犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは|スキップ歩き・後ろ足を上げるサイン、グレード別の考え方と家庭でできる予防
対象の目安: 全ライフステージ


散歩の途中、トコトコ歩いていた愛犬が、急に片方の後ろ足をひょいと持ち上げて、3本足で数歩ケンケンする。こちらが「え、どうしたの」と足を止めるころには、何事もなかったように4本足で歩き出している。あるいは、ワクチンのついでに受けた健康診断で「膝のお皿が少しゆるいですね、パテラです」と言われた。子犬を迎えるときに、お店やブリーダーから「膝がゆるめです」と説明を受けた——トイ・プードルやチワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアといった小型犬と暮らしていると、この「パテラ」という言葉には、かなりの確率でどこかで出会います。
わが家の小型犬も、健康診断で膝のことを指摘されたひとりです。そのとき頭に浮かんだのは「手術が必要なの?」「散歩はしていいの?」「家で何に気をつければいいの?」という疑問でした。説明を受けた直後はうなずいていても、家に帰ってから「グレード2って、どのくらいなんだっけ」と分からなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、膝蓋骨脱臼(パテラ)の仕組みから始めて、先天性と外傷性の違い、家庭で気づけるサイン、グレード1から4の分類、そして「グレードだけで手術を決めるわけではない」という考え方、保存療法と手術、家庭でできる悪化予防、受診の目安までを、米国獣医外科学会(ACVS)やMSD(Merck)獣医マニュアル、国内の整形外科の専門施設や保険会社の公開データをもとに順に整理します。診断と治療方針を決めるのは獣医師です。ここでの情報は、説明を理解し、かかりつけの先生と相談するための下地としてお読みください。
パテラ(膝蓋骨脱臼)とは:ひざのお皿と滑車溝の仕組み
「パテラ」は、もともと膝蓋骨(しつがいこつ)、つまり膝のお皿を指す解剖学の言葉です。膝蓋骨が本来の位置から外れてしまう「膝蓋骨脱臼」を、日本では通称・略称として「パテラ」と呼ぶことが多くなっています。
膝を伸ばすための「レール」
アニコム損保の獣医師監修記事(石川美衣獣医師監修)の説明をもとに、仕組みを整理すると次のようになります。
- 膝蓋骨は楕円形の小さな骨で、太ももの骨(大腿骨)の先にある滑車溝(かっしゃこう)というくぼみにはまっている
- 膝蓋骨の上側は太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)、下側は膝蓋靱帯を介して、すねの骨(脛骨)の前面にある脛骨粗面(けいこつそめん)につながっている
- 膝蓋骨が滑車溝の中をまっすぐ滑ることで、太ももの筋肉の力がすねの骨に伝わり、膝をなめらかに曲げ伸ばしできる
ACVSは、大腿四頭筋・膝蓋骨・膝蓋靱帯をまとめて「伸展機構(extensor mechanism)」と呼び、ふだんはこれらが一直線に並んでいると説明しています。膝蓋骨脱臼は、膝を曲げたときに膝蓋骨が溝の外に乗り上げてしまう状態です。いわば、レールの上を走るはずの部品が、溝が浅かったり、引っぱる向きがずれていたりして、レールから外れてしまうイメージです。
ONEどうぶつ整形外科センターは、膝蓋骨が外れると筋肉の引っぱる力が膝を伸ばす力にうまく変換されず、後ろ足を上げたり、膝が曲がったままになったりする症状が出ると説明しています。
内側に外れる「内方脱臼」が多い
外れる方向によって呼び方が変わります。
| 呼び方 | 外れる方向 | 傾向 |
|---|---|---|
| 内方脱臼(MPL) | 膝の内側 | もっとも多い。小型犬に多いが、大型犬でもみられる |
| 外方脱臼(LPL) | 膝の外側 | 内方より少なく、比較的大きな犬に多いとされる |
| 両方向性脱臼 | 内側にも外側にも | 報告は少ない。国内の研究でトイ・プードルに多い可能性が示されている |
MSD獣医マニュアル(獣医師向け版、2025年12月改訂)は、内方脱臼は猫、小型・超小型犬種、大型犬種で多く、外方脱臼は内方脱臼よりずっと少なく大型犬種で多いとしています。国内のONEどうぶつ整形外科センターは、内方脱臼が8〜9割を占めると説明しています。
片側だけとは限りません。ACVSは両膝に起こるのは全体の半数、VCA Animal Hospitalsは約50%としています。コロラド州立大学のSapora獣医師による獣医師向けの解説(Today's Veterinary Practice、2025年)は、文献によって両側性の割合に30〜93%と幅があることを紹介しています。ONEどうぶつ整形外科センターも、両膝に脱臼があっても症状は片足にしか出ないことがあるため、片足だけの症状でも両足の状態を確認する必要があるとしています。
どのくらい多い病気なのか
ACVSは、膝蓋骨脱臼を犬でもっとも多い整形外科疾患のひとつとし、「子犬の7%で診断される」と記載しています。対象の範囲が異なる数字として、英国の一次診療の動物病院119施設・約21万頭のカルテを分析したO'Neillらの研究(2016年)では、膝蓋骨脱臼と診断されていた犬は全体の1.30%で、犬種別ではポメラニアン6.5%、ヨークシャー・テリア5.4%、チワワ4.9%が高い値でした。
日本のデータとしては、アニコムの「家庭どうぶつ白書2025」が、同社のペット保険の契約データから品種ごとの「他犬種に比べ罹りやすい疾患」を公表しています。0〜12歳を対象にした集計で、膝蓋骨(亜)脱臼は次の犬種・区分で「罹りやすい疾患」に挙がっています。
| 犬種・区分 | 請求割合(その犬種) | 請求割合(犬全体) | オッズ比 | 請求が最も多かった年齢 |
|---|---|---|---|---|
| ポメラニアン | 3.9% | 1.7% | 2.49 | 0歳 |
| チワワ | 2.5% | 1.7% | 1.59 | 0歳 |
| ヨークシャー・テリア | 2.5% | 1.7% | 1.53 | 0歳 |
| 混血犬(体重10kg未満) | 2.2% | 1.7% | 1.40 | 0歳 |
| トイ・プードル | 2.1% | 1.7% | 1.36 | 0歳 |
| パピヨン | 2.3% | 1.7% | 1.35 | 0歳 |
第一アイペット損害保険が2026年に公表した「保険金請求が多いペットの傷病ランキング2026」(2025年1〜12月の保険金請求データを元にしたサンプル調査、支払日ベース)では、犬の膝蓋骨脱臼は、通院・入院・手術を合わせた総合ランキングで10位、手術に限ったランキングでは3位でした。日常的にみられる病気であると同時に、手術につながることも少なくない病気だといえます。
