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犬の思春期(反抗期)はいつまで?できていたことができなくなる時期の理解と乗り越え方

対象の目安: 子犬(〜1歳)・成犬(1〜7歳)

カエデ・しつけ・散歩担当
・ 約30分で読めます
犬の思春期(反抗期)はいつまで?できていたことができなくなる時期の理解と乗り越え方

半年前まではあんなに素直だったのに、名前を呼んでも顔を上げない。「おいで」で戻ってきたのは昔の話で、公園では知らんぷり。散歩ではぐいぐい引っ張り、道端の落ち葉を口に入れ、家では留守番中にクッションを裂いている。今まで積み上げてきたものが、ある日を境に崩れたように感じる時期があります。

多くの飼い主さんがこれを「反抗期」と呼びます。犬が反抗しているわけではないので言葉としては正確ではありませんが、生後6か月ごろから2歳ごろにかけて、実際に人と犬の関係がぎくしゃくしやすい時期があることは、近年の研究でも裏づけられつつあります。しかも興味深いことに、その反応の低下は「飼い主に対してだけ」起きていました。

この記事では、犬の思春期(青年期・アドレセンス)に何が起きているのかを一次資料をもとに整理したうえで、この時期に増えやすい困りごとと、叱らずに乗り切るための具体的な手順をまとめます。犬にとってもつらい時期であり、そして必ず終わる時期でもあります。

「犬の反抗期」は本当にあるのか

長いあいだ、犬の思春期は経験則として語られてきました。「1歳前後は難しい」「去勢すれば落ち着く」といった話は、根拠のはっきりしないまま繰り返されてきた側面があります。

そこに実証的な材料を持ち込んだのが、Asher、England、Sommerville、Harvey による2020年の研究「Teenage dogs? Evidence for adolescent-phase conflict behaviour and an association between attachment to humans and pubertal timing in the domestic dog」(Biology Letters)です。対象は英国の Guide Dogs(盲導犬協会)の犬で、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・シェパード・ドッグおよびそれらの交雑犬という限られた集団です。この点はあとで触れる重要な限界ですが、同じ育成プログラムのもとで多数の犬を同じ物差しで追えるという強みもあります。

「おすわり」に応じないのは飼い主に対してだけだった

行動テストでは93頭(オス41頭・メス52頭)を対象に、5か月齢(82頭)と8か月齢(80頭)で「おすわり」の指示への反応を調べました。指示を出すのは、日常的に世話をしている飼い主(パピーウォーカー)と、犬にとって見知らぬ人の2通りです。

結果として、犬は思春期にあたる8か月齢で「おすわり」への反応が落ちましたが、それは飼い主が指示したときだけでした。見知らぬ人が同じ指示を出した場合には、むしろ反応は改善していました。論文はこれを「carer-specific conflict-like behaviour(世話をする人に特異的な、葛藤に似た行動)」と表現しています。

「うちの子はしつけ教室ではちゃんとやるのに、家では言うことを聞かない」という飼い主さんの実感は、気のせいではなかったということです。

飼い主の評価は8か月で下がり、12か月で戻った

質問紙による評価も同じ方向を示しました。285頭(オス135頭・メス150頭)について、5か月齢・8か月齢・12か月齢の時点で訓練性(trainability、指示への従いやすさを5項目で尋ねたもの)を評価してもらったところ、飼い主による評価は5か月齢に比べて8か月齢で有意に低下し、12か月齢では回復していました。一方、犬と同居していないトレーナーによる評価は、これとは逆のパターンを示しました。

つまり、飼い主から見た「言うことを聞かなさ」は8か月齢をピークにいったん悪化し、12か月齢には5か月齢よりも高い水準まで戻っていました。Newcastle 大学のプレスリリースで筆頭著者の Lucy Asher 博士は、「人間のティーンエイジャーと同じように、飼い主は犬が一時的な段階を通過していて、それは過ぎ去るのだと知っておく必要がある」と述べ、さらに「この時期に飼い主が犬を罰したり、感情的に距離を置いたりしないことがとても重要だ」と付け加えています。共著者の Naomi Harvey 博士も、飼い主に特異的に起きるこの葛藤は人の思春期と同じく「過ぎ去る段階」だと述べています。

