犬のレプトスピラ症とは|夏から秋に増える感染症の症状・感染経路・ワクチン予防
対象の目安: 全ライフステージ

川遊びやキャンプ、田んぼ沿いの散歩コース。夏から秋にかけて犬と水辺で過ごす機会が増えるこの時期に、あらためて知っておきたいのがレプトスピラ症です。ネズミなどの尿で汚染された水や土から感染し、犬にとって命に関わることがあるうえ、人にもうつる「人と動物の共通感染症」でもあります。国内の調査では、犬の確定例の多くが8〜11月に集中したという報告があり、まさにこれからが本番の季節です。予防の柱になるワクチンは打ってすぐ効くわけではないため、シーズンに入ってから慌てるより、今のうちに知っておくことが役に立ちます。この記事では、公的機関や獣医師会の資料をもとに、感染経路・症状・予防の要点を整理します。
レプトスピラ症とはどんな病気か
レプトスピラ症は、病原性レプトスピラという細菌に感染して起こる病気です。国立健康危機管理研究機構(JIHS)の資料によると、レプトスピラは長さ6〜20マイクロメートル、直径0.1マイクロメートルほどのらせん状をしたグラム陰性細菌で、両端またはその一端がフック状に曲がっているのが特徴とされています。いわゆるスピロヘータの仲間で、血清型は250以上あることが知られています。
人ではレプトスピラ症は感染症法の4類感染症(全数報告対象)に位置づけられ、診断した医師は直ちに保健所へ届け出ることになっています。一方、犬のレプトスピラ症は家畜伝染病予防法の届出対象疾患とされており、動物側でも監視されている病気です。「聞いたことがない病気」という印象を持たれがちですが、人にも動物にも制度上の位置づけがある感染症だと知っておくと、受け止め方が変わってきます。
病原体の性状、血清型が250以上あること、人での4類感染症(全数報告対象)という位置づけはJIHS「レプトスピラ症(詳細版)」に基づきます。犬のレプトスピラ症が家畜伝染病予防法の届出対象疾患であることは、JIHS掲載のIASR記事「イヌのレプトスピラ感染」に基づきます。
どこで、どうやってうつるのか
レプトスピラは、ネズミなどのげっ歯類をはじめ、多くの野生動物や家畜(ウシ・ウマ・ブタなど)、そして犬の腎臓に保菌され、尿とともに外へ出ていきます。犬や人は、その尿に触れたり、尿で汚染された水や土壌に触れたりすることで、皮膚や粘膜から偶発的に感染します。汚染された水や食べ物を口にすることによる感染も報告されています。
| 感染経路 | 具体的な場面の例 |
|---|---|
| 経皮・経粘膜(汚染された水) | 川・池・沼・水路での水遊び、雨後の水たまり、洪水後のぬかるみ |
| 経皮・経粘膜(汚染された土壌) | 田畑や河川敷、ネズミが出入りする場所での穴掘りや寝転がり |
| 経口 | 汚染された水を飲む、地面のものを拾い食いする |
人のレプトスピラ症について、JIHSがまとめた2016年1月〜2022年10月末の届出273例の分析では、国内感染例257例のうち水系感染が80%を占めていました。「水を介してうつる病気」という性格が、統計からもうかがえます。
注意
とくに注意したいのが、大雨や台風のあとです。JIHSの資料では、流行地域では不用意に水に入らないこと、とくに洪水のあとには絶対に入らないことが重要とされています。増水した川や、雨上がりの濁った水たまりに犬を入れない・飲ませないことを、家族で共有しておきましょう。
犬の確定例は8〜11月に集中したという報告
「なぜ今の季節に取り上げるのか」に関わるのが、発生時期のかたよりです。JIHSに掲載されたIASR記事によると、2007年8月〜2011年3月にかけて10県(茨城・千葉・三重・宮崎・佐賀・福岡・熊本・鹿児島・長崎・沖縄)で、臨床的にレプトスピラ症と診断された犬283頭の実験室診断を行った結果、83頭で感染が確定しました。このうち91%が8〜11月に発生し、約半数が9月の発生だったと報告されています。感染した犬は調査したすべての県で見つかっており、猟犬が38%、ペットが62%でした。