膝蓋骨・滑車溝・大腿四頭筋・膝蓋靱帯・脛骨粗面の位置関係は、アニコム損保「犬との暮らし大百科」の獣医師監修記事、伸展機構の説明と「子犬の7%で診断」「両膝に起こるのは半数」はACVS、内方脱臼・外方脱臼の傾向はMSD(Merck)獣医マニュアル(Professional Version)、内方脱臼が8〜9割、片足の症状でも両足の確認が必要という点はONEどうぶつ整形外科センター、約50%が両膝という点はVCA Animal Hospitals、両側性の割合に30〜93%の幅がある点と両方向性脱臼の報告状況はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説によります。英国の有病率はO'Neill DGらの研究(Canine Genet Epidemiol. 2016)です。国内の品種別データはアニコム「家庭どうぶつ白書2025」第2部第2章の表(請求割合=保険金支払いのあったどうぶつの数/契約しているどうぶつの数。オッズ比は請求頭数を罹患頭数と仮定して算出)、ランキングは第一アイペット損害保険の2026年の発表によります。保険会社のデータは契約している犬に限った集計で、日本の犬全体の有病率を示すものではありません。
先天性(発育性)と外傷性の違い
膝蓋骨脱臼は、成り立ちによって大きく2つに分けて説明されます。
多くは成長期の「形のずれ」から起こる
アニコム損保の獣医師監修記事は、先天的なものは成長期に骨や靱帯、筋肉の形成に異常が生じることで発症し、小型犬ではこのパターンがよくみられるとしています。MSD獣医マニュアルも、膝蓋骨脱臼を周囲の筋骨格の発育異常によって起こる「発育性の整形外科疾患」と位置づけています。
ACVSの解説は、ここをもう一歩踏み込んで説明しています。膝蓋骨脱臼の多くは生まれつき存在しうる異常による成長の障害から起こるものの、正確な原因は大半の犬で分かっておらず、おそらく複数の要因が関わっている。そして現在は「膝だけの病気」ではなく、後ろ足全体の骨格の並びに影響する複合的な異常の結果と考えられている、というものです。ACVSが挙げている要素は次のとおりです。
- 膝蓋骨がはまる滑車溝が浅い、またはほとんどない
- 股関節の形の異常(股関節形成不全など)
- 大腿骨の形の異常(曲がりやねじれ)
- 脛骨の形の異常
- 膝蓋靱帯が付く脛骨粗面の位置のずれ
- 大腿四頭筋のこわばり・萎縮(弓の弦のように膝蓋骨を引っぱる)
- 膝蓋靱帯が長すぎる
ONEどうぶつ整形外科センターは、単純な外傷が原因となっていることは少なく、多くの症例で遺伝的な素因が関わっていると考えられているものの原因遺伝子はまだ見つかっておらず、遺伝的な素因と出生後の環境要因が複合的に関係しているという意見が多い、と説明しています。ACVSは、少なくとも部分的に遺伝的な要因があることを示す証拠があるとして、膝蓋骨脱臼と診断された犬は繁殖に用いるべきではないとしています。
事故や落下で起こる外傷性のもの
ACVSは、成長期に問題がなかった犬でも、膝への外傷によってときに膝蓋骨脱臼が起こり、その場合は急に強い跛行(足を引きずる、着かない)が出るとしています。アニコム損保の記事も、後天的なものとして交通事故や高いところからの転落など、膝に強い力がかかることで生じる場合を挙げています。Sapora獣医師の解説は、外傷性の脱臼は関節包や支帯(膝蓋骨を支える組織)が裂けることで起こり、獣医学の文献での記述は少ないとしています。
| 先天性(発育性) | 外傷性 | |
|---|---|---|
| 起こり方 | 成長期の骨格・筋肉・靱帯の形成異常。複数の要因が関わる | 事故・落下など膝への強い力 |
| 多い犬 | 小型犬に多い(大型犬にもある) | 成長期に膝の問題がなかった犬にも起こる |
| 症状の出方 | 軽いスキップから始まり、年月とともに頻度が増えることがある | 急に強い跛行が出る |
| 片側か両側か | 両膝に起こることも多い(ACVSは半数としている) | けがをした膝に起こる |
いつごろ見つかることが多いのか
MSD獣医マニュアルは、どの年齢でも起こりうるものの、臨床症状はふつう1歳になる前に出始めるとしています。Sapora獣医師の解説は、多くが3歳未満で診断されると紹介し、ONEどうぶつ整形外科センターも症状は3歳以下でみられることが多く、成長期(1歳ごろまで)はとくに脱臼の程度が進行しやすい時期だとしています。前述のアニコムの白書でも、表の6つの犬種・区分いずれも、請求が最も多かった年齢は0歳でした。
一方で、英国の一次診療のデータ(O'Neillら)では、診断時の年齢の中央値は4.0歳でした。軽いうちは症状がなく、健康診断などで偶然見つかることもあるため、「若い犬の病気」と決めつけず、成犬やシニア犬でも歩き方の変化には目を向けておきたいところです。
先天性の発症の仕組みと小型犬に多い点、外傷性の原因(交通事故・転落)はアニコム損保「犬との暮らし大百科」の獣医師監修記事、発育性の整形外科疾患という位置づけと症状の出始める時期はMSD(Merck)獣医マニュアル、多くが発育の障害によるが原因は多因子で後ろ足全体の骨格の並びが関わる点・挙げられている要素・繁殖を避けるべきという点・外傷による急な強い跛行はACVS、遺伝的素因と環境要因の複合と成長期に進行しやすい点・症状は3歳以下でみられることが多い点はONEどうぶつ整形外科センター、外傷性脱臼の仕組みと3歳未満での診断が多い点はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説、診断時年齢の中央値4.0歳はO'Neill DGら(2016)によります。
家庭で気づけるサイン
膝蓋骨脱臼のサインは、程度によって大きく変わります。ACVSは、定期的な身体検査で偶然見つかるだけのこともあれば、患肢をずっと上げたままになることもある、と幅の広さを強調しています。
よくみられる様子
| 家庭で見える様子 | どういうことが起きている可能性があるか | 主な出典 |
|---|---|---|
| 歩いている途中、数歩だけ後ろ足を上げてケンケンする(スキップ) | 膝蓋骨が外れている間は膝がうまく伸びず、足を浮かせる。戻ると普通に歩く | ACVS、MSD獣医マニュアル、VCA |
| 3本足で走り、次の瞬間に何事もなかったように4本足に戻る | 同上 | VCA |
| 後ろ足を後ろや横に蹴るように伸ばす、振る | 膝を伸ばして外れた膝蓋骨を元の位置に戻す動作と考えられている | ACVS、VCA、ONEどうぶつ整形外科センター |
| 体重をかけたときに膝がガクッと崩れる | 膝の安定性が落ちている | ONEどうぶつ整形外科センター |
| 膝を曲げたまま、腰を落としたような姿勢で歩く | 脱臼している時間が長い、または外れたままの状態 | アニコム損保、みんなのどうぶつ病気大百科 |
| 後ろ足がO脚(がに股)のように見える。子犬で成長とともに目立つ | 重い内方脱臼に伴う脚の形の変化 | ACVS、Sapora獣医師の解説 |
| 大きめの犬で、膝が内側に入るX脚のように見える | 外方脱臼に伴うことがある | ACVS、VCA |
VCAは、内方脱臼の犬の多くが足を横に蹴り出して膝を過伸展させ、膝蓋骨を「パチン」と元に戻すことを覚えると説明しています。ONEどうぶつ整形外科センターも、後ろ足をストレッチのように後ろに伸ばす動作を「自分で脱臼を直す動作」と表現しています。のびをしているだけに見えて、実はこのしぐさだった、ということもあるわけです。