Asher L, England GCW, Sommerville R, Harvey ND. "Teenage dogs? Evidence for adolescent-phase conflict behaviour and an association between attachment to humans and pubertal timing in the domestic dog." Biology Letters, 2020. および Newcastle University のプレスリリース(2020年5月)より。対象は英国 Guide Dogs の育成犬ですが、分析ごとに構成が異なります。「おすわり」の行動テスト(93頭)はゴールデン・レトリバーとラブラドール・レトリバーおよびその交雑犬、訓練性の質問紙(285頭)と初回発情の分析(メス70頭)はこれにジャーマン・シェパード・ドッグを加えた集団です。

「愛着」と性成熟の時期にも関連があった

同じ論文にはもう1つの分析があります。盲導犬候補のメス70頭を対象に、5か月齢時点の行動評価と、その後の初回発情(性成熟)の時期との関係を調べたところ、5か月齢時点で「愛着・注意要求(Attachment and Attention Seeking、そばに寄りたがる、特定の人に強く執着する、注意を引こうとするといった行動)」のスコアが高かった個体ほど、性成熟を早く迎える傾向がありました(食事と血統の影響を調整した偏相関で R = -0.423、n = 64、p = 0.0004。調整なしでも R = -0.315、n = 70、p = 0.007)。「分離関連行動(Separation-Related Behaviour、留守番中に震える・鳴くなど、離れることに関連した行動)」でも同じ方向の関連が見られましたが、こちらは交絡を調整したときにのみ有意で(R = -0.295、n = 70、p = 0.014)、調整しない場合は有意ではありませんでした。著者らはこの2つの尺度が高いことを「不安定な愛着を示す行動」と位置づけ、母子関係の質が思春期の開始時期に影響するというヒトや他の哺乳類での知見と重ねて論じています。

さらに、8か月齢時点で分離関連行動のスコアが高い犬ほど、同じ8か月齢時点での飼い主に対する訓練性が低いという関連も見られました。

メモ

これは相関関係であって、因果関係が証明されたわけではありません。また、この分析はメス犬のみを対象にしており、頭数も限られています。「留守番が苦手だから思春期が荒れる」と決めつける根拠にはなりませんが、犬と人の関係のあり方が思春期の現れ方と無関係ではない、という示唆として読むのが妥当です。

この研究の限界

出典を正確に読むうえで、次の点は押さえておきたいところです。対象は盲導犬育成プログラムの犬で、犬種も大型のレトリバー系・シェパード系に偏っており、チワワや柴犬、テリア系にそのまま当てはまるとは限りません。飼育環境も一般家庭とはやや異なるボランティア飼育者(パピーウォーカー)のもとで、頭数も分析ごとに70〜285頭と大規模とは言えません。

つまり「犬に思春期がある」ことの決定的な証明ではなく、「経験則として語られてきたことに、測定可能な裏づけが1つ加わった」という位置づけです。それでも、飼い主にだけ反応が落ちるという知見は、日々の悩みの正体を言い当てているように感じられます。

思春期はいつからいつまで?性成熟と社会的成熟のずれ

犬の思春期の時期は、団体によって少しずつ表現が違います。RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)は、犬の思春期は生後6〜12か月のあいだに始まり、18〜24か月のあいだに終わることが多いとし、この時期には劇的なホルモンの変化と脳の再編成が起きていると説明しています。Dogs Trust も同様に、おおむね6〜12か月ごろに始まり、24か月ごろまで続きうるとしています。PDSA は8〜12か月ごろに思春期に入り、完全な社会的成熟は3歳ごろまで到達しないとし、体の大きい犬ほど成熟がゆっくりだと述べています。