人でも同じ傾向があり、前述の届出データの分析では、発症日が判明した国内感染例242例のうち90%にあたる219例が7〜10月に集中し、8月が最も多かったとされています。夏から秋にかけて水に触れる機会が増えること、大雨や洪水で汚染された水や土が広がりやすいことが背景にあると考えられています。
犬に出るサインと、受診を考えたいタイミング
犬の感染初期には、発熱・倦怠感・食欲不振・嘔吐・脱水・出血などがみられ、その後に腎不全や肝不全へ進み、治療が遅れれば命に関わることがあるとされています。前述の国内調査では、初診時の臨床症状は黄疸78%、嘔吐71%、粘膜の充出血41%、発熱13%という内訳で、確定した83頭の致命率は53%と報告されています。
注意
この53%という数字は、発熱・嘔吐や黄疸、原因不明の急性腎障害・肝障害といった基準で「レプトスピラ症が疑われる」と臨床診断された犬を検査した結果、感染が確定した83頭についてのものです。もともと重い症状で受診した犬が対象であり、感染したすべての犬に当てはまる割合ではない点に注意してください。一方で、重症化すると命に関わりうる病気であることは確かです。
一方で、軽い感染では目立った症状が出ないこともあります。犬は血清型Canicola(カニコーラ)の保菌動物として知られ、無症候のまま長期間、腎臓に菌を保ち尿中に排菌することがあると報告されています。「元気そうだから感染していない」とは言い切れないのが、この病気の難しいところです。
水辺やアウトドアのあとに見ておきたいサイン
- 急な発熱、体が熱い・震えている
- 元気がない、動きたがらない、ぐったりしている
- 食欲が落ちた、水ばかり飲む・逆に飲まない
- 繰り返す嘔吐や下痢、脱水のサイン
- おしっこの量や色の変化(濃い・少ない・出ない)
- 白目や歯ぐき、耳の内側が黄色っぽい(黄疸)
- 歯ぐきの出血、鼻血、黒っぽい便
メモ
ここに挙げたサインは、レプトスピラ症以外のさまざまな病気でも見られます。「これはレプトスピラ症だ」と自己判断せず、気になる変化があれば早めに動物病院を受診してください。その際、直前に川や池、田畑、水たまりなどに入ったこと、キャンプや旅行に行ったことがあれば必ず伝えましょう。感染を疑う手がかりとして役立ちます。
診断と治療は動物病院で
診断は、症状や血液検査に加え、菌の培養・遺伝子(DNA)検出・抗体検査といった検査を組み合わせて行われます。治療の中心は抗菌薬で、東京都獣医師会の資料では動物にはストレプトマイシンが著効し、ゲンタマイシンやペニシリンGも有効とされています。人でも、軽症から中等症ではドキシサイクリン、重症ではペニシリンによる治療が行われるとされています。
腎臓や肝臓の障害が進んでいる場合は、点滴などの支持療法が必要になり、入院が必要になることもあります。いずれにしても、家庭で判断・対処できる病気ではありません。市販薬や様子見で乗り切ろうとせず、早めに動物病院につなぐことが何より大切です。
環境と散歩で気をつけること
ワクチンの前に、まずは「菌に触れない環境」をつくることが基本になります。
- 1
汚染の可能性がある水・水辺に近づかない
厚生労働省の動物由来感染症ハンドブックでは、汚染の可能性のある水や水辺には近づかないことが予防として挙げられています。流れが淀んだ池や沼、増水後の川、濁った水たまりは避け、水遊びをするなら水質や周囲の環境を確認できる場所を選びましょう。 - 2
雨のあと・洪水のあとは特に慎重に
大雨や台風のあとは、汚染された水や土が広い範囲に流れ出します。数日は水辺のコースを外す、ぬかるみを歩かせない、といった判断が有効です。 - 3
拾い食い・水たまりの水を飲ませない