痛みがないことも多い、でも進むことがある
ACVSは、軽いうちは痛みがないことが多いものの、進行するとかなり痛むことがあるとしています。ONEどうぶつ整形外科センターも、明らかな痛みを出すことは少ないものの、膝蓋骨を支える周囲の組織が傷ついたときには一時的に痛みが出ることがあり、とくに若い犬では症状が悪化することも少なくないと説明しています。
ACVSはまた、年月とともに膝蓋骨が溝から外れる頻度が増え、軟骨がすり減って骨が露出し、関節炎とそれに伴う痛みにつながりうること、膝のほかの組織に負担がかかって前十字靱帯の断裂を起こしやすくなりうることにも触れています。「痛がっていないから大丈夫」ではなく、「痛がっていないうちに一度相談しておく」くらいの距離感がちょうどよいと思います。
歩き方のチェック(気になったら動画に残す)
- 散歩中や室内で走ったあと、片方の後ろ足を数歩だけ上げることがある
- 足を上げたあと、後ろに伸ばす・横に蹴るようなしぐさをしてから普通に歩き出す
- ソファから降りたとき、方向転換したときに後ろ足をかばう
- 以前よりスキップの回数が増えてきた
- 後ろ足に体重をかけたとき、膝がカクッと抜けるように見える
- 腰を落として膝を曲げたまま歩いている
- 後ろから見ると脚がO脚・X脚のように見える、子犬のうちに形が変わってきた
- お迎えのときやトリミング、健康診断で「膝がゆるい」と言われたことがある
ヒント
「足を上げた」は一瞬で終わるので、診察室では再現できないことがほとんどです。ONEどうぶつ整形外科センターも、病院では緊張や興奮で家と違う歩き方になる犬もいるため、家での様子、とくに歩き方がおかしいときの動画が診断の参考になるとしています。スマートフォンをすぐ構えられるようにしておくと安心です。撮り方のコツは「受診の目安」の節でまとめます。
自己判断で膝を押して確かめない理由
インターネットでパテラを調べると、「膝のお皿を指で押すと外れる」といったグレードの説明が目に入ります。そのせいか、「家で膝を触れば、グレードが分かるのでは」と考えてしまいがちです。けれど、次の理由から、家庭で膝を押して確かめたり、外れた膝を戻そうとしたりするのはおすすめできません。
- 飼い主が確実に判別することはできない。ペット保険のトリセツで監修している平松育子獣医師は、足の動かし方で「怪しい」と疑うことはできても、どのくらいの重症度なのか、あるいは靱帯や股関節などの他の病気ではないかを区別するには、獣医師による触診やレントゲン検査が必ず必要になると述べています
- 痛めてしまうおそれがある。同獣医師は、急に痛がって足を着けないようなときに、飼い主が足を触って膝のお皿を元に戻そうとするのは、逆に痛めてしまう可能性があり危険なのでやめるよう呼びかけています
- 専門家でも評価が揺れるほど繊細。ONEどうぶつ整形外科センターは、グレードの評価には主観が含まれ、犬の緊張の程度などでも脱臼のしやすさが変わりうるため、獣医師によって、また評価する日によってグレードが異なることがあると説明しています
- 触診そのものに手順がある。Sapora獣医師の解説では、獣医師は立たせた状態や横に寝かせた状態で、患肢から体重を抜き、股関節や膝の角度、すねのねじりを調整しながら内側・外側の両方向に力をかけて評価し、あわせて前十字靱帯の検査も行うとされています。見よう見まねで同じことはできません
- 似た症状の病気がある。平松育子獣医師は、急に足を痛がる場合は前十字靱帯断裂も強く疑うこと、後ろ足の歩き方がおかしい原因として股関節形成不全やレッグ・ペルテス病(若い小型犬の股関節の病気)、椎間板ヘルニアなどの神経の病気も考えられることを挙げています
注意
膝を何度も押したり、曲げ伸ばしして「ポコッ」と動くか試したりすることは、犬にとって不快なだけでなく、触られること自体を嫌がるきっかけにもなりかねません。家庭の役割は「触って確かめる」ことではなく、「いつ・どんなときに・どの足で」を観察して記録することです。
症状の幅と痛みの経過、関節炎や前十字靱帯への影響、O脚・X脚の見え方はACVS、スキップのような跛行はMSD(Merck)獣医マニュアル、3本足で走ってすぐ戻る様子と足を横に蹴って膝蓋骨を戻す動作・外方脱臼の見え方はVCA Animal Hospitals、足を後ろに伸ばす動作・膝がガクッと崩れる様子・一時的な痛み・動画の有用性・グレード評価が獣医師や日によって変わりうる点はONEどうぶつ整形外科センター、腰を落とした歩き方はアニコム損保の獣医師監修記事とみんなのどうぶつ病気大百科、家庭で判別できない点・膝を戻そうとしないこと・間違えやすい病気はペット保険のトリセツ(平松育子獣医師監修)、獣医師の触診手順と前十字靱帯の同時評価はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説によります。
グレード1〜4の分類:3つの解説を突き合わせる
膝蓋骨脱臼は、脱臼の程度と「手で戻せるかどうか」によって、グレード1から4の4段階に分けられます。Sapora獣医師の解説によると、もっともよく使われている分類は1968年のPutnamの修士論文に基づき、のちにRoushが改変したものです。前十字靱帯との合併を扱ったレビュー(Candela Andradeら、2022年)や、国内の研究(後述)ではSingleton(1969年)の分類が用いられています。細部の言い回しは資料によって少しずつ異なるため、ここでは獣医師向けのMSD獣医マニュアルと、飼い主向けのアニコム損保の2つの解説を並べてみます。
| グレード | 膝蓋骨の状態(MSD獣医マニュアル) | 膝蓋骨の状態と様子(アニコム損保の獣医師監修記事) |
|---|---|---|
| 1 | 手で押すと外れるが、自然に溝へ戻る。症状は軽く頻度も少ないか、症状が出ていないこともある | ふだんは溝に収まっており、手で押すと脱臼する。ほとんど症状はないが、まれに外れたときにキャンと鳴いて後ろ足を上げたり、スキップしたりする |
| 2 | 自然に、または手で動かすと外れ、しばらく外れたままになることがある。手で戻すか、足を伸ばすと溝に戻る。断続的な跛行やスキップのような跛行がみられることがある | ふだんは溝に収まっているが、後ろ足を曲げたときに頻繁に脱臼する。曲げ伸ばしや手で押すと元の位置に戻る。脱臼時には後ろ足を着けない |
| 3 | ほとんどの時間外れているが、手で戻すことはできる。ただしすぐまた外れる。跛行は持続し、骨の変形が明らか | 常に脱臼した状態で、手で押すと一時的に溝に戻る。後ろ足を曲げ、腰を落とした状態で歩くなどの歩行の異常がみられる |
| 4 | 常に外れていて、手で戻すことができない。跛行と脚の変形が重度。膝を曲げ、後ろ足を縮めた姿勢で歩くことがある | 常に脱臼した状態で、手で押しても戻せない。後ろ足を曲げたまま、うずくまるように歩く |