ここで大切なのが、「性成熟」と「社会的成熟」は別物だという点です。

段階目安の時期何が起きるか
性成熟(sexual maturity)犬で6〜9か月ごろ(超大型犬はより遅い)生殖能力が備わる。足上げ排尿やマーキング、性的な行動が現れ始める
思春期(青年期)おおむね6〜12か月ごろに始まり18〜24か月ごろまで指示への反応が落ちる、探索と自立への欲求が高まる、感情の起伏が大きい
社会的成熟(social maturity)12〜36か月ごろ人や他の犬との関わり方が安定し、予測しやすくなる

Merck Veterinary Manual は、思春期は性成熟(犬で6〜9か月齢、超大型犬ではより遅い)とともに始まり、足上げ排尿や縄張り行動、自立心と自信の高まりを特徴とすると説明しています。そして社会的成熟は、人や他の犬との社会的な行動や関わりがより安定し予測可能になる神経発達上の段階として、12〜36か月齢に到達するとしています。

AAHA(米国動物病院協会)の2015年の行動管理ガイドラインも同じ枠組みを採っており、生後6か月ごろから社会的成熟(犬で12〜36か月)までの期間に、犬と猫は身体的に成熟しながら最初の自立した行動パターンを発達させると記しています。同ガイドラインは、この時期に「すでに獲得した行動の調節がうまくいかなくなること(dysregulation)」が起こりうるとし、学習能力や立ち直りやすさ、恐怖や攻撃性の出現といった変化を飼い主が観察し報告するよう促しています。そのうえで、こうした行動の変化はホルモンや性成熟(犬では6〜9か月)と結びついたものではないと明記しています。

Merck Veterinary Manual「Social Behavior of Dogs」、AAHA「2015 AAHA Canine and Feline Behavior Management Guidelines」(PDF)、RSPCA「Managing your adolescent puppy」、PDSA「Adolescent (teenage) dogs」、Dogs Trust「The teenage phase」より。

体格による差も無視できません。小型犬は性成熟も社会的成熟も早く訪れる傾向があり、1歳前後で落ち着いてくることが多い一方、大型・超大型犬では2歳を過ぎても「まだ子どもっぽい」ことが珍しくありません。「1歳になったのにまだ落ち着かない」と焦る必要はなく、その子の体格と個性に合わせた時間軸で見てあげてください。

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この時期に増えやすい困りごと

英国の大規模縦断研究 Generation Pup のデータを用いた質的分析(Owczarczak-Garstecka ら、Animals、2023年)では、1,808頭の犬について飼い主が寄せた3,577件の自由記述コメントが、12/16週齢・6か月・9か月・12か月・18か月・24か月の時点で分析されました。その結果、知っているはずの指示を無視すること、「境界を試すこと(testing boundaries)」、とくに呼び戻しの悪化についての記述は、6か月・9か月・12か月の調査で非常に多く見られました。リードの引っ張りは全時点で語られましたが、6か月・9か月の調査では「以前より悪くなった」という感想が目立ちます。吠えについては6か月以降に言及が増えました。一方、他の犬への反応性や攻撃性に関するコメントが多くなるのは12か月以降で、2歳時点では「この行動は改善してきた」と述べる飼い主も少なくありませんでした。飛びつきや引っ張りは、早い時点では「練習中(work in progress)」と語られたのに対し、6か月以降は「訓練したのに続いている」「その子の性格の一部」として語られる傾向に変わっていきます。

実際の相談でよく挙がるのは、次のようなものです。

  • 呼び戻しが効かない。公園や河川敷で名前を呼んでも戻ってこない。においを追って行ってしまう。
  • 拾い食いが増える。落ちているものを見つける速さも、口に入れる速さも上がる。
  • 引っ張りが強くなる。体が大きくなって力も増し、これまでのリードさばきが通用しなくなる。
  • 吠えが増える。インターホン、通行人、他の犬、要求吠え。
  • マウンティングが出る。オス・メスを問わず、興奮や葛藤の場面で。
  • マーキングが始まる。オスの足上げ排尿、室内でのマーキング。メスでも見られることがある。
  • 警戒心が強くなる。これまで平気だったものを急に怖がる、後ずさりする、吠える。
  • 破壊行動。留守番中や退屈な時間に、家具や靴、クッションを壊す。