経口感染を防ぐため、外では地面のものを口に入れさせない、水たまりの水を飲ませないことを徹底します。散歩には自分の水を持参し、こまめに飲ませると自然に防げます。 - 4
ネズミ対策と身の回りの清潔
同ハンドブックでは、ネズミの駆除や侵入防止といった動物対策、土間などの清潔を保つことも挙げられています。庭やベランダに餌になるものを置かない、ドッグフードを密閉して保管する、といった工夫がネズミを寄せつけない環境づくりにつながります。 - 5
外遊びのあとは足と体を洗う
泥や水に触れたあとは、足先やおなかまわりをきれいに洗い流し、タオルでよく拭きます。皮膚に傷があるときは、水辺の遊びそのものを見送る判断も大切です。
ワクチンは「地域と暮らし方」で選ぶ
犬の混合ワクチンのうち、レプトスピラは全頭に推奨される「コア」ではなく、地域や生活環境でリスクが変わる「ノンコア」に分類されます。レプトスピラを含むのは7種以上の混合ワクチンで、国内で広く使われている3種・5種・6種には含まれないことが一般的です。何種を選ぶかで、カバーされる血清型の数も変わります。
| ワクチンの区分 | レプトスピラの扱い |
|---|---|
| 3種・5種・6種混合 | レプトスピラは含まれないことが一般的 |
| 7種以上の混合 | レプトスピラの血清型が含まれる(数や型は製品により異なる) |
レプトスピラがコアワクチンには分類されず、3種混合ワクチンや5種・6種混合ワクチンには含まれないことは、アニコム損保「犬との暮らし大百科」の解説に基づきます。7種と10種の混合ワクチンにレプトスピラに対するワクチンが含まれることは、新習志野どうぶつ病院の解説に基づきます。製品ごとの構成は異なるため、実際に接種するワクチンの内容は動物病院で確認してください。
ここで押さえておきたいのが、ワクチンの限界です。IASR記事によると、犬のレプトスピラ症は従来Canicola(カニコーラ)とIcterohaemorrhagiae(イクテロヘモラジー)の2血清型によるものとされ、40年以上前からこの2型の不活化全菌体ワクチンが使われてきました。しかし、このワクチンは血清型に特異的な効果しかありません。同記事の国内調査では、主要な血清群はHebdomadis・Australis・Autumnalisで、このうちHebdomadisは家畜伝染病予防法の届出対象にもなっていないと報告されています。つまり「打ったからすべて防げる」わけではないのです。
メモ
だからこそ、どのワクチンを選ぶかは獣医師との相談が欠かせません。お住まいの地域での発生状況、川や田畑によく行くか、キャンプや猟に同行するか、ネズミが出やすい環境かなど、その子の暮らし方によって必要性は変わります。ノンコアワクチンは免疫が続く期間が比較的短く、年1回の追加接種がすすめられることが多い点も、あわせて確認しておきましょう。
年1回の追加接種については、東京都獣医師会のガイダンスが犬の予防として「年1回の混合ワクチンの投与と定期健康診断」を挙げていること、埼玉県獣医師会が「イヌのレプトスピラ症の予防には、一年に一度のワクチン接種が有効です」としていることに基づきます。接種の間隔や必要性は製品や地域、その子の状況で変わるため、獣医師の指示に従ってください。
ヒント
ワクチンは接種したその日から守ってくれるわけではなく、免疫がしっかりつくまでには時間がかかります。はじめて接種する場合は間隔をあけて複数回必要になることもあります。発生が増える8〜11月に備えるなら、シーズンに入ってから慌てるより、夏のうちにかかりつけに相談しておくと余裕をもって準備できます。接種のタイミングや回数は、その子の年齢・健康状態・接種歴によって変わるため、必ず獣医師の指示に従ってください。
ワクチン全般の考え方(コアとノンコアの違い、子犬期のスケジュール、副反応への備え)は、次の記事で詳しくまとめています。
あわせて読みたい
犬のワクチンと健康診断の基礎|狂犬病・混合ワクチンと受ける頻度の目安