見比べると、大筋は一致しています。違いが出ているのはグレード3の表現で、MSD獣医マニュアルとVCAは「ほとんどの時間(most of the time)外れている」、アニコム損保の記事は「常に脱臼した状態」としています。VCAはグレード2について「足を過伸展させてひねると溝に戻る」と、戻り方をより具体的に書いています。どれかが間違っているというより、同じ段階を異なる言葉で表しているものと受け止めてください。
メモ
表にある「手で押すと」は、獣医師が触診で評価するときの基準です。家庭で試すためのものではありません。前の節で触れたとおり、評価には経験と手順が必要です。
グレードは「その日の一枚の写真」
Sapora獣医師の解説には、グレードを考えるうえで大事な一文があります。グレードは、その犬の「ある時点のスナップショット」にすぎない、というものです。たとえば診察の日には症状のないグレード2の犬でも、膝蓋骨が内側に外れることを繰り返すうちに滑車溝の縁がすり減り、軟骨が失われて症状が出はじめ、数か月から数年後にはグレード3の状態になっていることがある、と説明されています。みんなのどうぶつ病気大百科も、グレード2で時間の経過とともに膝の靱帯が伸びたり骨が変形したりすると、グレード3に移行してしまう場合があるとしています。
溝の形とグレードの関係については、日本のデータもあります。日本大学などのグループが、名古屋の動物病院を受診した体重10kg以下の小型犬88頭(125肢)を超音波検査で調べた研究(Morishimaら、Vet Rec Open、2025年)では、滑車溝の深さはグレードが上がるほど浅くなる傾向があり、とくにグレード4では正常やグレード1に比べて有意に浅いという結果でした。ただし、トイ・プードルとチワワが大半を占める偏りがあること、グレード1と4の頭数が少ないことは、著者自身が研究の限界として挙げています。
分類の由来(Putnam 1968、Roushによる改変)とグレードが時点のスナップショットであるという考え方はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説、Singletonの分類はCandela Andrade Mらのレビュー(Vet Med(Praha). 2022)、各グレードの定義はMSD(Merck)獣医マニュアル(Professional Version)とアニコム損保「犬との暮らし大百科」の獣医師監修記事、グレード2・3の別表現はVCA Animal Hospitals、グレード2から3への移行はみんなのどうぶつ病気大百科、滑車溝の深さとグレードの関係はMorishima Tら(Vet Rec Open. 2025)によります。ACVSのページにも標準化されたグレード分類の図が掲載されていますが、図中の文言は本記事では引用していません。
「グレードだけで手術を決めるわけではない」
診察で「グレード2です」と言われると、「2なら手術はまだ?」「3になったら手術?」と、数字で線を引きたくなります。けれど、主要な解説を読み比べると、治療方針はグレードひとつでは決まらないことがはっきりしています。
- MSD獣医マニュアルは、治療は「主に重症度と臨床症状による」とし、保存療法は症状の軽い犬(グレード1と、跛行がほとんどないか全くない一部のグレード2)、高齢の犬、手術が難しい犬に主に用いられ、手術は中等度から重度(グレード2〜4)、目立つ跛行がある犬、症状が進行して悪化している犬にすすめられるのが一般的だとしています
- ACVSは、症状を起こしていない膝蓋骨脱臼は経過観察とし、とくに小型犬ではふつう手術は必要ないとしたうえで、手術がもっとも多く検討されるのはグレード2以上だとしています
- VCAは、軽いグレード1では手術が不要なこともあるとしつつ、多くの犬では関節炎や十字靱帯断裂の可能性を減らすために早めの手術がすすめられることがあり、グレードが高いほど早く行うべきだとしています
- Sapora獣医師の解説は、症状のないグレード2・3の犬は外科医にとっても判断が難しいとし、手術のリスクと費用を、手術をしない場合のリスクと費用と比べて検討すると述べています。症状のないグレード2の内方脱臼の犬を4年間追跡した研究では、50%が慢性的な跛行を示すか手術が必要になったと紹介されています。そのため、飼い主への説明と、定期的な再評価で進行を見守る「積極的な経過観察」が重要だとしています
同じ「グレード2」でも、症状がまったくない子と、毎日のようにスキップしている子とでは、選択肢の重みが違う。これが「グレードだけで決めない」の意味です。獣医師が総合的にみている主な材料を、表にまとめます。
| 判断材料 | どんな点をみるか | 主な出典 |
|---|---|---|
| 跛行・痛みの有無と頻度 | 症状がないか、ときどきか、持続しているか。痛みはあるか | MSD獣医マニュアル、ACVS、平松育子獣医師(トリセツ) |
| 悪化の傾向 | スキップの回数が増えているか、以前より進んでいるか | MSD獣医マニュアル、Sapora獣医師の解説 |
| 年齢・成長期かどうか | 成長期は骨格や筋肉の異常が進みうるため、手術を積極的にすすめることがある。一方、子犬の治療は成長を考慮した複雑なものになる。高齢では保存療法が選ばれることもある | アニコム損保、ONEどうぶつ整形外科センター、Sapora獣医師の解説、MSD獣医マニュアル |
| 骨の変形 | 大腿骨や脛骨の曲がり・ねじれがあるか。重い変形では骨を切って整える手術が必要になることがある | MSD獣医マニュアル、Sapora獣医師の解説 |
| 前十字靱帯の状態 | 前十字靱帯の損傷を合併していないか | ACVS、MSD獣医マニュアル、Sapora獣医師の解説 |
| 体格 | 大型犬では手術が難しく、再脱臼のリスクも高い可能性がある | ACVS、Sapora獣医師の解説 |
| ほかの病気・全身状態 | 優先すべきほかの病気がないか、手術が難しい状態ではないか、麻酔のリスク | ONEどうぶつ整形外科センター、MSD獣医マニュアル、みんなのどうぶつ病気大百科 |
| 家族の意向と暮らし | 術後の安静期間やケア、費用を含めた家族の考え | ONEどうぶつ整形外科センター、みんなのどうぶつ病気大百科 |
前十字靱帯への負担という視点
とくに知っておきたいのが、前十字靱帯との関係です。ACVSは、膝蓋骨脱臼のある犬は前十字靱帯の病気を起こしやすいとしています。Sapora獣医師の解説は、内方脱臼の犬の13〜25%に前十字靱帯の損傷が合併している可能性があるとして、触診の際に靱帯の検査もあわせて行うべきだとしています。
Candela Andradeらのレビューは、小型犬の膝蓋骨脱臼では22〜41%に前十字靱帯断裂の合併がみられたとする研究を紹介し、合併している犬は膝蓋骨脱臼だけの犬(3〜5.2歳)より年齢が高い(7〜8歳)こと、グレードが高いことや過体重であることが合併の危険因子として報告されていることにも触れています。若いころは「ときどきスキップするだけ」だった子が、シニア期に急に足を着かなくなった、という場面で前十字靱帯が疑われる理由がここにあります。