VCA Animal Hospitals は、マーキングが性成熟に達するころのホルモンの変化によって引き起こされうるとし、去勢していないオスで最も多いものの、避妊していないメスや、去勢・避妊済みの犬でも見られると説明しています。AAHA のガイドラインの発達段階の表にも、「正常なマーキング行動は、犬が性成熟に近づくにつれて現れ始めることがある」と記されています。つまり、室内でのマーキングは「しつけが失敗した」のではなく、発達の一部として出てくることがある行動です(もちろん、放置してよいという意味ではありません)。

生後7か月ごろから急に、散歩で他の犬に吠えるようになりました。子犬のころは誰にでも尻尾を振っていたのに、と落ち込みました。距離をとって、すれ違う前におやつを出す練習を続けたら、10か月を過ぎたころから少しずつ落ち着いてきました。
1歳のオス犬と暮らす飼い主

いわゆる「第二の恐怖期」という言い方もよく耳にします。ただし、思春期に警戒心が強まる時期があること自体は多くの団体が経験的に述べているものの、「生後何か月に必ず訪れる」といった精密な区切りが確立しているわけではありません。時期を暗記するより、犬が怖がるサインを読み取り、その場で無理をさせないことのほうが実用的です。

乗り越え方の5つの原則

1. 叱って抑え込まない

思春期の困りごとは、犬が飼い主を軽んじているから起きるのではありません。AVSAB(米国獣医動物行動学会)は2021年の声明で、現在の科学的根拠に基づき、行動の問題の治療を含むすべての犬のトレーニングにおいて報酬ベースの方法のみを用いることを推奨し、嫌悪的な方法は動物福祉と人と動物の絆の両方に有害な影響を及ぼすと述べています。

RSPCA も思春期の犬について、「彼らの『行儀の悪さ』を罰しないことがとても重要だ」と明記し、罰は不安を悪化させ、行動の問題をエスカレートさせうるとしています。そして、どうやってこの時期の犬を「コントロールするか」ではなく、どうやって身体的・行動的なニーズを満たすかを考えるべきだ、という視点を提示しています。

前述の Asher 博士の「この時期に罰したり、感情的に距離を置いたりしないことが重要」という指摘とも重なります。反応が悪いのは、関係が壊れかけているサインでもあります。そこで力で押さえ込むと、関係はさらに遠のきます。

2. 環境管理で「失敗させない」

思春期は、練習した行動が最も出にくい時期です。だからこそ、「できるかどうか試す」場面を減らし、そもそも失敗が起きない設計にします。

  • 呼び戻しが不確実なあいだは、フリーにしない。Dogs Trust は練習中の安全確保として、ハーネスにロングリード(長いリード)を付けることを勧めています。
  • 拾い食いが多い場所・時間帯を避ける。落ち葉や生ゴミの多い道は、ルートごと変える。
  • 室内では、届く範囲に壊されて困るものを置かない。ゲートやサークルで行動範囲を区切る。
  • 玄関や門扉は二重の仕切りを設ける。この時期は脱走のリスクも上がります。

環境管理は「逃げ」ではありません。失敗の練習を積ませないための、最も効果の高い介入です。

ヒント

ロングリード(5〜10m程度)は、たるみを地面に引きずったまま歩く道具です。そのたるみを手に巻きつけた状態で犬に急に走り出されると、ロープが手に食い込んで擦過傷を負ったり、足に絡まって転倒したりします。手袋を使う、混雑した場所では短く持ち替える、首輪ではなくハーネスに付ける、といった基本を守ってください。

3. 報酬の価値を上げる

思春期の犬にとって、外の世界は今までになく魅力的です。においも、他の犬も、走ることも、すべてが強い報酬になります。その競争相手に、いつものドライフード1粒では勝てません。

Dogs Trust は呼び戻しについて、「報酬はわくわくするような魅力的なものにすること。とくに犬がとても興味を引かれるものから離れてきた場合には」と述べています。ゆで鶏、チーズ、レバーなど、その子が本当に喜ぶものを「外専用」にとっておく。おもちゃで遊ぶことが好きな犬なら、引っ張りっこの数十秒が最高の報酬になります。

