かけて少しずつ関係は戻っていきます。人の前で排せつできなくなっていた子が、また目の前でしてくれるようになるまでには時間がかかりますが、確実に変わります。

去勢・避妊とマーキングの関係

オスの室内マーキングに対して、去勢手術は選択肢のひとつです。ただし「手術すれば必ず治る」ものではありません。

Clinician's Briefの解説では、2つの研究が紹介されています。ひとつは、去勢した犬の50〜60%でマーキングの消失または顕著な改善が見られたという報告。もうひとつは、25〜40%の犬でマーキングが90%減少し、60〜80%の犬では50%程度の改善が見られたという報告です。同解説は、どちらの研究でも変化の度合いは去勢したときの年齢とは関係がなかったと述べています。VCAの解説は、去勢によりオスのマーキング行動が最大80%まで減ることがあるとしつつ、「確実な治療法ではありません」と明記しています。

数字の幅が大きいことが、そのまま「個体差が大きい」ことを表しています。まとめると、次のように考えるのが現実的です。

  • 減る可能性は十分にある。ただし全員ではないし、ゼロになるとも限らない
  • 手術後すぐに変わるわけではなく、数週間から数か月かけて変化することがある
  • 学習として定着した行動は、ホルモンが減っても残る。環境調整と掃除、成功体験の積み直しは並行して必要
  • メスもマーキングをする。避妊手術で必ず解決するわけではない
  • 手術には麻酔のリスクや体重管理など別の検討事項もある。行動だけを理由に決めず、かかりつけ医と総合的に相談する

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ヒント

Oregon Humane Societyの解説では、行動を変えていくあいだの現実的な助けとして、マナーベルト(ベリーバンド)が紹介されています。ただしこれはマーキングをやめさせる道具ではなく、家の中や外出先を汚さないための一時的な補助です。VCAも、装着中はこまめに確認することを条件としています。長時間つけっぱなしにすると皮膚トラブルの原因になります。

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シニア犬の場合の配慮

年齢を重ねてからの失敗は、しつけの問題である可能性がいちばん低いカテゴリです。筋力の低下、関節の痛み、視力・聴力の変化、認知機能の低下、そして病気。どれも「がんばれば直る」ものではありません。

  • トイレの数を増やす: 移動距離が短くなるだけで間に合うことがあります。よくいる場所のそばにもう1か所つくるのが基本です
  • 段差をなくす: 縁の低いトレー、シーツを直接床に敷く方式、スロープの追加。いぬのきもちの解説でも、シニア犬は筋力の低下から段差がつまずきの原因になると指摘されています
  • 足元を滑らないようにする: 滑る床では踏ん張れず、排せつの姿勢が取れないことがあります
  • 夜間の動線に明かりをつける: 見えにくさが失敗につながっていることがあります
  • マナーベルトやおむつは環境調整の一手段: 本人と暮らしを守るための道具として、必要な場面で使います。ただし装着したままにせず、皮膚の状態を毎日確認します
  • 認知機能の低下が疑われるときは早めに相談を: 「年のせい」と片づけず、動物病院で他の病気がないかを確認したうえで、進行をゆるやかにする選択肢を検討します

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メモ

シニア期の粗相は、飼い主の生活にも直接響きます。夜中に起きて片づける日が続けば、疲れて当然です。掃除の手間を減らす道具(防水シーツ、洗える大判マット、部屋の一角の防水化)に投資することは、甘えではなく、長く続けるための現実的な工夫です。

家族で対応をそろえる、そして相談する

家庭内で対応がばらついていると、犬は何が正解か分からなくなります。とくに次の3つは、紙に書いて貼っておくくらいでちょうどいいと思います。

  • 失敗を見つけても、声をかけない・叱らない(ため息も伝わります)
  • 成功したら、誰であってもその場でほめる
  • 誘導の時間帯と、掃除の方法を統一する

家族で合意しておきたいこと

  • 失敗を見つけたときの手順(声をかけず、犬を移動させてから掃除)
  • トイレへ誘導する時間帯(起床後・食後・留守番の前後など)
  • 使う掃除用品(酵素系。アンモニア入りは使わない)
  • おやつを使うかどうかと、その量(1日の総量から差し引く)
  • 記録をどこに残すか(スマートフォンのメモや冷蔵庫の紙など)
  • うまくいかないときに誰へ相談するか

そのうえで、次のような場合は専門家の力を借りることをおすすめします。

  1. 1

    まずはかかりつけの動物病院へ

    体の確認が最優先です。記録と動画を持参して、いつから・どのくらい・どんな状況で起きているかを伝えます。尿検査は、行動の相談をするうえでも土台になります。
  2. 2

    不安が背景にありそうなら獣医行動診療科へ

    留守番中だけ、雷のあと、来客時だけ、といった偏りがある場合や、震え・よだれ・破壊行動を伴う場合は、行動の専門診療が力になります。日本獣医動物行動学会は、行動診療を行う施設の地域別一覧を公開しています。
  3. 3

    環境と練習の設計はドッグトレーナーにも相談できる

    トイレ環境の作り直しや誘導の練習は、家庭ごとの間取りや生活リズムに合わせた調整が要ります。依頼するときは、罰を使わない報酬ベースの方法で指導しているかを事前に確認してください。AVSABも、紹介する専門家は認定を受けていて人道的かつ効果的な方法を用いる人であるべきだとしています。