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治療方針の考え方は、MSD(Merck)獣医マニュアル(Professional Version)、ACVS、VCA Animal Hospitals、Today's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説(症状のないグレード2を4年間追跡した研究として、同解説が引用するHamilton Lら、J Small Anim Pract. 2020の結果を紹介)によります。成長期に手術を積極的にすすめることがある点はアニコム損保の獣医師監修記事とONEどうぶつ整形外科センター、治療方針をグレード・症状の頻度・年齢・骨格の変形などから総合的に決める点はペット保険のトリセツ(平松育子獣医師監修)、ほかに優先する病気や家族の意向によって経過観察とする場合がある点はONEどうぶつ整形外科センター、麻酔のリスク・術後の安静期間・ケア・費用をかかりつけと相談する点はみんなのどうぶつ病気大百科、前十字靱帯の合併率・年齢・危険因子はSapora獣医師の解説とCandela Andrade Mらのレビュー(Vet Med(Praha). 2022)によります。
保存療法と外科手術の考え方
保存療法:骨格は変えず、炎症と負担を減らす
MSD獣医マニュアルは、保存療法の中身として「体重管理、運動の制限・調整、理学療法(リハビリ)、消炎鎮痛薬による痛みの管理」を挙げています。そのうえで、保存療法は炎症を抑えて快適さを高めることが目的で、骨格の異常そのものは修正しないため、時間とともに脱臼が進行する可能性は残る、と明記しています。アニコム損保の獣医師監修記事も、症状がほとんどない場合や手術ができない場合に、鎮痛剤やサプリメントの投与、運動の制限、生活環境の改善、肥満の場合の減量を行うが、根本的な治療ではないため悪化する可能性がある、としています。
Sapora獣医師の解説では、手術をしない場合の管理として次のような内容が挙げられています。
- 必要に応じた痛みの管理(非ステロイド性消炎鎮痛薬など。神経の痛みに使う薬を組み合わせることもある)
- 規則的で、ほどほどの運動を習慣にすること
- 太ももの前と外側の筋肉を強くするリハビリ(座った姿勢から立ち上がる運動、段を一段上がる運動、坂道歩き、バランスボールを使った体幹運動、水泳や水中トレッドミルなど)
- 飼い主への説明と、定期的な再評価の計画。同獣医師の目安では、偶然見つかったグレード1は動画での記録をお願いしたうえで6か月後に再診し、変化がなければ年1回の健康診断で確認。症状のないグレード2は3〜6か月後に再診し、症状が出たらそれより早く受診
注意
ここに挙げたリハビリの運動は、獣医師や動物のリハビリの専門家が、その犬の膝の状態を確認したうえで内容と量を決めるものです。「段を上がる」運動と、この記事で後述する「ソファからの飛び降りを減らす」は矛盾するように見えますが、前者は管理された低い段でゆっくり行う運動、後者は着地の衝撃やひねりが大きい動きを日常から減らす工夫で、性質が違います。自己流で始めず、かかりつけで相談してください。
サプリメントについては、アニコム損保の記事や平松育子獣医師(トリセツ)が保存療法や併用の選択肢として挙げています。ただし、どの成分をどのくらい使うか、そもそも必要かどうかは犬の状態によって変わるので、自己判断で選ぶより、診察のときに相談するのが確実です。
ONEどうぶつ整形外科センターは、膝蓋骨脱臼は骨格の異常を伴う病気であるため、リハビリで根本的に治ることは期待できず、環境の整備も膝の安定性を高めるものではなく「現状の維持・悪化の予防」が目的だ、と率直に説明しています。保存療法を選ぶときは、「治すため」ではなく「今の状態をなるべく長く保ち、痛みの少ない毎日を送るため」と目標をそろえておくと、家族の中で方針がぶれにくくなります。
外科手術:膝の「並び」と「溝」を整える
根本的な治療は手術です。ONEどうぶつ整形外科センターは、手術の目的を大きく2つに整理しています。1つは膝を伸ばすための構造(大腿四頭筋・膝蓋骨・膝蓋靱帯)を一直線に並べ直すこと、もう1つは膝蓋骨がはまる溝を、外れにくい深さに整えることです。ACVS、MSD獣医マニュアル、VCAの解説に共通して挙げられている主な術式は次のとおりです。
| 術式 | 何をするか |
|---|---|
| 軟部組織の調整(解放と縫縮) | 膝蓋骨を引っぱっている側の組織をゆるめ、ゆるんでいる反対側を縫い縮めて、左右の張力のバランスを整える |
| 滑車溝造溝術(トロクレオプラスティ) | 大腿骨の溝を深くして、膝蓋骨が収まりやすくする |
| 脛骨粗面転位術(TTT) | 膝蓋靱帯が付いている脛骨粗面を骨ごと正しい位置に移し、金属のピンなどで固定して、引っぱる向きをまっすぐにする |
| 矯正骨切り術 | 大腿骨や脛骨の変形が重い場合に、骨を切って形を整え、プレートなどで固定する |
ACVSは、どの組み合わせが最適かは実際に診察した外科医が個別に選び、一部は手術中に膝の中を確認してから決める、としています。MSD獣医マニュアルは、従来の方法が難しい一部の症例向けに、溝の縁を補うインプラントや溝全体を置き換える人工物といった比較的新しい方法もあると紹介していますが、使われるのは限られた症例です。
手術のあとの経過と、知っておきたいリスク
ACVSは、多くの犬は術後数週間の安静が必要で、とくに骨を切った場合はその傾向が強く、骨の治り具合を見るためにレントゲンを繰り返し撮る可能性が高いとしています。国内の一例として、ONEどうぶつ整形外科センターは同グループでの入院期間の目安を1〜3日とし、退院後はサークルなど限られたスペースで安静に過ごし、術後2か月ほどかけて徐々に運動量を増やすこと、抜糸は術後2週間ほどで、それまではエリザベスカラーを着けること、手術した足は1〜2週間かばうことが多いことを説明しています。入院日数や運動再開のペースは病院と術式によって異なるので、事前にかかりつけで確認してください。
結果の見通しについて、ACVSは90%を超える飼い主が術後の経過に満足しており、膝蓋骨の不安定性の再発は多くなく、インプラントの移動や破損、感染はまれだとしています。VCAは、関節炎やほかの膝のけがが起こる前に手術をすれば見通しは非常に良好としています。一方で、Sapora獣医師の解説は、合併症の発生率は研究によって13〜48%と幅があり、グレードが高いほど合併症が増えるという研究があること、主な合併症はインプラントに関連するものと再脱臼であることも紹介しています。ACVSも、大型犬、とくに骨の変形や股関節形成不全を伴う場合は見通しがあまりよくない可能性があるとしています。
平松育子獣医師(トリセツ)は、手術がうまくいけば普通に歩ける状態を目指すことは可能だとしつつ、一度ゆるんだ関節は術後も加齢とともに関節炎を起こしやすい傾向が残るとしています。手術は「ゴール」ではなく、その後の体重管理や定期検診と組み合わせて考えるもの、と捉えておくとよさそうです。