同時に、報酬の使い方も見直します。Dogs Trust は呼び戻しの合図を乱発しないこと、少なくとも5秒は待つこと、戻ってこなさそうなら重ねて呼ばないこと、そして戻ってきたら時間がかかっても必ず褒めることを挙げています。「なかなか来なかったから叱る」は、呼び戻しを最も速く壊す方法です。

注意

おやつの量が増えると体重に響きます。1日の総カロリーの範囲でトレーニング用に振り分け、その分の食事量を減らして調整してください。急に体重が増減する場合や、量の目安に迷う場合はかかりつけの動物病院で相談を。

4. 基本の指示を「簡単なところから」組み直す

「前はできていたのに」と思うと、つい同じ難易度でやり直そうとしてしまいます。しかし思春期は、いったん難易度を下げ直すほうが早く戻ります。

AKC(アメリカンケネルクラブ)は、トレーニングの難易度を Duration(時間)・Distance(距離)・Distraction(妨害)という3つのD で整理し、一度に上げるのは1つだけ、妨害は最後にする、という進め方を勧めています。思春期の立て直しでは、この3つをすべていったん下げます。

  1. 1

    家の中・刺激ゼロからやり直す

    まず廊下やリビングで、飼い主と犬だけ。「おすわり」「おいで」が10回中10回できることを確認します。ここでできないなら、外でできるはずがありません。
  2. 2

    時間・距離・妨害を1つずつ戻す

    できたら、まずは距離だけを伸ばす。次の日は時間だけ伸ばす。妨害(他の人、他の犬、音)は最後に、しかもごく弱いものから加えます。
  3. 3

    場所を1つずつ増やす

    庭、玄関前、人通りの少ない時間帯の道、公園の隅、という順で。犬は「場所ごとに学習し直す」動物なので、場所が変わったらまた易しい条件から始めます。
  4. 4

    1回のセッションを短くする

    数分で切り上げ、うまくいっているうちに終わります。思春期の犬は集中が続きにくく、長引かせるほど失敗の記憶が増えます。
  5. 5

    家族で合図と基準をそろえる

    「おいで」と「こっち」を人によって使い分けていると、犬は混乱します。使う言葉、ごほうびを出す基準、してはいけないことを家族で統一します。

Dogs Trust は基本の心得として、1回のトレーニングは5〜10分程度と短く保つこと、気が散らない落ち着いた場所で行うこと、陽性強化のみを使い体で無理やりやらせないこと、そして「犬がうまくできずにいるなら、いったんやめて1段階戻し、次はもっとゆっくり進めること」を挙げています。思春期はまさに、この「1段階戻す」を惜しまない時期です。

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5. 運動と休息のバランスをとる

思春期の犬は体力が上がり、探索の意欲も高まります。RSPCA は、この時期は犬をどう抑えるかではなく身体的・行動的ニーズをどう満たすかを考えるべきだとし、犬にとって最も報酬的な活動として、静かな場所での長めの散歩、たくさんの探索、そして単に鼻を使うことを挙げています。あわせて、エネルギーの一部を構造化した遊びや運動に向けるとよいとして、探しっこ遊びや嗅覚パズルを勧めています。

ここで陥りやすいのが、「疲れさせれば落ち着くはず」と運動量だけを増やすやり方です。ボール投げのような高強度の反復運動を長時間続けると、興奮が高まったまま抜けにくくなり、かえって落ち着かない状態が積み上がることがあります。

  • 走らせるより、嗅がせる。同じ30分でも、においを追う散歩のほうが満足度が高く、興奮は残りにくい傾向があります。
  • 知育トイやノーズワークなど、頭を使う活動を毎日少しずつ入れる。
  • 休息の時間と場所を確保する。クレートやサークルなど、誰にも邪魔されずに眠れる場所を用意します。来客時や子どもが遊んでいる時間は、そこで休ませます。
  • 興奮の「翌日」にも注意する。ドッグランや来客で大興奮した日の翌日は、反応が過敏になることがあります。予定を詰め込みすぎないようにします。