人にうつさない・うつらないための扱い方
レプトスピラ症は人と動物の共通感染症です。厚生労働省の動物由来感染症ハンドブックでは、必要なときは手袋やゴーグルを着用して水や土壌に直接触れないこと、感染の可能性のある動物と接触する場合は手袋やマスクなどを着用することが予防として示されています。
家庭でできる人側の予防
- 体調を崩している犬の尿や吐いたものは、手袋を使って処理する
- 処理に使ったペットシーツやペーパーはすぐ密閉して捨てる
- 汚れた床は拭き取ったあとに消毒し、雑巾は使い分ける
- 作業のあとは石けんでしっかり手を洗う
- 散歩中の排尿は水で流し、素手で触れない
- 小さな子どもや免疫が下がっている家族は、看病の作業を避ける
注意
犬がレプトスピラ症と診断された、あるいは疑われている場合は、家庭でどう扱えばよいかを必ず動物病院で確認してください。人が発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・結膜充血などの体調不良を感じたときは、犬の状況や水辺に入ったことを医療機関に伝えたうえで受診しましょう。人では潜伏期が5〜14日とされ、時間が経ってから症状が出ることもあります。
よくある質問
室内飼いの犬でもレプトスピラ症の予防は必要ですか。
ワクチンを打っていれば、川遊びは安心ですか。
レプトスピラ症は犬から人にうつりますか。
どんな症状が出たら受診すべきですか。
なぜ夏から秋に気をつけるのですか。
まとめ
レプトスピラ症は、ネズミなどの保菌動物の尿や、それで汚染された水・土壌を介して感染する病気で、犬にとって命に関わることがあり、人にもうつる人と動物の共通感染症です。国内の調査では、感染が確定した犬の91%が8〜11月に発生し、約半数が9月だったと報告されており、これから本番を迎える季節といえます。
対策の柱は2つです。ひとつは環境面で、増水後や濁った水に入れない・飲ませない、雨のあとのぬかるみを避ける、ネズミを寄せつけない、外遊びのあとは洗って拭く、といった日々の積み重ねです。もうひとつがワクチンですが、含まれる血清型は限られており、すべてを防げるわけではありません。地域の状況とその子の暮らし方をふまえて、獣医師と一緒に選ぶことが大切です。免疫がつくまでには時間がかかるため、相談は早いほど余裕が生まれます。
そして、急な発熱や元気消失、黄疸、尿の変化に気づいたら、水辺に入った経緯とあわせて早めに動物病院へ。水遊びそのものを怖がる必要はありません。入っていい場所と日を選び、あとのケアを丁寧にすることで、犬との夏はもっと安心して楽しめます。
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出典・参考
- イヌのレプトスピラ感染(IASR Vol.37 2016年6月号)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
- レプトスピラ症(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
- レプトスピラ症の発生状況(IASR Vol.44 2023年2月号)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
- 動物由来感染症ハンドブック2026|厚生労働省
- レプトスピラ症(Leptospirosis)|人と動物の共通感染症ガイダンス(公益社団法人東京都獣医師会)
- 水辺に注意!〜イヌのレプトスピラ症〜|公益社団法人埼玉県獣医師会
- 犬のレプトスピラ症とは|症状は? 治療費はどれくらい? 予防法はある?|アニコム損保「犬との暮らし大百科」
- 犬の混合ワクチン何種がいいの?|新習志野どうぶつ病院
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