保存療法の内容と限界はMSD(Merck)獣医マニュアル(Professional Version)とアニコム損保の獣医師監修記事、痛みの管理・運動・リハビリの例・再評価の目安はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説、リハビリや環境整備は根本治療にならないという点・手術の2つの目的・入院と術後の過ごし方の目安はONEどうぶつ整形外科センター、術式の説明はACVS・MSD獣医マニュアル・VCA Animal Hospitals・ONEどうぶつ整形外科センター、術後の安静・満足度・再発や合併症の頻度・大型犬の見通しはACVS、合併症発生率の幅はSapora獣医師の解説、サプリメントの位置づけと術後も関節炎を起こしやすい傾向が残る点はペット保険のトリセツ(平松育子獣医師監修)によります。
費用のデータを読むときの注意
費用は、飼い主にとって避けて通れないテーマです。ただ、「パテラの手術はいくら」と一つの数字で語るのは難しいのが実情です。片足か両足か、どの術式を組み合わせるか、骨の変形の矯正が必要か、入院日数、検査(レントゲン・CTなど)、そして病院によって大きく変わるからです。ここでは、調査条件がはっきりしている公開データを紹介します。
アニコム「家庭どうぶつ白書2025」は、品種別の「罹りやすい疾患」の表に、その傷病の年間診療費の平均値と中央値を載せています。
| 犬種 | 膝蓋骨(亜)脱臼の年間診療費 平均値 | 中央値 |
|---|---|---|
| トイ・プードル | 80,828円 | 12,430円 |
| チワワ | 91,169円 | 12,540円 |
| 混血犬(体重10kg未満) | 78,187円 | 10,728円 |
| ポメラニアン | 84,787円 | 11,575円 |
| ヨークシャー・テリア | 80,936円 | 13,200円 |
| パピヨン | 83,137円 | 13,640円 |
目を引くのは、平均値が中央値の6〜7倍ほどになっていることです。これは、多くの犬では年間の診療費が1万円台にとどまる一方で、一部に高額な診療を受けた犬がいて平均を押し上げている可能性を示していると読めます。高額な診療の中身が手術なのかどうかは、この表からは分からないため、あくまで編集部の読み取りとしてお受け取りください。
メモ
家庭どうぶつ白書の数字を読むときの条件です。
- アニコム損保の「どうぶつ健保」に契約している犬のデータで、品種別の表は0〜12歳が対象
- 請求割合は「保険金支払いのあったどうぶつの数/保険に契約しているどうぶつの数」
- 年間診療費は、1回の請求で複数の傷病が請求されたものを集計から除いて算出
- 保険会社に請求された診療費の集計であり、日本の犬全体の平均的な費用や、個別の手術費用の相場を示すものではない
第一アイペット損害保険のランキングでも、膝蓋骨脱臼は手術に限ると3位に入っていました。子犬を迎えたばかりの時期や、パテラを指摘されたタイミングで、費用への備えを考える方も多いと思います。ペット保険については、PS保険の解説が、膝蓋骨脱臼を補償の対象としている保険会社とそうでない保険会社があるため約款で確認することが大事だとし、同社の場合、加入前に獣医師の診断で見つかっている先天性の異常などは補償の対象外になると説明しています。補償範囲や引受条件は会社・プランごとに異なるので、加入前に約款と重要事項説明書で確かめてください。
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年間診療費と集計条件はアニコム「家庭どうぶつ白書2025」第2部の凡例(請求割合・年間診療費の定義)と第2章の品種別の表、手術ランキングは第一アイペット損害保険「保険金請求が多いペットの傷病ランキング2026」(2025年1月1日〜12月31日の保険金請求データを元にしたサンプル調査、支払日ベース)、保険の補償対象に関する記載はPS保険の解説によります。手術費用の個別の金額は、術式・片足か両足か・入院日数・病院によって大きく異なるため、本記事では目安の金額を掲げていません。見積もりはかかりつけで確認してください。
家庭でできる予防と悪化を減らす工夫
最初に、期待値をそろえておきます。平松育子獣医師(トリセツ)は、パテラの多くは生まれつきの要因が大きいため発症自体を完全に予防するのは難しいが、悪化させないための生活環境はとても重要だとしています。ONEどうぶつ整形外科センターも、滑る床を避ける・適正体重を保つといった対策は重要だが、環境の整備だけで膝の安定性が高まることはない、としています。つまり家庭でできるのは、「膝に余計な負担をかける場面を減らす」ことです。
- 1
滑る床に対策をする
アニコム損保の獣医師監修記事は、フローリングなどでツルツル滑ると症状が悪化することがあるため、カーペットなどの滑り止めを敷くようすすめています。全部の部屋に一度に敷く必要はありません。走り出し・急停止・方向転換が起きやすい場所、たとえば玄関からの動線、ソファやベッドの前、食事と水飲みの場所、廊下の曲がり角から始めると、効果と手間のバランスがとりやすくなります。 - 2
ソファやベッドからの飛び降りを減らす
アニコム損保の記事は、高いところからの飛び降りや激しい回転運動で脱臼が悪化することがあるとしています。平松育子獣医師(トリセツ)も、ソファなどからの飛び降りは膝に悪いため、スロープを設置するなどの工夫を挙げています。犬がよく乗り降りする場所にステップやスロープを置く、抱っこから降ろすときは床に足が着くまで支える、車の乗り降りは抱き上げる、といった小さな工夫の積み重ねです。 - 3
適正体重を保つ
MSD獣医マニュアルは保存療法の柱に体重管理を挙げ、みんなのどうぶつ病気大百科も症状の進行を防ぐために体重管理が大切だとしています。平松育子獣医師(トリセツ)は、太っているとそれだけ膝の関節に負担がかかり、症状の悪化や靱帯を痛める原因になるとしています。前述のレビューでは、過体重が前十字靱帯断裂の合併の危険因子として報告されていました。月に一度は体重を量り、体型(ボディコンディションスコア)とあわせて記録しておきましょう。 - 4
爪と足裏の毛を手入れする
アニコム損保の記事は、爪や肉球の間の毛が伸びていると滑りやすくなるため、定期的な手入れをすすめています。みんなのどうぶつ病気大百科も、足の裏の毛が伸びる犬は滑らないように短くカットするよう案内しています。足裏の毛が肉球を覆っていると、せっかく敷いたマットの上でも踏ん張りがききにくくなります。自宅で難しければ、トリミングサロンや動物病院に相談してください。 - 5
遊び方と運動を見直す
アニコム損保の記事は激しい回転運動で脱臼が悪化することがあるとし、みんなのどうぶつ病気大百科はジャンプや過度な運動をさせないよう案内しています。フローリングでのボール投げ、同じ場所をぐるぐる回る遊び、急なダッシュと急停止を繰り返す遊びは、滑らない場所で短めに。一方で、Sapora獣医師の解説が「規則的で、ほどほどの運動」を挙げているように、運動をやめてしまうことが目的ではありません。散歩の時間や距離、坂道の有無などは、グレードと症状に合わせてかかりつけで相談しましょう。 - 6