思春期の暮らしの見直しチェック

  • ロングリードや柵など、失敗させない仕組みが用意できているか
  • 外で使う「特別な報酬」を決めてあるか
  • 基本の指示を、家の中の易しい条件からやり直しているか
  • 家族全員が同じ合図・同じ基準で接しているか
  • 1日の中に、においを使う活動と静かに眠れる時間の両方があるか
  • 叱る・押さえつける対応が習慣になっていないか

困りごと別の対応の勘どころ

呼び戻しについては、練習の場をロングリードで安全に確保したうえで、「呼ぶ->戻る->すごくいいことが起きる->また自由に遊ばせる」という流れを繰り返します。戻ってきた瞬間にリードを付けて帰宅する、という展開ばかりだと、犬は「呼ばれる=楽しい時間の終わり」と学習します。

拾い食いは、口に入れてから取り上げるのではなく、口に入る前に離れられるかどうかが勝負です。地面のものに気づいた瞬間に名前を呼んで方向転換する練習を、何もない道で先に仕込んでおきます。飲み込んでしまった、あるいは異物を口にした疑いがあるときは、様子を見ずに動物病院へ連絡してください。

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引っ張りは、この時期に体格と筋力が急に増すことで一気に問題化します。ハーネスへの変更を含め、道具の見直しを検討するタイミングです。歩き方の練習は、興奮の少ない時間帯・場所から。

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吠えについては、まず何に対して吠えているのかを分けます(来客・インターホン、通行人、他の犬、要求)。原因が違えば対応も違いますが、共通して言えるのは、吠えている最中に大声で制止すると、犬にとっては「一緒に吠えてくれた」あるいは「かまってもらえた」となりやすいことです。

マウンティングやマーキングは、性成熟に伴って現れることが多い行動です。叱って抑え込むより、興奮の総量を下げる工夫と、その場での静かな中断・別の行動への誘導が基本になります。室内でのマーキングが続く場合は、膀胱炎など泌尿器の不調が隠れていることもあるため、頻度や量の変化があれば受診を検討してください。

破壊行動は、退屈・不安・エネルギーの持て余しのいずれか(あるいは複数)が背景にあることが多い行動です。留守番中に集中して起きる場合は、分離不安の可能性も視野に入ります。かじってよいものを用意し、留守番前に十分に嗅ぐ・歩く時間をとり、届く範囲を管理することが基本です。

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「反抗期だから」で手放される犬が多い時期でもある

つらい話ですが、書いておかなければならないことがあります。

AAHA の2015年ガイドラインは、「シェルターに手放されたり、行動の問題で安楽死されたり、遺棄されたりする犬猫のほとんどは1〜3歳であり、社会的成熟の途上にある」と記しています。同ガイドラインはまた、「ペットは社会的に成熟すれば行動の問題から自然に卒業する、という証拠はない」と、獣医師が飼い主に伝えるべき点として挙げています。

米国の12のシェルターで1995〜1996年に行われた調査(Salman ら、Journal of Applied Animal Welfare Science、1998年)でも、持ち込まれた犬2,160頭の年齢内訳のうち、生後5か月〜3歳が47.4%(1,023頭)と最も多い区分でした。ただしこの区分は幅が広く、「8か月にピークがある」ことを直接示すデータではありません。また、手放しの理由は行動上の問題だけでなく、引っ越しや飼い主側の事情も多く含まれます。

Asher らの論文も考察の中で、この思春期の時期が犬がシェルターに手放される年齢のピークと重なることに触れています。Newcastle 大学のプレスリリースで Asher 博士は、「かわいい子犬ではなくなったこの時期に、犬はしばしば手放される」と述べています。

言い換えれば、思春期は「犬と人の関係が最も試される時期」であると同時に、「乗り越えれば関係が深まる時期」でもあります。前述の Generation Pup の分析でも、飼い主のコメントに含まれる肯定的な感情は月齢とともに増えていました。12〜16週齢では「噛む」に関する語が最も多かったのに対し、それ以降の調査では「愛している」といった語が優勢になっています。