よくある質問

急にそそうをするようになりました。まず何をすればいいですか。
まず動物病院で体の確認をしてください。一度トイレを覚えていた成犬が急に失敗し始めた場合、膀胱炎や尿石症、腎臓病、糖尿病、内分泌の病気、関節の痛みなど、体の側に理由があることが少なくありません。Today's Veterinary Practiceの解説でも、望ましくない室内排尿で来院した犬には尿検査が必要とされています。受診の前に、いつから・1日何回・どのくらいの量・どんな色か・どんな状況でかをメモしておくと、診断の助けになります。
わざと嫌がらせでしているように見えます。犬に仕返しの気持ちはありますか。
犬が飼い主に仕返しをするために排せつする、という考え方は、現在の獣医行動学では支持されていません。多くは体調の問題か、不安・興奮によるもの、トイレ環境が合っていないこと、あるいはマーキングです。叱られた経験があると、飼い主のいない場所や見えない場所で排せつするようになることがあり、それが「わざと」に見えてしまうこともあります。まずは体の確認から順番に切り分けていきましょう。
去勢すればマーキングは止まりますか。
減る犬は多い一方で、確実になくなるわけではありません。研究によって幅がありますが、去勢した犬の50〜60%でマーキングの消失または顕著な改善が見られたという報告や、25〜40%の犬で90%減少したという報告があります。VCAの解説も、最大80%まで減ることがあるとしつつ確実な治療法ではないと明記しています。すでに学習として定着している場合はホルモンが減っても行動が残るため、環境調整・掃除・成功体験の積み直しを並行して進めてください。手術の判断は行動だけを理由にせず、かかりつけ医と相談することをおすすめします。
来客のときだけ玄関でおしっこをします。どうすればいいですか。
考えられるのは、来客という刺激に対するマーキング、興奮による排尿、そして緊張や恐怖による排尿です。量が少なく垂直な面にかかっているならマーキング寄り、体を低くしてお腹を見せながら少量漏らすなら服従性の排尿寄りと考えます。共通して有効なのは、来客の前にトイレを済ませておくこと、玄関から離れた落ち着ける場所で待てるようにしておくこと、来客には犬をすぐに見たり触ったりしないようお願いすることです。いずれの場合も叱らないでください。緊張が背景にある場合、叱ることは状況を悪化させます。
掃除は何を使えばいいですか。市販の消臭スプレーで十分ですか。
尿の成分を分解する酵素系(バイオ系)のクリーナーが基本です。においを香りで覆い隠すタイプでは、犬にとっての手がかりが残ってしまいます。アンモニアを含む洗剤は、尿と近いにおいのため排せつ場所という認識を強めるおそれがあり、避けたほうがよいとされています。表面を拭くのではなく、しみ込んだ深さまで届く量を使い、時間を置いて乾かすのがコツです。
多頭飼いで、どの子がしているか分かりません。
まずは全頭の健康確認をしたうえで、しばらく別々の部屋やサークルで過ごす時間をつくると特定できることがあります。見守りカメラを使う方法もあります。特定できたら、その子のトイレを取り合いにならない場所に増やしてください。猫のトイレで言われる「頭数+1」の考え方を室内トイレに応用して、取り合いが起きるなら1か所増やす、と考えると調整しやすくなります。新しい犬を迎えた直後や、同居犬同士の関係が変わったタイミングで室内マーキングが増えることもあり、その場合は関係の調整も含めて相談先を探すとよいでしょう。
仕事で日中10時間ほど留守にします。留守番中の失敗は仕方ないですか。
VCAの解説では、健康な成犬は活動していなければおおむね3〜4時間は排尿を我慢できるとされています。10時間を我慢させる前提にはしないほうが安全です。室内にトイレを用意して自由に使えるようにする、ペットシッターや家族に途中で来てもらう、犬の保育園を利用するなど、途中で排せつできる仕組みを検討してください。我慢をさせ続けることは、膀胱炎などの負担にもつながりえます。留守番中だけ荒れる・吠える・壊すといった様子が同時にあるなら、分離不安の可能性も含めて相談してみてください。
どのくらいで改善しますか。
原因によって大きく変わります。トイレのサイズや置き場所が合っていなかっただけなら数日で変わることもありますし、長く続いた学習やマーキング、不安が背景にある場合は数週間から数か月かかることもあります。目安にしたいのは「完全になくなったか」ではなく「1週間あたりの失敗回数が減っているか」です。記録をつけておくと、この変化に気づけます。数か月続けても手応えがないときは、原因の見立て自体を見直す時期なので、かかりつけ医や行動診療科に相談してみてください。

まとめ

成犬になってからのトイレの失敗は、しつけのやり直しではなく、切り分けの作業です。まず体を確認する。次に、マーキングなのか排尿なのかを分ける。そのうえで、トイレ環境・学習・不安・マーキングの4つのどこに引っかかっているかを見ていく。この順番さえ守れば、やみくもに悩む時間はぐっと減ります。

そして、どの原因であっても共通するのは、叱らないことと、においを残さないことの2つです。叱れば犬は隠れて排せつするようになり、においが残れば同じ場所を繰り返す。逆に言えば、この2つを守るだけでも状況は悪化しなくなります。

今日から見直せるポイント

  • 体の確認は済んでいるか(尿検査を受けたか)
  • 1週間ぶんの記録をとったか
  • トイレのサイズは今の体格に合っているか
  • トイレの数と場所は、生活の動線に合っているか
  • 失敗を見つけたとき、声をかけずに片づけられているか
  • 酵素系のクリーナーで掃除しているか(アンモニア入りを使っていないか)
  • 家族全員が同じ対応をしているか

うまくいかない日は、記録の紙を見返してみてください。「先月は週5回、今月は週2回」。その差は、確実にあなたの工夫が届いた証拠です。何歳からでも、環境を整えれば変わります。ひとりで抱え込まず、かかりつけの動物病院を入口にして、その子に合ったやり方を一緒に探していきましょう。

出典・参考

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