定期的に診てもらう
ONEどうぶつ整形外科センターは、経過観察を選んだ場合も、とくに若い犬では定期的なチェックを受けて悪化がないか注意する必要があるとしています。「前回はグレード1、今回は2」といった変化は、家庭では気づけません。ワクチンや健康診断のついでに、膝も見てもらう習慣をつけておくと安心です。
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メモ
体重については、ひとつ補足があります。英国の一次診療のデータ(O'Neillら、2016年)では、犬種と性別の平均より体重が軽い犬のほうが、膝蓋骨脱臼と診断されるオッズが1.4倍高いという結果でした。この研究は関連を示したもので、体重が原因かどうかを示したものではありません。「やせていれば予防できる」「太っているからパテラになった」とは言えない、ということです。体重管理は、すでにある膝の負担を増やさないための工夫と考えてください。
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住まいと暮らしの見直しチェック
- 玄関・ソファ前・食事場所・廊下の曲がり角など、走り出しや方向転換が起きる場所に滑り止めを敷いた
- ソファやベッドに上り下りする場所にステップやスロープを置いた、または上れないように工夫した
- 抱っこから降ろすときは、床に足が着くまで支えている
- 月に一度は体重を量り、体型とあわせて記録している
- 足裏の毛が肉球を覆っていないか、爪が伸びすぎていないかを確認している
- 室内のボール遊びは滑らない場所で、短時間にしている
- 散歩の時間や坂道の有無について、かかりつけに相談した
- 次の健康診断で膝も見てもらうようメモした
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子犬を迎える方へ
子犬の時期は、膝蓋骨脱臼の症状が出はじめやすく、進行もしやすい時期です。ONEどうぶつ整形外科センターは、お迎えのときやトリミングの際に「膝がゆるい」と指摘されたことがある場合を、病院での診察が推奨される項目のひとつに挙げています。ACVSは、重い内方脱臼のある子犬では後ろ足がO脚のように見え、成長とともに悪化することが多いとしています。
お迎えの時点で説明を受けていたら、最初の動物病院でその内容をそのまま伝え、膝も確認してもらいましょう。ペット保険を検討している場合は、前述のとおり、加入前に見つかっている先天性の異常や膝蓋骨脱臼の扱いが会社によって異なる点も確認しておきたいところです。
シニア期の方へ
VCAは、とくにグレード1では何年も、あるいは生涯問題なく過ごせる犬もいる一方、年齢とともに関節炎が進んで動きにくさや痛みが出ることがあり、関節炎は一度進むと元に戻らないとしています。また、膝蓋骨脱臼は十字靱帯断裂などほかのけがを起こしやすくするとも述べています。前述のレビューでも、前十字靱帯断裂を合併する犬は年齢が高い傾向でした。若いころに「軽いパテラ」と言われた子がシニア期に入ったら、段差を嫌がる、散歩を渋る、起き上がりが遅いといった変化にも気を配ってください。
発症の完全な予防は難しいが生活環境が重要という点、スロープの設置、体重と膝の負担の関係はペット保険のトリセツ(平松育子獣医師監修)、環境の整備は膝の安定性を高めない点・若い犬の定期チェック・お迎え時の指摘を受診のきっかけとする点はONEどうぶつ整形外科センター、滑り止め・飛び降り・回転運動・爪と肉球の間の毛の手入れはアニコム損保の獣医師監修記事、体重管理・足の裏の毛のカット・ジャンプや過度な運動を控える点はみんなのどうぶつ病気大百科、体重管理が保存療法の柱である点はMSD(Merck)獣医マニュアル、規則的でほどほどの運動はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説、体重と診断のオッズの関係はO'Neill DGら(2016)、子犬のO脚はACVS、グレード1の経過と関節炎・十字靱帯への影響はVCA Animal Hospitals、前十字靱帯断裂の合併と年齢・過体重の関係はCandela Andrade Mらのレビューによります。
受診の目安と受診時に伝えること
早めに動物病院へ連絡したいとき
平松育子獣医師(トリセツ)は、急に痛がって足を着けないようなときは無理に動かさず、ケージやサークルに入れて安静にさせ、痛みが続くようなら受診するよう案内しています。そして、飼い主が足を触って膝のお皿を戻そうとするのは危険なので絶対にやめてほしい、としています。ACVSは、外傷による膝蓋骨脱臼では急に強い跛行が出るとし、平松育子獣医師は、急に足を痛がる場合は前十字靱帯断裂も強く疑うとしています。
安静にして、早めに動物病院へ連絡したいサイン
- 後ろ足をまったく着かない状態が続く
- 足や膝に触れると痛がる、鳴く、怒る
- 膝のまわりが腫れている、熱っぽい
- 落下・交通事故・ドアに挟まれたなど、けがのきっかけがあった
- スキップの頻度が急に増えた、短期間で歩き方が悪くなった
- 両方の後ろ足で腰を落として歩く、立ち上がりにくそうにしている
- ぐったりしている、食欲がない、ほかの足にも異常がある
- 子犬で、脚の形(O脚・X脚)が目に見えて変わってきた
注意
足を着かないときは、痛みの原因が膝蓋骨脱臼とは限りません。前十字靱帯の断裂や骨折、股関節や神経の病気の可能性もあります。抱っこは胸とお尻の両方を支え、足を引っぱったり膝を伸ばしたりしないようにして、移動中もキャリーやケージの中で安静にさせてください。夜間・休日で判断に迷う場合は、救急対応の動物病院に電話で相談しましょう。
「急ぐほどではないけれど気になる」という段階、たとえば、ときどきスキップするけれど元気に走り回っている、健康診断で指摘されたけれど症状はない、という場合も、一度かかりつけで現状を確認してもらう価値があります。Sapora獣医師の解説が示すように、症状のないグレードでも経過を見守る計画を立てておくことが、将来の判断を助けます。
歩き方の動画を撮るコツ
- 1
滑らない場所で、ふだんどおりに歩かせる
散歩道や、マットを敷いた廊下などで撮ります。興奮しすぎていると歩き方が変わるので、落ち着いているときが理想です。 - 2
向こうへ歩く姿・こちらへ歩いてくる姿・横からの姿を撮る
Sapora獣医師の解説では、獣医師は歩様の評価で、犬が近づいてくる様子と離れていく様子を観察するとされています。家族の誰かにリードを持ってもらい、撮る人は犬の高さに近い位置から、後ろ足全体が入るように撮りましょう。横からの映像も、足をどのくらい上げているかが分かりやすくなります。 - 3
スキップが出た瞬間を逃さない
数歩で終わることが多いので、10〜30秒ほど回し続けます。足を上げたあと、後ろに伸ばす・蹴るしぐさがあれば、それも映っていると参考になります。 - 4
日時とそのときの状況をメモする
「朝の散歩の出だし」「ソファから降りた直後」「ボール遊びのあと」など、どんな場面で出たかを書き添えます。