メモ

もしどうしても手に負えないと感じたら、いきなり手放す前に、かかりつけの獣医師や、報酬ベースの方法を用いる資格のあるトレーナー、行動診療科に相談してください。AAHA のガイドラインも、トレーニングは規制されていない分野であり、技術のないトレーナーが害を及ぼしうると注意を促しています。トレーナーの認定は、陽性強化のみを基盤とする信頼できる団体によるものであるべきだ、というのが同ガイドラインの立場です。

去勢・避妊のタイミングとの関係

「去勢すれば落ち着く」という話は、この時期に必ずと言っていいほど聞こえてきます。しかし、行動の変化を主な目的として手術の時期を決めるのは慎重であるべきです。

前述のとおり AAHA のガイドラインは、社会的成熟の時期に起きる行動の変化はホルモンや性成熟と結びついたものではないと明記しています。PDSA も、去勢・避妊は助けになることがあるものの、完全な解決策ではないと述べています。マウンティングやマーキングのように性ホルモンの関与があり得る行動もありますが、いったん学習として定着した行動は、ホルモンの影響が変わっても残ることがあります。

一方、手術の時期は行動以外の健康面とも関わります。Hart らが2020年に Frontiers in Veterinary Science で発表した研究は、カリフォルニア大学デービス校の動物病院の15年分の記録をもとに、35犬種について去勢・避妊の時期と関節疾患・がん・尿失禁のリスクの関連を分析し、犬種ごとに異なるガイドラインを提示しています。つまり、「何か月がベスト」という単一の答えは存在せず、犬種や体格、性別、目的によって考えるべき内容が変わります。

注意

去勢・避妊の実施の可否や時期は、望まない繁殖の防止、生殖器の病気の予防、関節や腫瘍のリスク、その子の行動面の状態などを総合して判断するものです。この記事の情報で自己判断せず、必ずかかりつけの獣医師と相談して決めてください。

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「反抗期」で片づけてはいけないサイン

思春期の行動の変化と、体の不調による行動の変化は、外から見ると似ていることがあります。「若いから」「反抗期だから」と解釈してしまうと、痛みや病気の発見が遅れます。

AAHA のガイドラインは、社会的成熟の時期に現れた場合に獣医学的な評価を促すべき行動として、人や他の犬・猫への恐怖や回避、人や他の犬・猫への攻撃性、常同的・反復的な行動(旋回、過剰なグルーミング、なめる、吸うなど)、排せつの変化や不適切な場所での排せつ、環境や刺激に関連した恐怖・恐怖症の発達(雷恐怖、車嫌い、リード散歩や新しい場所・おもちゃへの恐怖)、ひとりにされたときの強い苦痛、を挙げています。

動物病院に相談したい変化

  • 人や犬に対して急に唸る・噛もうとするなど、攻撃性が急に出た・強くなった
  • 体を触られるのを急に嫌がる、特定の場所を触ると振り向く・逃げる
  • 散歩に行きたがらない、階段や段差を避ける、遊びの誘いに乗らなくなった
  • 排尿・排便の回数や場所が急に変わった、血が混じる、痛そうにする
  • 食欲や体重が短期間で大きく変わった
  • 同じ場所をなめ続ける、ぐるぐる回るなど、同じ動きを繰り返す
  • 留守番中に強い苦痛(過剰な吠え、破壊、失禁、よだれ)が続く

コーネル大学 Riney Canine Health Center は、犬の痛みは分かりにくく、行動の変化として現れることがあると解説しています。若い犬でも、関節や骨の成長に伴う問題、外傷、消化器や泌尿器の不調は起こります。「反抗期だから触らせないのだ」と決めつける前に、まず体の問題を除外するのが順序です。RSPCA も、問題が続く場合はまず獣医師に相談して医学的な原因を除外し、必要なら行動の専門家につなぐことを勧めています。