受診のときに伝えたいこと
- いつごろから気になり始めたか
- どちらの足か(左右・両方)、1日または1週間に何回くらいか
- どんな場面で出るか(歩き始め、走ったあと、段差を降りたあとなど)
- 足を上げている時間はどのくらいか、自分で伸ばして戻すしぐさがあるか
- 痛がる様子(鳴く、触られるのを嫌がる)があるか
- 落下や事故など、けがの心当たり
- お迎えのとき・トリミング・過去の健康診断で膝について言われたこと
- 体重の推移と、最近の食事やおやつの変化
- 服用中の薬やサプリメント
- 家の床材、ソファやベッドの高さ、ふだんの運動や遊びの内容
動物病院で行われる主な検査
ONEどうぶつ整形外科センターは、主な検査として、立ち姿や歩き方をみる視診・歩様検査、膝蓋骨を触って脱臼の有無とグレードを評価し、痛みや筋肉量の左右差、ほかの病気がないかも確認する触診、膝関節の状態と大腿骨・脛骨の変形の程度を評価するレントゲン検査の3つを挙げています。
ACVSは、必要に応じて追加される検査として、鎮静下での膝の触診(靱帯の損傷の評価)、骨盤・膝・脛骨のレントゲン(股関節形成不全の有無も確認。まっすぐな撮影と犬の負担軽減のため鎮静が必要になることが多い)、骨の形の矯正が必要な場合の手術計画のためのCT、麻酔前の血液検査と尿検査を挙げています。前述の国内の研究のように、超音波で滑車溝の形を評価する方法も検討されています。
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急に足を着けないときの安静と、膝を戻そうとしないこと、前十字靱帯断裂などの鑑別はペット保険のトリセツ(平松育子獣医師監修)、外傷による急な強い跛行と追加検査の内容はACVS、歩様の観察方法はToday's Veterinary Practice掲載のSapora獣医師の解説、主な3つの検査と家庭での動画の有用性はONEどうぶつ整形外科センター、超音波による評価はMorishima Tら(Vet Rec Open. 2025)によります。受診を急ぎたいサインのチェックリストと抱っこ・移動時の注意は、これらの解説をもとに編集部が整理したもので、特定の出典の記載をそのまま引用したものではありません。
よくある質問
パテラは自然に治りますか。
グレード2と言われました。手術しなければいけませんか。
家で膝を触ってグレードを確認してもいいですか。
散歩や運動は控えたほうがいいですか。
手術をすれば、もう心配はいりませんか。
サプリメントでパテラは治りますか。
子犬を迎えるときに「膝がゆるい」と説明されました。どうすればいいですか。
シニアになってから急に足を着かなくなりました。パテラが悪化したのでしょうか。
パテラの犬は繁殖させないほうがいいのですか。
まとめ
パテラ(膝蓋骨脱臼)は、膝のお皿が滑車溝から外れる病気で、小型犬ではとても身近な存在です。多くは成長期の骨格の並びのずれから起こり、軽いうちは数歩だけのスキップや、足を後ろに伸ばすしぐさとして現れます。痛がらないことも多いぶん、「くせ」と見過ごされやすいのが特徴です。
グレード1から4の分類は、状態を共有するための大切な物差しです。ただ、それは「その日の一枚の写真」であって、治療方針はグレードに加えて、症状の頻度や痛み、悪化の傾向、年齢、骨の変形、前十字靱帯の状態などを総合して決まります。保存療法は膝への負担と痛みを減らすもの、手術は膝の並びと溝を整えるもの、とそれぞれの役割を知っておくと、獣医師の説明がぐっと理解しやすくなります。
家庭でできるのは、膝を触って確かめることではなく、滑る床への対策、飛び降りを減らす工夫、適正体重、爪と足裏の毛の手入れ、遊び方の見直し、そして歩き方の動画と記録を残すことです。足をまったく着かない、痛がる、急に悪くなった、けがのきっかけがあった、というときは、安静にして早めに動物病院へ。気になるサインが「くせ」なのかどうか、次の健康診断で、ぜひ膝のことも聞いてみてください。
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出典・参考
- Patellar Luxations|American College of Veterinary Surgeons(ACVS)
- Patellar Luxation in Dogs and Cats(Professional Version, Full Review Dec 2025)|MSD(Merck) Veterinary Manual
- Luxating Patella in Dogs|VCA Animal Hospitals
- Canine Patellar Luxation: Diagnosis and Treatment Options for General Practitioners(Joey Sapora, 2025)|Today's Veterinary Practice
- The epidemiology of patellar luxation in dogs attending primary-care veterinary practices in England(O'Neill DG et al., Canine Genet Epidemiol. 2016)
- Patellar luxation and concomitant cranial cruciate ligament rupture in dogs - A review(Candela Andrade M et al., Vet Med(Praha). 2022)
- An assessment of trochlear groove morphology with the severity of medial patellar luxation using ultrasonography in dogs presented to a clinic in Japan(Morishima T et al., Vet Rec Open. 2025)
- 犬の「膝蓋骨脱臼」通称「パテラ」について|飼い主が知っておきたいこと【獣医師監修】|アニコム損保 犬との暮らし大百科
- 膝蓋骨脱臼 <犬>|みんなのどうぶつ病気大百科(アニコム損保)
- 家庭どうぶつ白書|アニコム
- 家庭どうぶつ白書2025 第2部 疾患統計(請求割合・年間診療費の定義)|アニコム
- 家庭どうぶつ白書2025 第2部 第2章 品種別の統計(犬)|アニコム
- 犬は「皮膚炎」、猫は「下痢」が最多の結果に【保険金請求が多いペットの傷病ランキング2026】|第一アイペット損害保険
- 膝蓋骨脱臼(パテラ)|ONEどうぶつ整形外科センター
- 犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)の症状・治療費(平松育子獣医師監修)|ペット保険のトリセツ
- ペット保険(犬・猫)の適用範囲と補償の対象外となる場合について|ペット保険のPS保険
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