よくある質問

犬の反抗期は何か月から何か月までですか。
団体によって表現は異なりますが、RSPCAは生後6〜12か月のあいだに始まり18〜24か月のあいだに終わることが多いとしています。PDSAは8〜12か月ごろに始まり、完全な社会的成熟は3歳ごろとしています。小型犬は早めに、大型・超大型犬は遅めに進む傾向があり、個体差も大きいので、月齢はあくまで目安と考えてください。
急に「おいで」で戻らなくなりました。しつけをやり直すべきですか。
やり直すというより、難易度を下げて組み直すのが近道です。まず家の中の刺激のない場所で確実にできることを確認し、距離・時間・妨害を1つずつ戻していきます。並行して、練習中はロングリードを付けてフリーにしない、報酬を外専用の特別なものにする、戻ってきたら時間がかかっても必ず褒める、を徹底してください。
言うことを聞かないのは、なめられているからでしょうか。
そうとは限りません。Asherらの2020年の研究では、8か月齢の犬は飼い主の「おすわり」には反応が落ちた一方、見知らぬ人の指示に対してはむしろ反応が改善していました。上下関係の問題というより、発達段階に伴う一過性の変化と考えるほうが実態に近く、罰で対応することは推奨されていません。
去勢・避妊をすれば落ち着きますか。
必ず落ち着くとは限りません。AAHAのガイドラインは、社会的成熟期に見られる行動の変化はホルモンや性成熟と結びついたものではないとしています。PDSAも、助けになることはあるが完全な解決策ではないと述べています。手術の時期は行動以外の健康面とも関わり、犬種によって考慮点が異なるため、かかりつけの獣医師と相談して決めてください。
思春期はいつか終わりますか。終わったら元に戻りますか。
多くの場合、一過性です。Asherらの研究では、飼い主による訓練性の評価は8か月齢で低下したあと、12か月齢では5か月齢を上回る水準まで戻っていました。研究チームも、これは人のティーンエイジャーと同じく過ぎ去る一時的な段階だと述べています。ただし、この時期に罰や力での対応を重ねると関係そのものが損なわれるため、乗り切り方は結果に影響します。
急に他の犬に吠えるようになりました。社会化に失敗したのでしょうか。
思春期に他の犬への反応性が高まることは珍しくなく、Generation Pupの分析でも、他の犬への反応性や攻撃性についてのコメントは生後12か月以降に多くなり、2歳時点では改善したと述べる飼い主もいました。失敗と決めつけず、吠えずにいられる距離を保ってすれ違う練習から積み直します。距離をとってもパニックのように吠える、攻撃に発展するといった場合は、獣医師や行動の専門家に相談してください。
運動量を増やせば落ち着きますか。
量だけを増やすと逆効果になることがあります。ボール投げなど高強度の反復運動を長く続けると、興奮が抜けにくくなることがあります。RSPCAは、犬にとって最も報酬的な活動として静かな場所での長めの散歩や探索、鼻を使うことを挙げ、あわせて探しっこ遊びや嗅覚パズルを勧めています。走らせるより嗅がせる、そして静かに眠れる休息時間を確保する、という配分を意識してください。

まとめ

犬の思春期は、飼い主にとって最もこたえる時期のひとつです。積み上げてきたものが崩れたように見え、周囲からは「しつけがなっていない」と見られ、その犬自身も落ち着かない。けれど、Asher らの研究が示したように、指示への反応の低下は飼い主に対して特異的に起こる一過性の現象であり、12か月齢には回復していました。性格が変わったわけでも、関係が壊れたわけでもありません。

やることはシンプルです。叱って抑え込まない。ロングリードや柵で失敗させない。報酬の価値を上げる。基本の指示を、家の中の易しい条件から組み直す。においを使う活動と、静かに眠れる時間の両方を毎日に入れる。そして、体の不調のサインを「反抗期」で片づけない。

この時期は、犬がシェルターに手放されやすい時期でもあります。だからこそ、ひとりで抱え込まずに、かかりつけの獣医師や、報酬ベースの方法を用いる信頼できるトレーナーの力を借りてください。今の難しさは、その子の一生のうちの短い一区切りです。

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